事業売却に伴う税金の理解と対策!所得税の計算方法と税率もご紹介!

「事業を売却するとどのくらいの税金がかかるのか」、「事業売却時に納付する税金の種類は何か」、「事業売却によって得られる売却益に対する所得税はどのように計算するのか」
など、疑問に感じているのではないでしょうか。
本記事では、事業売却が税金面で重要性を持つ理由から事業売却における税金の種類について解説します。
目次
事業売却が税金面で重要性を持つ理由
事業売却が税金面で重要性を持つのは、事業資産の譲渡に伴い、所得税や法人税、固定資産税が変動するためです。
事業を売却することで売却益が発生すれば納付する所得税額・法人税額が増加し、事業売却により所有する土地や建物などの不動産資産が減少すれば、納付する固定資産税額も減少します。
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事業売却における税金の種類
事業売却における税金 | 内容 |
所得税 | 売却益に課される |
法人税 | 事業資産の譲渡に伴う |
固定資産税 | 土地や建物などの不動産資産にかかる |
事業売却における税金の種類は以下の3つです。
-
- 売却益に課される所得税
- 事業資産の譲渡に伴う法人税
- 土地や建物などの不動産資産にかかる固定資産税
それぞれの税金について解説します。
売却益に課される所得税
事業売却における税金の種類の1つ目は、売却益に課される所得税です。所得税とは、1年間のすべ全ての所得から所得控除を差し引いた課税所得に対してかかる税金を指します。所得税は個人の所得に対してかかる税金のためなので、個人が所有する事業を売却する際にのみ、所得税が発生します。
法人が所有する事業を売却する際に課税されるのは、後述する法人税です。
事業資産の譲渡に伴う法人税
事業売却における税金の種類の2つ目は、事業資産の譲渡に伴う法人税です。法人税とは、法人の課税所得に対して課せられる国税を指します。個人事業主ではなく法人を対象とする税金ですが、普通法人とその他の法人に課され、公益法人等・公共法人・人格のない法人には課されません。
事業売却によって得た売却益は法人税の課税対象であり、法人住民税、法人事業税、地方法人税、特別法人事業税も課されます。
土地や建物などの不動産資産にかかる固定資産税の取り扱い
事業売却における税金の種類の3つ目は、土地や建物などの不動産資産にかかる固定資産税です。固定資産税とは、所有する土地や建物などの不動産資産、事業にかかわる機械や備品などの償却資産にかかる税金を指します。地方税のためなので、会社が所在する地方自治体に納税します。
事業売却に伴い土地や建物などの不動産資産も売却した場合には、不動産資産の評価額に応じて固定資産税額が少なくなります。
所得税と売却益
事業売却時に納付する所得税を計算するには、事業売却によって得られる売却益を算出し、売却益に対する所得税の計算方法と税率を理解する必要があります。所得税の特例や控除を活用すると、納税額を抑えることも可能です。
事業売却によって得られる売却益の計算方法
事業売却によりって得られる売却益は、以下の計算式で算出されます。
売却益 = 売却額 -- 譲渡資産の簿価
売却額と譲渡資産の簿価が同じ場合には、事業売却に伴う売却益が0になります。
売却益に対する所得税の計算方法と税率
事業を売却することで得られた売却益に対して所得税が課されるのではなく、課税所得に対して所得税が課される仕組みです。つまり、「売却益に対する所得税」という表現は適切ではありません。事業を売却することで得られた売却益がいくらであっても、課税所得が0もしくは赤字だった場合には、所得税額は0となります。
また、前述したように売却額と譲渡資産の簿価が同じ場合には事業売却に伴う売却益が0になるため、所得税額が増加することはありません。
売却額が譲渡資産の簿価を下回る場合には、課税所得額から売却額と譲渡資産の簿価の差額を差し引くことが可能です。
所得税額は以下の計算式で算出されます。
所得税額 = 課税所得 × 所得税率
所得税率には累進課税制度が採用されており、課税所得額が多いほど所得税率も高くなります。
課税所得額別の所得税率と控除額は以下のとお通りです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
なお、完全支配関係にある会社同士で事業譲渡取引をした場合は、税制が異なる可能性があるため注意しましょう。
所得税の特例や控除の活用方法
事業売却に伴い土地や建物を売却した場合、譲渡所得を算出する際に特例として特別控除が受けられる場合があります。
譲渡の種類と特別控除額は以下の通りです。
(1)公共事業などのために土地や建物を売った場合の5,000万円の特別控除の特例
(2)マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
(被相続人の居住用財産(空き家)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例)
(3)特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合の2,000万円の特別控除の特例
(4)特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合の1,500万円の特別控除の特例
(5)平成21年及び平成22年に取得した国内にある土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除の特例
(6)農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特別控除の特例
(7)低未利用土地等を売った場合の100万円の特別控除の特例
参考:No.3223 譲渡所得の特別控除の種類「国税庁」
法人税と事業資産の譲渡
事業売却に伴う法人税に関して、以下の3点を解説します。
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- 事業売却に伴う法人税の取り扱い
- 法人税の計算方法と税率
- 法人税の特例や減税措置
事業売却に伴う法人税の取り扱い
個人が事業を売却する場合と同様に、法人が事業を売却して売却益が発生すると、法人税が増加する場合があります。事業を売却することで得られた売却益がいくらであっても、課税所得が0もしくは赤字だった場合には、法人税額は0となります。
また、前述したように売却額と譲渡資産の簿価が同じ場合には事業売却に伴う売却益が0になるため、法人税額が増加することはありません。売却額が譲渡資産の簿価を下回る場合には、課税所得額から売却額と譲渡資産の簿価の差額を差し引くことが可能です。
法人税の計算方法と税率
法人税額は以下の計算式で算出されます。
法人税額 = 課税所得 × 税率 -- 税額控除額
普通法人の法人税率は以下の通りです。
普通法人 | 法人税率 | ||
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | ||
年800万円超の部分 | 23.20% | ||
上記以外の普通法人 | 23.20% |
法人税の特例や減税措置
事業売却に伴う、法人税の特例や減税措置はありません。普通法人の法人税の税率は23.2%に定められていますが、租税特別措置法によって定められた中小企業については、年800万円以下の部分にかかる法人税率は15%が適用されます。
租税特別措置法に基づく法人税額の特別控除
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- 中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除制度(措法42の6)
- 沖縄の特定地域において工業用機械等を取得した場合の税額控除制度(措法42の9)
- 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の税額控除制度(措法42の12の4)
参考:No.5450 法人税の額から控除される特別控除額の特例「国税庁」
固定資産税と不動産資産
事業売却に伴う固定資産税に関して、以下の3点を解説します。
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- 事業の土地や建物などの不動産資産にかかる固定資産税の取り扱い
- 不動産資産の評価額と固定資産税の計算方法
- 固定資産税の特例や軽減措置
事業の土地や建物などの不動産資産にかかる固定資産税の取り扱い
固定資産税とは、所有する土地や建物などの不動産資産、事業にかかわる機械や備品などの償却資産にかかる税金を指します。地方税のためなので、会社が所在する地方自治体に納税します。
事業売却に伴い土地や建物などの不動産資産も売却した場合は、不動産資産の評価額に応じて固定資産税額が少なくなります。
また、変更登記手続きに伴う登録免許税も付随して発生します。
不動産資産の評価額と固定資産税の計算方法
不動産の評価額とは、所有する土地や建物に対する固定資産税や都市計画税、不動産取得税、相続税を算出する際の基準となる金額です。
固定資産税の計算方法は以下のとおりです。
固定資産税 = 所有する固定資産の評価額 × 標準税率
固定資産税の特例や軽減措置
事業売却に伴う、固定資産税の特例や減税措置はありません。2024年3月31日までに新築された居住部分に係る床面積で、120㎡m2が限度(120㎡m2を超えるものは、120㎡m2相当分まで)の住宅には減額特例が適用され、固定資産税が2分の1に減額されます。
軽減措置が適用される期間は以下の通りです。
住宅の種別 | 期間 |
一般の住宅 | 3年度分 |
3階建以上で耐火構造の住宅 | 5年度分 |
一般の長期優良住宅 | 5年度分 |
3階建以上で耐火構造の長期優良住宅 | 7年度分 |
参考:固定資産税「総務省」
事業売却時の税務上の注意点
事業売却時の税務上の注意点は以下の3つです。
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- 決算日や売却時期の選択による税務上の影響
- 買収企業との交渉や契約内容における税務上の検討ポイント
- 専門家や税理士のアドバイスの重要性
それぞれの注意点について解説します。
決算日や売却時期の選択による税務上の影響
事業売却時の税務上の注意点の1つ目は、決算日や売却時期の選択による税務上の影響です。事業売却に伴い高額な売却益が発生すると、納付する所得税や法人税も高額になる恐れがあります。
売却益は費用と相殺できるため、赤字の年度に事業を売却すると所得税や法人税を抑えることが可能です。
買収企業との交渉や契約内容における税務上の検討ポイント
事業売却時の税務上の注意点の2つ目は、買収企業との交渉や契約内容における税務上の検討ポイントです。買収企業との交渉や契約内容によりって売却額が高くなる可能性はありますが、事業売却に伴う税額が少なくなるなど、税務上で検討することはありません。
専門家や税理士のアドバイスの重要性
事業売却時の税務上の注意点の3つ目は、専門家や税理士のアドバイスの重要性です。事業売却に伴う税務処理は複雑なためので、専門家や税理士へアドバイスを求めることをおすすめします。
税務対策とリスクマネジメント
事業売却に伴う税務対策とリスクマネジメントに関して、以下の3点を解説します。
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- 事前の税務調査や評価の重要性
- タックスプランニングやリストラクチャリングの手法
- リスクマネジメントの観点からの対策としての適切な保険の活用
事前の税務調査や評価の重要性
事業売却に伴う税金は事業や不動産の評価額に応じて変動するため、事前にどのくらいの評価額なのかを調査しておくことが重要です。
タックスプランニングやリストラクチャリングの手法
タックスプランニングとは、将来発生する法人税等を予測し、計画を行うことです。税務コストを最小限にすることを目的として実施します。
リストラクチャリングとは、不採算事業の縮小や撤退、統廃合などにより、成長が見込める事業や高収益が見込める事業へ経営資源を集中させることです。タックスプランニングやリストラクチャリングの一環として、事業売却が検討されるケースもあります。
リスクマネジメントの観点からの対策としての適切な保険の活用
リスクマネジメントとして保険に加入しておくことで、事業売却に伴い節税効果が得られます。
事業売却後の税務処理
事業売却後の税務処理は以下の3つです。
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- 売却益や譲渡資産にかかる税金の申告と納付
- 後続事業や資産の再投資に伴う税務上の取り扱い
- 資産の再評価や再評価に伴う税金の影響
それぞれの税務処理について解説します。
売却益や譲渡資産にかかる税金の申告と納付
所得税や法人税などの税金は、事業売却に伴う売却益に対してかかるわけではなく、課税所得が発生する場合には確定申告により所得税額・法人税額を確定し、税金を納付する必要があります。
後続事業や資産の再投資に伴う税務上の取り扱い
事業売却後に別の事業を開始したり、再投資したりした場合には、税務処理を行う必要があります。
資産の再評価や再評価に伴う税金の影響
事業売却に伴い残った資産が再評価された場合には、固定資産税が変動する場合があります。
まとめ
今回は、事業売却が税金面で重要性を持つ理由から事業売却における税金の種類について解説しました。
事業売却に伴う税金は以下の3つです。
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- 所得税
- 法人税
- 固定資産税
個人・法人が事業を売却すると、売却額と譲渡資産の簿価の差額に対して所得税・法人税が課されます。所得税・法人税は課税所得を元に算出されるため、事業が赤字の年度に事業を売却することで、事業売却にかかる税金を抑えることが可能です。
また、売却額より譲渡資産の簿価の方が大きい場合、つまり売却益がマイナスになった場合は所得税・法人税が少なくなる可能性があります。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。