吸収合併とは?子会社化とは違う?メリットや消滅会社の社員がどうなるのか解説

「吸収合併と子会社化は違うものなの?」「吸収合併すると社員に影響はあるの?」というように、吸収合併について詳しく知りたいという方は多いでしょう。

吸収合併と子会社化は違う手法であり、吸収合併を実行する際には社員への影響を考慮しなければなりません。

本記事では、吸収合併と子会社化との違いやメリット・デメリット、社員への影響について解説します。吸収合併について詳しく知りたい方、とくに社員への影響が気になる方は記事を参考にしてください。

吸収合併とは

吸収合併は会社法により、次のように定義されています。

(定義)
第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
二十七 吸収合併
会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。

引用:e-Gov 会社法

現金・設備などの資産や従業員のノウハウ・技術などの知的財産というプラスの資産だけでなく、債務や個人保証などの債務も引き継がれます。

なお、合併と買収は違う意味であり、買収とは会社が他の会社の事業や株式を買取ることです。買収された会社は子会社化して存続するケースもあれば、買収とともに合併されて消滅するケースもあります。

吸収合併と新設合併との違い

新設合併も会社法に定義されており、内容は次のとおりです。

二十八 新設合併
二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。

引用:e-Gov 会社法

上記のように、新設合併は新たに設立する会社が、吸収される会社の権利義務を承継する手法です。吸収合併は既存の会社が存続会社となり、新設合併は既存の会社がすべて消滅し新設する会社が存続会社となります。

新設合併を行うには会社の設立手続きが必要であり、合併の手続きがより複雑で手間がかかるようになることもあり、合併の多くは吸収合併が選択されます。

吸収合併と子会社化との違い

子会社化は会社統合ともいわれ、会社の議決権を50%以上を取得して自社グループの傘下にする手法です。

株式移転などを用いて各会社が親会社(持株会社)を設立し、自らは子会社となってグループ化するケースもあります。

子会社化を行っても吸収合併のように法人格を失う会社はなく、子会社化に関連する会社はすべて存続、独立し事業を行うことが可能です。

子会社化は各社の独自性・自主性を維持できるメリットがあるものの、各社の連携が取りにくいことや部署が重複するなどのデメリットもあります。

子会社化については、こちらの記事で詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。

内部リンク「会社統合」

吸収合併のメリット

吸収合併のメリットは、次のとおりです。

    • 消滅会社の権利義務をひとまとめで引き継げる
    • シナジー効果が出る
    • 消滅会社の繰越欠損金を引き継げる

吸収合併にはメリットが多くあり、会社の事業を存続させる有用な手段となります。どのようなメリットがあるのか理解し、吸収合併を活用していきましょう。

消滅会社の権利義務をひとまとめで引き継げる

吸収合併すると、消滅会社の権利義務をひとまとめにして引き継ぎできます。

合併には事業譲渡というスキームがあり、特定の事業だけ譲渡するケースがあります。事業譲渡を実行する場合、会社に存在する債権債務を洗いだして譲渡する事業の部分だけの権利義務を移転しなければなりません。権利義務の特定や移転には、時間や手間がかかります。

しかし、吸収合併の場合、会社に存在する権利義務を包括的に承継するため、債権債務の特定や移転の処理が事業譲渡よりも簡単に行うことが可能です。

また、従業員の雇用、取引先との関係も引き継ぎでき、消滅会社の強みまですべて承継できます。

シナジー効果が出る

吸収合併を実行すると、高いシナジー効果を得られます。

存続会社は自社の強みをより伸ばしたり、弱みを補完したりする目的で行われ、存続会社の事業発展に大きく寄与します。そのため、消滅会社の従業員も会社の発展が望め、従業員の待遇も改善を見込むことが可能です。

また、消滅会社のプロセスが存続会社のプロセスに統合されます。プロセスの統合により、業務の効率化やコスト削減の実現ができます。

消滅会社の繰越欠損金を引き継げる

吸収合併を適格合併で行うと、消滅会社の繰越欠損金を引き継ぎできます。

適格合併とは、存続会社が消滅会社の資産や負債を簿価で引き継ぐ合併です。適格合併を行うと一定条件を満たす必要があるものの、消滅会社の繰越欠損金を引き継ぎすれば存続会社の節税につながります。

また、適格合併を行うと譲渡益の繰り延べが行われ、合併時に法人税が課税されないというのもメリットです。

適格合併があることで、ある程度の負債を抱えている会社も吸収合併を実行してもらいやすくなります。

吸収合併のデメリット

吸収合併のデメリットは、次のとおりです。

    • 手続きが複雑で難しい
    • 期限までに統合作業を完了させなければならない
    • 帳簿に記載されていない負債を引き継がなければならない

吸収合併を実行するメリットは多いものの、デメリットも存在します。デメリットの内容を理解した上で吸収合併を実行し、スムーズな事業承継を実現していきましょう。

手続きが複雑で難しい

吸収合併は、手続きが複雑で難しい手法です。

吸収合併の手続きは会社法により定められており、次のような手続きを行う必要があります。

    • 合併契約書の作成・締結
    • 株主総会の特別決議による承認
    • 事前開示及び事後開示
    • 債権者保護手続き
    • 登記手続き など

これらの作業は存続会社だけでなく、消滅会社も同様の手続きをしなければなりません。会社法に定める手続きを忘れてしまうと、合併無効の訴訟が可能となり、法的に不安定な状態になってしまいます。

期限までに統合作業を完了させなければならない

吸収合併は合併契約書に記載されている期日までに、統合作業を完了させなければなりません。

合併契約書に記載されている期日を迎えた日から、ひとつの法人格として事業が行われます。そのため、早急にPMIを進めていく必要があり、PMIの担当に大きな負担がかかります。

PMIとは、ポスト・マージャー・インテグレーションの略称で、吸収合併後の効果を最大限まで高めるための統合プロセスです。

吸収合併には期日が定められており時間も短く、PMIの担当部署に大きな負担をかけるため、本来の業務に支障が出ることも考えなければなりません。

帳簿に記載されていない負債を引き継がなければならない

吸収合併を行う際には、従業員の退職給付引当金などの帳簿に記載されていない負債まで引き継ぎしなければなりません。

事業譲渡であれば譲渡を受ける事業にかかわる債務を引き受ければいいのですが、吸収合併の場合は権利義務の一切を承継することで簿外の債務も承継する必要があります。

仮に簿外債務を残したまま吸収合併すると、存続会社に負担を与え、消滅会社の従業員にも悪影響を与えてしまいます。従業員を守るという意味でも、債務を隠すことなく、情報をすべて開示して吸収合併を進めていくようにしましょう。

吸収合併の手続き・流れ

吸収合併の手続き・流れは、次の表のとおりです。

順番 手続き 内容
1 合併契約書の締結 ・合併契約書の締結以外にも、各会社で以下の手続きを行っておく必要がある
取締役会の開催
合併に関する重要事項の決定
株主総会の招集についての承諾
2 債権者に対する異議申述公告と個別催告 ・合併によって債権回収できなくなる債権者を保護するために合併効力発生日の1ヶ月前までに告知
・告知は官報で行わなければならない
3 事前開示書類の備置き ・上記の手続きの日までに合併契約書の内容など法定開示事項を記載して書類を備置きする
・備置きは株主総会開催日の2週間前までに実行
・合併の効力発生日から6ヶ月を経過する日まで備置きする
4 株式買取請求にかかわる株主への通知または公告 ・合併効力発生日の20日までに行う
5 株主総会招集 ・株主総会開催の1週間前に招集
・公開会社の合併の場合は2週間前までに招集
6 株主総会決議 ・株主による合併の意思決定を行う
・特別決議が必要
7 反対株主の株式買取請求手続き ・合併に反対する株主は株式の買取請求ができる
・買取請求は合併効力日の20日前から前日まで
8 合併の効力発生 ・消滅会社の権利義務が承継される
9 事後開示書類の備置き ・合併効力発生日から6ヶ月経過する日まで備置き
10 登記申請 ・合併効力発生日から2週間以内に合併登記を行う
・同時に消滅会社の解散登記も必要

上記のように吸収合併には多くの手続きがあり、各手続きの中には記事が定められているものもあります。吸収合併には時間もかかるため、実行する場合は余裕あるスケジュールを組んでおかなければなりません。

吸収合併の登記事項

吸収合併した場合、存続会社は法務局で登記を行わなければなりません。

登記に必要な書類は、次のとおりです。

    • 変更登記申請書
    • 合併契約書
    • 株主総会議事録
    • 債権者保護手続きに関する書類
    • 登記事項証明書(消滅会社のもの)
    • 消滅会社の株主総会議事録と取締役会議事録

なお、合併登記を法務局に申請するには、登録免許税の納税が必要です。

合併登記に必要な登録免許税は、次の計算式で算出します。

資本金の額もしくは増加した資本金の額 ÷ 1,000 × 1.5 = 登録免許税
※算出した額が3万円未満の場合は3万円

また、消滅会社の消滅登記は、一律3万円です。

消滅会社について知っておくべきこと

吸収合併にともない消滅する会社について知っておくべきことは、次のとおりです。

    • 消滅会社の社員はどうなるのか
    • 消滅会社の銀行口座
    • 消滅会社の会計処理

吸収合併を行うと吸収された会社は法人格を失います。法人格を失うことで、さまざまな項目に影響を与えます。どのような項目に影響を与えるのか確認し、トラブルを防止し吸収合併を実行していきましょう。

消滅会社の社員はどうなるのか

吸収合併では権利義務が包括的に承継されるため、消滅会社の社員はそのまま雇用されます。

吸収合併にともなっての解雇はできず、消滅会社の社員の雇用には影響しません。

しかし、吸収合併後、雇用以外の勤務形態や労働条件などの待遇の変化が発生するおそれがあります。消滅会社が業績不振であった場合には、なんらかの改善を行わなければなりません。

雇用が維持されることもあり、社員への通知は特段必要ないとされているものの、吸収合併後の変化の可能性がある以上はきちんと通知を行っておくべきでしょう。

消滅会社の銀行口座

消滅会社の銀行口座は、存続会社に引き継ぎされます。

消滅会社の銀行口座は会社が消滅した後は利用ができなくなるため、存続会社の名義に変更して引き続き利用します。

ただし、消滅会社の銀行口座の名義変更ができるのは、合併効力発生日以降であることには注意しなければなりません。

合併効力発生日の前日までは消滅会社にも法人格があり、銀行口座を利用しなければならない可能性があるからです。

消滅会社の会計処理

消滅会社は、合併効力日の前日を決算日とした会計処理を行わなければなりません。

また、株式会社は決算公告する必要があり、消滅会社でも同様です。電子公告で決算公告を行う場合、計算書類の承認後5年間を経過する日まで開示しなければなりません。

しかし、消滅会社は合併することにより決算公告できないため、存続会社が義務を承継して消滅会社の決算公告を行います。

吸収合併を検討するならメリットや社員への影響を考慮しよう

吸収合併は会社を買収し、吸収される会社の権利義務を存続会社が承継する手法です。

吸収合併には存続会社、消滅会社ともにメリットがあります。しかし、メリットと同時に、デメリットもあるため、どのような内容に気を付ければいいのか確認した上で吸収合併を実行しなければなりません。

また、消滅する会社の経営者は社員への影響を考慮し、吸収合併を進めていくことが大切です。原則、雇用は維持されるものの、仕事環境や待遇が変化するおそれもあります。

吸収合併する際にはさまざまな課題が発生するため、解決策を考慮し進めていきましょう。

ディスクリプション

吸収合併とは存続会社が他の会社の権利義務を包括的に承継し、権利を承継された会社が消滅する手続きです。子会社化と違う手続きであり多くのメリット・デメリットが存在します。消滅会社について知識も得て吸収合併を進めていきましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。