有限会社の株式譲渡とは?手続き方法や譲渡価格の決め方などを解説

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有限会社の株式譲渡は、事業の成長や承継において重要なステップです。この記事を通じて株式譲渡のプロセスを明確に理解し、適切な価格設定の方法を学べるでしょう。経営者や株式の所有者だけでなく、将来的に事業承継や事業拡大を考えている方もぜひ参考にしてください。

目次

そもそも有限会社とは?

有限会社は、2006年の会社法施行により新設ができなくなった企業形態を指します。株式会社や合同会社と異なり、設立時の最低資本金に300万円以上が求められ、社員(出資者)数が50人以下に限定されていました。

有限会社は閉鎖的な小規模企業に適しており、出資者の公募が許されないなど資本増加の方法にも制限がありました。しかし、現存する有限会社(旧有限会社)は「特例有限会社」として存続しており、会社法の規定により株式会社としての取り扱いを受けています。

参照:整備法2条1項

現存の有限会社は「特例有限会社」

2006年の会社法施行以降、新たに有限会社を設立することはできなくなりましたが、既存の有限会社は「特例有限会社」として存続できます。特例有限会社は株式会社に関する会社法の規定の適用がありますが、一定の特則が定められています。そのため、これらについては従来の有限会社と同様の取扱いをすることが可能とされており、有限会社としての特徴を維持しています。

特例有限会社は、株式会社への組織変更を選択できます。組織変更を行う場合は、株主総会の特別決議(総株主の半数以上でかつ、総株主の議決権の4分の3以上の賛成)が必要です。組織変更後は、株式会社としての規定が適用されることになります。

有限会社と株式会社の違い

有限会社と株式会社の主な違いは、資本金の最低額や役員の人数、資金調達の方法にあります。有限会社は株式の発行は可能でしたが、公開はできず、株式会社に比べて資金調達の選択肢が限られていました。

また、有限会社は役員の人数が1名以上でよく、取締役会や監査役会の設置はできないとされています。(参照:整備法17条)。一方、株式会社では取締役会を設置する場合は3名以上が必要とされています。

【有限会社と株式会社の違い】

 有限会社
(特例有限会社)
株式会社
最低資本金額300万円1円
資金調達株式の発行は可能だが、公開はできない株式の発行も公開も可能で、資金調達の幅が広い
役員の任期任期制限なし通常2年、最長10年
取締役の人数1名以上(取締役会の設置はできない)1名以上(取締役会を設置する場合は3名以上)

有限会社は株式譲渡できるのか?

特例有限会社は、株式会社の一形態として扱われます。そのため株式の譲渡は可能ですが、譲渡には制限があります。

特例有限会社の株式譲渡には、原則として株主総会での決議が必要です。すべての株式に譲渡制限が設けられており、株主間での譲渡以外については、会社の承認を得なければ株式を第三者に譲渡できません。このため、株式譲渡を行う際は、株主総会での承認や定款の変更など適切な手続きを踏む必要があります。

譲渡価格の決め方については、会社の財務状況や市場価値、将来の収益予測など、多くの要因を考慮して決定されます。価格算出の方法は複雑で専門的な知識が求められるため、M&Aアドバイザーや会計士などの専門家の意見を仰ぐことが一般的です。

有限会社を株式譲渡・売却する理由

有限会社の株式譲渡や売却は、多様な動機に基づいて行われます。経営者が引退を考えた際、後継者の不在や引退後の生活費確保のために会社を売却することが一般的です。高齢による健康問題も、経営からの撤退や事業承継を加速させる重要な要因となります。

また、経営者が早期リタイアを望む場合や、転居・移住などで遠隔地での経営が難しくなった場合にも、会社売却が選択肢に上がります。

後継者がいない

経営者が高齢になり、引退を考えているにもかかわらず、後継者がいない場合は株式譲渡・売却を検討することがあります。とくに、経営者の子供が会社の経営に関心を示さない場合や、適切な後継者候補がいない場合には、外部の第三者への株式譲渡・売却が選択肢となります。

後継者不在の問題は、中小企業の事業承継において大きな課題となっています。事業を存続させるためには、経営者の引退前に後継者を見つけ、計画的に事業承継を進める必要があります。しかし、適切な人材が見つからない場合は、株式譲渡・売却による第三者への承継も検討せざるを得ません。

人材不足

会社が成長・発展するためには、優秀な人材の確保が不可欠です。しかし、中小企業では人材の確保や育成が困難なケースが少なくありません。とくに、専門性の高い分野での人材不足は深刻で、事業の継続や拡大の障害となっています。

このような人材不足に直面した場合、経営者は株式譲渡・売却を検討することがあります。大手企業や同業他社への株式譲渡・売却により、必要な人材を確保し、事業の継続、発展を図れます。

休業・廃業したい

経営者の高齢化や健康上の理由、事業環境の変化などにより、有限会社の休業・廃業を検討するケースがあります。休業・廃業の際には、会社の清算手続きを行う必要がありますが、この過程で株式譲渡・売却が選択肢となることがあります。

株式譲渡・売却により、会社の事業や資産を引き継いでもらうことで、清算手続きを簡素化できる場合があります。また、譲渡・売却先が会社の債務を引き受けてくれる場合は、債権者との交渉も不要になります。休業・廃業を検討する際は、株式譲渡・売却によるメリットも考慮に入れる必要があります。

有限会社を譲渡するメリット

有限会社の株式譲渡は、多くのビジネスオーナーが直面する事業承継や資金調達の問題を解決する有効な手段です。株式譲渡により、経営権の移行はもちろん、会社の知的財産や人材などの資源を維持しながら、新たな段階へと進むことが可能になります。以下では、有限会社の株式譲渡がもたらす主なメリットを解説します。

事業承継ができる

有限会社の株式譲渡は、事業承継の有効な手段の一つです。とくに後継者不在の場合や、親族内に適切な後継者がいない場合に、第三者への株式譲渡による事業承継が選択肢となります。

株式譲渡により新しい株主を迎え入れることで、会社の存続と発展が可能になります。また、現経営者の引退に伴う世代交代も円滑に進められます。事業を譲渡せずに廃業するよりも、株式譲渡による事業承継のほうが、会社の価値を継承できるというメリットがあります。

従業員の雇用を守れる

株式譲渡により、従業員の雇用を維持できます。事業を譲渡せずに廃業した場合、従業員は職を失ってしまいます。しかし、株式譲渡により新たな経営者を迎え入れることで、従業員の雇用を維持できます。譲渡先との間で雇用契約の承継や労働条件の維持について合意しておくことで、従業員の雇用を守れるのです。

取引先との関係を維持できる

株式譲渡は取引先との関係を維持し、ビジネスの継続性を確保します。事業を譲渡せずに廃業してしまうと、取引先との契約が終了し、長年築いてきた信頼関係が失われてしまいます。

一方、新しい経営体に移行しても、取引先との契約や合意はそのまま継続されるため、ビジネスの安定性を保ちながら新しい経営戦略を展開することが可能です。譲渡先選定の際は、取引先との関係を考慮し、取引先にも受け入れられる譲渡先を選ぶことが大切です。

売却益が得られる

株式譲渡を通じて、売り手は売却益を得られます。会社の資産価値や収益力に見合った適切な価格で株式を譲渡することで、現経営者は相応の対価を得られます。それにより、経営者が退職を考えている場合は、譲渡による売却益は引退後の生活資金に充てることも可能です。

また、売却益は現経営者の引退後の生活資金だけでなく、新たな事業の立ち上げ資金などにも活用できます。さらに、株式譲渡で得た資金を従業員への退職金や、取引先への債務の弁済に充てられます。

特例有限会社を買収する理由

特例有限会社の買収は、多くのビジネスチャンスがあります。既存の顧客基盤の利用、確立されたブランド名の継承、そして事業の迅速な拡大が含まれます。例えば、新しい市場に進出しようとする企業が、特例有限会社を買収することで、その市場での立ち上げ期間を短縮し、リスクを低減できます。

特例有限会社の買収は、経営資源の効率的な再配分を可能にし、新たな経営戦略の実施により、企業価値を高める機会をもたらします。また、買収によって得られるシナジー効果は、長期的な競争力の向上に寄与する可能性があります。

有限会社を買収するメリット

有限会社を買収することには、いくつかのメリットがあります。ここでは会社存続のためのコスト削減や社歴の長さのアピール、決算公告義務の不要性という3つの主要なメリットについて解説します。

会社の存続のためのコストを抑えられる

有限会社を買収することで、会社の存続に必要なコストを抑えられます。新たに会社を設立する場合、登記費用や定款作成費用、印鑑作成費用などの初期費用がかかります。

しかし、既存の有限会社を買収する場合はこれらの費用を大幅に節約できます。また、有限会社の買収では従業員の雇用契約や取引先との契約を引き継げるため、事業の継続性を維持しながらコストを抑えることが可能です。

社歴の長い会社ということをアピールできる

株式譲渡により、社歴の長い会社のブランド価値を継承できます。2006年の会社法改正により、有限会社の新規設立はできなくなりましたが、既存の有限会社は「特例有限会社」として存続することが認められています。

特例有限会社は会社法改正前から存在する会社であるため、社歴の長さを示せます。長い社歴は会社の信頼性や実績を示すものとして、取引先や顧客によい印象を与えられます。

会社の計算書類 公告義務がない

有限会社は、株式会社に比べて計算書類公告の義務がありません。貸借対照表の公告を行わないことで、会社の財務状況を外部に知られずに済むため、経営の機動性や秘密保持の面でメリットがあります。ただし、有限会社でも税務署への申告や債権者からの請求があった場合には、決算書類を開示する必要があります。

有限会社を株式譲渡する手続き

有限会社を株式譲渡する際、主な手続きとして原則株主総会での決議が必要になります。特例有限会社は譲渡制限株式会社とみなされるため、株式の譲渡には特定の承認が必須とされています。株主総会における決議は普通決議により行われますが、承認機関の変更を行う場合は定款の変更が必要になる場合もあります。

株主総会の決議が必要

株式譲渡の承認機関を変更する場合、特例有限会社では取締役会を設置できないため、株主総会での決議が通常の承認方法です。しかし、定款を変更し、特定の条件下で取締役や代表取締役に承認権限を委ねることも可能です。

このような定款の変更は特別決議を必要とし、通常よりも厳格な要件を満たす必要があります。プロセスは経営の機動性を高め、円滑な事業承継を可能にすることを目的としています。

承認機関を変更する場合

株式譲渡のプロセス中に、特定の状況下で承認機関の変更が必要になることがあります。例えば、会社の経営方針に大きな変更が生じる場合や、株式譲渡が特定の法的要件を満たす必要がある場合に行われます。

承認機関の変更は、定款の変更や追加の法的手続きを伴うことがあり、これには株主総会の決議だけでなく、法務局へ変更登記申請も必要になります。

有限会社における定款の変更

株式譲渡を行う際、有限会社の定款に譲渡制限株式の規定が含まれている場合があります。これらの規定は、株式の自由な譲渡を制限し、会社の安定性を保つために設けられています。

定款に基づく制限がある場合、株式譲渡はこれらの規定に従う必要があり、場合によっては定款の変更が必要です。定款の変更は株主総会での決議を経て、法務局へ変更登記申請を通じて正式に行われます。

有限会社の譲渡価格の決め方

有限会社の株式を譲渡する際は、適切な譲渡価格を決定することが重要です。ここでは、純資産方式、類似業種比準方式、収益方式という3つの主要な価格算定方式について詳しく解説します。

純資産方式

純資産方式は、会社の純資産価値に基づいて株式の価値を算定する方法です。純資産方式では、会社の資産から負債を差し引いた純資産額を算出し、それを発行済株式数で割ることで1株あたりの価値を求めます。

具体的には、以下の手順で計算します。

    1. 会社の貸借対照表から資産合計と負債合計を把握する
    2. 資産合計から負債合計を差し引いて、純資産額を算出する
    3. 純資産額を発行済株式数で割り、1株あたりの純資産価値を計算する

純資産方式は会社の資産価値に着目した評価方法で、会社の清算価値を表すものといえます。ただし、この方式では会社の収益力や将来の成長性は考慮されません。

類似業種比準方式

類似業種比準方式は、同業他社の株価や財務指標を参考にして、対象会社の株式価値を算定する方法です。類似業種比準方式では、同業他社の株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)などの指標を用いて、対象会社の株式価値を評価します。

具体的には、以下の手順で計算します。

    1. 対象会社と同業種の上場企業を選定する
    2. 選定した上場企業のPERやPBRを算出する
    3. 対象会社の当期純利益や純資産額に、上場企業のPERやPBRを乗じて、株式価値を算定する

類似業種比準方式は同業他社との比較により株式価値を評価するため、業界の平均的な水準を反映した評価が可能です。ただし、上場企業と非上場企業の違いや、個別企業の特性は考慮されにくいという課題があります。

収益方式

収益方式は、会社の将来の収益力に基づいて株式価値を算定する方法です。収益方式では、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くことで、会社の企業価値を評価します。

具体的には、以下の手順で計算します。

    1. 会社の将来のキャッシュフローを予測する
    2. 割引率(資本コスト)を設定する
    3. 予測したキャッシュフローを割引率で割り引いて、現在価値を算出する
    4. 算出した現在価値の合計から、有利子負債を差し引いて、株主価値を求める

収益方式は会社の将来の収益力を重視した評価方法で、成長性の高い企業の評価に適しています。ただし、将来のキャッシュフローの予測や割引率の設定には不確実性が伴うため、評価の前提条件を慎重に検討する必要があります。

有限会社の株式譲渡事例

以下に有限会社が関連する株式譲渡事例を紹介致します。

有限会社薬宝商事とココカラファインのM&A

2020年1月、ドラッグストア運営のココカラファインが、神奈川県で2店舗の調剤薬局を運営する有限会社薬宝商事を買収しました。

このM&Aの手法は株式譲渡で、ココカラファインの目的は、神奈川県内でのドミナント戦略の強化と、地域におけるヘルスケアネットワークの構築です。

引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP527600_U0A120C2000000/

有限会社ウシオ工産と丸加ホールディングス株式会社のM&A

有限会社ウシオ工産は、後継者不在問題を背景に、丸加ホールディングス株式会社に株式譲渡されました。

ウシオ工産は工業用機械部品の製造・販売を手掛けており、丸加ホールディングスはこの買収を通じて、ウシオ工産の技術力と顧客基盤を取り込み、事業拡大を図ろうとしました。

引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000314.000034075.html

まとめ

有限会社の株式譲渡に関する基礎知識から譲渡の理由、メリットや手続き、価格の決め方まで株式譲渡の全体像を網羅的に解説しました。有限会社の経営者や株主、事業承継や会社売却を検討している方、有限会社の買収を考えている企業にとって有益な情報となれば幸いです。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。