バイアウトで売り手側に発生する税金とは?

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会社の売却をお考えですか。一般的な企業買収のスキームとしては、過半数の株式を取得して経営権を獲得する方法が挙げられます。この方法は「バイアウト」ともいい、広い意味ではイグジットの手法のひとつです。

バイアウトの当事者となったとき、売り手の立場で気になるのは税務面ではないでしょうか。バイアウトの売り手側に課される税金は、個人・法人のどちらであるかにより異なります。

この記事では、バイアウトで売り手側に発生する税金について解説します。ぜひ参考にしてください。

目次

バイアウトとは

バイアウトとは、企業の株式を買い取り、経営権を獲得する手法です。バイアウトには3つの種類があります。

    • MBO
    • EBO
    • LBO
    • MEBO

なお、日本におけるM&Aでは、会社を売却する「セルアウト」の意味でバイアウトという用語が用いられることもあります。バイアウトの正確な定義は会社を買収することを指すため、混同しないように気をつけましょう。

バイアウトの種類(MBO・EBO・LBO・MEBO)

バイアウトには、4つの種類があります。

    • MBO(マネジメント・バイアウト)
    • EBO(エンプロイー・バイアウト)
    • LBO(レバレッジド・バイアウト)
    • MEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)

MBOは、企業の経営陣が自社株を買い取り、経営権を持つ方法です。株式を買い取るには多額の資金が必要になるため、金融機関から融資を受けるための特別目的会社(SPC)を設立するのが一般的です。株式の取得後、譲渡企業とSPCが合併し、後継者となる経営陣が新たな株主となることで経営権を獲得します。

EBOは、従業員が自社株を買い取り、経営権を持つ方法です。事業承継で従業員を後継者に選択した場合に活用されます。社内風土をよく知る従業員を後継者に選ぶからこそ、経営陣の変化による影響を受けにくいというメリットがあります。

LBOは、買い手が買収する企業の資産やキャッシュフローを担保に金融機関から資金調達をして買収を行う方法です。買収のための資金が用意できない場合に活用できるのがLBOの特徴です。借入金は買収後のキャッシュフローから返済していくため、赤字企業の再建手段としても活用されています。

MEBOは、買い手が買収する企業の資産やキャッシュフローを担保に金融機関から資金調達をして買収を行う方法です。MBOとEBOを組み合わせた方法、と考えるとわかりやすいでしょう。

売り手側の個人株主がバイアウトによって得た利益にかかる税金

売り手側の個人株主がバイアウトによって得た利益は、譲渡所得となります。譲渡所得を得たときにかかる税金は、主に以下の2つがあります。

    • 所得税
    • 住民税

ふたつの税金が課される仕組みと、計算方法について解説します。

所得税・住民税

バイアウトをした場合、売り手側には所得税と住民税が課されます。会社の売却は、株式譲渡によって行うのが一般的です。売却によって得られた利益は譲渡所得として扱われ、所得税・住民税が課されます。

譲渡所得の計算方法

譲渡所得の計算方法は、以下のとおりです。

    • 譲渡価格 – 必要経費(取得費 + 委託手数料など) = 譲渡所得の金額
    • 譲渡所得の金額 × 20.315%(所得税15% + 住民税5% + 復興特別所得税0.315%)

個人株主がバイアウトによって得た利益に課される税金は、一定の税率で計算されます。累進課税のように、所得額に応じて高い税率を課されることはありません。

なお、自社株買い(会社に買い取ってもらう場合)はみなし配当ルールが適用されるため譲渡所得がかかります。この場合は、通常の譲渡所得よりも税率が高くなりやすいため注意が必要です。

売り手側の法人株主がバイアウトによって得た利益にかかる税金

売り手側の法人株主がバイアウトによって得た利益にかかる税金は、以下の種類があります。

    • 法人税・法人住民税・事業税
    • 消費税

それぞれ解説します。

法人税・法人住民税・事業税

法人による株式の売却時にかかる税金は、以下のものがあります。

    • 法人税
    • 法人住民税
    • 事業税

これらの税金の計算方法は、個人が株式を売却した場合と同様です。

所得金額 = 株式売却額 – 株式売却費用

3つの税金を合わせると、およそ30%の税率となります。所得が費用を上回らず、損失が発生した場合はほかの所得と相殺することができ、法人税を減らせます。

消費税

基本的に、株式を売却した際に消費税がかかることはありません。ただし、売却先の会社が消費税を納めている場合、状況によっては納めるべき消費税が増えることがあります。

消費税の仕組みは、収入や経費に付加された消費税を差し引くことで計算します。そのうち、消費税がかからない売上に対する支出に付加された消費税は引かれません。

消費税がかかる売上とかからない売上がある場合は按分を行い、消費税のかかる売上分のみを引きます。そのため、株式売却の際に納めなくてはならない消費税が増えることもあります。

発行会社に株式を売却した際にかかる税金

発行会社に株式を売却した際でも、税金の種類は異なります。とくに以下の2つは十分理解しておきましょう。

    • 配当所得(みなし配当に対する課税)
    • 源泉所得税

配当所得(みなし配当に対する課税)

発行会社に株式を売却した場合、売却した人が得る利益は配当所得と見なされます。このとき、配当金を受け取っていなくても課税が生じます。配当所得は株主に対して会社から利益の分配があったとみなされ、「みなし配当」として扱われるためです。この場合、通常の譲渡職よりも税率が高くなりやすいため注意が必要です。

非上場株式の配当金の税率は、総合課税となるため給与所得などと合算の上超過累進税率によって税金を計算します。

1.1株あたりの資本金等の額 = (資本金 + 資本積立金)/発行済株式総数

2.みなし配当 = 交付金銭等の額 – (1株あたりの資本金等の額 × 所有株式数)

なお法人が株式を発行会社に売却したときは、みなし配当は受取配当金として計算されます。会計上は、営業外利益として見なされるためです。一方、税務上は益金不算入として、一定金額が所得から差し引かれます。

源泉所得税

みなし配当が発生した場合、源泉所得税が差し引かれた金額が支払われます。二重課税を避けるため、配当金から差し引かれた金額は法人税額から控除できます。

なお源泉所得税の控除は、保有期間を問われません。控除しきれなかった部分は還付されるため、場合によっては納めすぎた税金が戻ってくることもあります。

会社の株式を売却したときにかかるその他の税金

会社の株式を売却した時には、以下の税金もかかります。

    • 印紙税
    • 不動産取得税

それぞれの計算方法を知っておきましょう。

印紙税の計算方法

印紙税は、課税文書を作成したときに課される税金です。5万円以上の取引を行った場合の領収書は課税文書とされるため、印紙税が課税されます。

印紙税額は、領収金額に応じて増加します。

領収書の金額印紙税税額
5万円未満非課税
5万円以上100万円以下200円
100万円超~200万円以下400円
200万円超~300万円以下600円
500万円超~1,000万円以下2,000円
1,000万円超~2,000万円以下4,000円
2,000万円超~3,000万円以下6,000円
3,000万円超~5,000万円以上1万円
5,000万円超~1億円以下2万円
1億円超~2億円以下4万円
2億円超~3億円以下6万円
3億円超~5億円以下10万円
5億円超~10億円以下15万円
10億円超20万円
受取金額未記載200円

不動産取得税の計算方法

不動産取得税は、不動産の売買を行った際にかかる税金です。株式を売却すると株主は変わりますが、不動産の持ち主は会社であるため、個人や法人に対する課税はありません。

買い手側がバイアウトによってかかる税金

バイアウトの買い手側にかかる税金は、基本的にはありません。

ただし、以下のような場合には課税が発生します。

    • 法人としてバイアウトを行い、株式を取得した場合
    • 事業譲渡の場合

法人の取引の場合は法人実効税率として、適正価格から所得価格を引いた額に課税が生じます。

また事業譲渡の場合は、以下のような税金が発生します。

    • 消費税
    • 不動産所得税
    • 登録免許税
    • 不動産所得税

各税金を納める手続きは異なるため、それぞれ正しく認識して申告漏れのないようにすることが大切です。

まとめ

バイアウトは、株式を取得して経営権を得る、M&A手法のひとつです。売り手側は株式の売却によって利益を得ることになるため、税金が課されます。

個人株主が売却をするのか、法人株主が売却をするのかによって課される税金の種類は異なります。税率や計算の方法も変わってくるので、どの立場でバイアウトを行うのかをはっきりさせておきましょう。

また、発行会社に株式を売却した際にかかる税金や、印紙税・不動産取得税などの利益に関わらない税金についてもよく理解しておくことも大切です。バイアウトは税務が大きく関係するプロジェクトのため、必要に応じて専門家の判断を仰ぐようにしてください。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。