有限会社は合併できない?合併の種類や手続きについて解説します

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会社の合併にはいくつか種類があり、手続きもそれぞれ異なります。本記事では合併の種類をはじめ、それぞれの手続きやメリット・デメリットなどを詳しく解説します。

目次

合併手続きの種類について

会社合併にはいくつかの種類があります。主なものは以下の2つです。

    • 吸収合併

消滅する会社の権利義務をすべて存続会社が承継する手法です。資源結合がしやすい特徴があります。

    • 新設合併

新たに会社を設立し、各会社の権利義務を新設会社が承継する手法です。合併する会社の法人格は消滅します。

吸収合併と新設合併はそれぞれ異なる特性を持ち、目的に応じて選択されます。

合併・統合・買収の違い

合併、統合、および買収は企業の統合の手法ですが、それぞれに意味合いが異なります。

    • 合併(Mergers)

2つ以上の会社を1つの法人に統合する手法です。譲渡する会社の資産や負債、従業員などは譲受する会社に承継され、資産を譲渡した会社は合併後に消滅します。目的に応じて、吸収合併や新設合併が採用されます。

    • 統合(Integration)

経営統合を意味し、合併後の組織の調整を指します。統合は合併後の運営を効率化し、相乗効果を最大化するために行われます。

    • 買収(Acquisitions)
      ある会社が他の会社や、その所有する事業を買う手法です。買収では、経営権が移転するだけで会社が消滅しない点が合併と異なります。

M&A(企業の合併・買収)は、企業の成長戦略や組織再編において重要な手法であり、目的に応じて選択されます。

吸収合併とは

吸収合併は、M&A(企業の合併・買収)においてよく用いられる手法の一つです。吸収合併では、2つ以上の会社を1つの会社に統合します。具体的には、以下のポイントが該当します。

    • 意味と目的

吸収合併は複数の会社を1つにまとめ、資産や従業員を効果的に活用する手法です。譲渡する会社の資産や負債、従業員は譲受する会社に承継され、譲渡した会社は合併後に消滅します。

    • 特徴

吸収合併は、他社を完全に取得したい場合やグループ内の組織再編を行う際に採用されます。

吸収合併は、企業の成長戦略や組織再編において重要な手法であり、慎重な計画と専門家のアドバイスが求められます。

新設合併とは

新設合併は、合併において一般的に用いられる手法の一つです。この方法では、複数の会社をすべて消滅させ、新しく設立した会社に権利や義務を承継させます。具体的には以下のポイントが該当します。

    • 意味と目的:

新設合併は、合併当事会社とは別に新しく会社を設立し、当事会社におけるすべての資産や負債などを新設会社に引き継ぐ合併方法です。主にグループ内での組織再編を行うために新設合併が実施され、機能の統合によるコスト削減や生産性向上を目指します。

    • 特徴

新設合併は、吸収合併よりもメリットが少なくデメリットが多いため、吸収合併が実施されることが多くなっています。

新設合併は、企業の成長戦略や組織再編において重要な手法であり、慎重な計画が求められます。

有限会社は合併できない?

有限会社は、吸収合併において存続会社にはなれません。吸収合併では、有限会社は消滅会社となり、権利義務を存続会社に引き継ぎます。新設合併においても、有限会社は新設会社にはなれません。

なお、特例有限会社は、株式会社への移行手続きをすることで吸収合併存続会社となることは可能です。この場合は、株式会社への移行手続きも一連のスケジュールに組み込む必要があります。

吸収合併が可能な会社形態

会社の種類は会社法によって定められている、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4種類に加え、会社法施行前に設立された特例有限会社(旧有限会社)の5種類になります。

そのなかでも、吸収合併存続会社となれる会社は以下のとおりです。

    • 株式会社
    • 合名会社
    • 合資会社
    • 合同会社

一方、吸収合併消滅会社となれる会社は以下のとおりです。

    • 株式会社
    • 合名会社
    • 合資会社
    • 合同会社
    • 特例有限会社

どの形態でも吸収合併を実施することは可能ですが、特例有限会社が合併存続会社にはなれません。

有限会社と吸収合併

吸収合併において、有限会社は存続会社にはなれません。しかし、有限会社は吸収合併における消滅会社となることは可能です。有限会社を存続会社とする吸収合併をしたい場合は前提として、有限会社を株式会社へ移行する手続きをする必要があります。この手続きをスケジュールに組み込むことが重要です。

有限会社と新設合併

先述のとおり、有限会社は新設合併において新設会社にはなれません。ただし、有限会社は新設合併における消滅会社となることは可能です。この場合、有限会社は消滅し、株式会社が新設会社として合併を行います。

企業が合併する目的とは?

企業合併の目的は多岐にわたります。

    • 事業を拡大する
    • 新規事業への参入
    • 節税対策
    • 現金不要の手続き

事業を拡大する

企業合併の主な目的は、シナジー効果を生み出すことです。両社の商品やサービス、技術、人材を組み合わせて、よりよい提供を目指します。また、スケールメリットを追求し、業界シェアを拡大するために顧客や取引先を統合することもあります。

さらに、重複する管理コストを削減するために経理部門や総務部門を統合することも考えられます。

新規事業への参入

企業が合併する主な目的の一つに、新規事業への参入があります。合併により、企業は既存のビジネスモデルを拡大し、さらに新しい市場や業界への進出を目指します。これにより、事業の多角化を図り、リスクの分散を実現するのです。

また、新規事業への参入は技術や知識、顧客を共有し、相乗効果を生み出すことで、市場における競争力を高める効果も期待できます。合併を通じて新しい事業領域への挑戦は、企業成長の加速につながる重要な戦略となります。

節税対策

企業が合併を選択する一つの重要な目的は、節税対策です。合併により、企業は税負担を最適化できます。例えば、利益が出ている企業とそうでない企業が合併することで、損失を利益と相殺し、全体の課税所得を減らすことが可能になります。

また、特定の税制優遇措置を利用できる場合もあり、これらは合併を通じて経済的な利益を高めるための戦略的な手段となり得ます。

現金不要の手続き

企業合併において、現金を使わずに手続きを進めることがあります。具体的には、吸収合併や新設合併において、対価として現金を支払わずに株式や社債を利用することです。

また、株式の交換は合併後の経営権の配分を反映するうえで重要な役割を果たし、両社の利害を調整する手段として機能します。この手法は事務コストを削減し、効率的な合併を実現するために選ばれることがあります。

吸収合併のメリット・デメリット

吸収合併をすることのメリットやデメリットを説明します。

吸収合併のメリット

吸収合併の大きなメリットの一つは、企業が市場における競争力を高められる点です。二つの企業が資源を統合することにより、製品やサービスの品質向上、コスト削減、効率的な運営体制の構築が可能になります。

また、消滅会社から優秀な人材や設備、販売網、顧客などを得られるため、コストを抑えながら事業の拡大が可能です。これらのメリットは、長期的な成長と安定を目指す企業にとって、重要な戦略的選択肢となるでしょう。

吸収合併のデメリット

吸収合併におけるデメリットは、企業文化の衝突や統合に伴うコスト増が挙げられます。異なる企業文化を持つ組織が一つになることで、従業員間の摩擦やモチベーションの低下が発生する可能性があります。

また、システムの統合や運用プロセスの見直しなど、短期的にはコストと時間がかかることも多いです。さらに、合併によって市場の競争が減少することもあるでしょう。これらのデメリットを事前に把握し、適切な対策を講じることが合併後のスムーズな運営につながります。

新設合併のメリット・デメリット

新設合併におけるメリットやデメリットついて説明します。

新設合併のメリット

新設合併の大きなメリットは、新しい法人がスタートすることで過去の負の遺産を払拭し、企業イメージを一新できる点にあります。両社のリソースと強みを統合し、より強固な組織構造とブランドを築くことが可能です。新しい企業文化の構築を通じて、従業員のモチベーション向上や組織の活性化が期待できます。

また、市場での競争力を強化し、事業拡大や市場シェアの拡大を図る絶好の機会となります。新設合併は、組織の再編において、清算や過去の問題からの脱却を目指す際に有効な戦略です。

新設合併のデメリット

新設合併のデメリットは、プロセスの複雑さと時間的・金銭的コストがかかる点です。新しい法人を設立するための手続きは煩雑であり、法的要件を満たすためには専門的な知識が必要です。

また、新設法人への資産・負債の移転プロセスは、両社にとって大きな労力とコストを要します。これらの問題を管理し、スムーズな移行を実現するためには十分な計画が不可欠です。

新設合併は戦略的には魅力的な選択肢ですが、その成功には多くのハードルを乗り越える必要があることを理解しておくことが重要です。ただし、会社の歴史が消えてしまうこと、税務上も吸収合併のほうが有利であることが多いため、実務上は新設合併が行われるのは稀です。

吸収合併(存続会社・消滅会社)のスケジュール

吸収合併のスケジュールは、以下の手続きを含み、通常で約2か月程度かかります。吸収合併のスケジュールを計画的に進め、効率的な合併を実現しましょう。

    1. 合併契約の締結

存続会社と消滅会社の当事者間で合併契約を作成します。合併契約書には、両社の商号・住所、対価、効力発生日などが記載されます。

    1. 株主総会での承認

株主総会で合併の承認を得ます。特別議決が行われ、招集通知は開催日の2週間前(公開会社)、または1週間前(非公開会社)に発送されます。

    1. 債権者保護手続き

官報公告と債権者への催告を行います。債権者は、異議申し立てができる期間が設けられます。

    1. 反対株主への株式売買請求通知・公告

合併に反対する株主は、公正な価格で株式を買取請求できます。

    1. 吸収合併の効力発生

合併契約書で定めた日から効力が発生します。

    1. 登記申請

効力発生日から2週間以内に法務局で登記申請を行います。

    1. 事後開示書類の備置

効力発生日から6か月間、合併契約書などの事後開示書類を本店に備えます。

吸収合併の手続き

吸収合併のスケジュールでは、以下の手続きが必要になります。

    • 合併契約書の作成
    • 取締役会決議
    • 合併契約締結
    • 反対株主に対する株式買取請求通知・公告
    • 債権者保護の手続き
    • 合併契約書などの備置
    • 株主総会承認
    • 効力の発生の到来
    • 合併による登記申請
    • 事後開示書類の備置(存続会社のみ)

STEP1:合併契約書の作成

吸収合併において合併契約書の作成が重要、以下の事項が含まれます。

    1. 存続会社と消滅会社の本店・商号
    2. 対価に関する事項:存続会社が消滅会社の株主に対して交付する対価について
    3. 吸収合併の効力発生日

合併契約書は取締役会で承認され、両会社の当事者間で締結されます。吸収合併を円滑に進めるため、適切な合併契約書を作成しましょう。

STEP2:取締役会決議

合併契約書を作成したら、次は取締役会で合併契約の承認を得ます。存続会社と消滅会社の双方で、承認が必要です。吸収合併の手続きでは、この取締役会決議が非常に重要なステップの一つです。

合併に関するすべての計画や条項は、最初に取締役会で討議され、承認されなければなりません。この決議は、合併の方向性や条件、実施のタイミングに関する基本的な枠組みを設定します。

また、取締役会は合併によって影響を受ける株主や従業員の利益を考慮し、公正かつ透明なプロセスを確保する責任があります。

STEP3:合併契約締結

合併契約締結は、吸収合併手続きの中核となるフェーズです。この段階で、存続会社と消滅会社は合併に関するすべての条項と条件を文書化し、正式な合意に至ります。契約内容には、合併の具体的な実施日、両社の資産と負債の扱い、従業員の移行条件、株主への影響、および必要な法的手続きの詳細が含まれます。

この契約は、合併に関連するすべての側面について正式かつ法的に拘束力があり、重要なものです。

STEP4:反対株主に対する株式買取請求通知・公告

合併に反対する株主は、特定の条件の下で自らの持株を会社に買い取らせる権利を持ちます。この手続きは、合併決議後に速やかに行われ、反対する株主への買取請求の方法、期限、およびその他の必要な情報を明確に伝える必要があります。

通知は直接的に株主に送付されるほか、公告を通じて一般にも知らされます。この公告は、合併によって不利益を受けると感じる株主の権利を保護します。株式買取請求権の行使は、合併の法的な枠組みのなかで重要な位置を占め、合併の公正性を担保するための仕組みの一つです。

STEP5:債権者保護の手続き

吸収合併における債権者保護手続きは、合併を行う会社が公告と個別催告を通じて債権者に合併の旨を知らせ、異議申し立ての機会を提供する手続きです。公告は官報を通じて行われ、個別催告は債権者に対して行われます。

異議申し立てがあった場合、会社はその債権者に対する債務を全額弁済するか、相当の担保を提供しなければなりません。この手続きは、債権者の権利を保護するために重要なものです。

STEP6:合併契約書などの備置

吸収合併における合併契約書などの備置は、会社法により定められた手続きの一部です。合併契約書は、取締役会と株主総会の承認を得たあとに締結され、その内容は法定記載事項に基づいて記載されます。

存続会社は、吸収合併契約書を株主総会の日の2週間前の日から本社に備置開始後、吸収合併の効力発生日から6か月間はだれでも閲覧できる状態にしておく必要があります。一方、消滅会社は、吸収合併契約書を吸収合併の効力発生日まで本社に備置します。

STEP7:株主総会承認

吸収合併における株主総会承認は、吸収合併契約が存続会社および消滅会社の株主総会の特別決議により承認を受ける重要な手続きです。その際には存続会社と消滅会社の双方で、合併契約書に基づく合併計画を株主に提示し、その承認を求めます。

合併の具体的な条件、目的、予想される効果などが詳細に説明され、株主からの質問に答える機会が設けられます。合併に賛成する株主の票が所定の割合以上集まることで、合併計画は正式に承認され、その後の法的手続きに進めます。

株主総会の承認は、合併の効力発生日の前日までに行う必要があります。

STEP8:効力の発生の到来

吸収合併における効力の発生は、合併当事会社が定めた効力発生日に開始されます。効力の発生により、消滅会社の資産、負債、契約、従業員などが存続会社に移転し、両社は一つの法人として運営を開始します。

この過程で、事前に設定されたスケジュールと合併契約に基づき進行されます。合併が実施されたことを公告することで、外部にも公式に通知されます。また、効力発生日以降から2週間の期限内に、管轄法務局で吸収合併の登記申請を行わなければなりません。

STEP9:合併による登記申請

効力発生日が到来したあと、最終手続きとして合併による登記申請が必要です。この登記は、合併による変更事項を法務局に正式に通知し、公的な記録を更新するために行われます。

存続会社は、消滅会社の資産と負債を引き継ぐことを含め、合併の詳細を登記する必要があります。この登記により合併が正式に完了し、企業は合併後の活動を正式に開始できるようになります。合併による登記申請の手続きは、合併計画の実現に向けた最後の法的義務であり、適切な準備と迅速な対応が求められます。

STEP10:事後開示書類の備置(存続会社のみ)

合併後、存続会社は特定の事後開示書類を作成し、一定期間、公的な場所に備置することが法的に求められます。事後開示書類の備置手続きは、合併による変更内容を可視化し、株主や債権者、その他の利害関係者に対して必要な情報を提供するためのものです。

事後開示書類には、合併に関する最終的な契約内容、変更された企業の構造、新たな経営体制などが詳細に記載されます。備置される書類は、関係者がいつでも閲覧できるようにすることで、存続会社の透明性と信頼性を高めることに寄与します。

まとめ

この記事では、有限会社が合併できるかどうか、また合併の種類と手続きについて詳しく解説しました。基本的には有限会社も合併は可能で、吸収合併や新設合併の選択肢があり、メリット・デメリットが伴います。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。