事業譲渡の譲渡価格の決め方 適正価格、算定方法を詳しく解説!

Image 1

事業譲渡は、企業の未来を左右する重要な決断です。その際、もっとも重要なのが「譲渡価格」の決定です。譲渡価格が事業の価値を反映し、公正な取引の基盤となります。事業譲渡を検討している方々にとって、譲渡価格の算定は非常に重要なプロセスです。適正な価格を知ることで、公平な取引が可能となり、双方の利益を守れます。

目次

事業譲渡は企業の適正価格を明確にしておくことが重要

事業譲渡における適正価格の明確化は、売り手と買い手双方にとって極めて重要です。適正価格は事業の実質的な価値を表し、取引の公正性を確保し、将来的な紛争を未然に防ぐための基準となります。

譲渡価格は事業の財務状態や市場での位置づけ、成長の見込み、リスク要因など、多岐にわたる要素を考慮して決定されます。適正価格を設定することで、事業譲渡は双方にとって納得のいく、透明で公平な取引につながるのです。

事業譲渡の適正価格を知る方法

事業譲渡の適正価格を知るためには、事業の時価純資産に営業権(のれん代)を加味した金額を算出することが一般的です。時価純資産は、事業が持つ資産の時価から負債を差し引いたものであり、営業権は事業の将来の超過収益を反映した価値です。

営業権は事業から利益が出ていることが前提となりますが、実務上実質営業利益の2〜5倍と仮定し計算します。営業権の算出には、「超過収益還元法」や「年倍法」といった方法が用いられます。これらの計算を通じて、事業の真の価値を把握し、適正な譲渡価格を導き出せます。

企業価値評価(バリュエーション)をおこなう

企業価値評価(バリュエーション)は、事業譲渡の価格決定において不可欠なプロセスです。企業価値評価は、事業の現在の価値と将来の成長性を測定するために行われ、主にコストアプローチ(時価純資産法など)、インカムアプローチ(DCF法など)、マーケットアプローチ(市場株価法、類似会社比較法など)の3つの方法が用いられます。

これらのアプローチを通じて、事業の収益性や市場環境、資産価値、リスク要因、成長潜在力などを多角的な視点から企業価値を算出し、適切な譲渡価格を導き出すための基盤を築きます。

企業価値評価(バリュエーション)の算定方法

企業価値評価(バリュエーション)の算定方法は、主にコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの3つの手法に分けられます。

コストアプローチは、企業の資産と負債の時価を基に算定します。インカムアプローチでは、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くディスカウントキャッシュフロー(DCF)法が一般的です。マーケットアプローチは、類似企業の市場データを基に企業価値を評価します。これらの手法は、企業の特性や目的に応じて選択され、組み合わせて使用されることもあります。

コストアプローチ

コストアプローチは、企業価値を評価する際に、貸借対照表の純資産額を基準に企業価値を算出します。主に、2種類の方法が用いられます。

    • 簿価純資産法

賃借対照表の純資産帳簿価額を企業価値とする方法です。

    • 時価純資産法

帳簿上の資産および負債をすべて時価で再評価して算出する方法です。

コストアプローチは企業の資産や負債の価値をベースに算出するため、客観性が高く、その価値を明確にするというメリットがあります。一方、企業の将来的な収益については評価できないというデメリットがあります。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、企業の将来の収益性を評価するために使用されるバリュエーション手法です。インカムアプローチでは、ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)が一般的に用いられます。

DCF法は、予測される未来の収益価値を現在価値で割り引くことで企業価値を算出します。割引率には通常、加重平均資本コスト(WACC)が使用され、これによりリスクを考慮した現在価値が求められます。

そのほかの手法としては、配当還元法や収益還元法なども用いられます。インカムアプローチは、企業の成長潜在力や将来の収益を反映します。そのため、とくに成長性が見込まれる企業や新しい事業領域に進出している企業の評価に適しています。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、企業価値評価の手法の一つです。市場での取引価格や同業他社、類似の取引事例を基に企業価値を算定します。マーケットアプローチでは、上場企業の株価や財務データを用いて、対象企業と類似する企業の市場データを比較分析することによって企業価値を評価します。

類似企業比較法、類似取引比較法、市場株価平均法などがこのアプローチに含まれ、それぞれが異なる比較基準を用いて評価を行います。マーケットアプローチは、市場の実際の取引情報に基づくため、客観性が高く、市場の需要や傾向を反映しやすいです。一方、比較条件に合う企業が見つからないと評価が難しくなり、市場の影響を受けやすいというデメリットもあります。

事業譲渡における譲渡価格の算定方法

事業譲渡の適正価格を知るためには、事業の時価純資産に営業権(のれん代)を加味した金額を算出することが一般的です。時価純資産は、事業が持つ資産の時価から負債を差し引いたものであり、営業権は事業の将来の超過収益を反映した価値です。

営業権の算出には、「超過収益還元法」や「年倍法」といった方法が用いられます。これらの計算を通じて、事業の真の価値を把握し、適正な譲渡価格を導き出せます。

なお、中小企業などは節税対策として金融商品(役員保険やリース等)を購入し、費用計上して故意に決算書上利益を低く抑えているケースがあります。事業譲渡における譲渡価格の算定方法は、複数のバリュエーション手法と事業の特性、市場環境、財務状況などの要素を総合的に考慮して行われます。

具体的な算定方法には、以下のようなステップが含まれます。

    • 事業の収益性の評価

事業の過去の財務諸表を分析し、利益と損失のデータから事業の健全性と収益性を評価します。また、市場の成長率、事業の市場シェアの変動、新製品やサービスの導入計画などを考慮した将来の収益予測を立てます。

    • 市場環境の分析

業界の動向、競合他社の状況、市場の成熟度、規制の変化などを分析し、事業の将来性と競争力を評価します。

    • 資産の価値の評価

貸借対照表の不動産・有価証券・保険など、価格変動の影響を受けやすい資産を中心に時価総額を評価します。

    • リスク要因の評価

事業運営に伴う市場リスク、運用リスク、財務リスク、法的リスクなどを評価し、リスクプレミアムとして価格に反映させます。

    • 成長の見込みの評価

事業の将来的な成長潜在力を、市場の拡大、技術革新、経営戦略の変更などによって評価します。

これらの要素を総合的に分析し、事業譲渡の価格を算定します。最終的な価格は、売り手と買い手の交渉によって決定されることが多く、専門家による評価やアドバイスが重要となります。事業譲渡における価格算定は複雑であり、多くの場合、財務アドバイザーやM&Aの専門家による支援が求められます。

事業譲渡の価格に対する意識と注意点

事業譲渡の価格に関しては、譲渡側と譲受側の両方にとって重要な要素です。以下に、それぞれの観点からの意識と注意点を詳しく説明します。

譲渡側

譲渡側は、事業を譲渡する際に適正な価格を設定することが重要です。価格設定にあたっては、以下の点に注意する必要があります。

    • 事業の価値評価

事業の現在の財務状況、市場での競争力、将来の成長見込みなどを総合的に評価し、価値を算出します。

    • 交渉戦略

譲受側との交渉においては、事業の強みを強調し、適切な価格での取引が行えるよう戦略を練ります。

    • 税務上の影響

譲渡による利益に対する税金の計算や、税務上の最適な構造を考慮することが必要です。

譲受側

譲受側は、事業を譲り受ける際に過大な価格を支払わないように注意する必要があります。以下の点を考慮することが推奨されます。

    • デューデリジェンス

事業の財務状況、法的リスク、市場での位置づけなどを徹底的に調査し、隠れたリスクを見極めます。

    • 価格交渉

譲渡側との価格交渉においては、事業の潜在的なリスクを考慮に入れ、適正な価格での取引を目指します。

    • 統合計画

事業を自社の運営に統合する計画を立て、譲受後の事業運営がスムーズに行えるようにします。

事業譲渡は複雑なプロセスであり、適切な価格設定は成功の鍵となります。専門家の意見を求めることも有効な手段です。どちらの立場にある場合でも、十分な準備と慎重な検討が必要です。

事業譲渡の売却価格を上げるための方法

事業譲渡の際に売却価格を最大化するためには、以下の方法が考えられます。事業の魅力を高め、潜在的な買い手にとって価値があると感じさせる必要があります。

利益率を向上させる

利益率の向上は、事業の収益性を示す重要な指標です。事業の利益率を向上させるためには、コスト削減、価格戦略の最適化、そして収益性の高い製品へのシフトが重要です。

    • コスト削減

無駄を省く効率化、固定費を変動費に変えるアウトソーシング、そして原材料コストを下げる仕入れコストの削減があります。

    • 価格戦略の最適化

市場の需要を考慮した価格設定と、製品の価値に基づく価格設定が収益性を高めます。

    • 収益性の高い製品へのシフト

利益率の低い製品を見直し、新製品開発に注力することで、企業の製品ポートフォリオを強化し、長期的な財務成績を改善します。

これらの戦略を組み合わせることで、事業の収益性を高められます。

無形資産の投資をする

無形資産への投資は、事業の価値を高め、市場での差別化を図る重要な戦略です。

    • ブランド価値の向上

ブランド価値の向上は、顧客の信頼と忠誠心を獲得し、製品やサービスの市場での認知度を高めるために重要です。これを実現するためには、効果的なマーケティング活動でブランドメッセージを広め、ブランドイメージを一貫して保ち、顧客体験を向上させることが必要です。

● 特許や知的財産の取得

企業の革新的な技術や製品を保護し、市場での競争優位を確保するために極めて重要です。特許申請を通じて独占的な権利を確保し、知的財産の管理によってこれらの権利を侵害から守ります。

これらの無形資産への投資は、事業の価値を高めるだけでなく、長期的な競争力を構築する上で重要な役割を果たします。効果的なブランド戦略と知的財産の保護は、企業の成長と成功に直接的に寄与する要素です。

また、これらの資産は事業譲渡や合併・買収の際にも重要な評価ポイントとなります。無形資産への投資は、単に現在の利益を増やすだけでなく、将来の競争力を強化するためにも重要です。

優良な取引先、顧客を増やす

安定した取引先と顧客基盤の構築は、事業の長期的な成功に不可欠です。これを達成するためには、以下の二つの主要な戦略があります。

    • 営業活動の強化

新規顧客の獲得は、事業の成長と収益性を高めるために重要です。営業活動を強化することで、潜在的な顧客にアプローチし、製品やサービスの利点を伝え、新しい市場を開拓します。営業チームのトレーニングを強化したり、営業戦略を最適化したりすることで、より多くの顧客との契約を獲得することが可能になります。

    • 顧客満足度の向上

既存の顧客の満足度を高めることは、リピートビジネスと口コミによる新規顧客の獲得につながります。優れた顧客サービスを提供することで、顧客の忠誠心を築き、長期的な関係を構築します。顧客のフィードバックを積極的に取り入れ、サービスの質を継続的に改善することが重要です。

これらの戦略を通じて、安定した取引先や顧客基盤を築き、事業の将来性を強化できます。取引先や顧客との良好な関係は、競争の激しい市場において事業を際立たせる要素です。また、顧客基盤の拡大は新しいビジネスチャンスを生み出し、収益の増加に直接的に寄与します。

市場シェアを増やす

市場シェアを増やすことは、事業の成長と競争力の強化に直結します。以下の戦略を用いて市場シェアを拡大することが可能です。

    • 新市場への進出

新市場への進出は、事業の成長機会を広げる重要な手段です。これには、地理的な拡大や新しい顧客セグメントへのアプローチが含まれます。市場調査を行い、未開拓市場のニーズと嗜好を理解したうえで、製品やサービスをカスタマイズして提供します。そうすることで新たな顧客層を獲得し、市場シェアを増加させられます。

    • 競合との提携

競合他社との提携は市場での地位を強化し、リソースを共有することで相乗効果を生み出す戦略です。提携により、製品ラインの拡充や販売チャネルの共有、技術交流などが可能となり、市場シェアの拡大につながります。

また、競合他社との提携は新しい市場への進出を容易にし、競争を減らすことで安定した成長を促進することもあります。

これらの戦略は、事業の競争力を高め、市場での影響力を拡大するために有効です。市場シェアの増加は、企業の収益性と持続可能な成長に直接的に影響を与えるため、戦略的な計画と実行が求められます。市場の動向や競争状況を常に監視し、適応することが成功の鍵となるでしょう。

不要資産・不動産の整理しておく

事業運営においては、ときに不要となった資産や不動産が生じます。不要資産や不動産の整理は、事業の財務状況を改善し、経営の透明性を高めるために重要なプロセスです。

    • 財務状況の透明化

不要資産の売却や処分を行うことで、財務報告をより明確にし、企業の財務状況を正確に反映させられます。これにより、投資家やステークホルダーからの信頼を得ることが可能になります。

    • キャッシュフローの改善

不要な資産を売却することで、現金流を増加させられます。これは、企業の運転資金を確保し、新たな投資機会への資金を生み出すために重要です。

退職金の処理をしておく

退職金の処理は将来の財務リスクを減らし、事業の財務健全性を示すために重要です。これにより、以下の利点があります。

    • 長期的な負債の削減

退職金の前払いや積立てを通じて、企業の長期的な負債を減少させられます。これにより将来の財務リスクが軽減され、企業の財務健全性が向上します。

    • 財務評価の向上

退職金の適切な処理は財務報告における透明性を高め、投資家やクレジットレーティング機関からの評価を改善することに寄与します。これは、企業の信用力向上にもつながり、資金調達の条件を有利にする可能性があります。

権限委譲をしておく

経営の権限委譲は、事業の持続可能性を高めるために重要です。これにより、以下の利点があります。

    • 経営の柔軟性

権限委譲により、経営の柔軟性が向上します。

    • 後継者育成

権限委譲は、後継者の育成にも寄与します。

これらの方法は、事業譲渡の際に売却価格を上げるための一般的なアプローチです。しかし、事業の特性や市場状況に応じて、最適な戦略を選択することが重要です。専門家の意見を求めることも有効な手段といえるでしょう。

まとめ

事業譲渡の価格算定は、事業の将来性を見極めて適正な価値を反映させることが重要です。適切なバリュエーション手法を用い、事業の真の価値を見極めることで公平で成功した事業譲渡が実現します。事業譲渡を成功させるためには、これらのポイントを押さえて慎重に進めることが求められます。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。