会社売却でかかる税金は?計算方法や節税対策を徹底解説

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会社売却には、個人株主と法人株主の両方が異なる税金の対象となります。また、売却時には所得税や法人税などさまざまな税金が生じ、その計算方法や節税対策が重要です。

この記事では、会社売却にかかる税金の計算方法や節税対策について詳しく解説します。

目次

個人株主が会社売却で生じる税金

株式を保有する個人株主が保有する株式を売却し、利益が発生した場合には所得税や住民税など、さまざまな納税義務が発生します。ここでは、個人株主が会社の売却によって支払うべき税金について詳しく紹介します。

譲渡所得の計算方法

譲渡所得とは一般的に、土地や建物、株式などの資産を譲渡することによって生じた所得のことを指します。譲渡所得に対し、所得税と住民税が発生します。

個人株主の譲渡所得の計算方法は以下のとおりです。

譲渡所得 = 譲渡価額 – 取得価額 – 手数料

譲渡所得は譲渡価格から、株式を得た際に出資した取得価額と委任手数料を差し引いて求められます。

取得価格とは、売った土地や建物を買い入れたときの購入代金や、購入手数料などの資産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費を加えた合計額のことを指します。

取得価額については親から遺産相続で引き継いだものなど、金額が正確に分からない場合もあります。取得価額が不明な場合は所得税基本通達38-16を参考に、概算取得費という名目のもと、収入金額の5%を取得価額として計算を行います。

参照元:国税庁|No.3202 譲渡所得の計算の仕方(分離課税)

所得税、住民税の計算方法

株式の譲渡所得は、分離課税です。分離課税とは他の所得とは分離して税額を計算し、確定申告により納税する課税方法のことを指します。

住民税は所得税と異なり、年収や地域によって異なる税率が適用されることがあります。個人株主の株式譲渡にかかる税金は、累進課税のような税率の変動はせず、一定の割合がかかります。

個人株主の株式譲渡の税金の税率

個人株主の株式譲渡の税金の税率ですが、売却した株式が上場株式であろうと非上場株式であろうと、所得税は15.315%、住民税は5%です。

なお、ここでいう所得税には復興特別所得税を含みます。

参照元:e-GOV法令検索|所得税法

参照元:e-GOV法令検索|地方税法

法人株主が会社売却で生じる税金

法人株主が会社株式を売却した場合は、会社売却で得た利益に対して法人税が課税されます。法人株主が会社売却する際は分離課税ではなく、総合課税によって課税額が決定します。

法人税率は企業によってさまざまであり、15%から23.2%の範囲で変動することに注意しましょう。

法人税の税率と計算方法

法人税は所得金額に税率を掛け合わせた金額から、税額控除額を差し引くことで算出できます。

法人税の税率は、普通法人、一般社団法人等又は人格のない社団等については23.2%です。資本金1億円以下の普通法人、一般社団法人等又は人格のない社団等の所得の金額のうち、年800万円以下の金額については15%と決められています。

参照元:e-GOV法令検索|法人税法

株式の譲渡は非課税取引となる

株式譲渡とはM&Aの手法の一つであり、株主が保有する株式を第三者へ渡すことにより、企業の経営権を移転することを指します。これにより株式を得た株主は、株式の売却金額を手に入れられます。

非課税取引とは、消費税が課せられない取引のことを指します。非課税取引の例として、教科書販売などが挙げられます。これは政策的な配慮により、非課税となっている例です。

そして、株式の譲渡も非課税取引となります。株式譲渡は株主である個人が株式売却の金額を受け取るため、所得税が発生することに注意しましょう。

発行会社への株式売却には「みなし配当に対する課税」が生じる

発行会社への株式売却には、みなし配当が発生することがあり、このみなし配当に対して課税されます。取引としては正確にいうと配当ではありませんが、事実上配当として扱うことのできる所得や利益のことをみなし配当と呼びます。

みなし配当制度が設けられている理由は、税務上に一貫性を持たせるためといわれています。

参照元:e-GOV法令検索|法人税法

個人株主の場合

個人株主の場合は、所持している株式が上場企業のものか、非上場企業のものであるかにより財務処理が変化します。上場企業の場合は、以下の2つの選択肢があります。

    • 申告分離課税で一定の税率を課税
    • 総合課税で所得税を納税

非上場企業の場合は申告分離課税を行うことはできず、総合課税で所得税を納税します。つまり、みなし配当の金額が大きければ大きいほど税率も高くなるため注意しましょう。

法人株主の場合

法人株主の場合にはみなし配当を受取配当金として算入して、源泉徴収額を所得税、住民税、事業税として算入します。みなし配当の配当金は、益金には算入しない点に注意しましょう。

ただし、不算入として扱うことのできる割合は株式の保有割合に依存します。その割合は以下のとおりに決められています。

    • 株式の保有割合が1/3より大きい場合、全額不算入
    • 株式の保有割合が1/3以下の場合、50%または20%

会社売却で生じるその他の税金

会社売却で利益を得た場合は、所得税や住民税以外にも税金が発生することがあります。ここでは、その他の税金として不動産取得税と印紙税の2つの税金について解説します。

不動産取得税

1つ目に紹介する税金は、不動産取得税です。不動産取得税とは土地や家の購入、贈与などで不動産を手に入れた際に、取得された方に対して発生する税金です。不動産取得税は、登記の有無に関わらず課税対象となります。ただし、相続で不動産を手にした場合には課税対象とならない場合があります。

株式の売買により、実質的な会社の株主は変更されます。しかし、その会社が不動産を持っていたとしても不動産自体の売買は行われていないため、株式の売買で不動産取得税が課税されるわけではない点に注意しましょう。

参照元:e-GOV法令検索|地方税法

印紙税

印紙税とは、取引に伴って契約書や領収書などを作成した場合に、その文書に対して課される税金のことです。印紙税の課税対象文書は、印紙税法別表第1の課税物件表にて記載されている20種類の文書です。

株式を売却する際に契約書を作成することがありますが、この契約書は課税物件表に記載されていないため、印紙税は発生しません。しかし、株式を売却した代金が記載された領収書は、価格が5万円以上の場合は課税対象となります。

参照元:e-GOV法令検索|印紙税法

会社売却の際に使える節税対策

会社売却は、多くのオーナーや経営者にとって重要な段階です。売却に際しては節税対策を適切に行うことで利益を最大化し、税負担を最小限に抑えられます。以下に、会社売却の際に使える主な節税対策を紹介します。

会社分割を併用する

会社分割は、会社の資産や事業をすべて、または一部を分割することで売却時の税負担を軽減する方法の一つです。会社分割は、グループ会社の組織再編でよく利用される手法です。

会社を複数の部分に分割することで、売却益を分散させられ、税率の低い部分に資産や事業を移管することで税金を節約することが可能です。

また、会社分割をすることで会社売却をする際に、不要な資産を他の会社へ移せるというメリットもあります。売却後、土地や自家用車などオーナーにとっては必要であるが買い手にとっては不要であるものもあります。そういった際に会社分割を併用することで、オーナーにとって必要な資産を他社へ移せます。

役員退職慰労金の活用をする

会社売却時に役員退職慰労金を活用することで、税負担を軽減できます。役員退職慰労金は、役員に対して売却時に支払われる形で行われる場合があります。売却益から一部を慰労金として支払うことで会社に経費が計上されるため、法人税や所得税の節税効果が期待できます。

退職慰労金についても、個人所得税がかかることに注意しなければなりません。しかし、退職慰労金に対しての所得税は通常の所得税よりも優遇されています。

退職所得に対する所得税の計算式は以下のとおりです。

退職所得に対する所得税 = (退職金支給額-退職所得控除額) × ½ × 税率 - 控除額

退職所得控除額は、勤務年数によって変化します。

    • 40万円 × 勤務年数(勤務年数が20年以下)
    • 800万円 + 70万円 × (勤務年数 – 20年)(勤務年数が20年を超える場合)

ただし、慰労金の支払い条件や税務上の取り扱いには注意が必要です。

第三者割当増資による支配権の移転をする

第三者割当増資とは、新たに株式を発行して第三者に出資額以上の株式を引き受けてもらうことで、会社の経営権を譲るという方法を指します。つまり、第三者割当増資を行うことで、経営権の移転できます。

第三者割当増資は正確には会社売却ではありませんが、節税には効果的な方法です。第三者割当増資により新たな株主が増えることで、売却時の持ち分を薄められ、税金を節約できます。

第三者割当増資を行ったあとは、第三者も経営に関わっていくこととなります。したがって、第三者との関係も友好であるとよいでしょう。第三者割当増資には株主総会の承認や手続きが必要であり、計画的な準備が必要です。

事業譲渡による会社売却の場合に生じる税金

会社売却ではなく、会社の一部または全部の事業を譲渡することを事業譲渡といいます。事業譲渡は事業だけではなく、それに付随してくる資産や権利などを個別に選んで売却できることが特徴です。

事業譲渡の最大のメリットは、譲渡、売買するものを細かく選別できることがよくいわれています。しかし、事業譲渡はしなければならない手続きが多く、手間がかかるという点も忘れてはいけません。ここでは、事業譲渡による会社売却の場合に生じる税金について解説します。

法人税、法人住民税、法人事業税

1つ目に紹介する税金は、法人税、法人住民税、法人事業税です。事業譲渡で発生する法人税は、事業売却して得た利益に対して課税されます。

法人税は、譲渡益 = 売却額 – 譲渡資産の簿価、に対して課税されます。税率はおおよそ30%~40%が目安です。法人住民税は地域社会の費用について、その構成員である法人にも課せられる税金のことです。法人住民税には都道府県税と市町村民税の2種類あり、会社の事務所が所在する都道府県、市町村に支払います。また、法人事業税とは、法人が行う事業そのものに課せられる税金のことを指します。

また、受け取った対価が譲渡された資産と負債の差を下回ってしまった場合、その下回った部分は譲渡損失となります。その分、法人税などを抑えられます。

参照元:e-GOV法令検索|法人税法

消費税

事業の譲渡を行った際に、譲渡した中に建物や自動車など消費税の課税対象となる資産が含まれている場合もあります。この際、それらに対して消費税が課せられることとなります。主な課税資産、非課税資産は以下のとおりです。

課税資産

    • 販売用の商品
    • 事業に用いる建物、機械、備品
    • 特許権
    • 商標権
    • 実用新案権
    • 意匠権
    • 無体財産権

非課税資産

    • 給与、賃金
    • 寄付金、見舞金
    • 保険金、共済金
    • 株式の配当金
    • 試供品
    • 国または地方公共団体からの補助金

参照元:e-GOV法令検索|消費税法

印紙税

事業譲渡契約書には、印紙税が発生します。以下のように金額により、課税される金額が変わります。記載なしの場合にも、200円発生することに注意しましょう。

記載なし200円
1万円未満
1万円~10万円以下200円
10万円~50万円以下400円
50万円〜100万円以下1,000円
100万円〜500万円以下2,000円
500万円〜1000万円以下1万円
1000万円〜5000万円以下2万円
5000万円〜1億円以下6万円
1億円~5億円以下10万円
5億円~10億円以下20万円
10億円~50億円以下40万円
50億円超60万円

参照元:e-GOV法令検索|印紙税法

登録免許税

事業譲渡による会社売却では、登録免許税がかかる場合があります。とくに不動産の所有権を移転する場合は、登録免許税が発生します。この登録免許税は、不動産の登記の書き換えを行う際に発生する税金のことを指します。

登録免許税の税金課税額は、土地については固定資産税評価額の2%、建物については固定資産税評価額の2%となっています。

参照元:e-GOV法令検索|登録免許税法

不動産取得税

事業譲渡したものの中に不動産がある場合は、株式売却をしたケースとは異なり、不動産を売却したということになります。そのため、不動産を売却する場合は買い手に不動産取得税の支払い義務が生じます。

売却対象が不動産である場合は、売却益や売却価格に応じて不動産取得税が課税されます。不動産取得税は、課税標準額 × 税率 で計算され、税率は4%です。

課税標準額は不動産の時価ではなく、原則として公的な価格である固定資産税評価額が使用されます。一般的に、固定資産税評価額は時価よりも低いとされ、土地の場合は時価の7割程度、建物の場合は5〜6割程度とされています。

参照元:総務省|不動産取得税

まとめ

会社売却に伴う税金は、個人株主と法人株主で異なる要素があります。個人株主の場合は、譲渡所得やみなし配当による課税、所得税や住民税の計算方法が重要です。一方、法人株主は会社売却により得た利益に対する法人税や消費税、印紙税などが課税されます。さらに、事業譲渡に際して不動産の移転登記が発生する場合は、登録免許税や不動産取得税も考慮しなければなりません。
節税対策としては、会社分割や役員退職慰労金の活用、第三者割当増資などが挙げられます。これらの対策を組み合わせることで、売却時の税負担を最小限に抑えることが可能です。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。