会社清算のメリットとは?デメリットや注意点、売却との違いも解説
「会社を清算するメリットとデメリットが知りたい」
「会社清算と売却では、どちらかが自社にとって適切なのだろうか」
このように、会社を清算するメリットがわからず悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
会社清算のメリットには、法人税の納税義務がなくなったり役員の任期を考慮する必要がなくなったりする点が挙げられます。ただし、清算にはデメリットもあり、会社によっては売却のほうが適切なケースもあります。
本記事では、会社清算のメリット・デメリットや清算までの流れ、売却のメリット・デメリットなどを詳しく解説するので最後まで読み進めてみてください。
目次
会社の清算とは?
会社の清算とは、会社を完全に消滅させるために、解散後に行う手続きのことです。
会社は、資産や負債を残したままでは清算できない決まりになっているため、清算人が会社の資産や負債を整理します。
清算するために行う手続きは、以下の通りです。
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- 資産の売却
- 債権の回収
- 債務の支払い
- 株主への配当
清算を開始したら、資産の現金化と債務の返済を行い、最後に残ったお金で株主へ分配金を配当します。また、会社のなかには一定期間、登記の変更が確認されない「休眠会社」が存在します。休眠会社になると、みなし解散の対象となり、解散時の取締役が清算人となり会社の清算手続きを進める必要があるのです。
休眠会社ってどんな会社?休眠の理由・手続きの流れ・費用・注意点などを徹底解説
会社清算の基本的な概要は、以下の記事で詳しく解説しています。
会社清算のメリット
会社清算のメリットは、以下の3つです。
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- 納税の義務がなくなる
- 役員の任期を考慮する必要がなくなる
- 決算を報告する必要がなくなる
それぞれ詳しく解説します。
納税の義務がなくなる
会社を清算すると法人が消滅するため、法人税の支払いがなくなります。
清算していない休眠状態の場合は、法人税の支払いが必要です。そのため、休眠状態の会社を放置しているよりは、清算してしまったほうが費用面においてメリットがあるといえます。
役員の任期を考慮する必要がなくなる
会社を清算するメリットとして、役員の任期を考慮する必要がなくなる点も挙げられます。
会社が消滅すると役員は任期を終えることになり、結果的に登記登録の手間がなくなるのです。会社が存続している場合、取締役の任期は通常2年と決められています。任期満了後は重任または新任の役員を選出し、選出後2週間以内に法務局へ役員の変更登記申請が必要です。中小企業でオーナー企業の場合、役員が重任し続けるケースも珍しくありませんが、新たな登記申請を忘れてしまうケースもあります。
休眠状態の場合は、役員の任期を考慮する必要があり、休眠中に任期を満了した場合にも登記義務は発生します。
決算を報告する必要がなくなる
会社の清算をすると、法人が消滅するため、決算報告をする必要はありません。しかしながら、休眠会社では、売上がなくとも決算報告が必要です。
会社清算のデメリット
会社清算のデメリットは、以下の3つです。
-
- 清算費用がかかる
- 取引先や顧客を失ってしまう
- 従業員の解雇と再就職先の斡旋が必要になる
それぞれ詳しく解説します。
清算費用がかかる
会社を清算する際は、以下の費用がかかります。
費用項目 | 概要 | 費用目安 |
官報公告への掲載費用 | 会社を解散する際は官報公告への掲載が義務付けられている | ・約3.6万円(10行を想定) ・1行あたり3,589円(税込) 参考:全国官報販売協同組合 |
登記費用 | 会社解散にあたり、「解散の登記」「清算人の登記」「清算結了の登記」が必要になる | 解散の登記:3万円 清算人の登記:9,000円 清算結了の登記:2,000円 合計:4.1万円 |
専門家への報酬 | 弁護士・税理士・司法書士・公認会計士への成功報酬 | 数万〜数十万円 |
従業員の退職金 | ・会社の清算において従業員は解雇になる ・解雇の場合は退職金の支払いが発生する |
会社によって異なる |
そのほかの費用 | ・登記事項証明書の取得 ・株主総会の開催費用 |
数万〜数十万円 |
※2024年3月時点の費用
依頼する専門家や従業員の数によって変わるためあくまでも目安ですが、40万〜50万円ほどの費用が清算時にかかると考えておきましょう。
取引先や顧客を失ってしまう
会社清算では、会社が消滅するため、取引先や顧客を失うことになります。
新たな会社を作る場合は、一から取引先や顧客を集める必要があります。長年会社を経営してきた場合、財産である顧客を失うのは大きな損失になる可能性があるでしょう。
本当に清算すべきなのか、慎重に検討する必要があります。
従業員の解雇と再就職先の斡旋が必要になる
会社を清算すると、一緒に働いてきた従業員を解雇することになります。
従業員側に落ち度があって解雇するわけではないため、会社には従業員の再雇用先を斡旋する責任があります。雇用先を探す際には関係会社や取引先にお願いし、受け入れ先が見つかった場合は、雇用先の労働条件や仕事内容の紹介と交渉をする仲介業務も行う必要があるのです。
再就職までは、有給休暇を活用し新たな職場の研修や面談に行けるようにサポートします。
会社清算の注意点
会社清算の注意点は、以下の2つです。
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- 特別清算や破産への切り替えが必要な場合がある
- 清算結了までに必要な期間を把握しておく
それぞれ詳しく解説します。
特別清算や破産への切り替えが必要な場合がある
会社の清算には「通常清算」と「特別清算」の2種類があります。また、「破産」という方法で清算するケースもあります。
それぞれの違いは以下の通りです。
清算方法 | 概要 | 主導権 | 裁判所の監督 |
通常清算 | 会社に残っている債務を全額返済できる場合の清算方法 | 株主総会で選任した清算人 | 不要 |
特別清算 | 会社に残っている債務を全額返済できない状態に陥っている場合の清算方法 | 株主総会で選任した清算人 | 必要 |
破産 | 特別清算をもってしても債務を完済できない場合の清算方法 | 裁判所が選任した破産管財人 | 必要 |
たとえ通常清算を選択したとしても、債務超過があったり債権者の利益を侵害する恐れが生じたりした場合には、特別清算や破産手続きをしなければなりません。
特別清算を実施する場合は、裁判所に「特別清算の申し立て」を行い、裁判所の監督下において、株主総会で選任した清算人を主導に手続きを進めます。
一方、破産は裁判所に対して「破産の申し立て」をおこし、裁判所が選任した破産管財人が主導で清算を行う方法です。
清算結了までに必要な期間を把握しておく
会社の解散決議から清算結了までに必要な時間は、会社の規模によって異なりますが、短いと2ヵ月〜半年、長いと2〜3年ほどかかります。
清算結了までのおおまかな流れは、以下の通りです。
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- 株主総会での解散決議
- 清算人の選任
- 解散登記・清算人登記
- 債権の届出を求める官報公告
- 財産目録・貸借対照表の作成
- 株主総会の承認と確定申告
- 残余財産の換価および債権の回収
- 債務の弁済
- 株主総会での決算報告
- 清算結了登記
会社の清算が長期間にわたる理由のひとつに、債権の届出を求める官報公告があります。会社法の第四百九十九条(債権者に対する公告等)には、公告期間は2ヵ月を下回ってはいけないと記載があるため、必ず2ヵ月以上は掲載する必要があるのです。
会社の清算と比較される売却とは?
会社の売却とは、会社の経営権を第三者に譲渡し、対価を得ることです。会社は規模や経営状態にかかわらず売却できる可能性があります。
たとえば、特許技術を所有している会社や将来性の高い会社、技術やスキルに長けた社員が多く在籍している会社などです。
売却できるのは、成功している一部の会社だけではありません。経営状態が悪かったり債務超過があったりする会社でも、買い手が現れる可能性はあります。買い手の求める技術力やノウハウを保有しており、シナジー効果が期待できる場合には、売却も十分に可能です。
後継者問題で悩む企業や経営者にとっても、会社の売却は有効な手段といえます。
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会社売却のメリット・デメリット
会社売却のメリットとデメリットを詳しく解説します。それぞれを比較し参考にしてみてください。
会社売却のメリット
会社売却のメリットは、以下の通りです。
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- 売却益を確保できる
- 従業員の雇用を守れる
- 後継者の問題を解消できる
会社売却による一番のメリットは、純資産に限らず、技術力やノウハウなどが評価されて売却益を確保できる点でしょう。清算の場合は、技術力やノウハウは考慮せずに、残余財産のみで評価するため、売却よりも得られる利益が少なくなります。
また、売却することで従業員の雇用が守られます。売却成立の条件として現従業員の雇用維持を掲げるのは一般的ですし、買い手側としても技術力の高い社員の確保を目的とするケースは少なくありません。
そして、売却によって経営を第三者に継承できるため、後継者問題の悩みも解消されます。
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会社売却のデメリット
会社売却のデメリットは、以下の通りです。
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- 売却先が見つからない
- 人材の退職や転職の恐れもある
- 仲介手数料がかかる
売却したくても、買い手が見つからないケースは珍しくありません。購入希望者が見つかっても、売却条件面で折り合いが合わず、契約成立しないケースもあります。
経営方針が変わることで、退職や転職を検討する従業員も現れます。会社を譲渡したあとの経営方針や経営体制などを事前にすり合わせ、必要に応じて従業員に説明する機会を儲けることも大切です。
会社売却を進めるにあたって、弁護士や税理士、公認会計士のような専門家の助けを借りる必要があります。売却後には、専門家への報酬として仲介手数料を支払います。仲介手数料以外の登記費用やそのほかの諸費用なども考慮しておかなければなりません。
会社売却の基本的な概要は、以下の記事で詳しく解説しています。
会社を清算した際の税金について
会社を清算した際は、以下の税金が課される可能性があります。
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- 法人税
- 消費税
法人を解散・清算する際には、事業年度末をもって確定申告を行う必要があり、所得が発生すれば、法人税が課せられます。また、資産の売却などを行なった場合は、消費税の課税対象となる可能性もあります。ただし、会社解散後は事業活動を行わないため、営業していた時期のように売上が発生しません。そのため、多額の税金を納めることにはならないでしょう。
注意すべきは、会社が保有する資産を売却して利益が発生した際と、「債務放棄」という返済を無しにしてもらう方法をとった場合です。このケースでは、利益が発生しているので、課税対象となります。
財産の売却や債務放棄によって予定される利益と、それによって課される税金については、専門家に相談するようにしましょう。
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会社解散後の株主への分配について
会社の解散後は、会社に残った現預金(残余財産)のうち、資本金に相当する金額を株主に配当する必要があります。
資本金に相当する金額は、株主が出資した金額にあたるため、課税対象とはなりません。しかし、資本金以上の金額を払い戻す場合は、会社からの配当金として扱われます。つまり、受け取った株主は利益を得ていることになるため、場合によっては、確定申告をする必要があるのです。
会社清算と会社売却の比較
会社清算と会社売却の違いを比べてみてください。
清算 | 売却 | |
売却益の有無 | なし (清算時に残余財産があれば配分される可能性がある) |
あり |
個人保証の解除 | されないケースがある | される |
事業の存続 | 消滅する | 存続できる |
取引先との関係 | なくなる | 継続できる |
従業員の雇用 | 解雇または再就職の斡旋をする必要がある | 雇用を維持できる |
税金 | 残余財産が資本金を上回った場合に課される | 売却益に対して課される |
まとめ:会社清算を検討する場合は売却との違いを比較しよう
本記事では、会社清算のメリットとデメリットについて、売却の内容も交えて解説しました。
それぞれのメリットとデメリットをあらためて確認してみてください。
清算 | 売却 | |
メリット | ・納税の義務がなくなる ・役員の任期を考慮する必要がなくなる ・決算を報告する必要がなくなる |
・売却益を確保できる ・従業員の雇用を守れる ・後継者の問題を解消できる |
デメリット | ・清算費用がかかる ・取引先や顧客を失ってしまう ・従業員の解雇と再就職先の斡旋が必要になる |
・売却先が見つからない ・人材の退職や転職の恐れもある ・仲介手数料がかかる |
両者の大きな違いには、会社が消滅するかしないかがあります。後継者問題や経営の悪化から清算を選ぶ人も少なくありませんが、清算か売却かで迷っている人は一度、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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会社清算のメリットには、法人税等の納税が不要・役員の任期を考慮する必要がない点が挙げられます。本記事では会社清算にかかる税金や株主への分配なども詳しく解説しているのでぜひ参考にしてみてください。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。