会社を吸収合併した際に発生する税金とは?税金が発生しない適格合併について解説


「会社を吸収合併して統合したいけど、税金が気になる」、「税金のかからない適格合併の条件を知りたい」、このようなお悩みをお持ちではありませんか。
経営者にとって、会社の引き継ぎは重要な課題のひとつです。引退後の会社がどのように存続していくのか、気になっている方も少なくないでしょう。吸収合併の際は、基本的に法人税がかかります。しかし、特定の条件を満たすことで法人税のかからない「適格合併」として扱われ、節税対策を行えます。
この記事では、会社を吸収合併した際に発生する税金について解説します。法人税が非課税となる「適格合併」の要件を確認して、吸収合併を行う際の節税対策を考えましょう。
吸収合併とは
吸収合併とは、2つ以上の会社の権利義務の全部を包括的に承継して、ほかの会社は消滅する 事業承継のひとつです。具体的な説明は、会社法の定義を参考にするとよいでしょう。
第二条この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
二十七吸収合併会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
引用:国税庁|会社法
吸収合併を行ったあとは、効力発生日後2週間以内に法人登記を申請する必要があります。 存続会社は変更登記を行い、消滅会社は解散登記をすることで吸収合併が完了します。
吸収合併とは?子会社化とは違う?メリットや消滅会社の社員がどうなるのか解説
新設合併との違い
新設合併は、法人格が残らない吸収合併です。こちらも会社法の定義を参考にしてください。
二十八新設合併二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。
引用:国税庁|会社法
合併の多くは、税務上有利なことが多い吸収合併によって行われます。しかし、組織の再編や大きなシナジー効果を狙う場合は、新設合併が適していることもあるでしょう。ただし、許認可を得る必要があることなどデメリットも多い方法です。
吸収合併と子会社化の違い
吸収合併と子会社化の違いは、以下のとおりです。
吸収合併
複数の会社が合併し、吸収される側の権利義務は包括的に承継され、法人格は消滅する
子会社化
複数の会社が親子関係となり、子会社の権利義務は承継されず法人格は消滅しない
子会社化は、吸収合併と似ている概念です。しかし会社の構造を考えると、明確に異なる仕組みであることがわかるでしょう。
吸収合併は言葉とおり、2つ以上の会社が1つになる承継方法のひとつです。一方子会社化は、親会社の傘下に入るだけであり子会社の法人格はそのまま残ります。ただし、子会社が複数あり、親会社のもとで資本を一本化する場合は、子会社どうしを吸収合併させるスキームが選択されることもあります。子会社化の当事者となる場合は、吸収合併について知っておくべきでしょう。
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合併には、税金の発生する合併と税金の発生しない合併がある
会社合併を行った際は、一般的に法人税や所得税などが課税されます。しかし条件によっては、税金が発生しない合併もあります。
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- 税金が発生しない合併
適格合併
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- 税金が発生する合併
非適格合併
適格合併の条件に当てはまれば、税負担を抑えられます。吸収合併を考えているなら、適格合併の条件を満たしているか調べてみましょう。
税金の発生しない「適格合併」
適格合併の概要は、以下のとおりです。
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- 合併時に法人税が課されない
- 繰越欠損金を引き継げる
適格合併に当てはまれば、税務的に大きなメリットを得られます。税金の支払いが大きな課題となる事業承継・M&Aですが、適格合併を正しく理解して賢く合併を進めていきましょう。
合併時に法人税が課されない
適格合併では、合併時に法人税が課されません。法人税がかからない仕組みは、合併後の評価損益を繰り延べられるためです。吸収合併の場合、残存会社と消滅会社に分けられます。残存会社の法人格のみが残り、消滅会社の権利義務を承継するのが吸収合併の概要です。
吸収合併をする場合、消滅会社の事業活動はその時点で終了するとはみなされません。合併したあとも、法人格が変わるだけでありその後も事業活動を継続すると考えられます。合併時点での資産・負債は簿価のまま残存する会社に引き継がれるため、譲渡損益が繰延べられるのです。
繰越欠損金を引き継げる
適格合併では、繰越欠損金を引き継げます。繰越欠損金は、赤字となった欠損金を翌年度以降の黒字から控除できる制度と、その金額のことを指します。法人税が非課税となる仕組みと同様、吸収される側の事業活動は終了ではなく継続と考えられるため、繰越欠損金は残存する法人が承継できます。
この税制を活用して、赤字となっていた企業が合併によって再生を図るスキームも存在します。再建のために吸収合併を行う場合は、適格合併に該当できるように調整していきましょう。
税金の発生する「非適格合併」
適格合併の要件を満たさない合併の場合は、非適格合併となります。税金が発生するのは、非適格合併として扱われる場合です。非適格合併の場合、譲渡損益を繰り延べられません。合併により、消滅した法人の資産・負債は残存する法人に譲渡する形になるためです。譲渡したときの資産と負債は、簿価ではなく時価で評価されます。
合併の対価は消滅会社の株主に分配されるため、利益を獲得した株主には所得税が課されます。
消滅会社で発生する税金
合併を行うと、消滅会社で含み損益の計算が行われます。合併により得られた利益と簿価純資産の差額が譲渡損益となり、利益が出た場合には課税が生じます。しかしこのとき、「循環計算」と呼ばれる現象が発生することがあり、多額の納税義務が発生する可能性があります。
合併の際の清算時に未払いの住民税や法人税(租税債務)があると、その分純資産が減少します。結果として譲渡益が増え、税負担が増えてしまいます。
合併前の簿価純資産で計算すると、このときに発生した譲渡益に対して25%の法人税が課されます。しかし租税債務が計上されると、譲渡益が増えます。このような計算を繰り返してくことで、想像以上に納税額が膨れ上がってしまうのが循環計算の大きな問題です。
消滅会社の株主に課される税金
合併の際、消滅する会社の法人のみでなく株主にも課税が生じます。消滅会社の株主は、残存会社から株式の交付を受けられます。これは株式の譲渡ではなく、「消滅会社からの配当」として扱われます。
株主が個人の場合は「配当所得」、株主が法人の場合は「受取配当金(みなし配当)」として計上されます。
計算式は以下のとおりです。
みなし配当 = 合併対価 – 合併された側の資本金などの額 × 株主の株式保有割合
譲渡損益 = 合併対価 – みなし配当 – 合併された側の会社の帳簿価額
配当に関する税制は、株主が個人なのか法人なのかにより異なります。個人の場合は最大で49.44%の税が課される(所得税・住民税・復興特別所得税の合計から配当控除を考慮した最大税率)こともあるのです。
税金が発生しない適格合併の要件
適格合併には、以下7つの要件があります。
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- 金銭等不交付要件
- 完全支配関係(支配関係)継続要件
- 従業員引継要件
- 事業継続要件
- 事業関係性要件
- 事業規模要件または経営参画要件
- 株式継続保持要件
合併のケースにより、どの要件を満たす必要があるのかが異なります。まずは、基本となる7つの要件を理解しておきましょう。
金銭等不交付要件
金銭等不交付要件とは、合併される側の法人に対して「合併法人の株式または合併法人の完全親法人の株式のいずれか一方の株式」以外の資産が交付されないという要件です。株式を対価とした合併であればこの要件に当てはまり、現金によって買収を行った場合などはこの要件を満たしません。
ただし、以下のようなケースでは金銭等の交付が認められます。
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- 合併比率調整を目的とした端株の買取
- 合併法人が被合併法人の3分の2以上を有する場合の、他の少数株主に対する金銭等の交付
- 再編に反対する株主が買取を行った場合の買取代金
完全支配関係(支配関係)継続要件
完全支配関係(支配関係)継続要件とは、合併前に成立した支配関係の継続が合併後も見込まれていることです。
なお、完全支配関係・支配関係はそれぞれ以下のような状態と定義されています。
完全支配関係
一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう。
支配関係
一の者が法人の発行済株式若しくは出資(当該法人が有する自己の株式又は出資を除く。以下この条において「発行済株式等」という。)の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額の株式若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の支配の関係がある法人相互の関係をいう。
引用元:法人税法
継続要件を満たしている場合、グループ税制のメリットを享受できます。合併も進めやすくなるため、グループ企業での合併ではこの要件を満たすように調整するのがおすすめです。
従業員引継要件
従業員引継要件とは、「合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること」です。
参照元:国税庁
ここでいう従業員とは、役員や社員、パートやアルバイトなど合併時点で業務に従事している者のことを指します。これらに当てはまらない場合(出向を受け入れている場合など)は合併前に営んでいる事業や分割事業、現物出資事業に従事する者であれば従業員として扱われます。ただし、下請け先の従業員は含まないので注意が必要です。
事業継続要件
事業継続要件とは、合併前の事業が合併後も継続されることを見込んでいる要件です。この要件を満たすことは、単に適格合併に当てはまるだけでなく、長期的な事業の拡大に役立ちます。合併によってシナジーを得ることで、さらに大きな事業へと発展することも期待できるでしょう。
事業関係性要件
事業関係性要件とは、合併する側・される側の事業に関係性があることです。両者の事業が同じ業界や戦略などで関係性があるとみなされれば、今後の事業発展も見込めます。高いシナジー効果を発揮して、より効果のある事業活動ができると認められればこの要件を満たせるでしょう。
事業規模要件または経営参画要件
事業規模要件とは、合併する法人・される法人の事業規模の割合がおおむね5倍を超えないことです。
事業規模の評価は、以下4つの指標を参考にします。
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- 売上金額
- 従業員数
- 資本金の額
- 出資金の額等
事業規模が5倍を超える場合でも、経営参画要件を満たせば問題ありません。経営参画要件とは、合併する側・される側で合併前に特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役、常務取締役など経営に関わる役職に就く人物)を勤めていた人物のうち1名以上が、それぞれ合併後に特定役員となる見込みがあることです。
経営面での共同事業を担保することで、これらの要件が認められます。
株式継続保持要件
株式継続保持要件とは、合併される法人の発行済み株式のうち、支配株主に交付される株式がすべて継続的に保有されることです。支配株主がいない場合は、この要件を満たす必要はありません。
非適格合併がおすすめのケース
基本的には適格合併を目指すのが合併を賢く進める方法ですが、場合によっては非適格合併のほうがよいこともあります。
適格合併の大きなメリットは、欠損金を引き継げることです。しかし含み損があるものの現事業年度(合併前)で含み益がある法人の場合、合併をしてしまうと簿価評価となり、利益と損失を相殺できなくなってしまいます。非適格合併は時価で評価を行うため、含み損と営業利益を相殺できるのです。
さらに非適格合併の場合、繰越欠損金を自由に使えるというメリットもあります。使途に制限のない資金が手に入るのは、事業活動に大きく役立つのではないでしょうか。
適格合併は税法上のメリットが大きい合併ですが、場合によってはその性質がデメリットに転じることもあります。会社の状況によっては非適格合併のほうがよい場合もあるため、どのような方法で合併をすればよいのかをよく考えてみましょう。
まとめ
吸収合併の際は、所得税や法人税などの税金が課されます。しかし適格合併の要件を満たせば課税を生じさせることなく、節税をしながら合併を進められます。
適格合併の要件は7つあり、それぞれ状況ごとに満たすべき要件が異なります。合併後の事業活動に支障を出さないためにも、適格合併の要件を満たすように意識してください。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。