事業譲渡における表明保証:リスク管理と契約の重要

「株式を譲渡するとどのくらい税金がかかるのか」、「株式譲渡益に対する所得税はどうやって計算するのか」、「どうすれば株式譲渡で発生する税金を抑えることができるのか」
など、疑問に感じているのではないでしょうか。
本記事では、株式譲渡を検討している法人や個人に向けて、株式譲渡に伴う課税の仕組みと税率、株式譲渡益に対する所得税の税率と計算方法、株式譲渡における節税手法、株式譲渡の税金に関する特例制度、株式譲渡における専門家のアドバイスの重要性と利用方法について解説します。
目次
株式譲渡における課税の仕組み
株式を譲渡した場合、所得税や法人税が課税されます。個人が株式を譲渡した場合に課税されるのは所得税、法人が株式を譲渡した場合に課税されるのは法人税です。また、個人が株式を譲渡した場合は分離課税制度が、法人が株式を譲渡した場合には総合課税制度が適用されます。
株式を売却するのが個人なのか法人なのかで、税率や課税方式が異なります。そのため、課税の仕組みを理解したうえで株式を譲渡することが重要です。
株式譲渡に伴う課税の仕組みと税率
分離課税制度の対象となる所得は以下のとおりです。
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- 配当所得
- 退職所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 利子所得
個人が株式を譲渡することで得た所得は譲渡所得となるため、分離課税制度が適用されます。たとえば、事業所得で1,000万円の損失が出ていて、株式譲渡で1,000万円の利益が出ていた場合、損失と利益が相殺されて課税所得がゼロになるわけではありません。事業所得に対しては所得税が発生しませんが、株式譲渡による譲渡所得1,000万円に対して課税されます。
一方、法人が株式を譲渡した場合に採用されるのは、分離課税制度ではなく総合課税制度です。総合課税制度では、すべての損金と益金が相殺されます。つまり、法人としての本業で1,000万円の損失が出ていて、株式譲渡で1,000万円の利益が出ていた場合、損失と利益が相殺されて課税所得がゼロになるということです。
上記のように、株式を売却するのが個人なのか法人なのかで税率や課税方式が異なります。
株式譲渡益に対する所得税の税率と計算方法
株式譲渡益に対する所得税の税率は、15%です。給与所得や事業所得に関する所得税額の計算では累進課税制度が採用されるため、課税所得額が多いほど税率が高くなります。しかし、株式譲渡益に対する所得税税率は、課税所得額に関わらず一律に15%となっています。
住民税5%と復興特別所得税0.315%が加算されるため、株式譲渡益に対する税率は20.315%となります。
上場株式の譲渡所得税計算方法
個人が上場株式を譲渡する場合の譲渡所得に対する課税税額、および所得税額を算出する計算式は以下のとおりです。
譲渡所得に対する課税所得額 = 総収入金額(譲渡価額) – 必要経費(取得費 + 委託手数料等)
譲渡所得に対する所得税額 = 譲渡所得等に対する課税所得額 × 15%
譲渡所得に対する所得税額の計算例
株式の売却価格:7,000万円
株式の取得費用:1,500万円
売却の各手数料:500万円
譲渡所得に対する課税所得額 = 7,000万円 – 1,500万円 – 500万円 = 5,000万円
譲渡所得に対する所得税額 = 5,000万円 × 15% = 750万円
上記所得税額に加え、住民税と復興特別所得税の納税が必要になります。
非上場株式の譲渡所得税計算方法
非上場株式の譲渡所得税を計算する際に使用する計算式は、上場株式の譲渡所得税を計算する場合と同じです。
参考資料:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)「国税庁」
株式譲渡における節税手法の具体例
株式譲渡における節税手法の具体例は以下の3つです。
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- キャピタルゲイン税の最適化
- 税制優遇制度の活用
- 節税のためのリストラクチャリング戦略
それぞれの節税方法について解説します。
キャピタルゲイン税の最適化:売却タイミングや売却方法の選択
株式譲渡における節税手法のひとつは、キャピタルゲイン税の最適化です。「キャピタルゲイン税」とは、保有する資産を売却することで発生する税金です。前述したように、株式譲渡の場合は、譲渡益に対して所得税や法人税がかかります。株式を売却するタイミングや売却方法を最適化することで、株式譲渡による納税額を抑えられます。
税制優遇制度の活用:持ち株会社構造の導入や持分法の適用
株式譲渡における節税手法のふたつ目は、税制優遇制度の活用です。持ち株会社構造の導入や持分法の適用などの税制優遇制度を利用することで、株式譲渡における納税額を抑えられます。
持ち株会社とは、投資ではなく経営を目的として株式を保有している会社です。ホールディングスカンパニー(holding company)と呼ばれることもあります。持分法とは、連結決算において、グループ全体の業績に影響を与える会社だけの純資産や、損益の一部を連結させる手法です。
個別に株式を譲渡した場合に譲渡益が発生する場合も、持分法適用会社であれば連結では売却損となり、節税効果が得られる場合があります。
節税のためのリストラクチャリング戦略:資産の再編成や負債の整理
株式譲渡における節税手法のもうひとつは、節税のためのリストラクチャリング戦略です。株式譲渡による譲渡益に対する所得税や法人税の計算では、総合課税方式が採用されます。
つまり、株式譲渡で高額な譲渡益が発生する場合でも、資産の再編成や負債の整理、役員退職金の損金計上などの手法により本業の損金を増やすことで、株式譲渡の譲渡益と相殺でき、納付する所得税額や法人税額を抑えられるということです。
たとえば、株式譲渡の譲渡益5,000万円に対して宣伝広告費を5,000万円増額すれば、益金と損金が相殺され、納付する所得税額や法人税額が増えることはありません。ただし、節税目的で不要な費用を発生させると手元に残る現金が減少するため、資金繰りが悪化する恐れがあります。
節税のために無理に経費を増やすのではなく、株式譲渡のタイミングに合わせて必要な経費を計上することが重要です。
株式譲渡の税金に関する特例制度は、以下の2つです。
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- 取得費加算の特例
- 事業承継税制
取得費加算の特例
「取得費加算の特例」とは、相続で取得した土地や建物、株式などを売却した際の売却費用に、相続税の一部を加算することが認められる特例措置です。相続から3年10か月以内に土地や建物、株式などを売却した場合に、取得費加算の特例が適用されます。
ただし、以下に該当する場合には、取得費加算の特例は適用されません。
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- 売却する株式は相続で取得したものではない
- 売却する株式に対して相続税を納付していない
- 株式譲渡において譲渡損失が生じている
参考資料:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例「国税庁」
事業承継税制
「事業承継税制」とは、法人や個人事業主が取得した資産に対し、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。個人版事業承継税制と法人版事業承継税制の2種類があります。
事業承継税制の適用を受けるには、会社や前経営者、後継者が一定の要件を満たす必要があります。また、事業承継税制の特例措置として、非上場の株式等の承継に伴う贈与税・相続税については、実質的な負担がゼロになります。
特例措置の適用を受ける条件は以下のとおりです。
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- 2024年3月までに特例事業承継計画を提出
- 2027年までに事業承継を実施する
参考資料:
税務コンサルタントの活用
株式譲渡における税務コンサルタントの活用について、以下の3点を解説します。
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- 専門家のアドバイスの重要性
- 専門家の利用方法
- 税務コンサルタントとの戦略的パートナーシップの構築
専門家のアドバイスの重要性と利用方法
株式譲渡において専門家のアドバイスが重要な理由は、株式の譲渡者が個人か法人か、低額譲渡に該当する、税制適格かなどにより税金の種類や税率が異なるためです。手続き方法によっては、多額の税金が発生する恐れもあります。
株式譲渡で発生した税金をあとで取り戻すことはできないため、専門家からのアドバイスを受けることが重要です。株式譲渡について専門家からアドバイスを受けたい場合は、税理士事務所や会計事務所、コンサルティングファームに相談しましょう。税の分野で高い専門性を持つスペシャリストである税務コンサルタントなら、クライアントの課題を解決してくれます。
ただし、税務申告や税務に関する相談などを依頼する場合は、税理士資格を持つ税務コンサルタントに相談する必要があります。税務コンサルタント自体は資格がなくても行えますが、税務申告や税務に関する相談などの税理士の独占業務については、税理士にしか行えません。
税理士事務所や会計事務所、コンサルティングファームに依頼する際には、業務を直接担当する税務コンサルタントが税理士資格を取得しているのか、税理士資格を取得している税務コンサルタントがいるのかを確認しておきましょう。
税務コンサルタントとの戦略的パートナーシップの構築
株式譲渡においては、税務コンサルタントとの戦略的パートナーシップを構築することが重要です。株式譲渡における節税スキームは複雑なため、税務コンサルタントと連携して協力関係を構築する必要があります。
まとめ
今回は、株式譲渡に伴う課税の仕組みと税率、株式譲渡益に対する所得税の税率と計算方法、株式譲渡における節税手法、株式譲渡の税金に関する特例制度、株式譲渡における専門家のアドバイスの重要性と利用方法について解説しました。個人や法人が株式を譲渡した場合は所得税や住民税、復興特別所得税、法人税がかかります。
株式を売却するのが個人か法人かで税金の種類や税率が異なるため、株式の譲渡を検討している場合は、株式譲渡における課税の仕組みを理解しておきましょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。