会社の分割(分社化)で節税効果!分割するメリットや注意点も

Image 1

昨今、経営の効率化や節税、リスクの分散などを目的に企業は分社化を選択することがあります。分社化は、事業ごとに焦点を絞った運営が可能となり、特定のリスクが全体に波及するのを避けられるため、国内の多くの企業で採用されています。

大企業だけでなく、柔軟性と機動性を高めたい中小企業にとっても魅力的な選択肢となっており、会社分割を行う企業は増加傾向にあります。

本記事では、会社分割の節税をはじめとしたメリット、注意点などを詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

会社の分割は税金対策になる!

会社を分割することが、節税対策になるケースがあります。これは、法人税が企業の規模や所得金額によって軽減税率が適用される可能性があるためです。会社を分割して各法人の所得を小さくすることで、全体としての税負担を減らすことが可能になります。

会社を分割することは「分社化」と呼びますが、分社化とは、法人が所有する事業に関する権利義務の全部、または一部を別の法人に承継することを指します。分社化は、主に2つの形態があります。一つは「新設分割」で、これは分割された事業が新設される会社に承継されるケースです。もう一つが「吸収分割」であり、これは既存の他の会社が分割された事業を承継する場合を指します。

新設分割は、分割によって新たに会社を設立し、その新会社が分割事業の権利と義務を引き継ぎます。一方、吸収分割では、分割事業はすでに存在する別の会社に組み込まれます。

会社の分割で節税できる税金とは

会社の分割で節税できる税金は以下のとおりです。

    • 法人税
    • 消費税

法人税

法人税率は通常23.2%ですが、中小企業に対しては軽減税率が適用されます。具体的には2021年3月31日まで(延長可能性あり)は、課税所得金額が年800万円以下の部分に対しては15%の税率が適用され、800万円を超える部分については標準の23.2%の税率が適用されます。

分社化を行い、各分社を中小企業の基準に合わせられれば、それぞれの会社がこの軽減税率の恩恵を受けることが可能になります。

ただし、分社化しても必ずしも税の軽減が適用されるわけではありません。とくに、新しく設立した会社が既存の事業から分割された場合、一定の条件を満たさないと軽減税率の適用を受けられないことがあります。

法人税の軽減税率は、資本金等の額が1億円以下の中小企業に適用され、課税所得が800万円以下の部分に対してのみ適用されます。しかし、資本金または出資金が5億円以上の大企業や、そのような企業と完全支配関係にある法人は、たとえ資本金が1億円以下であっても軽減税率の対象外となります。

消費税

分社化によって新会社を設立する際、消費税の納税義務が免除される可能性があり新規事業者にとってメリットとなり得ます。具体的には、資本金が1,000万円未満の新設法人は、設立後最初の2年間であれば消費税の納税義務が免除される可能性があります。

ただし、すべての新設法人がこの免税を受けられるわけではなく、「特定新規設立法人」の場合はこの免税が適用されません。

特定新規設立法人とは、以下の要件に該当する場合です。

    1. 新規設立法人が、他の法人または個人に支配されている(株式等の50%超を直接または間接に保有している関係にある)。
    2. 上記法人または個人、または当該法人または個人と一定の特殊関係にある法人のうち、いずれかの者の基準期間相当期間における課税売上高が5億円を超える場合。

分社化を検討する際には、消費税の免税資格を得ることが一つの目的となるかもしれませんが、その適用条件や制約は複雑です。そのため、実際に分社化や新会社設立を進める前に、税理士など経験豊かな専門家への相談を検討しましょう。

会社分割の税金はどうなる?税務処理についてわかりやすく解説します!

そのほか、会社を分割することによるメリット

そのほかに会社を分割することによるメリットは以下があります。

    • 交際費の限度額を増やせる可能性がある
    • 資産の共同購入と少額減価償却資産の特例が活用できる
    • 退職金の支給で損金算入ができる
    • 銀行からの融資が受けやすい
    • 経営リスクの分散ができる
    • 事業承継にも活用できる

交際費の限度額を増やせる可能性がある

交際費は事業上必要な接待や慰安、贈答などの費用であり、通常これらは税法上の損金として全額認められないことが多いです。しかし、中小企業の経済活動を支援し、安定した経営を促進するための措置として特例が設けられており、年間800万円までの交際費を損金として認めています。

分社化を通じて新たに中小法人を設立する場合、それぞれの法人で800万円までの交際費が損金として認められるため、全体としてはより多くの交際費を損金計上できる可能性が生まれます。

ただし、この特例は資本金が1億円以下の中小法人に限定されており、5億円以上の会社と完全支配関係にある会社は対象外です。

資産の共同購入と少額減価償却資産の特例が活用できる

中小企業が活用できる「取得価額30万円未満の減価償却資産の損金算入の特例」は、中小企業者が購入する取得価額が30万円未満の減価償却資産について、その取得価額をその年度内に一括して損金処理できるというものです。これにより、資金流動性の向上や節税効果が期待できます。

また、30万円を超える価格の資産を複数の中小企業が共有することで、それぞれの企業における資産の取得価額を30万円未満に抑え、一括損金処理の適用を受けられます。

たとえば、2社が共同で60万円の資産を購入し、それぞれ30万円ずつの費用を負担すれば、両社ともこの特例の適用を受けられます。

ただし、この特例の適用は年間で購入される30万円未満の資産の合計額が300万円までという上限が設定されており、特別償却や税額控除との重複適用は認められていません。

退職金の支給で損金算入ができる

業績のよい大規模な企業で従業員や部門が多い場合、分社化を行い、従業員を転籍させることで退職金の支払いを通じて節税効果を期待することが可能です。

以下のような3つの退職金支払い方法にはそれぞれメリットと注意点があります。

    1. 直接支払いの方法

従業員が転籍時に退職金を受け取りますが、これは勤続年数が長いほど従業員にとっては不利になる可能性があります。

    1. 従業員が転籍後の会社を退職する時に退職金を支給する方法

転籍時には損金計上できませんが、実際の退職時に損金として計上できます。

    1. 転職前の会社が退職給与負担金として転職後の会社に支払う方法

転籍後の会社がこれを収益として計上するため、節税効果が減少する可能性があります。

退職金の支払いは、会社の退職規定にもとづいて行われるべきであり、適切な退職規定がない場合は税務上の問題が生じる可能性があります。

また、法人役員などの勤続年数が5年以下の退職金に対する所得税の優遇措置が廃止されるなど、退職金に関する税法は変更されることがあるため、常に最新の税法を確認し適切な対応をとる必要があります。

会社分割で役員に退職金はどうなる?計算方法や損金算入の可否などを解説!

銀行からの融資が受けやすい

分社化によって会社を複数にすることは、銀行からの融資を受けやすくなる可能性が高まることに寄与します。各分社が独立した法人格を持つため、元の会社の財務状況とは別に融資の審査を受けられ、それぞれが独自の信用基盤で資金を調達することが可能になります。

また、各法人に別の代表者がいれば、それぞれの代表者が連帯保証人となることができ、銀行などの金融機関から見た際に融資のリスク分散が図れます。そのため、より融資を受けやすくなる可能性があります。ただし、これは代表者個人の信用状況にも大きく関わるため、各代表者の財務状況や信用度が重要な要素となります。

経営リスクの分散ができる

一つの企業内で複数の事業を行っている場合、ある事業部の不振がほかの部門にも悪影響を及ぼす経営リスクがあります。この経営リスクを軽減するために、異なる事業を別々の法人として運営する選択肢があります。

これにより、各事業の財務状況がクリアになり、より効果的な経営が可能になります。さらに、特定の許認可が必要な事業を運営する際も、関連する規制を満たすために個別の法人として分けることが求められる場合があります。

事業を別会社として分けることで、各事業の透明性が高まり、経営上の意思決定が容易になるとともに法的要件の遵守も確実になります。

事業承継にも活用できる

優良な中小企業においては企業価値が高騰し、株価が数十倍に跳ね上がる事例がみられますが、後継者への事業承継を計画している際に問題となることがあります。

一般的な対策としては、経営者への退職金の支払いにより会社の利益を減少させ、それによって株価を下げる手法が採用されることがあります。さらに、含み損を持つ資産の売却を通じて株価を調整する戦略も一般的です。

しかし、含み損を抱える資産が売却不可能な場合、たとえば工場用地など、その資産の含み損を顕在化させることが困難になります。そこで、会社分割を行い税制上の非適格分割を利用することで、含み損の顕在化を図り、結果として株価を調整できます。

しかし、この方法は国税庁からの否認リスクを伴うため、実行にあたっては十分な検討と専門家である税理士などとの協議が必要です。

会社分割のメリット・デメリットは?分社化との違いや分割前の準備についても解説

会社分割をする際の注意点

会社分割をする際の注意点は以下のとおりです。

    • 租税回避行為と判断される可能性がある
    • その他経費のコストが増える可能性がある
    • 経費処理の手間が煩雑になる

順に解説します。

租税回避行為と判断される可能性がある

分社化は、適切に実施されれば税負担を軽減できる可能性がありますが、節税を目的として分社化を行うことは、税法上許容されていません。実際に事業を行わない、いわゆる「ペーパーカンパニー」を設立することは、税務当局によって租税回避とみなされるリスクがあります。

その他経費のコストが増える可能性がある

会社を分割して新たな法人を設立する際は、初期費用や維持・運営に関わる諸経費が発生します。たとえば、会社設立の際には登記料や、設立に必要な手続き関連のコストである10~20万円程度がかかるとされています。

さらに、新設された会社では、従業員の社会保険料や福利厚生費、オフィスの光熱費、賃料、通信費などの諸経費が新たに必要になります。事業を拡大し収益を増やすための投資とみることもできますが、短期的には財務に負担となる可能性があります。

経費処理の手間が煩雑になる

分社化により、経理や事務手続きの煩雑さが増します。これまでは一つの会社で経理処理を行っていればよかったものが、新たに設立された会社分の経理業務が加わるため、日常的な記録、監査の対象、税金の申告などがそれぞれの会社について必要になります。

経費に関しても、各社で別々に計上し、各社の財務状況を明確に保つ必要があります。たとえば、経費報告や領収書の管理、経費精算、財務報告書の作成など、さまざまな面での追加作業が伴います。

まとめ

本記事では、会社分割によって節税になる税金の種類や節税メリット、注意点などを解説しました。分社化を通じて法人税や消費税の節税が見込めたり、交際費の限度額を拡大できたりする点は大きなメリットです。一方、これらの税務上のメリットを目的に、実体のないペーパーカンパニーを設立する行為は増えており、その結果として税務当局による厳しい監査が行われています。

分社化を検討する際は、そのプロセス及び結果が税務上もビジネス上も正当であることを確実にする必要があります。事前に適切な要件を確認するとともに、分社化による節税メリットをあらかじめシミュレーションしておくなど、しっかりした準備のうえで行いましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。