会社分割で役員に退職金はどうなる?計算方法や損金算入の可否などを解説!

「会社分割で役員に退職金は支払われるのか」、「そもそも役員退職金(役員退職慰労金)・会社分割とは何か」、「役員の退職金はどうやって算出されるのか」など、疑問に思っているのではないでしょうか。
本記事では、会社分割における役員への退職金の支払い、役員退職金(役員退職慰労金)・会社分割の概要、会社分割が行われるケース、役員の退職金の計算方法、会社が役員退職金を給付するメリット・デメリット、役員退職金を支給する手続きについて解説します。
目次
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会社分割で役員に退職金は支払われるのか?
退職金は、企業の退職金制度にもとづいて退職した一般社員に対して支払われる金銭であり、役員に対して「退職金」は支払われません。役員が退職した際に支払われる金銭は、一般的に役員退職金、もしくは役員退職慰労金と表現されます。ただし、役員退職金もしくは役員退職慰労金に法的な定義はありません。
企業が役員に役員退職金(役員退職慰労金)を支払うかどうかは、企業の判断に任されています。株主総会の決議で承認を得た場合か、定款に定めている場合、さらに会社分割に伴い役員を退任した場合は、役員に役員退職金(役員退職慰労金)を支払えます。
一般的に企業が役員に役員退職金(役員退職慰労金)を支払うのは、役員が退職した場合です。しかし、会社分割に伴い分掌変更により事実上役員を退職した場合にも、役員に役員退職金(役員退職慰労金)を支払うことは可能です。
役員への退職金は企業の判断に任されている
前述したように、役員へ退職金が支払われることはありません。一方、株主総会の決議で承認を得た場合か、定款に定めている場合は、役員に対して金銭を支払うことが可能です。
上記の金銭は一般的に役員退職金、もしくは役員退職慰労金と表現され、一般従業員に対して支払われる、いわゆる退職金とは性質が異なるものです。退職金と同様に役員退職金(役員退職慰労金)は企業側に支払う法的な義務はなく、支払うかどうかは企業の判断に任されています。
従業員は退職金制度・勤続年数は承継される
会社分割では、従業員の雇用は分割会社に承継されています。そのため、原則として労働条件や退職金制度、従業員の勤続年数は承継されます。(労働承継法3条及び4条)
一方、承継された既存の会社にも退職金制度がある場合は複数の退職金制度が存在することになるため、会社分割後には退職金制度を統一する措置をとるのが一般的です。そのため、退職金制度の統一により従業員に不利益が生じる場合もあります。
上記の問題を解消するために、労働契約承継法7条にもとづき、分割会社には雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めることが求められています。
そもそも役員退職金(役員退職慰労金)とは?
役員退職金とは、取締役や監査役などの役員が任期満了や辞任などで退職した際に支払われる金銭です。役員退職慰労金と呼ばれる場合もあります。役員退職金及び役員退職慰労金については法律上の定義がなく、退職所得として取り扱われます。役員退職金を支給するためには、株主総会の決議で承認を得るか、定款に定めておくことが必要です。
また、一般社員の退職金と同様に、企業が役員に対して役員退職金(役員退職慰労金)を支払う義務はありません。役員に対して役員退職金(役員退職慰労金)を支払うかどうかは、企業の判断に任されています。
退職金との違い
役員退職金と退職金の違いは、退職金規程に従って支給されるかどうかです。一般社員の退職金は、就業規則に記載された退職金規程に基づいて支給されます。就業規則に退職金規程が記載されていない場合、企業は退職金を支給する必要はありません。一方、役員退職金は就業規則に記載された退職金規程にもとづいて支給されるわけではありません。
また、企業が役員退職金を支給するために、就業規則に規定を記載する必要はありません。企業が退職した役員へ役員退職金を支給できるのは、株主総会の決議で承認を得た場合か、定款に定めている場合です。就業規則に役員退職金の規定が記載されていなくても、株主総会の決議で承認を得るか、定款に定めておくことで役員へ役員退職金を支給できます。
役員退職金と退職金のいずれも、企業に支給する義務がない点は同じです。
そもそも会社分割とは?
会社分割とは、もとの会社を存続させたまま、事業に関して有する権利義務の全部、または一部を別の会社へ承継させることです。株式会社・合同会社・特例有限会社だけが会社分割を行えます。
会社分割には、吸収分割と新設分割の2種類があります。
吸収分割と新設分割
吸収分割とは、事業に関して有する権利義務の全部、または一部を既存の会社へ承継させることです。吸収分割する会社を吸収分割会社、分割によって権利義務を承継する会社を吸収分割承継会社と呼びます。
新設分割とは、分割企業の事業に関して有する権利義務の全部、または一部を新規設立した会社へ承継させることです。新設分割する会社を新設分割会社、新設分割によって権利義務を承継する会社を新設分割承継会社と呼びます。
株式会社・合同会社・特例有限会社だけが、分割会社となれます。吸収分割承継会社、および新設分割承継会社になれるのは、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社です。
吸収分割とは?新設分割との違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説
会社分割と事業譲渡との違い
会社分割と事業譲渡の違いは、以下のとおりです。
違い | 会社分割 | 事業譲渡 |
取引先との契約 | 包括承継 | 個別承継 |
雇用契約 | 包括承継 | 個別承継 |
債権者保護手続 | 必要(※承継会社は必ず必要であるが分割会社は不要な場合がある) | 不要 |
会社分割が行われるケース
会社分割が行われるケースは以下のとおりです。
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- 伸びている事業に集中し経営をスリムにする場合
- 経営状況の立て直しをおこなう場合
それぞれのケースについて解説します。
伸びている事業に集中し経営をスリムにする場合
会社分割が行われるケースの1つ目は、伸びている事業に集中し経営をスリムにする場合です。赤字になっている事業や将来性のない事業を別の会社へ承継することで会社の負担を軽減し、伸びている事業に会社の資産を集中させ、効率化を図ります。
経営状況の立て直しをおこなう場合
会社分割が行われるケースの2つ目は、経営状況の立て直しをおこなう場合です。主要な事業が赤字だったり、経営状態が悪化していたりする場合が該当します。事業の一部を別の会社へ承継することで会社の負担を軽減し、会社の資産を集中させることで経営状況の立て直しを行います。
役員の退職金の計算方法
一般的に使用されている役員退職金(役員退職慰労金)の計算方法は以下の2つです。
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- 功績倍率法
- 1年あたり平均法
一般的には、功績倍率法を採用するケースが多いようです。役員退職金(役員退職慰労金)は法的に定義されていないため、支給する金額も法的に定められているわけではなく、相場よりも高くしたり、低くしたりするなど自由に設定することが可能です。
ただし、不当に高く設定していた場合、役員退職金(役員退職慰労金)を損金として参入することが認められない場合があります。
功績倍率法
功績倍率法による役員退職金の計算式は以下のとおりです。
役員退職金(役員退職慰労金) = 退職時の月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率
役員の功績倍率の目安は以下のとおりです。
代表取締役 | 3.0 |
専務取締役 | 2.4 |
常務取締役 | 2.2 |
取締役 | 1.8 |
監査役 | 1.6 |
功績倍率は企業が自由に設定するものであり、法的に定められているわけではありません。
昭和55年の東京地裁判決をもとに規定するケースが多いようです。
たとえば、退職時の月額報酬が70万円である常務取締役が20年勤めて退職した場合、役員退職金は以下のように算出されます。
役員退職金(役員退職慰労金) = 70万円 × 20年 × 2.2(常務取締役) = 3,080万円
1年あたり平均法
1年あたり平均法功績倍率法による役員退職金の計算式は以下のとおりです。
役員退職金(役員退職慰労金) = 1年当たり退職金 × 勤続年数
1年当たり退職金とは、自社と類似した企業における役員退職金の1年当たりの平均額です。前述した功績倍率法で算出した役員退職金(役員退職慰労金)が不当に高額だった場合など、特殊な事情がある場合に採用されます。
会社が役員退職金を給付するメリット
会社が役員退職金を給付するメリットは以下のとおりです。
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- 損金に算入できる
- 会社が社会保険料を負担する必要がない
損金に算入できる
会社が役員退職金を給付するメリットは、損金に算入できることです。会社が給付した役員退職金は全額を損金として算入できるため、高い節税効果が得られます。ただし、支給した役員退職金が不当に高い場合は、損金の参入が認められない場合もあります。
また、退職金を支給した事業年度が赤字になった場合は、一定要件のもと翌事業年度以降の所得と相殺することが可能です。これにより、法人税等の負担を抑えられます。
会社が社会保険料を負担する必要がない
会社が役員退職金を給付するもう一つのメリットは、会社が社会保険料を負担する必要がないことです。役員退職金は社会保険料の適用対象外のため、会社側は社会保険料を支払う必要がありません。
役員退職金の支給を受ける役員のメリット
役員退職金には、給付する会社側にメリットがあるだけでなく、支給を受ける役員にもメリットがあります。役員退職金の支給を受ける役員のメリットは、役員退職金が低い税率で課税されることです。
所得税の計算においては、役員退職金は退職所得に該当します。しかし退職所得は分離課税で課税されるため、ほかの所得よりも低い税率で課税されます。
会社が役員退職金を給付するデメリット
会社が役員退職金を給付するデメリットは以下のとおりです。
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- 資金繰りが悪化する
- 手続きに手間がかかる
- 損金への参入が認められない場合がある
資金繰りが悪化する
会社が役員退職金を給付するデメリットは、資金繰りが悪化することです。役員退職金を給付することで会社の資金は減少するため、資金繰りがうまくいっていない場合には財政面の負担が大きくなります。
手続きに手間がかかる
会社が役員退職金を給付するには、手続きに手間がかかります。
会社が役員退職金を給付するためには、以下のいずれかの手続きが必要になります。
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- 定款で役員退職金の支給について定める
- 株主総会で決議する
定款で役員退職金の支給について定めるケースは少ないため、一般的には役員退職金の支給を株主総会で決議することになります。決議には手間がかかり、株主から反対されたり、トラブルに発展したりするかもしれません。市場の報酬体系は成果主義へと移行しており、役員退職金を廃止する動きもあります。
損金への参入が認められない場合がある
損金への参入が認められない場合があることも、会社が役員退職金を給付するデメリットの一つです。役員退職金の計算方法には、法的な規定がありません。つまり、会社が自由に設定でき、相場よりも高額な役員退職金を支給できてしまいます。
ただし、不当に高い役員退職金を支給した場合は、会社の経費として認められず、法人税の負担が大きくなったり、加算税が課されたりする恐れがあります。
役員退職金を支給する手続き
役員退職金を支給するための手続きは以下の2つです。
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- 定款で役員退職金の支給について定める
- 株主総会で決議する
定款で役員退職金の支給について定める
定款で役員退職金の支給について定めることで、役員退職金を支給できます。定款とは、会社を設立する際に必ず作成する必要がある、会社の名前や事業内容、住所、規則などが記載された書類です。
ただし、役員退職金の支給について定款に記載するケースは少ないです。
株主総会で決議する
役員退職金の支給について定款に記載していない場合は、株主総会で役員退職金の支給を決議し、承認を得ることで役員退職金を支給できます。株主総会は一般株主も参加することから、役員退職金については取締役会に一任する決議が行われるケースもあります。
まとめ
今回は、会社分割における役員への退職金の支払い、役員退職金(役員退職慰労金)・会社分割の概要、会社分割が行われるケース、役員の退職金の計算方法、会社が役員退職金を給付するメリット・デメリット、役員退職金を支給する手続きについて解説しました。
会社分割で役員が退職した場合は、役員退職金制度を定款に定めているか、株主総会の決議で承認を得ることで、役員へ役員退職金を支給できます。
役員退職金は全額を損金算入できるため、高い節税効果が期待できます。ただし、不当に高い役員退職金を支給すると、損金算入が認められないことがあります。本記事で解説した役員の退職金の計算方法を参考に、妥当な金額の役員退職金を支給しましょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。