合併と買収の違いとは?M&Aの6つの種類とメリット・デメリットも解説
「合併と買収の違いを知りたい」
「具体的にどのような会社売却方法があるのか知りたい」
このような疑問を抱いている方へ、本記事では以下のポイントを解説していきます。
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- 合併と買収の違い
- 合併と買収のそれぞれの具体的な方法
- M&Aのメリットとデメリット
合併と買収はM&Aの方法ですが、それぞれがもたらす効果は売り手にとっても買い手にとっても大きく異なります。
そのため、それぞれの手法の違いを理解して、自社に最適な方法で企業を買収するのがベストです。
合併と買収の違いや具体的な5つの方法と価格の算出方法まで詳しく解説していきます。
目次
M&Aにおける合併と買収の違いとは?
M&Aとは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略称です。
普段何気なく使用しているM&Aという言葉ですが、実は合併と買収という2つの意味をあわせた言葉です。
まずは合併と買収の意味を詳しく解説していきます。
合併とは
合併とは、複数の会社を一つの会社へ統合するM&Aの方法です。
合併における最大の特徴は、統合された側の法人格が消滅するという点です。
消滅した会社が保有している、あらゆる権利や義務を承継会社が引き継ぎます。
合併は子会社を統合するケースや、他社を完全子会社化した上で買収企業へ完全に統合する際などに利用される手法です。
買収とは
買収とは、一つの会社が別の会社を買い取るケースで使用される方法です。
買収では、事業の一部を買い取る、資産のみを買い取る、100%株式を買い取るなどさまざまな形態で他社の一部または全部を買い取れます。
買収では合併と異なり法人格が消滅することはありません。
売り手側の企業は事業の一部を売却して存続するか、買い手企業の子会社となって存続します。
合併が会社の統合を目的として行われるのに対して、買収は売り手の資金調達、買い手の経営資源入手などさまざまな目的で活用されます。
M&Aにおける合併の種類
合併でM&Aを進める場合、具体的には以下の2つの方法で実施することになります。
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- 吸収合併
- 新設合併
2つの合併の種類について詳しく解説していきます。
吸収合併
吸収合併とは、消滅する会社の権利や義務や資産や債務などのすべてを存続する会社が引き継ぐ方法です。
法人格が消滅する会社を「消滅会社」、法人格が存続する会社を「存続会社」といいます
新設合併
新設合併とは、合併にともない新しい会社を設立し、合併する会社の権利や義務や資産や債務などのすべてを新設会社が承継する方法です。
どちらの会社も消滅して新しい会社になるため、新しさや対等を印象付けられます。しかし、吸収合併と比較して事務が煩雑で許認可や免許はすべて消滅するため、新たに取得しなおす必要があるのであまり利用される方法ではありません。
M&Aにおける買収の種類
M&Aを買収によって進める場合、以下の4つのうちいずれかの方法で進めることとなります。
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- 第三者割当増資
- 株式交換
- 株式移転
- 事業譲渡
方法によっては事業の一部だけを譲渡したり、資金を用意せずに売却したりできる場合があります。
それぞれの方法がどのようなものなのか、詳しく解説していきます。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、売り手企業が特定の第三者に新株を購入する権利を付与することです。
第三者割当増資によって、買い手企業が売り手企業の株式の過半数を取得すれば、買い手企業は売り手企業の経営権を取得できるので買収が成立します。
資金調達の手段として利用されることが多いですが、M&Aの場面でも利用される方法です。
株式交換
売り手企業の株式と買い手企業が株式を交換する方法です。
売り手企業の株主は、両社の株式を交換することによって、同等かそれ以上の資産を得られますし、買い手企業は株式交換によって買い手企業の株式を取得することで経営権を得られます。
買い手企業にとっては自社株を交付するだけなので、買収に必要な資金調達が不要になるというメリットがあります。
株式移転
株式移転とは、親会社を新設した上で売り手企業の株式と新設する企業の株式を交換し、新設企業が売り手企業の株式を取得することで経営権を得る方法です。
株式交換と基本的な仕組みは同じですが、買収にともなって親会社を新設する点が大きく異なります。
〇〇ホールディングスのように、グループのトップに持株会社を設ける場合に利用される方法です。
事業譲渡
事業譲渡とは、売り手企業の一部の事業のみを買い手企業へ譲渡する仕組みです。
特定の事業や資産など、買い手企業は欲しい部分だけを選別して買収を進められる点が特徴です。
事業譲渡では対価として、金銭や買い手企業の株式などが支払われます。
合併や株式交換や株式移転のように、買い手企業が売り手企業の負債まで引き継ぐ必要がなく、必要なもののみ取得できる点が最大の特徴です。
M&A(買収合併)のメリット
M&Aには以下の4つのメリットがあります。
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- シナジー効果が期待できる
- スケールメリットを得られる
- 優秀な人材を確保できる
- 事業承継ができる
M&Aが企業にもたらす4つのメリットについて詳しく解説していきます。
シナジー効果が期待できる
M&Aでは企業文化や技術やノウハウが異なる複数の企業が一つになるので、シナジー効果が期待できます。
シナジー効果とは複数のものがお互いに作用して機能や技術を高めることです。
異なる技術や文化が混じり合うことによって、これまでになかった画期的な技術やサービスを開発できるようになります。
自社には足りない技術やノウハウや、開発までには膨大な時間やコストがかかる技術も、M&Aによってすぐに獲得してシナジー効果が期待できる点は大きなメリットです。
スケールメリットを得られる
M&Aによって会社の規模を拡大することで、スケールメリットを得られる可能性があります。
たとえば、同じ材料を使用して別々の製品を作っている企業を買収すれば、必要な材料を一括で大量に仕入れられるようになります。
すると、単価あたりの材料コストが下がり、収益性の向上が期待できるでしょう。
販路においても、競合他社を売却することによって寡占状態を作りやすくなり、市場占有率がアップするなどのメリットもあります。
優秀な人材を確保できる
M&Aによって企業を買収することは、他社の従業員の獲得にも繋がります。
自社で新卒従業員を雇って優秀な人材に育て上げるまでには、膨大な時間とコストが必要です。
自社が必要としている優秀な人材を短期間かつ低コストで獲得できる点も、M&Aの大きなメリットだといえるでしょう。
事業承継ができる
M&Aを活用して事業承継を実施できます。
高齢の経営者が「引退したいが後継者がいない」という理由で、会社を廃業してしまうケースは多いです。
廃業は長年培ったブランドを捨てるだけでなく、熟練の従業員の雇用も失われることになります。
M&Aであれば、技術ブランドや従業員を必要としてくれる会社へ事業を承継できるので、廃業を免れられます。
事業承継を目的としてM&Aを利用するのも非常に有効な方法です。
M&A(買収合併)のデメリット
M&Aによって会社を売却することには次の2つのデメリットもあるので、しっかりと理解した上で手続きを進めることが重要です。
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- 手続きに手間とコストがかかる
- 減損損失が発生するリスクがある
M&Aを実施する際に注意したいデメリットを解説していきます。
手続きに手間とコストがかかる
M&Aは実施するために手間とコストがかかります。
契約書の作成、対価の支払い、株主や従業員への説明など、M&Aの事前段階から手間がかかります。
また、M&A実施後もPMI(M&A後の統合効果を最大化するための統合プロセス)を実施しなければなりません。
異なる文化の企業が合併するため、オペレーション、人事制度、財務経理などを統合し、従業員がスムーズかつ効率的に働けるようにしなければなりません。
一般的にPMIはM&Aの専門家が実施するため、内容に応じた報酬の支払いが必要になります。
M&Aを実施したらすぐにシナジー効果やスケールメリットが得られるわけではなく、効果を得られるようになるまでは、手間やコストが必要になります。
PMIについては以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてチェックしてみてください。
PMIとは?M&Aで重要な理由を解説!目的や流れ・成功のポイントも紹介
減損損失が発生するリスクがある
M&Aの際には「のれん」が発生するのが一般的です。
「のれん」とは、M&Aの買収価格と、買収される企業の純資産額との差額のことです。
たとえば、買収金額が100億円で、買収された企業の資産額が80億円の場合、差額の20億円が「のれん」になります。
「のれん」の資産価値が低下して投資金額の回収が見込めない場合は、のれんの価値を引き下げる会計処理をしなければなりません。
これを「減損損失」といいます。
減損を実施すると、業績に大きな悪影響を及ぼすので注意が必要です。
売り手企業の価値を正確に認識しないと後から多額の減損が発生するリスクがあるので、価格の算定は慎重に行いましょう。
合併と買収の取引価格の算出方法
M&Aを検討している方の多くが気になる点が「自社はいくらで売却できるのか?」という点ではないでしょうか?
売却価格を算出する方法として主に以下の3つがあげられます。
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- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
方法によって算出される譲渡価格は大きく異なりますし、企業の規模によって適した算出方法は異なります。
それぞれの具体的な算定方法を詳しく見ていきましょう。
コストアプローチ
コストアプローチとは、売り手企業の純資産を基準に取引価格を算出する方法です。
売り手企業の純資産額を算定し、その価格を基準に売却価格を決定します。
会社の資産価値に見合った価格で売却できる方法ですが、会社が将来生み出す価値は基本的に加味されない点はデメリットです。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、売り手企業の将来的な収益力を基準に売却価格を決定する方法です。
将来的な収益力やシナジー効果を加味できるという点で、M&Aの中でももっとも合理的な方法の一つだといわれています。
企業が将来的に生み出す利益を現在価値に割り引いて、企業価値を算出するDCF法が代表的な手法です。
マーケットアプローチ
売り手企業の株式市場やM&Aの市場における取引金額をベースに、売却価格を決定する方法です。
上場企業であれば株価がベースになるので、もっとも客観性の高い価格算出方法だといえます。
一方、非上場企業や規模の小さい企業の場合には、株価など客観的に算定できる指標がないのでマーケットアプローチは向いていません。
合併と買収の事例
「TSUNAGU」のホームページから、合併と買収の事例を紹介していきます。
買い手企業 | 売り手企業 | 売買金額 | M&Aの形態 | 効果 |
EC、小売事業 | 化粧品、雑貨の企画・販売 | 非公開 | 株式譲渡 | BtoCですでに成功している売り手企業に買い手企業のオンライン販売のノウハウが加わることによって、売上拡大に繋がった |
NHK受信料の契約/収納業務 | モバイル充電事業等 (譲渡したのはモバイル充電事業のみ) | 非公開 | 事業譲渡 (モバイル充電事業のみ) | 事業承継を検討する売り手企業が、NHKの集金業務などで外訪活動が多い買い手企業のノウハウによって、さらなる業務拡大が見込めるようになった |
双方の事例ともに、業種の異なる会社同士がM&Aによってシナジー効果を起こしています。
一つ目の事例は、インターネット販売を手がける企業が化粧品販売会社を買収して、オンライン販売の強化を図りました。
また、2つ目の事例は、頭打ち感のあったモバイル充電事業のみをNHK受信料を徴収している会社へ売却したものです。NHK受信料の訪問活動によって培った販売力で、さらなる規模拡大を図る目的がありました。
異なる業界でも意外なところからM&Aのニーズはあるものです。
専門家であれば売り手と買い手にとって最適な売買先を見つけられるので、まずは専門家へ相談してみましょう。
最適なM&Aの方法は専門家へ相談しよう
一口にM&Aといっても合併と買収に分かれますし、いくつもの手法があります。
どのような形でM&Aを進めるべきなのかは、M&A後の会社の形や売り手・買い手企業ニーズによって異なります。
最適なM&A手法はケースバイケースですのでまずは専門家へ相談し、ベストな手法と相手先を探すのが最善です。
合併と買収の違いを理解して、最適な方法でM&Aを進めていきましょう。
ディスクリプション
M&Aの手法である合併と買収の違いや特徴を解説。M&Aはどの方法で行うかによって効果が大きく異なります。それぞれの方法の特徴を理解して自社にとって最適な方法を把握して、スムーズにM&Aを進めましょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。