債務超過でも事業譲渡は行えるのか? 負債の取り扱いも紹介!
事業の業績が悪く例年赤字が続いていたり、会社全体の財務状況が悪いなどの状況では、事業売却も解決策として有効的です。
一方で、M&Aは「現在成長している事業を大企業が買収する」といったイメージもあり、業績の悪い事業を買い取ってもらえるのかと考える方もいるでしょう。
ましてや負債が大きくなってしまい債務超過の状態になってしまった場合でも、事業譲渡は行えるのかと疑問に思うかもしれません。
ここでは、債務超過の状態でも事業譲渡は行えるのか、その理由やメリット、注意点について紹介していきます。
目次
債務超過とは
債務超過とは、企業や事業が抱えている負債の総額が資産の総額を上回っている状態です。
資産総額から負債総額を差し引いた金額を「純資産」と呼ぶため、債務超過とは「企業や事業が抱える純資産がマイナスの状態である」とも言い換えられるでしょう。
たとえば、不動産や機械設備などの資産総額が1億円分あったとしても、銀行からの借入金や取引会社への未払い金などの負債総額が3億円分あった場合、2億円の債務超過になります。
債務超過と赤字は何が違うのか
赤字とは、一定期間における支出が売上を上回り、マイナスの利益になっている状態を指します。
純資産がプラスの状態であったとしても赤字の状態が続くと、いずれ負債総額が資産総額を上回り債務超過になってしまうでしょう。
一方で、経費や設備投資によって支出が増えて一時的に赤字になった場合は、次の期末までに売上が伸び黒字に戻れば債務超過とはなりません。
「資産と負債を比較し、純資産がマイナスの状態を債務超過」といい、「一定期間の売上と支出を比較し、利益がマイナスの状態を赤字」である点を押さえておきましょう。
純資産がマイナスでも倒産しない理由
「純資産がマイナス(債務超過)」と聞くと、その時点で倒産してしまうのではと思うかもしれません。
現時点で債務超過の状態であり、保有している資産だけでは借入金を支払いきれないのであれば倒産の危機に直結するのは事実です。
しかし、総合的に債務超過であっても、債務が履行できている限りは倒産するわけではありません。
もちろん、債務履行日までに売上や利益を確保して借入金の支払いや債務超過を克服する必要があるため、企業にとっては危機的状況です。
債務超過の状態では金融機関からの融資が受けられなかったり、他社との取引を断られてしまうこともあるでしょう。
債務超過していても事業譲渡・会社売却はできる
債務超過は企業や事業にとって倒産につながる危険な状態です。
しかし、売り手企業と買い手企業のニーズや条件が合致すれば、債務超過の事業や会社であっても売買が成立することもあります。
具体的には、「債務超過の事業であっても将来性が見込める」といったケースが挙げられます。
債務超過の状態であっても、その内情が商品の生産や設備投資による一時的なものであれば、将来的な売上や収益が見込めるためです。
将来的な売上が見込めるならば、わざわざ売り手企業もその事業を売却しないのではと思うかもしれません。
とはいえ以下のような状況に陥っている場合、事業や会社を売却せざるを得ないでしょう。
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- 債務履行日までに売上が見込めない
- 利益を上げるためにさらなる設備投資が必要
買い手企業にとっても将来性のある事業や会社を購入できるのは好条件であり、債務超過であっても売買は成立します。
債務超過の企業での譲渡金額の評価方法:インカムアプローチ
一般的に事業譲渡や企業売却の際には、売り手企業に対するバリュエーション(企業価値評価)をもとに、売却金額が定められます。
バリュエーションの手法には「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」という、3つのアプローチが主流です。
債務超過の企業や事業の場合、将来的な収益性に対して評価を行うインカムアプローチが主に実施されます。
インカムアプローチでは事業計画をもとに事業の将来性を予測し、買い手企業とのシナジーや事業を運営する上でのリスクなどを考慮した上で収益性を評価していきます。
債務超過時に会社売却を行う方法4選
事業売却や会社売却を実施する際に用いられる方法としては、主に以下の4種類が挙げられます。
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- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 吸収分割
- 新設分割+株式譲渡
各方法の概要や特徴を見ていきましょう。
1.株式譲渡
株式譲渡とは、売り手企業の株主が保有している株式を買い手企業へ売却し、会社の支配権や経営権を譲る方法です。
売り手企業は買い手企業の子会社として存続できるだけでなく、他の手法に比べて手続きが簡易なのでM&Aの中でもっともよく利用される手法です。
しかし、債務超過の企業は株式と一緒に債務も一緒に譲渡されてしまうため、それ以上のメリットを買い手企業に提示する必要があるでしょう。
2.事業譲渡
事業譲渡とは、事業を構成する「資産や負債」「契約」「ノウハウや技術」「ブランド」などの権利義務を、売買取引契約によって買い手企業に売却する手法です。
売り手企業は会社から切り離したい一部の事業のみを売却でき、買い手企業にとっても関心がある部分のみを買収できます。
事業の権利や義務をそれぞれ個別に移転する手続きが必要なため、比較的小規模な事業やノンコア事業の売却でよく用いられます。
3.吸収分割
吸収分割とは、事業譲渡同じく事業を構成する権利や義務を買い手企業へ売却する手法です。
ただし、事業譲渡と異なり各権利や義務を個別に移転する手続きは必要なく、まとめて買い手企業に承継されます。
そのため、株式譲渡のように不要な資産を受け継ぐリスクがあります。
4.新設分割+株式譲渡
新設分割とは、買い手企業の中に新たな子会社として、売り手企業が売却した事業を傘下に置く手法です。
譲渡した事業を買い手企業傘下の新しい会社へと移し、その会社の株式も買い手企業に譲渡します。
これにより、売り手企業の一部事業を買い手企業の子会社へと移転できます。
債務超過のまま事業を譲渡する売り手企業のメリット3選
続いて、債務超過のまま事業譲渡を行うメリットを紹介していきます。
通常の事業譲渡にはないメリットとして以下の3点が挙げられます。
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- ノンコア事業を現金化できる
- 事業譲渡で得た資金を用いて債務の返済ができる
- 会社の倒産を回避できる
債務超過時だからこそ役立つ事業譲渡の特徴を見ていきましょう。
1.ノンコア事業を現金化し財務健全化を目指せる
会社全体で負債が増えてきた時、中心ではない事業(ノンコア事業)を売却する事例があります。
たとえば、建設会社は自社で抱える技術や人手、ノウハウを生かして、ホテル経営を行っているケースも珍しくありません。
しかし、建設会社全体で負債が増えてきた際には、ノンコア事業であるホテル経営を他社に売却します。
事業譲渡によって得た利益をもとに負債を返済し、会社全体の財務健全化を目指せます。
2.事業譲渡で得た資金を用いて債務の返済ができる
売却するのがノンコア事業ではなかったとしても、事業の全部もしくは一部を譲渡することで債務の返済が行えます。
規模の小さい事業だとしても数百万円~数千万円程度の利益が残るケースもあるため、負債に苦しんでいるのであれば事業譲渡を考えてみてもよいでしょう。
ただし、これはあくまでも売り手企業にとって好条件の取引を、買い手企業が了承した場合に限ります。
事業譲渡によって必ずしも債務超過の状態から抜け出せるわけではないため、譲渡金額や税金でいくら差し引かれてしまうのかを確認しておきましょう。
3.会社の倒産を回避できる
債務超過が続き返済期日までに指定された金額を用意できなければ、その会社の倒産は免れません。
一方で、返済期日までに会社や事業を売却することで倒産を避けられます。
何も対策や手続きを施さないまま倒産してしまった場合、未払いの債権や売掛金が生じ、金融機関や取引先から信用を失ってしまうでしょう。
その結果、金融機関ではブラックリストに記録され、数年は融資や新規借り入れができなくなります。
かつての取引先からも不信感を持たれてしまうため、同地区・同業種で新規の契約を獲得するのも難しくなります。
最悪の状況を避けるためにも、買い手が見つかるのであれば事業を売却し倒産を回避しましょう。
4.事業の再生・拡大
買い手企業へ事業を譲渡した後も経営者が事業に携われるケースがあります。
これにより、買い手企業の協力を得て、事業の再生や拡大を実現できます。
買い手企業がスポンサーとなって会社の法人格を残したまま事業の再生を目指したり、グループ傘下に入ってさらなる事業拡大を目指したりもできるでしょう。
事業譲渡では、どの程度経営者の裁量権が残るかは取引次第です。
事業譲渡後の株式割合やスポンサーとしての買い手企業の意向などを、取引前に確認しておきましょう。
5.倒産のダメージを最小限に抑える
会社自体の倒産は避けられないものの、将来性がありこれからも続けてほしい事業がある場合、その事業だけを売却することで倒産のダメージを抑えられます。
譲渡した事業が買い手にとって魅力的なものであれば、多額の譲渡金額を受け取れるので負債返済の一部にあてて、倒産時のダメージを最小限にするのです。
倒産時にどれだけの借入金や売掛金が残っていたかによって、連帯保証人や代表者への影響は異なります。
場合によっては、連帯保証人や代表者も自己破産しなければいけないため、倒産が避けられなかったとしてもダメージを抑える努力は重要となるでしょう。
債務超過時に事業譲渡する注意点2選
債務超過の事業や企業を売却する際の注意点として以下の2点が挙げられます。
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- 情報開示は正確性を重視する
- 安価で売買し詐害行為にならないよう注意する
もし、これらの注意点を把握しないまま取引を進めていくと、取引の破棄や損害賠償の請求につながる恐れがあります。
トラブルを起こさずに取引を進めていくためにも、押さえておくべきポイントを見ていきましょう。
1.情報開示は正確性を重視する
事業譲渡を行う際には契約書の中に表明保証という項目があり、買い手企業に伝えた内容がすべて事実であることを保証するという条項が含まれています。
表明保証により、売り手は企業価値や事業価値が落ちるような要因を、買い手側へ隠さずに共有していると見なされます。
そのため、故意であろうがなかろうが伝えるべき情報を共有していなかった場合、表明保証表示違反に問われてしまうのです。
売り手側としてはなるべくよい条件で売却したいと考え、取引に都合の悪い情報は隠したいのかもしれません。
しかし、表明保証表示違反と見なされてしまうと、契約解除だけでなく損害賠償も求められる恐れがあるため情報開示では正確な情報を伝えましょう。
たとえ聞かれていなかったとしても「債務超過を抱えている」「機材の状態に不備がある」などの情報は事前に伝えておくべきです。
2.安価で売買し詐害行為にならないよう注意する
詐害行為とは債務超過を抱えている企業や個人が、自身の財産を意図的に減少させる行為を指します。
たとえば、債権者に対して支払わなければならない財産を低価格で売却して手離してしまえば、実際に支払える金額が減少し債権者は債務の回収ができません。
もし、債権者から財務超過の事業譲渡が詐害行為に該当すると見なされた場合「詐害行為取消権」が行使され、取引が取消になる恐れがあります。
これまで取引にかけてきた手間や労力、時間が失われるのは買い手企業にとっても痛手となるため、債務超過事業とは言え取引価格が適正価格なのかしっかりと確認しましょう。
後々のトラブルを避けるためにも、公認会計士や税理士などの専門家に適正価格を評価してもらいながら、事業譲渡の取引を進めていくとよいでしょう。
会社を買収・売却した後の負債の承継について
債務超過の事業や会社を売却する際、抱えている負債も承継するか否かは取引や契約によって異なります。
そのため、売り手企業にとっても買い手企業にとっても、負債をどのように扱うのかは重要な観点になると言えるでしょう。
「株式譲渡」によって負債超過の事業を売却する場合、会社を丸ごと買い手企業に譲渡するため、負債も買い手企業に承継します。
一方で、「事業譲渡」の場合は必ずしも負債も譲渡されるわけではなく、各取引によって異なります。
もし、事業譲渡時に負債も承継したいのであれば、事業譲渡契約とは別に負債譲渡の契約も結ばなければいけません。
負債を受け継ぐ際の手続きとしては「免責的債務引受」と「重畳的債務引受」の2種類から選びます。
2種類の負債承継手続き「免責的債務引受」と「重畳的債務引受」
「免責的債務引受」は負債を買い手企業へ引き継いだ後、債務に関する責任の一切が買い手企業側に移る契約方法です。
売り手企業にとっては事業と負債を引き継いだ後は、債務に関する責任からも逃れられます。
買い手企業にとってリスクやデメリットも大きい契約であるため、交渉や協議時にしっかりと同意を確認しましょう。
また、債務の請求先が完全に変わってしまうため、債権者からの同意も必要です。
一方、「重畳的債務引受」は売り手企業と買い手企業が連携して、負債を返済していく契約方法です。
事業を譲渡した後も、債務者は返済義務を免れることはありません。
それぞれの取引の特徴を理解して取引後のトラブルに発展させないよう、買い手企業と売り手企業で負債の承継について話し合いましょう。
負債の返済に困ったら事業譲渡も選択肢に入れてみよう
債務超過であっても将来的な売上や利益が見込めるのであれば、事業譲渡も実施可能です。
事業譲渡で得た利益を用いて、企業の財務健全化や債務の返済などが見込めます。
ただし、取引の際には正確な情報開示が求められる、債権者の不利益にならないようにする、といった注意点も挙げられます。
これらの注意点が押さえられていないと、契約の取消や損害賠償の請求まで発展する恐れがあるため、取引を実行する際には必ず専門家と相談しながら行いましょう。
現時点で事業譲渡に悩んでいるのであれば、一度当社が運営する「TSUNAGU」の無料オンライン相談を利用してみてはいかがでしょうか。
来社や事前準備の必要はなく匿名でM&Aの相談が行えるので、ぜひ一度ご相談ください
【ディスクリプション】
債務超過の状態であっても事業譲渡が可能です。これにより、債務返済の資金にしたり会社の倒産を回避できるなどのメリットがあります。ただし、債務超過時の事業譲渡は注意点も踏まえた上で行いましょう。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。