合併契約書とは記載事項と注意すべきポイントを解説

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昨今、事業承継ニーズの高まりから会社合併を検討する企業も増加しています。とはいえ、専門性も高く複雑な領域のため「そもそも合併の種類がわからない」、「どのような契約をするのかわからない」という方も多いです。

そこで本記事では、合併契約書の概要や記載事項、作成する際の注意点などを解説しますので、ぜひ参考にしてください。

合併契約書とは

合併契約書は、2つ以上の会社が合併する際に交わされる契約書です。会社法の第748条では、会社が他会社と合併する際に「合併契約」を締結しなければならないことが記されています。

この契約書には、法律で求められる特定の事項を含める必要があり、法定記載事項は合併の形態によって異なる場合があります。もし法定記載事項が不足していると、契約は無効になる恐れがあるため、細心の注意を払う必要があります。

参照元:会社法 | e-Gov法令検索

合併契約の種類

合併契約には以下の2種類があります。

    • 吸収合併
    • 新設合併

それぞれについて以下で解説します。

吸収合併

吸収合併とは、消滅する会社の権利・義務のすべてを存続する会社に承継させる合併のことです。

吸収合併には以下のようなメリットがあります。

    • 資金が少なくても実行可能
    • さまざまな契約や債務を一括で引き継げる

ただし、吸収合併のプロセスが複雑であることや、経営の統合に伴う負担が大きいことに留意する必要があります。

参照元:会社法 | e-Gov法令検索

吸収合併とは?子会社化とは違う?メリットや消滅会社の社員がどうなるのか解説

新設合併

新設合併とは、消滅する会社の権利・義務のすべてを新設される会社に承継させる合併のことです。

新設合併におけるメリットは以下のとおりです。

    • 両社が平等な条件で合併を進めることが可能
    • 事業の規模拡大をしやすくなる

ただし、新設合併の場合、新しく設立される会社が必要な許認可を再度取得しなければならないことや、会社の歴史が消えてしまうことや、税務上吸収合併の方が有利なことが多いことなどから実務上は吸収合併の方が多い傾向にあります。

参照元:会社法 | e-Gov法令検索

吸収合併契約書の法的記載事項

会社法第749条では、吸収合併契約書の法的記載事項は主に以下のとおりです。

    1. 合併の存続会社・消滅会社:会社法にもとづき、「存続会社の商号と住所」と「消滅会社の商号と住所」を記載しましょう。
    2. 合併後の資本金と準備金:合併後の資本金と、準備金を記載します。
    3. 対価の支払いに関する取り決め:吸収合併において、存続する会社は消滅する会社の株主へ合併対価として株式等を提供することがあります。この合併対価である株式等の数量や、その算出方法を記載します。
    4. 期日:吸収合併においては、効力発生日を記載 することが不可欠です。

参照元:会社法第749条 | e-Gov法令検索

新設合併契約書の法的記載事項

会社法第753条では、新設合併契約書の法的記載事項は主に以下のとおりです。

    1. 消滅会社の名称と所在地
    2. 新設会社の事業目的、商号、本社の場所、発行可能な株式の総数
    3. 新設会社の定款に定められた事項
    4. 新設時の取締役の氏名
    5. 新設時の役員の氏名や名称
    6. 新設会社が旧会社の株主や社員に提供する株式の数量や算定方法、新設会社の資本金及び準備金の額とその割当て方
    7. 新設合併において、新設会社が発行する社債などの金額、算定方法、割当て方
    8. 消滅会社が新株予約権を発行している場合、その新株予約権に相当する内容、数、または算出方法と割当方法

参照元:会社法第753条 | e-Gov法令検索

合併契約書の雛形

以下に合併契約書の雛形を紹介しますので、実際に合併契約書を作成する際には参考にしてみてください。

合併契約書

株式会社A(以下「甲」という)と株式会社B(以下「乙」という)は、次のとおり合併の契約(以下「本契約」という)を締結する。

(合併)

第1条 甲および乙は、合併し、甲は存続し、乙は解散する(以下「本件合併」という)。

吸収存続会社  ○○県○○市○○町○丁目○番○号

株式会社 A

被吸収会社   ○○県○○市○○町○丁目○番○号

株式会社 B

(商号)

第2条 甲は、前条の合併期日をもって次のとおり商号を変更する。

商号:株式会社 C

(合併に際して発行する株式および割当)

第3条 甲は、本件合併に際して、普通株式○○株を発行し、合併期日における乙の株主名簿記載の株主に対し、その所有する乙の普通株式○○株につき、甲の普通株式○○株の割合をもって割り当て交付する。

(合併により増加すべき資本金等)

第4条 甲が合併により増加すべき資本金、資本準備金、利益準備金、任意積立金そのほかの留保利益の額は、次のとおりとする。

(1)資本金 金○○円

(2)資本準備金 金○○円

(3)利益準備金 金○○円

(4)任意積立金その他の留保利益の額 金○○円

ただし、積み立てるべき項目は、甲乙協議の上、決定する。

2 前項各号の金額は、甲乙協議の上、合併期日の乙の資産状況を考慮して変更することができる。

(合併承認の株主総会)

第5条 甲および乙は、令和○○年○○月○○日までに、それぞれ臨時株主総会を開催し、本契約の承認および必要な事項の決議を行う。ただし、本件合併の進捗状況により、必要がある場合は、甲乙協議の上、臨時株主総会の期日を変更することができる。

(合併期日および合併の効力発生日)

第6条 合併期日および合併の効力発生日は、令和○○年○○月○○日とする。ただし、本件合併の進捗状況により、甲乙協議の上、変更することができる。

(財産の承継)

第7条 甲は、乙から令和○○年○○月○○日現在における貸借対照表・財産目録などを基礎とし、これに合併期日の前日までの増減を加除した資産・負債・権利義務一切を合併期日において承継する。

2 乙は、令和○○年○○月○○日から合併期日に至る間の資産および負債の変動につき、計算書を添付して、その内容を甲に明示する。

(善管注意義務)

第8条 甲および乙は、本契約締結後合併期日前日まで、善良な管理者の注意をもって業務を執行し、それぞれの保有する一切の財産の管理、運営をする。その財産および権利義務に多大な影響を与える行為については、あらかじめ相手方に報告し、その同意を得て行う。

(役員および従業員)

第9条 本件合併により、新たに甲の取締役および監査役となる者については、第5条の甲の合併承認株主総会において選任するものとする。それぞれの任期などの詳細は、合併後の株主総会で決議するものとする。

2 甲は、合併期日における乙の従業員を甲の従業員として引き継ぐものとする。なお、退職金および勤続年数については、乙における基準に基づいて通算し、そのほかの細部については、甲乙協議して定める。

(合併条件の変更および契約の解除)

第10条 甲および乙は、本契約締結後合併期日前日までの間、天変地異そのほか双方当事者の責に帰さない事情により、甲または乙の資産・負債・経営状態などに大幅な変動があった場合、甲乙協議の上、合併条件を変更または本契約を解除することができる。

(本契約の効力)

第11条 本契約は、第5条に定める甲および乙の株主総会の承認が得られないとき、または法令に定められた関係官庁の承認が得られないときは、効力を失う。

(管轄)

第12条 甲および乙は、本契約に関し裁判上の紛争が生じたときは、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

(協議事項)

第13条 本契約に定めのない事項については、甲乙誠意をもって協議し、決定するものとする。

本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。

令和○○年○○月○○日

甲  ○○県○○市○○町○丁目○番○号

株式会社 A

代表取締役  ○○ ○○

乙  ○○県○○市○○町○丁目○番○号

株式会社 B

代表取締役  ○○ ○○

参照元:合併契約書(1)

合併契約書で注意すべきポイント

合併契約書は法的事項も多く、作成する際には注意が必要です。

合併契約書で注意すべきポイントは以下のとおりです。

    • 印紙税の額
    • 取引先について
    • 商号を変更する場合

順に解説します。

印紙の額

合併契約書の作成に際しては、印紙税が発生することを考慮する必要があります。国税庁のタックスアンサーNo.7141によると、合併契約書は印紙税法上の第5号文書に分類され、文書1通につき40,000円の印紙税が必要です。

この税額は、会社法第748条に定められた合併契約及び保険業法第159条第1項で定められた合併契約も含まれます。ただし、会社以外の法人が作成する合併契約書にはこの規定は適用されません。

参照元:No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで|国税庁

取引先について

合併契約書の準備時には、消滅会社が取引先と過去に締結した契約を精査することが必須です。とくに重要なのは、契約文書にチェンジオブコントロール条項(Change Of Control、COC)が存在するかどうかの確認です。

チェンジオブコントロール条項とは、M&Aのような事情で契約当事者の一方の支配権が変更された際に、契約の条件を変えたり、解除の権利を与えたりする規定です。この条項が含まれている消滅会社を合併する場合は、その契約が影響を受け、取引相手による契約解除の可能性があります。

商号を変更する場合

新設合併では、新しく設立される会社に新たな商号が与えられます。吸収合併においても、存続会社または消滅会社の商号が変更される場合があります。

商号を変更する際は、まず株主総会の承認を得る必要があります。また、承認を受けた後、変更の効力が発生する日から2週間以内に管轄法務局にて変更登記を申請しなければいけないため注意しましょう。また、吸収合併と同時に商号変更をすることも可能です。この場合は、合併の効力発生を条件に商号を変更する旨を合併契約書に定めます。

合併契約書でよくある質問

以下では、合併契約書に関してよくある質問に回答していきます。

    • 取引先との契約は新たにおこなう必要があるのか?
    • 合併契約書の名称に指定はあるのか?

取引先との契約は新たにおこなう必要があるのか?

会社合併が行われ、当事会社に吸収されるような場合、その消滅会社が以前に結んだ取引契約は新たに設立された会社や、存続する会社で再度締結する必要があるのでしょうか。

合併においては、吸収合併であれ新設合併であれ、消滅会社のすべての権利と義務は自動的に存続会社に承継します。そのため、取引先の同意を改めて得る必要はありません。この点においては、個別の同意を必要とする事業譲渡契約とは大きく異なります。

また、契約がもともと消滅会社の名義で行われていたため、この変更が当事会社や取引先にとって少し違和感を与えるかもしれませんが、法的には合併によって契約書を改めて書き換える必要はありません。既存の契約において、組織再編があった場合の取扱いなどが規定されている場合もありますので、契約内容をよく確認しておきましょう。

合併契約書の名称に指定はあるのか?

合併契約書に特定の名称を使用する必要は、法的に定められていません。したがって、契約書、覚書、合意書といった異なる名称を用いても、その法的効力に違いは生じません。

ただし、合併は株主や関係者に大きな影響を与えるため、法定記載事項を含む適切な情報開示が求められます。そのため、契約の内容が一目で理解できるような名称を選ぶことが、誤解や混乱を避けるうえで大切です。

まとめ

本記事では、合併契約の種類や合併契約書の記載事項、注意点などを解説しました。会社法第748条では、合併時に合併契約を締結することが義務付けられています。また、合併契約書には、合併の当事者や対価の支払いに関する取り決めなど、法定記載事項を必ず盛り込まなければなりません。

会社合併の手続きは専門性が高く複雑なため、合併の方法や合併契約書の作成については、事前に税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。