合併手続きの流れとは?必要な書類や注意点を解説

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昨今、経済・社会を取り巻く環境は変化している状況下、後継者不足や更なる企業成長を目的とした合併をはじめとしたM&Aも活発になっています。とはいえ、合併には財務や税務などの専門知識が必要であり、法的要件を満たしていない場合は有効な合併は成立しません。

そこで本記事では、合併手続きの流れや必要書類、費用などを詳しく解説します。

合併とは

合併とは、いくつかの企業を一つに統合することを指します。M&A典型的な方法であり、一方の会社が他方の会社の権利義務の全部を包括的に承継することがこの手法の特徴で、競合企業間の合併や、グループ内の親会社と子会社の統合にも適用されます。

経済的な困難に直面している企業の支援や、税制上の利点を得る目的で、さまざまな規模の企業によって採用されています。合併は「吸収合併」と「新設合併」の二つに分類されることが一般的です。

吸収合併の手続きの流れ

以下は吸収合併の手続きの流れです。

    • 合併契約書の作成
    • 取締役会決議
    • 合併契約締結
    • 反対株主に対する株式買取請求通知・公告
    • 債権者保護の手続き
    • 株主総会承認
    • 効力の発生
    • 登記申請
    • 事後開示書類の備置

合併契約書の作成

合併会社と被合併会社は、合併契約書を作成します。基本的な内容や契約書には含まれていない重要な事項は、合併契約書と別に合併覚書を作成しそこに明記する場合もあります。

合併契約書とは記載事項と注意すべきポイントを解説

取締役会決議

合併に対して、取締役会の承認を得ます。取締役会が設置していない会社の場合は、取締役全体の過半数の同意が合併を進めるために必要とされます。

合併契約締結

取締役決議の後、合併会社・被合併会社の両者で合併契約を締結します。

反対株主に対する株式買取請求通知・公告

吸収合併の場合は、被合併会社の消滅が株主に大きな影響を及ぼします。そのため、反対する株主は自己の出資した資本を回収するために株式の買取を要求できます。

以下のような株主への通知や公告は、合併の法的効力が生じる20日前までに完了させる必要があります。

    • 合併に反対する意向を事前に伝え、株主総会でその立場を表明した株主
    • 議決権を株主総会で行使できない株主
    • 株主総会の決定が不要な状況下での全株主

債権者保護の手続き

合併においては、官報への公告と特定の債権者への個別催告が必要です。債権者からの異議申し立てが可能な期間は最低でも1か月を設ける必要があり、この期間内に行わなければなりません。

官報での公告と定款に定められた公告方法による公告が行われた場合、別途個別催告書送付 は省略できます。ただし、定款での公告方法が官報公告の場合は、個別催告書送付を省略することはできません。

債権者が異議を唱えた際は、債務の履行、適切な保証の提供、または信託設定などの手段で債権を消滅させる必要があります。しかし、該当する債権者に損害が生じないと判断される場合はこれらの手続きは必要ありません。

株主総会承認

合併の効力発生日の前日までに株主総会で承認を得ます。具体的には、株式公開会社では株主総会を開催する2週間前まで、非公開会社では1週間前までに株主への招集通知を行う必要があります。種類株式を持つ会社の場合は、各種類の株式について別個の決議が必要な状況も考えられます。

また、略式合併や簡易合併のケースでは、株主総会の承認手続きを省略することが可能です。

効力の発生

株主総会承認の後、合併契約の際に定めた日から吸収合併の効力が発生します。

登記申請

合併契約で定めている効力発生日から2週間以内に、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記を申請します。

事後開示書類の備置

合併の効力が発生したあとは、遅延なく事後の開示書類を準備し、備え置く義務があります。これらの書類は効力発生日から6か月間本店に備え置きする必要があり、関係者が参照できるようにしておきましょう。

新設合併の手続きの流れ

新設合併の手続きの流れは、概ね吸収合併と同様です。以下が新設合併の手続きの流れです。

    • 新設合併の事前準備(契約書やデューデリジェンスなど)
    • 取締役会の決議による承認
    • 新設合併契約の締結
    • 事前開示書類の備置
    • 債権者保護の手続き
    • 株主総会の招集・承認
    • 反対株主の買取請求手続き
    • 登記申請
    • 合併効力発生
    • 事後開示書類の備置

被合併会社の手続きの流れ

被合併会社の手続きの流れとしては以下のようになります。内容としては合併会社の手続きの流れと概ね同様です。

    • 合併契約書の作成
    • 取締役会決議
    • 合併契約締結
    • 反対株主に対する株式買取請求通知・公告
    • 債権者保護の手続き
    • 合併契約書などの備置
    • 株主総会承認
    • 効力の発生
    • 合併による登記申請

吸収合併の手続きにかかるスケジュール

吸収合併を進める際は一連の手続きが必要であり、完了させるためには約2ヶ月間の期間が見込まれます。効力発生の数か月前から始めるべき手続きもあるため、事前の計画・準備が重要です。

具体的な会社合併の基本的なスケジュールは以下のとおりです。

    • 1月中旬

合併の準備開始

    • 2月上旬

取締役会で合併承認の決議、官報への公告手続き

    • 2月中旬

合併契約の締結

    • 2月下旬

債権者保護手続として 公告及び催告 株主や関係者への必要書類の提供

    • 3月上旬

株主総会招集の通知発送、反対株主への案内

    • 3月下旬

株主総会での合併承認、債権者異議申し立て期間の終了

    • 4月1日

合併効力の発生

    • 4月1日以降

合併効力発生後2週間以内に、登記申請を行い、合併に関する書類を事後に備置

吸収合併の手続きに必要な書類

以下では、吸収合併の手続きに必要な書類を存続会社・非存続会社に分けて紹介します。

存続会社の必要な書類

合併後、存続会社は法的な効力が発生した日から2週間以内に、自社の所在地を管轄する法務局に登記を申請する必要があります。合併により会社の資本が増加した場合は、増加分に対して登録免許税が課されるため、印紙を貼付するか、該当する地方税務署に納付します。

登記を行う際は「変更登記申請書」を提出し、申請書には主に以下の内容を含めます。

    • (株式を新たに発行する場合は)発行済株式の総数、種類及び数
    • 登記の事由
    • 原因となった年月日
    • (資本金の増加がある場合は)資本金の額

申請書に記載する情報を正確に記入し、収入印紙を添付して、以下のような必要な書類と共に提出します。

    • 吸収合併契約書
    • 吸収合併に関する株主総会議事録
    • 債権者保護手続きに関する書類
    • 登録免許税(収入印紙を貼付)
    • 消滅会社の登記事項証明書(会社法人等番号を記載することで省略可)
    • 上申書(債権者がいない場合はその旨、債権者がいる場合は期間内に異議を述べた債権者はいない旨)
    • 資本金の計上に関する証明書
    • 委任状(司法書士などに依頼する場合)

さらに、合併契約書は法務局への提出の他に、効力発生日から6か月間、存続会社の本社で一般に公開する必要があります。

非存続会社の必要な書類

非存続会社の登記変更手続きは、存続会社に比べて簡易的です。「解散登記申請書」を用意し、合併の法的効果が発生する日から2週間以内に、存続会社の管轄する法務局に合併による変更登記申請書と一緒に提出します。

解散登記申請書には以下の内容を含める必要があります。

    • 商号
    • 本店の所在地
    • 登記の事由
    • 解散する日
    • 登録免許税の額

存続会社側に、登記手続きに必要な書類を事前に用意しておく必要があります。必要書類は以下のとおりです。

    • 消滅会社の登記事項証明書(会社法人等番号を提出することで省略可能)
    • 株主総会議事録
    • 債権者保護手続き関する書類(官報公告など)

合併の手続きにかかる費用

合併の手続きにかかる費用としては、主に以下があります。

    • 合併契約書の作成にかかる印紙代
    • 登録免許税

合併契約書の作成にかかる印紙代

吸収合併契約書に収入印紙を添付する必要があるため、印紙代がかかります。吸収合併契約書1通につき、収入印紙として4万円が必要です。ただし、契約書の原本にのみ貼付する必要があり、コピーには不要です。

登録免許税

存続会社の登録免許税は、合併による資本金の増減にもとづいており、吸収合併で資本金が増加しない場合、登録免許税は一律3万円とされています。資本金が増加した場合は、その増加額に対して1,000分の1.5を乗じた金額が登録免許税として必要です。増加した資本金が非存続会社の資本金を上回る場合は、その超過分に対して1,000分の7を乗じることで税額を計算します。

計算された登録免許税が3万円未満の場合は、最低税額として3万円が適用されます。

一方で、非存続会社に関しては、登録免許税は一律3万円が適用されます。

吸収合併における社会保険手続き

吸収合併では、社会保険に関する手続きも重要です。非存続会社から存続会社への従業員の移行に際して、不利益が出ないよう適切な社会保険手続きを行う必要があります。

以下では吸収合併における社会保険手続きを健康保険、雇用保険、労働保険に分けて解説します。

健康保険

存続会社は、年金事務所や健康保険組合にて、社会保険資格取得届出と被扶養者異動届出の手続きを実施します。一方、非存続会社は、社会保険資格喪失届と適用事務所全喪届を提出する必要があります。

健康保険の手続きに遅れが生じると、非存続会社から移籍する従業員に対する新しい健康保険証の発行が遅れる可能性があります。そのため、存続会社は非存続会社の従業員データを早期に収集し、手続きが円滑に進行するように事前準備を進めるとよいでしょう。

雇用保険

雇用保険に関連する手続きは、ハローワークで実施されます。失業給付金や高年齢雇用継続給付の受給資格には、一定期間の被保険者としての経歴が必要であり、受給条件や給付額は被保険者期間により異なるため注意が必要です。

また、吸収合併を行うと非存続会社の従業員は一旦退職した扱いとなります。被保険者期間がリセットされる恐れがあり、非存続会社の従業員にとって不利益につながる可能性があります。

このような不利益が生じないように、存続会社と非存続会社は「同一事業主の認定手続き」を行うことが重要です。

労働保険

労働保険に関する手続きは、労働基準監督署で実施されます。非存続会社では、労働保険料の精算と納付が必要となります。精算後、還付金が発生する場合は、還付を請求する手続きも必要です。

一方で、存続会社では吸収合併により予め申告していた労働保険料が大幅に増加することが見込まれる場合、増加した保険料の概算を申告し、納付する必要があります。

また、もし事業の種類が同一で非存続会社が存続会社の一部門や営業所として統合される場合は、労働保険成立手続きと継続事業一括手続きを行いましょう。

まとめ

本記事では、会社合併の概要や手続きの流れ、必要書類などを解説しました。合併には新設合併と吸収合併があり、なかでも吸収合併を進める際はさまざまな手続きが必要となり、期限内に適切に完了させなければなりません。また、合併契約書の作成にあたっては、法的要件を満たす必要があります。

このように合併には複雑かつ法務・財務・税務といった分野の専門知識が必要とされるため、税理士やM&A仲介会社への相談を検討してみることをおすすめします。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。