株式分割とは?メリットやデメリット・実施手順をわかりやすく解説!

株式分割の知識がないため、自社で実施すべきか悩んでいませんか。よく知らないまま株式分割してしまうと株価が大幅に下がり、株主からの信頼を失うかもしれません。

この記事では、株式分割の仕組みやメリットとデメリットを解説します。

株式分割を実施すると株式の流動性が高まる一方で、短期的に利益を得たい投資家が増える可能性があります。知識を得てから適切に株式分割することで新しい株主が増え、自社を成長させるきっかけになるでしょう。

株式分割とは?仕組みを解説

株式分割は発行済株式を会社が決めた割合で分割し、株式数を増やす手続きです。

たとえば、1株1,000円の株式を100株保有しているときに、1:2の割合で株式分割が実施されるとしましょう。株式分割により保有株式数は200株になり、株価は500円になります。保有株式数が2倍になっても株価が1/2になっているので、株主の資産は10万円から変動しません。

株式分割は、1:1.3といった整倍数以外の割合で実施されることもあります。

株式分割を実施する企業が増えている理由

株式分割を実施する企業が2022年は97件だったのに対し、2023年には150件を超えました。株式分割する企業が増えている理由は以下の2つです。

    • 投資単位を引き下げるため
    • 株価を下げて個人投資家が新NISAで買いやすくするため

投資単位とは、1売買単位(株式取引で最低限必要とされる株数)当たりの価格のことです。

証券取引所は個人投資家が投資しやすい環境となるよう、投資単位は「50万円未満」が望ましいと明示しています。

東京証券取引所は、2022年10月に投資単位が50万円以上の企業に対し、事業年度経過後3ヶ月以内に50万円未満の水準へ移行するよう要請しました。要請を受け、2023年9月末時点で上場会社の中で投資単位が50万円未満である会社が93.7%となっています。

株式分割と増資の違い

増資は、株式分割以外に新株発行のためによく使われる手続きです。株式分割は発行済株式を分割し新株を増やしますが、増資は資金調達を目的とし新株を発行します。

増資は、対象とする投資家の違いによって以下の3種類に分けられます。

種類対象とする投資家
株主割当増資既存の株主
第三者割当増資特定の第三者(既存の株主でなくてもよい)
公募増資不特定多数の投資家

第三者割当増資や公募増資は株主以外の投資家も株式を得る可能性があるので、株式分割と違い持株比率が変化します。大株主の支配力を弱めるために、増資を実施する企業もあります。

株式分割が企業にもたらすメリット3選

株式分割が企業にもたらすメリットは、以下の3つです。

    • 株式の流動性が高まる
    • 配当増額の代替にできる
    • 上場したい株式の基準に近づける

メリットを理解しておくと、適切なタイミングで迷いなく株式分割できるようになります。

株式の流動性が高まる

株式分割すると株価が下がり、今まで高くて手が出せなかった投資家も株式を買いやすくなります。

株主数が増えると1人あたりの株式保有数が減るので、特定の売買が与える株価への影響が減少します。資産を安定的に確保できるので、企業は設備投資や優秀な人材確保などの経営判断ができるようになるでしょう。

株式分割によって新たな投資家の増加や会社への注目度が高まり、時価総額が上昇する場合もあります。

配当増額の代替にできる

1株当たりの配当を据え置いた株式分割は、配当増額せずに株主への利益還元を増やせる方法です。

たとえば、1株当たりの配当が10円の株を100株持っていると、配当金は1,000円です。配当を10円に据え置いたまま5株に分割すると、保有数が500株になるので配当金は5,000円になります。

株式分割することで知名度が高い企業の配当が受け取りやすくなると、株式投資を増やす効果が期待できます。

上場したい市場の基準に近づける

株式分割すると株主数や流通株式数が増えるので、上場したい市場の基準に近づけます。

以下は東京証券取引所の上場審査基準の例です。

市場の種類株主数流通株式数
プライム市場800人以上20,000単位以上
スタンダード市場400人以上2,000単位以上
グロース市場150人以上1,000単位以上

上場するためには時価総額や事業継続年数など他の条件を満たす必要もありますが、株式分割により市場の昇格を狙いやすくなります。

株式分割が企業に与えるデメリット2選

株式分割が企業に与えるデメリットは以下の2つです。

    • 短期的に利益を得ようとする投資家が増える恐れがある
    • 株主の管理が複雑になる

デメリットを知っておくと、株式分割で失敗しにくくなります。

短期的に利益を得ようとする投資家が増える恐れがある

株式分割すると株価が下がり売買しやすくなるため、短期的に利益を得ようとする投資家が増える恐れがあります。

株価が短期間で変動すると会社への信用度が下がり、株価が大幅に下落する可能性もあります。株価が大幅に下がると、安い株というイメージを投資家に与えかねません。

短期間に株価が乱高下した場合のリスクを最小限に抑えるためには、株式分割に関する投資家への適切な説明が重要です。

株主の管理が複雑になる

株式分割により新たな株主が増えると、管理が複雑になります。株主管理の具体例は以下の通りです。

    • 株主総会の運営
    • 株主名簿・株主リストの作成や管理
    • 株主への配当手続き

株主管理を怠ると株主からの信用を失いかねないので、記載内容や手続きを定期的に見直す必要があります。なお、株主名簿に記録すべき事項が記載されていないと、会社法第976条に基づき100万円以下の過料が科される可能性があります。

株主管理を電子化するサービスがあるので、管理が複雑化してきたら導入を検討してみてもよいでしょう。

株式分割の手順

株式分割の手順は以下の通りです。

    • 取締役会あるいは株主総会で決議する
    • 株主へ公告する
    • 効力発生日が来る
    • 法務局へ登記手続きを申請する

株式分割の手続きは3週間〜1ヶ月程度かかります。手順を理解しておけば、スケジュール通りに手続きを進められます。

取締役会あるいは株主総会で決議する

取締役を設置している会社は取締役会で、取締役を設置していない会社は株主総会(普通決議でよい)で株式分割について決議します。決議する内容は以下の3つです。

    • 分割の割合と基準日
    • 効力発生日
    • 分割する株式の種類

種類株式(普通株式と権利の内容が異なる株式)を発行している場合、種類ごとに分割したり割合を変えたりできるので決議内容に含まれます。

分割の割合を決めるときは、発行可能株式総数(株主総会の決議なしで発行可能な株式数)を確認しておきましょう。発行可能株式総数を超える場合、事前に株主総会の特別決議によって定款を変更しておく必要があります。

株主へ公告する

株式分割の決議後、分割した株式が割り当てられる日(基準日)や分割比率などを2週間前までに株主へ公告する必要があります。基準日公告の方法は以下の3つです。

    • 官報
    • 新聞広告
    • 電子公告

公告方法は会社が定めている方法を選びます。なお、官報は申し込んでから公告までに1週間程度かかります。

効力発生日が来る

株式分割の効力発生日が来ると、株主が持っている株式数が割合に応じて増加します。

効力が発生する際、分割の割合によっては0.5株といった1株に満たない端数が出る場合があります。端数の株は市場で売れないので端数の合計を会社が競売し、得られた代金を株主に渡す手続きが必要です。

競売の実施には手続きや費用がかかるので、以下の価格で端数を売却する手続きも会社法で認められています。

市場価格の有無価格
ある市場価格として会社法施行規則で定める方法によって算定される額
ない裁判所の許可を得た額

また、端数の全部あるいは一部を自己株として会社が買い取る選択肢もあります。

法務局へ登記手続きを申請する

株式分割により発行済株式総数や発行可能株式総数が変わると、本社を管轄する法務局で登記を変更する手続きが必要です。登記を変更する期限は、効力発生日から2週間以内です。申請から約1〜2週間で登記が完了します。

申請に必要な書類は以下の4つです。

    • 変更登記申請書
    • 株式分割の決議が行われた取締役会議事録あるいは株主総会議事録
    • 株主リスト(株主総会の決議をした場合)
    • 委任状(申請を司法書士に依頼する場合)

必要書類を用意するときは、インターネット上の記入例を参考に作成しましょう。

なお、登記の変更を申請する際、分割する株式の割合や株式数に関係なく登録免許税として3万円かかります。変更登記申請書に収入印紙を貼り付ける納付方法が一般的ですが、金融機関で納付した領収書を貼り付けてもかまいません。

株式分割をできるだけ早く行う方法

株主の数が少ない場合、株式分割の手続きにかかる期間を短縮する方法があります。

株主総会で株式分割の基準日を定める定款変更を決議し、同じ日に取締役会あるいは株主総会で株式分割を決議します。基準日が定款に定められている場合、株主への公告は不要です。

株主総会は、2週間前までに招集通知が必要です。しかし、株主全員の同意があれば招集手続きの省略が可能なので、最短1日で株式分割の効力を発生させられます。

株式分割の効力発生を早めることで、投資家や取引先から出資を得られるチャンスを逃す可能性を下げられます。

株式分割の事例

株式分割についての理解を深められるよう、事例を2つ紹介します。

    • Zホールディングス
    • トヨタ自動車

事例を知ることで、自社が株式分割したらどうなるのか具体的に想像できるでしょう。

Zホールディングス

株式分割の事例として、Zホールディングス(旧ヤフー)が挙げられます。

ヤフーは1997年11月に上場した際、初値が約200万円となりました。ITバブルの波に乗り株価が急上昇を続けたので、1999年3月に1:2の割合で初めて株式分割します。

2006年3月までに1:2の割合で13回株式分割し、14回目の2013年9月には1:100の割合で分割しました。株式分割を繰り返した結果、2017年10月には1株の値段が初値の約200万円から約500円となりました。

上場したときからヤフーの株を1株保有している人は、81万9,200株保有していることとなり総資産額は約4億円となっています。

ヤフーの株価は売上や利益の成長を伴って上昇したので、バブルのように株価が急激に下がることはありませんでした。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、2021年9月に1:5の割合で株式分割を実施。長期間保有し株価を支える個人株主を増やすために、30年ぶりの株式分割に踏み切ります。

分割前のトヨタ自動車の株価は1万円を超えていたので、投資単位である100株を購入するには100万円以上必要でした。トヨタ自動車の時価総額は国内トップですが、株価が高く簡単に手が出せないため株主数は15位でした。

1株を5株に分割したことで株価が約2,000円となり、約20万円でトヨタ自動車の株を購入できます。2023年3月末時点で株主数が98万9,548人となり、1年前と比べて17万人(22%)以上増えました。

株式分割は敵対的M&Aの抑止力になる

株式分割は発行済株式を分割し株式数を増やせるので、敵対的M&Aの抑止力になり得ます。敵対的M&Aとは、事前に経営陣や株主などの合意を得ずに対象企業を買収することです。

敵対的M&Aを成功させるには、対象企業の発行済株式総数の50%以上を保有する必要があります。株式分割で新たに株を購入する投資家が増えた場合、買収者が予定していた株式数を取得しにくくなります。

株式分割で敵対的M&Aの実施を遅らせた時間を使い、専門家に相談し効果的な買収防衛策を打ち出すことが可能です。

株式分割が不安なら専門家に相談を

株式分割を実施する場合、経営者だけで判断するのは難しいので専門家の力を借りましょう。株式分割の効果を最大限に引き出すには、以下のポイントを押さえる必要があります。

    • 的確なタイミングの選定
    • 効果が出やすい割合の決定
    • 株主への適切な説明

株式分割に失敗すると信用を失い、長期保有していた株主が離れていく可能性があります。M&Aの専門家から助言を受けながら手続きすることで、株式分割の失敗を防げるでしょう。

メリット・デメリットを知り株式分割を効果的に活用しよう

株式分割を効果的に活用するには、メリットとデメリットを知っておく必要があります。株式分割のメリットは以下の3つです。

    • 株式の流動性が高まる
    • 配当増額の代替にできる
    • 上場したい株式の基準に近づける

一方、デメリットは以下の2つがあります。

    • 短期的に利益を得ようとする投資家が増える恐れがある
    • 株主の管理が複雑になる

メリットとデメリットを理解したうえで、株式分割を実行するタイミングや分割割合を慎重に検討する必要があります。不要なトラブルを避けつつ最大限の利益を得られるよう、専門家に相談しながら株式分割を実施するのがおすすめです。

ディスクリプション

株式分割とは、発行されている株式を複数に分割することです。流動性を高められる一方、投機目的の投資家が増える可能性もあります。メリット・デメリットと手順を理解すれば、株式分割が成功しやすくなります。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。