IRR(内部収益率)とは?【実例付き】計算式や活用方法をわかりやすく解説

IRR(内部収益率)は、投資において重要な指標のひとつです。

投資初心者にとって指標の計算と言われると難しく感じるかもしれません。しかし計算方法がわかれば、さまざまな企業を比較し利益を得やすい投資先を決める際の判断に役立ちます。

本記事では、IRRの活用場面やExcelを用いた簡単な計算方法を実例を交えながら解説します。

IRRの計算に苦手意識がなくなると、投資すべきかの判断に自信が持てるようになるでしょう。

IRR(内部収益率)はどれだけ効率よく利益を得られるかがわかる指標

IRRとは、投資による利益をどれだけ効率よく得られるかを示した指標です。

たとえば、以下のような同じ投資額の商品を購入した場合、最終的に手元に戻る金額が同じでも利益を得られる時期が早いほうがよい投資先だと判断できます。

    1. 50年後に150万円となる商品
    2. 10年後に150万円となる商品

2の商品を選んで早くに利益を得ると新たな投資商品購入に資金を回せるため、効率よくお金を増やせます。IRRの数値が高いほど、効率的に利益を得られるということです。

IRRは投資商品購入によって、いかにスピーディーにお金を増やせるかの時間的価値が考慮されます。

利回りとの違い

投資の指標としてよく使われるのが利回りですが、IRRとは以下のような違いがあります。

    • 利回り:値が大きいほど多く利益を得られる
    • IRR:値が大きいほど素早く利益を得られる

利回りは、たとえば株の売買をして10万円の収益を1年後に得ても、5年後に得ても価値は同じという考えです。

一方、IRRは株の売買をして10万円の収益を得るなら、早ければ早いほうが価値が高いと評価します。

割引率について

IRRを用いて投資商品を購入するには、割引率についても理解する必要があります。

割引率とは、投資によって増えるであろうお金の将来の価値『将来価値』を現在の価値『現在価値』に換算した際に、どの程度増えているかを示した数値です。

お金は運用して増やせるので現在の価値がもっとも高く、時間が経過するほど小さくなります。時間によってお金の価値は変動するので、将来の利益を予測するには、この先に得るであろう金額を現在の価値に変換することが大切です。

たとえば、100万円を年利10%で1年間運用した場合、1年先には110万円になっているので、割引率=10%、将来価値=110万円です。

なお、現在価値や将来価値は、以下の計算式を用いて算出します。

現在価値=将来価値÷(1+割引率)^運用年数

100万円を年利10%で1年間運用した場合の現在価値は、

100=110÷(1+10%)^1

と、計算式に置き換えられます。

IRRは投資におけるキャッシュフローを時間軸で示した指標なので、将来と現在ではお金の価値が変わることへの理解が重要です。

IRRの計算式

次にIRRの計算の計算方法について解説します。IRRの計算式は以下のとおりです。

C₀++++…+=0

C0:初期投資額

C1:1年目のキャッシュフロー総額

C2:2年目のキャッシュフロー総額(C3→3年目…と続く)

r:IRR

IRRは初期投資額と毎年のキャッシュフローがわかれば計算できるので、税金や年利など資金の出入りを事前に整理しておくとスムーズに算出できます。

IRRの計算シミュレーション

続いて投資商品購入にあたって、どのようにIRRを用いて計算するのかを実際に試してみましょう。

    • 定期預金の場合
    • 株式投資の場合
    • 不動産投資の場合

IRRは、各年ごとのキャッシュフローを一覧すると簡単に求められます。投資条件やキャッシュフローの具体例も紹介するので参考にしてください。

定期預金の場合

定期預金で運用した場合は、IRRはどうなるのかをシミュレーションしましょう。

【投資条件】

    • 初期投資額:100万円
    • 年利:3%
    • 運用期間:3年
投資期間キャッシュフロー
0年目−100万円
1年目100万円×3%=3万円
2年目100万円×3%=3万円
3年目100万円×3%=3万円+1年目2年目の利息6万円=109万円
IRR3%

運用3年目は、最初に預けていた元本も1年目2年目の利息もキャッシュフローとして計算します。

定期預金の場合は時間による金利の変動がないため、年月が経過してもIRRは一定数を保ったままだとわかります。

株式投資の場合

続いて、株式投資の場合のIRRの計算を見ていきましょう。

【投資条件】

    • 初期投資額:100万円
    • 配当金:4%年1回
    • 年間株価上昇率:5%
投資期間キャッシュフロー
0年目−100万円
1年目配当4万円
2年目配当4万円
3年目100万円+4万円+4万円+4万円+10万2500円=122万2500円
IRR10%

※2年目売却時IRR=4%

1年目売却時IRR=4%

株価が上昇してももらえる配当は株式数に基づくので、配当の金額は変わりませんが、売却時のキャピタルゲインは得ることができます。

しかし、株式投資の場合は株価暴落によって上昇率が下がる場合も多いので、投資商品を予測するうえでIRRはあくまで目安として捉えましょう。

不動産投資の場合

続いて不動産投資のIRRをシミュレーションします。

不動産投資の場合、築年数によって家賃の下落や管理費の上昇により利回りが下がる傾向が高いです。同じ初期投資額の不動産物件でもIRRの数値が異なります。

2,500万円の物件購入をすると仮定し、利回りの違う不動産に投資をした場合のIRR率の計算例を2パターン紹介します。

【投資条件項目】

利回りA物件B物件
1年目10%3%
2年目5%3%
3年目1%3%
    • 購入額:2500万円
    • 売却額:2500万円
    • 運用期間:3年
投資期間A物件キャッシュフローB物件キャッシュフロー
0年目-2500万円-2500万円
1年目2500万円×10%=250万円2500万円×3%=75万円
2年目2500万円×5%=125万円2500万円×3%=75万円
3年目2500万円×1%=25万円2500万円×3%=75万円
 2500万円+250万円+125万円+25万円=2900万円2500万円+75万円+75万円+75万円=2725万円
IRR4%2%

同じ初期投資額でも投資開始直後の利回りが高いA物件のほうが、効率的に高い利益を得られるとわかります。

このようにIRRは、時間的価値を考慮して利益が得やすくなるのかを計算できます。

IRRはExcel(スプレッドシート)で簡単に計算できる

IRRは計算式が難しいですが、Excelやスプレッドシートを使って簡単に計算ができます。

電卓や手計算だとミスも起きやすいですが、これから紹介する手順で計算すると正確かつスピーディーにIRRが求められます。

以下の条件で投資をした場合のIRRを、Excelを使って計算してみましょう。

【投資条件】

    • 初期投資額:100万円
    • 運用期間:3年
    • 売却額:購入額と同様
初年度キャッシュフロー‐100万円
1年目キャッシュフロー10万円
2年目キャッシュフロー20万円
3年目キャッシュフロー160万円

まず、各年のキャッシュフローを記載します。

初年度は投資費用として100万円を支払っているためマイナス表記にしましょう。

続いて、IRRの関数を設定します。

IRRを入力したいセルを選択し(今回はB:7)、関数のボタン→会計をクリックしてください。

セル内に表示された関数に反映させたい範囲のセルを設定しましょう。(今回はB2:B5)

セルの範囲の設定が終わると自動的に計算されます。

このようにExcelを使うと瞬時にIRRが算出できます。

IRRを用いるメリットと活用方法

IRRの計算方法がわかったら利点と活用方法を知り、投資判断に役立ててみましょう。

投資判断にIRRを使用するメリットは下記の2点です。

    • 多種類の投資商品の比較ができる
    • 投資期間の異なる商品の比較ができる

上記『IRRのシミュレーション』でもお伝えしたように、IRRは定期預金や債権、不動産投資など、さまざまな投資商品の比較が可能です。

投資初心者は株式投資一択といった偏った視点で商品を決めてしまい、「実はもっと初期費用を抑えながら利益を得られる方法があった」と後悔しがちです。

予算やいつまでにどれだけの利益が欲しいなど、目標に合わせた投資商品をIRRを用いることで選びやすくなります。

また、売却予定が3年後か5年後かといった投資期間が異なる商品でも、どちらが効率よく利益を得られるかという視点での比較に役立つのもメリットです。

IRRを用いる際のデメリットと注意すべき点

IRRを使用した場合、以下のようなデメリットも発生します。

    • 収益額は予測できない
    • 計算できない場合もある
    • 長期運用には向かない

IRRは投資をするうえで役立つ指標ですが、落とし穴もあるということを理解して活用しましょう。

収益額は予測できない

IRRは何%という率で求めるため、どれくらいの金額が手に入るかが判断できません。たとえば、投資規模の異なる2つの商品においてIRRを計算すると以下のような結果が出ます。

投資期間①【投資額2000万円の商品】
キャッシュフロー
②【投資額50万円の商品】
キャッシュフロー
0年目-2000万円-50万円
1年目30万円5万円
2年目40万円5万円
3年目(売却)2050万円65万円
IRR2%16%

IRRのみを見た場合、投資額の少ない②を選択したくなるでしょう。しかし、実際の収益は①の商品のほうが大きく、効率的にお金を増やすことに成功しやすいと捉えられます。

以下は同じ投資商品の収益額を計算した表です。

投資期間①【投資額2000万円の商品】
キャッシュフロー
②【投資額50万円の商品】
キャッシュフロー
0年目-2000万円-50万円
1年目30万円5万円
2年目40万円5万円
3年目(売却)2050万円65万円
収益額120万円15万円

IRRと同時に収益額の計算も行うと、効率よく利益を得る可能性が増えます。

計算できない場合がある

IRRは求めたい投資期間の収益がマイナスになる場合は計算ができません。

赤字になると予測される商品を購入することはありませんが、収益がマイナスになると計算できないことを知っておくと混乱せずに調査を進められます。

長期運用には向かない

IRRを求めるには期間の設定が必要なため、長期間の運用を目的とした商品を選ぶのには適していません。

たとえば、持っておく期間が長ければ長いほど株価上昇が期待される積立投資は、お金が欲しいタイミングで売却するため運用期間の設定が難しいです。

IRRは「5年後に10万円の利益が欲しい」といった短期間で売買を繰り返す投資に向いた指標です。

IRRは高ければよいわけではない?判断基準や目安

IRRは高ければ早い期間で高い利益が得られると判断できるため、より大きい数値の商品を選びたいと思うかもしれません。

ところが、IRRは高すぎる場合にも注意が必要です。

たとえば、不動産投資では銀行による借り入れを利用したレバレッジをかけることで、初期投資額を抑えて投資をスタートできます。初期投資額が小さいほどIRRは高くなりますが、万が一物件価格が暴落した場合には借り入れの返済が難しくなるリスクが大きいです。

また、不動産投資は築年数や売却時の物件周辺の街環境などによって価格は変動します。定量的なIRRのみで判断するのではなく、以下のような定性的なリスクを予測しながらの運用開始が大切です。

    • 交通機関が不便でないか
    • 修繕や管理がおろそかではないか
    • 再建築が不可能ではないか
    • 建築法に違反してないか
    • 新耐震基準をみたしているか
    • 欠点情報の告知事項があるか

なお、同じ条件の物件でも不動産会社によって説明の丁寧さや手続きを進めるスピードが異なるので、複数の会社への相談をおすすめします。

IRRの高い数値に飛びついて後悔する事例

「IRRが高い=儲かる」と高い数値に飛びついて運用に失敗する事例を紹介します。

【例1 駅から遠いが想定家賃を高めに設定されていた】

駅から遠く不便そうだったが、購入時の想定家賃が6万円で運用には十分と判断し購入を決定。しかし、6万円の家賃で入居する人はおらず、4万円で入居者が決定する。購入時の想定家賃を高く見積もられていたため、IRRが上昇していた。

【解説】

不動産会社から物件を購入する際には、どの程度の賃料で物件を貸し出せるかという想定家賃が設定されています。想定家賃はあくまで不動産会社が推測で決めているため、「このくらいの値段なら買ってくれるだろう」という願望の数値であることも多いです。立地が不便で買い手がなさそうな物件でも、想定家賃を高くすることでIRRは上昇します。

【例2 立地や築年数に問題なしだが近隣住人トラブルが絶えない】

築年数5年の不動産を購入。駅からも近く、将来的にも価格が落ちにくいと判断し購入を決断。しかし、近隣住人による騒音によって入居者が集まらず空き家状態が続き返済が滞っている。

【解説】

立地環境や将来性に問題がなくても、近隣住人は指標では判断できません。購入前に何度か足を運び、周辺にゴミ屋敷やペットを放し飼いしているなど、近隣トラブルが起こりそうな家がないかも調査するのがポイントです。

上記のように、IRRのみで投資商品購入を決定するのはハイリスクです。とくに不動産投資のようなレバレッジの大きい投資でより確実に利益を得るためには、さまざまな角度から慎重に購入を判断する必要があります。

IRRとNPV(正味現在価値)の違い

ここまでで、投資はIRRだけで判断するのは危険だとわかりました。投資におけるリスク回避をするために、頻繁に投資判断に使われるNPV(正味現在価値)という指標があります。

NPVは以下の計算式で求められます。

NPV=+++…+投資額

NPVは投資によって得られる利益の大きさを表す数値です。NPVが大きければたくさんの利益が得られ、マイナスであれば投資は避けるという判断にも使われます。

IRRとNPVの違いは以下のとおりです。

指標IRRNPV
概念効率よく利益を得られるか大きく利益を得られるか
メリット1年ごとにキャッシュフローが異なっても計算できる投資規模(いくら儲かるか)が計算できる
デメリット・投資規模はわからない
・長期的な投資には向かない
・割引率を用いる必要がある
・割引率によって答えが変わる

IRRとNPVともに数年後の利益についてを予測するため、時間的概念を用いる点は共通しています。しかし、IRRは何%の儲けが出るかの計算であるのに対し、NPVは何円儲かるかという考え方の指標です。

また、NPVの計算には割引率を使用します。割引率をいくつに設定するかによって答えが異なるため、何通りもの計算をしたうえで意思決定をしなければなりません。

ただ、投資における最大の目的は利益を得ることなので、どれだけ儲かるかがわかるNPVの数値を優先させる傾向が強いです。一方で、より短期間で利益を増すために、NPV(収益額)は小さくてもIRR(収益率)が高めの投資方法に複数投資して、効率アップを測るケースもあることを覚えておきましょう。

IRR以外もチェック!リスク回避するなら知っておきたい投資評価

投資においてよりリスク回避するなら、多数の指標を用いるとバランスよい投資先であるか判断しやすいです。

以下では、投資判断に役立つIRRやNPV以外の指標を紹介します。

    • ペイバック:初期投資額はいつ頃回収できるか
    • PI:現在の投資額は将来何倍になるか

ペイバック:初期投資額はいつ頃回収できるか

ペイバックとは、初期投資額がどの程度の期間で回収されるかを表した指標です。

キャッシュフローの総額が、初期投資額に達するまでの期間より投資期間が短ければ投資すべきという判断に使われます。

ペイバックは以下の計算式で求められます。

初期投資額=1年目キャッシュフロー+2年目キャッシュフロー+3年目+・・・+ n年目

n年目が初期投資額を回収できる年ということです。

たとえば、初期投資額が1,000万円の商品を購入し、毎年100万円の利益があると、回収期間は10年です。この商品に対して投資期間が10年未満だと、初期投資を回収しきれずに売却するため投資すべきではありません。

ペイバックはIRRのようにキャッシュフローが初期投資額を上回った場合の考慮はないため、他の指標とかけ合わせて使いましょう。

PI:現在の投資額は将来何倍になるか

PI(Profitability Index・収益性指標法)とは、将来得るであろうキャッシュフローの現在価値が初期投資額の何倍になるかを示す指標です。1より大きければキャッシュフローを上回り、1より少なければ初期投資額を回収できないため投資すべきではありません。

PIは、以下の計算式で求められます。

PI=投資によるキャッシュフローの現在価値÷初期投資額

たとえば、初期投資額100万円で将来価値が110万円の商品を購入したとします。

110÷100=1.1

1よりも大きいので投資しても問題ないと判断できます。

PIもIRR同様に確率による指標なので、投資規模は判断できません。したがって、NPVやIRRの補助的な立場で利用しましょう。

IRRは商品購入の参考のひとつと捉えるべき

IRRは、いかに効率よく利益を得られるかがわかる指標です。

どの商品をどのタイミングで売却すればよいかがわかるので、さまざまな投資先を比べる際に役立ちます。

また、IRRは1年毎のキャッシュフローを用いて計算をするため、毎年キャッシュフローの変動がある不動産投資と相性のよい計算方法です。

ただ、IRRや他の指標にはメリットもデメリットもあるため、ひとつの指標で投資は評価できません。

投資を行う場合、IRRの他にもNPVやペイバックなど多数の指標を参考にし、準備できる初期投資額やリスクの大きさなど、多方向からの評価が成功の鍵を握ります。

IRRやNPVはエクセルで簡単に計算できるので、投資先の決定に役立ててみましょう。

ディスクリプション

IRRは投資商品購入の決定の際に役立つ指標のひとつです。短期間で収益を得るほど数値が高くなり、投資の効率性を測るために役立ちます。本記事ではIRRの計算方法や活用方法を専門用語を使わず解説します。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。