株式譲渡とは?事業譲渡との違いや4つのメリット、税金などを解説
会社の経営を後継者に引き継ぐ事業承継。事業承継の方法はいくつかありますが、そのなかでもよく用いられるのが株式譲渡です。
株式譲渡は引き継ぐ後継者のタイプによって3パターンに分かれ、それぞれメリット、デメリットがあります。公認会計士で、M&A・相続・事業承継について豊富な知識をお持ちの株式会社すばる代表取締役の牧田彰俊様に、株式譲渡の手続きの流れや注意するポイントをわかりやすく解説していただきました。
目次
株式譲渡とは
株式譲渡とは、M&Aの手法のひとつです。M&Aには事業譲渡や会社合併もあるので、まずは株式譲渡の概要を抑えたうえで各手法との違いも確認してみてください。
株式譲渡の概要
株式譲渡とは、会社のオーナー(経営者)または株主が保有する株式を譲ることで、会社の経営を買手に引き継ぐ手続きのことです。事業承継による株式譲渡の手続きを考える際、まずは誰が引き継いでくれるのかという、後継者探しと準備を行う必要があります。
個人に譲渡する場合と法人に譲渡する場合の違い
株式譲渡は、個人に譲渡する場合と法人に譲渡する場合で違いがあります。
個人への譲渡では、経営権を譲り、買手から対価を得る形になります。
もしも、個人に無償で譲渡する場合は対価を得ていないため、利益が発生せず、譲渡人(売手)には税金が発生しません。しかし、譲受人(買手)は株式を受け取っているため、贈与税が発生します。
法人に株式譲渡する場合は、買手企業の子会社という扱いになり、経営権はすべて親会社が持ちます。また、法人への株式譲渡では、たとえ無償であっても双方に法人税が課されるため注意が必要です。
株式譲渡・事業譲渡・会社合併との違い
M&Aのなかには、株式譲渡以外にも、事業譲渡と会社合併があります。
事業譲渡とは、会社すべてではなく、事業の一部またはすべてを相手に譲る行為のことです。株式譲渡では取引の対象が「株式」であり、事業譲渡は「事業」を取引します。
また、事業譲渡では、工場機械や設備のような有形資産だけではなく、従業員や顧客、技術などの無形資産のどちらも譲ることが可能です。経営権は買手企業には渡らずに、売手企業にあるままです。
さらに、事業譲渡で引き継ぐ資産は、買手企業が必要なものだけでよく、負債は引き継がなくても問題ありません。
中小企業の事業譲渡 | 特徴やメリット・デメリットを解説!選ぶポイントも
会社合併は、複数の会社をひとつの会社にまとめる手法のことを指します。会社が存続する株式譲渡と異なり、会社合併を行うと吸収された会社は消滅してしまいます。
会社の合併とは何か?種類や成功事例、手続きの流れをわかりやすく解説
事業譲渡と会社合併に関する詳しい内容は、以下の記事を参考にしてください。
事業承継における株式譲渡のパターン
事業承継における株式譲渡のパターンは、以下の3つです。
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- 親族内承継
- 親族外承継
- M&A
それぞれ詳しく解説します。
親族内承継
経営者本人の子息や兄弟、配偶者や娘婿などに引き継ぐのが親族内承継です。経営者の血族、親族が継ぐ方法は社内でも受け入れられやすく、日本ではなじみのある承継方法として認識されてきました。しかし、近年は「子息に苦労をさせたくない」という経営者本人の思い、「会社を継がず別の道を歩みたい」という後継者の思いから、親族内承継を選択しない事例も増えています。
親族内継承ならではのポイントを押さえよう!メリット・デメリットについても解説
親族外承継
親族内に後継者が見当たらない場合、親族以外の役員や従業員などから後継者を選ぶ親族外承継という方法もあります。番頭格にあたる優れた経営陣、また取引先や銀行など外部から人材を取り入れるケースも珍しくありません。
親族外承継の場合、以下の2つのケースがあります。
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- 経営者、あるいはオーナー一族が株主として残り、経営のみ承継する
- 経営権とともに自社株も承継する
経営者あるいはオーナー一族が株主として残り、経営のみを承継する場合は、株は渡さずに、社長のみ交代するというケースです。
従業員承継の方法と流れ!事前に把握しておくべきリスクや注意点を解説
経営権とともに自社株も承継する場合は、経営陣が自社株を取得するMBO(マネジメント・バイアウト)という手法になり、後継者が自社株の取得資金をどう捻出するかという問題が懸念されます。そこで、LBO(レバレッジド・バイアウト)の手法を用いる場合があります。オーナーから経営権を買収する時に、銀行や投資ファンドの資金的なサポートを受けるやり方です。
LBOとは?仕組みやメリット・事例についてもわかりやすく解説!
もともとの会社の関係者が自社株を買うわけですから、承継後にトラブルになるリスクも少なく、ある程度スムーズに進むことが予想されます。一方で、中小企業は社長であるオーナー個人の連帯保証などが付された借入金が残っていることは珍しくありません。そのため、後継者が個人として連帯保証を行うことに踏み切れないケースや、そもそも資金的なサポートを受けるのが難しいケースもあり、結果的にM&Aへと進んでいくこともありえます。
M&A
親族内承継や親族外承継を選択できず、後継者がいないとなると他の企業との合併や事業譲渡、株式譲渡(買収)という形、M&Aによる承継を考える必要があります。
株式譲渡の方法
株式譲渡の方法は、以下の3つです。
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- 相対取引
- 市場買付
- TOB(株式公開買付)
それぞれ詳しく解説します。
相対取引
相対取引とは、取引所を通さずに、買手と売手同士で直接交渉を行う方法のことです。
主に非上場の中小企業が使用する方法で、非上場企業であれば経営者が会社の株式の過半数を保有していることが多いため、相対取引だけで株式譲渡が完結します。
多くの株主に株が分散している場合、個別に交渉する必要があり手続きの負担が大きくなる方法です。
市場買付
市場買付とは、証券取引所を通じて株式を売買する方法です。
上場企業であれば証券取引所を通じて株式を買えますが、 株式を公開していない非上場企業は使えない方法です。買収における株式譲渡では、市場買付はほとんど行われません。
TOB(株式公開買付)
TOBとは、買手が上場企業の株式を取引所外で買い集める方法のことです。
株主があらかじめ買付期間・買取株数・価格を公告して、取引所外で上場企業の株式を買い取ります。
経営権を取得できる50%超の株式を買い集めるために、市場価格よりも高い「プレミアム価格」を提示するのが一般的です。
TOBに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
TOB(株式公開買付)とは?5つのメリットと具体的な流れ、成功事例について解説
株式譲渡のメリット
株式譲渡のメリットを売手と買手の両視点から解説します。
売手のメリット
売手のメリットは、以下の4つです。
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- 手続きが複雑ではない
- 従業員の雇用を維持できる
- 株式の譲渡益を受け取れる
- 株式譲渡にかかる税金を抑えられる
それぞれ詳しく解説します。
手続きが複雑ではない
株式譲渡は、M&A手法のなかでも手続きが簡単な方法です。一般には株式の売買契約を締結し、対価を支払うという流れのみで、株式名簿の書き換えを行えば終了です。
従業員の雇用を維持できる
株式譲渡で事業承継をするケースでは、経営スタイルはそのまま引き継ぎます。従業員との雇用契約もそのままで、組織の形態も変わらないというのは大きなメリットです。事業譲渡の場合とは異なり、取引先との再契約も必要ありません。
株式の譲渡益を受け取れる
売手側には対価が得られますし、廃業のコストもありません。親族外承継で経営陣や従業員が会社を引き継ぐ場合も、もちろん対価が得られます。
株式譲渡にかかる税金を抑えられる
事業譲渡に比べて、株式譲渡では課される税金を抑えることが可能です。
事業譲渡の場合は、売手には法人税として譲渡益の33%が課されます。しかし、株式譲渡で課されるのは、所得税と住民税で譲渡益の20.315%です。
ただし、事業譲渡の場合も、法人内で出た費用や繰越欠損金により、支払う税金を減らすことは可能です。
相続だと控除がありますが、規模によっては高い税率が適用されることもあります。贈与も同様で、高い税率が適用される場合があります。
事業の状況や財務内容などケースバイケースのため、売買を伴う株式譲渡が一概にお得とはいえません。ただ経験的には他の事業承継の方法よりもお得になるケースが多いと考えています。ですので、株式譲渡を検討している場合、まずは専門家に相談してみることをおすすめします。
買手のメリット
買手のメリットは、以下の2つです。
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- 会社経営の実権を握れる
- 自社の成長につなげられる
それぞれ詳しく解説します。
会社経営の実権を握れる
買手のメリットとしては、会社経営の実権を握れる点が挙げられます。
会社法2条3項によると、「株式の過半数を保有する株主はその会社の支配権をもつ」とされています。一般的に、中小企業は発行済株式数が少ないため、M&Aで全株式の取得をしやすい傾向にあるのです。買手側は、全株式を取得することで支配権を行使しやすくなります。また、2/3以上の株式を保有していれば、株主総会の特別決議を行うことも可能です。
自社の成長につなげられる
買手側は、新たな経営者として意思決定をスムーズに実行できます。
譲渡企業のブランドやノウハウといった強み、販売網をそのまま活用できるので、自社だけで事業を拡大するよりもコストと時間を抑えられます。
株式譲渡のデメリット
株式譲渡における、売手と買手のデメリットを解説します。
売手のデメリット
売手のデメリットは、以下の3つです。
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- デューデリジェンスによる問題発覚
- 不採算事業によって譲渡価格が下がる場合がある
- 全株式の譲渡が困難な場合がある
それぞれ詳しく解説します。
デューデリジェンスによる問題発覚
一般的なM&Aの場合には、株式譲渡においてデューデリジェンス(以下、DD)を行う必要があります。売手側が会社の価値やリスクなどを明らかにするため、財務内容をはじめ、法務や税務など多面的に調査することを指します。
買手側にとっては、いろいろな情報が得られるDDですが、売手にとっては交渉を難しくする側面があるのも否定できません。DDは親族内承継や従業員が承継する際は行わないことも多々あります。従業員に資金がない場合は、先にお話ししたLBOを行ったとしても、出せる金額はここまでという結論ありきの交渉の結果で金額が決まることもありえます。結果的に、売手の思うような金額にならないケースもあるのです。
デューデリジェンスについては、以下の記事で詳しく解説しています。
不採算事業によって譲渡価格が下がる場合がある
株式譲渡では、一部の事業だけを切り離してやり取りできません。
会社内に不採算事業があれば、その分マイナス評価をされて譲渡価額が下がる可能性があります。あらかじめ事業譲渡や会社分割で不採算事業を切り離しておけば、高い譲渡価額を期待できます。
全株式の譲渡が困難な場合がある
株は本来、自由に譲渡できるものですが、例外もあります。株式を譲渡するのに許可が必要となり、譲渡制限が設けられているケースです。これを譲渡制限といいます。
会社には公開会社、非公開会社の2種類があります。
上場会社は公開会社で、株の購入許可は必要ありません。もうひとつの非公開会社は非上場会社のほとんどがそうで、譲渡制限が設けられています。原則として、株式の譲渡には取締役会もしくは株主総会の承認が不可欠です。
譲渡制限が設けられていても、親族内の事業承継の場合はそこまで揉めることはありません。オーナー一族が株の過半数を持っているケースがほとんどだからです。しかし、非上場会社でも大規模な企業の場合、金融機関や取引先など株主が多く同意を取らなければならないケースも出てきます。
また1990年以前は、株式会社設立のために7人の発起人が必要でした。そのため創業者が資金を出し、名前だけを借りて登記を行っていたケースも多々ありました。この株を名義株といいます。7人の頭数をそろえるためだけに、出資せず名義株だけ持っているケースが珍しくありませんでした。
名義株を放置しておくと、トラブルに発展するリスクもあります。出資をしている「真実の株主」でないことを明らかにし、名義変更する旨などを書面で残しておき、権利関係を整理しておきましょう。
加えて当時を知る人間が少なくなり、名義株の所在がわからない場合は、後々権利を主張する株主が出てくることも。その時に誰がどう補填するのか、買手側か売手側かなどを明記し、書面化しておくのがポイントです。買手側も、安心して手続きを進められます。
買手のデメリット
買手のデメリットは、以下の2つです。
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- 薄外債務も引き継がれる
- 多額の資金が必要なケースもある
それぞれ詳しく解説します。
薄外債務も引き継がれる
買手は経営権を得る代償として、株だけでなく簿外債務や訴訟リスクなど負の要素も引き継ぐことになります。
簿外債務とは、バランスシート(貸借対照表)上に記載がない債務のことで、未払い残業代や退職給付引当金などが該当します。バランスシート上は問題がなくとも、経営陣へのヒアリングやデューデリジェンスを通して、簿外債務の有無を確認しておくことが大切です。
多額の資金が必要なケースもある
株式譲渡では、譲渡対象企業の資産と負債をすべて引き受けるため、買手側は多額の資金が必要になるケースもあります。
もしも自己資金だけで対価を支払えない場合は、銀行からの借入も検討する必要があります。
譲渡制限がついている株式の譲渡手続き
ここからは株式譲渡の手順や流れを具体的に挙げていきます。
大まかな流れとして、次の6項目に分けられます。
⑴譲渡制限の有無を確認
譲受企業が株式譲渡の手続きを行うにあたり、対象企業の株式の譲渡制限の有無を確認します。
確認の方法は、会社の定款を参照し「株式の譲渡に会社の承認を要する」旨が規定されているかを調べます。株式譲渡制限は会社の登記事項のため、登記簿の「株式の譲渡制限に関する規定」欄で確認することも可能です。
⑵株式譲渡承認の請求
続いて、株式譲渡承認の請求書を作成します。
譲渡制限株式の数や種類譲り受ける人の氏名などを記載します。
⑶株式譲渡承認の通知
先述した譲渡制限のある非公開会社で必要な手続きとなります。承認機関である取締役会(取締役会がない企業では、株主総会で承認)で承認決議が行われ、株式譲渡が承認されたら、株式譲渡請求者に対してその旨を通知します。
⑷株式譲渡契約書の締結
株式譲渡契約書の締結では、請求と通知の前後で株式の売手側と買手側、双方が契約を結ぶもので、主に次のような内容を盛り込みます。
契約書に盛り込む内容 | 概要 |
譲渡合意 | ・株式譲渡に関する合意であることを明記する ・どの会社の、どんな株式を、どういった条件で、何株譲渡するのかなどを具体的に明記する |
譲渡金の支払い方法 | 支払い方法や金額、期限などを明記する |
株式譲渡の表明保証 | ・売手が買手に対して、および買手が売手に対して、記載されている事項が真実かつ正確であることを保証するもの ・たとえば、売手が株の所有者本人であることや、会社の財務状況が適切に作成・開示されていること、事業内容に法令違反がないかどうかなど |
契約解除 | 契約解除になる事由や契約違反などについて明記する |
⑸売手買手にて株式名義書換請求
株式を譲渡しても、株式名簿を書き換える手続きがなされていなければ、書類上は株主であると主張するのが難しくなります。名義書換請求という手続きを行う必要があります。
⑹株主名簿の書き換え
株主名簿記載事項証明書は、買手である新株主が株を譲り受けたことを確認する書類です。
一般的なM&Aの流れでは、デューデリジェンス(DD)は重要です。しかし、親族内承継などの場合はDDをそれほど重視しないこともあります。親族外の従業員や役員が自社株の取得資金を捻出できないケースでは、LBOの形態を選択し、金融機関から借り入れなければならないことも。そのための調査やDDが必須となる場合もあります。
手続きにおいては、以下の書類が必要となります。
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- 株式譲渡契約書
- 株主名義書換請求書
- 株主名簿
- 株主名簿記載事項証明書の交付請求書
- 株主名簿記載事項証明書
譲渡制限がある会社では、上記に加えて取締役会招集通知や取締役会議事録、また株主総会招集に関する取締役の決定書や株主総会招集通知、株主総会議事録、株式譲渡承認通知なども必要です。
株式譲渡における必要書類や手続きの注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
株式譲渡に課される税金について
株式譲渡に課される税金について解説します。親族内での株式譲渡においては、税金が高額になるケースもあるため、確認してみてください。
株式譲渡では所得税等が発生する
株式譲渡で得た所得には、所得税等が課せられます。収入から取得価額・必要経費を引いた所得が譲渡所得です。所得税と住民税と復興特別所得税で売却益の20.315%かかることになります。また親族内承継により相続や贈与の場合、相続税や贈与税がかかります。発生した税金を支払うのは次年度になりますから、税金分の資金を使ってしまわないよう計画をたてることが大切です。
事業承継についての税金の納税猶予や免税が適用される事業承継税制を検討する方法もあります。相続時精算課税制度との併用も可能になりました。
しかし、いくつかの条件を満たす必要があったり、認定が取り消されたりした場合には、相続税よりも高率の税額となるリスクも考えられます。
また資産を管理会社に任せている場合、売却益が資産管理会社に入る場合は法人税等が発生します。所得が多い場合、法人税の方が支払う税金は安くなることもあるのです。
事業承継における株式譲渡は専門的な知識が必要となります。手続きも煩雑で、税金の問題ひとつ取っても、企業ごとに事情が異なるのが実情です。株式譲渡を親族内でするのか、親族外にするのか、またM&Aを用いるのかによってもケースバイケースです。専門知識に長けた専門家のアドバイスをあおぐことをおすすめします。
親族内での相続では、税金が多額になる可能性がある
贈与を行うケースでは、課税方法は2通りです。ひとつは年間110万円までは年金がかからない暦年贈与という方法。もうひとつは相続が発生した時にあらためて贈与財産と相続財産を合わせて計算、課税する相続時精算課税という方法です。なお、一度相続時精算課税を適用すると、年間110万円までの非課税枠は利用できなくなる点に注意しましょう。
少しずつ贈与する暦年贈与であれば、年間110万円までは贈与税が課税されず、相続税の課税対象となる資産も減らすことで節税効果が期待できます。一方、相続時精算課税は60歳以上の祖父母や父母から20歳以上の子や孫へ贈与をする場合、生涯2,500万円まで贈与時に贈与税がかからず、相続時に計算する制度です。
つまり、贈与する立場の人が亡くなったら、あらためて相続財産に加えて相続税を計算する必要が出てきます。贈与、相続のいずれにしても、税金をどうするか熟考し、プランニングして進めていかなければならないでしょう。
株式譲渡した際の確定申告や税金に関する詳しい内容は、以下の記事を参考にしてください。
株式譲渡する際の注意点
実際に株式譲渡の手続きを行う時に、どんなポイントに気をつければいいのでしょうか。知っておくべきこと、注意点を解説します。
株券発行会社と株券不発行会社の手続きの違い
株式譲渡において、株券発行会社と株券不発行会社では手続きが異なります。
定款や会社の登記情報などで確認しておかなくてはなりません。
2006年の会社法により、定款により株券を発行することを定めているのが株券発行会社、それ以外の会社が株券不発行会社となります。しかし、会社法施行前の株式会社は定款を変えない限りは、以前のまま、株券発行を義務づけられている状態です。
株券不発行会社では、売手と買手の合意で株式譲渡が行えます。株式譲渡の対抗要件、つまり第三者に株主だと主張するために、株主名簿の名義書換を行います。株券発行会社で株式譲渡を行う際、売手と買手の合意のみならず、株券を交付することを条件とするのが一般的です。
契約の合意は両者で取る
最終条件の交渉には、互いの認識を合わせる必要があります。両者に合意がなければ、後々トラブルの元となりえます。
株式譲渡の成功事例
最後に、株式譲渡の成功事例を3つ紹介します。
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- 手袋メーカー「スワニー」の株式譲渡
- 阪和興業によるシンクスの株式譲り受け
- Kyoto Roboticsが日立製作所へ全株式譲渡
株式譲渡を実施した理由や進め方などをチェックし、自社の円滑なM&Aのヒントにしてみてください。
手袋メーカー「スワニー」の株式譲渡
手袋メーカー「スワニー」は、主に高機能手袋の製造で知られており、アウトドアブランドやリハビリ用手袋としても評価を受けている企業です。
しかし、創業者が高齢化し、後継者問題に直面しました。経営の継続性を確保するため、同社は2022年に、日本共創プラットフォーム(JPIX)に全株式を売却しました。
JPIXは、後継者がいない企業に対して事業承継をサポートするプラットフォームであり、スワニーの事業継続を図ることができました。
このM&Aにより、スワニーは引き続きその技術力を活かし、事業を維持・拡大しています。また、JPIXが持つ経営資源を活用し、国内外でのさらなる成長が期待されています。
引用元:https://japanpix.co.jp/2022/11/30/news_20221130/
シンクスによる阪和興業への株式譲渡
シンクスは、工作機械や木工機械の設計・製造を行う企業で、技術力に定評があります。
しかし、市場の変化に対応するためにはさらなる経営資源が必要でした。
2024年、投資ファンドである株式会社マーキュリアインベストメントは、シンクスを阪和興業株式会社に全株式を売却しました。
阪和興業は、資源や鉄鋼、機械関連の事業を展開する商社であり、シンクスの技術を活かして事業領域の拡大を目指しています。
この買収により、シンクスは安定した資金調達が可能となり、さらなる技術革新が期待されています。また、阪和興業にとっても、自社の機械関連事業の強化に寄与するシナジー効果が得られています。
引用元:https://www.hanwa.co.jp/ms/data/pdf/news/20240801_4693.pdf
Kyoto Roboticsが日立製作所へ全株式譲渡
工場向けロボット開発を手掛けるKyoto Roboticsは、2021年に日立製作所に全株式を売却しました。
Kyoto Roboticsは、最先端のロボット技術を持つベンチャー企業であり、日立との統合により、技術開発と製品化が加速しました。
日立は、同社の技術を活用し、工場の自動化ソリューションの提供を強化することで、競争力を高めています。このM&Aにより、ロボット技術の発展と市場拡大が期待されています。
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2021/04/0408.pdf
まとめ:株式譲渡は専門家に相談しながら慎重に進めよう
本記事では、株式譲渡の概要から売手と買手双方のメリット・デメリット、株式譲渡にかかる税金などを網羅的に解説しました。
株式譲渡は、売手なのか買手なのかによってメリットとデメリットが大きく変わります。また、譲渡先が親族か親族以外かによっても、注意する点が異なります。株式譲渡を検討しはじめたら、まずはM&Aの専門家に相談してみましょう。
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▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。