MBOとは何かわかりやすく解説!流れや事例を紹介
「MBOとは何かわかりやすく教えて欲しい」
「MBOの実例を確認したい」
経営判断をする立場の方は、MBOに対してこのような疑問があるでしょう。
MBOは「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」の略で、経営陣による企業買収です。
MBOの特徴を理解できると、経営判断の選択肢が増えるため、企業買収を検討する場合には必須の知識といえます。
そこで本記事ではMBOについて理解するために、次の内容をエクステンド株式会社の沖原厚則さんに伺います。
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- MBOの意味や目的
- MBOの実例
- メリットデメリット
- MBOの流れ
MBOを検討している方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
MBO(マネジメント・バイアウト)とは何か?
MBO(マネジメント・バイアウト)とはどういうものなのか、まずは基本知識を確認しましょう。本章ではMBOについて以下3つを解説します。
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- MBOの意味をわかりやすく解説
- MBOが増えた理由
- TOB、M&A、LBO、EBOとの違い
MBOの意味をわかりやすく解説
MBOとは、M&A(事業買収、合併)のひとつで、日本語では「経営陣買収」です。さまざまなM&Aの手法があるうち、自社の経営陣が現在の株主から自社株を買い取って、オーナー経営者となる場合に使用します。
MBOを実施する際は、経営陣の資産で株式を購入するわけではなく、以下の方法で資金調達を行うのが一般的です。
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- 銀行や投資ファンドからの融資や出資
- SPC(特別目的会社)を設立して資金を調達
資金調達後、株式を買収して独立した経営権を手にできます。このようにMBOは、経営陣に事業を承継したい場合や、経営体制を一新したいときに有効な買収戦略です。
MBOが増えた理由
近年MBOが増えた理由は、大企業と中小企業で背景が異なります。
まず大企業の場合は、高度経済成長期からバブル期にかけて子会社を増やしすぎたことが理由です。
増やした子会社は、親会社の事業と関連性が低く、相乗効果がないため整理のためにMBOを活用しています。
続いて中小企業の場合は、後継者問題が理由です。後継者が見つからないため、現在の経営陣に株式を買い取ってもらう目的でMBOを活用しています。
TOB、M&A、LBO、EBOとの違い
MBOと似た言葉の違いを確認しておきましょう。企業の買収戦略に関する用語はさまざまあるため、中身を理解する必要があります。
各用語 | 特徴 |
MBO(マネジメント・バイアウト) | ・経営陣が株式を購入してオーナー企業化する |
M&A(エムアンドエー) | ・合併、買収の意味がある ・複数の企業が1つになる |
LBO(レバレッジド・バイアウト) | ・今後期待されるキャッシュフローを担保に企業や金融機関から資金調達して買収する |
EBO(エンプロイー・バイアウト) | ・MBOと同様の手法で、従業員が行う |
TOB(テイクオーバービッド) | ・第三者が株式を取得する ・望んでいる買い手ではない場合もある |
いずれも企業買収の戦略ですが、TOBは買収時に行う方法の1つです。MBOを実行する際に、TOBを活用して株式の取得を行うこともあります。
MBOを行う目的
企業がMBOを行う理由や背景はさまざまですが、主な目的はある程度決まっています。
ここでは、MBOを行う目的について以下3つを解説するので参考にしてください。
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- 経営体制の一新
- 上場廃止
- 株主からの脱却
経営体制の一新
MBOを行う目的は経営体制の一新です。経営体制を一新したい理由には、資金効率の見直しや、本業と相乗効果の薄い事業の整理があげられます。
たとえば、MBO実施により事業を整理すれば、資金調達やリソース確保ができるため、本業の改善にあてられます。
経営自体には問題がなく、本業と相乗効果が薄い企業の場合、従業員の雇用確保も容易です。
このように、MBOは経営体制を一新して本業に集中する目的にも活用できます。
上場廃止
MBO行う目的として上場廃止があります。上場しているメリットよりもデメリットが大きい場合もあるためです。
たとえば、上場して株式を公開している場合、以下のメリット・デメリットがあります。
メリット | ・資金調達しやすい ・会社の知名度が上がる |
デメリット | ・社会的責任がある ・運営コストの増加する ・敵対的買収を受ける可能性がある |
このように上場はメリットばかりではないため、MBOを使って上場廃止をするケースもあります。
株主からの脱却
MBOを行う目的は、株主からの脱却もあります。理由として株主は、会社の成長よりも自身の利益を優先しがちであるためです。
ただ、会社としては株主の意見を無視できないので、ときに長期的な戦略を立てにくくなることもあります。
そのため、MBOで株主を一新して、経営に集中できるのは企業にとってメリットです。
有名企業が行ったMBOの事例
有名企業もMBOを行っているため、事例を参考にしましょう。ここでは以下5社のMBO事例を紹介します。
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- すかいらーくのMBO
- 幻冬舎のMBO
- カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のMBO
- 大正製薬のMBO
- ベネッセのMBO
すかいらーくのMBO
すかいらーくはMBOをした2006年当時、業績の悪化に苦しんでいました。そこで、経営陣はMBOによる上場廃止を選択し、国内最大のMBOとして大きな話題になったケースです。
その内容は、一度非上場化して大幅な経営改革を行い、企業価値を上げながら再上場を目指すというものです。
SPCで野村HDと英系ファンドによる出資と銀行の融資を受け、当時の経営陣も少額を出資しましたが、このケースは実質LBOに近く、MBO後に当時の経営陣は解雇されています。
その後、すかいらーくは5年後の再上場を目指して、ガスト、バーミヤンなどブランド別に採算の責任が発生するカンパニー制を導入します。
結果としてすかいらーくのMBOは成功し、非上場化から8年後の2014年に再上場を果たしました。
幻冬舎のMBO
数々のベストセラーを打ち出した、出版業界で名物編集者としても有名な見城社長率いる幻冬舎もMBOを行っています
見城社長は2010年、SPCとしてTKホールディングスを設立します。ジャスダックに上場していた幻冬舎の株式をTOBによって取得し、非公開化を発表しました。MBOの成立後、幻冬舎を存続会社としてTKホールディングスを吸収合併しています。
当時の出版業界は、紙からデジタルへの転換期です。幻冬舎は、ビジネススタイルを見直すためにMBOを行いました。
しかしそれ以前に、幻冬舎のビジネスは大規模な資金調達を予定もなく、上場会社である必要性に乏しかったことが理由だともいわれています。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のMBO
「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)も2011年にMBOを行っています。この事例は、「本当の意味で株主が非上場化の是非を判断」するものとして大きな話題となりました。
CCCの創業者である増田社長は、動画配信サービスの普及に伴い、主力事業であったDVDやCDのレンタルが縮小するなか、事業再構築のためにMBOを決意します。そこで、増田社長が全額を出資してSPCのMMホールディングスを立ち上げ、TOBを発表しました。
このときに取締役会は、株式の非公開化には賛同したものの、株主に対しては「TOBへの応募をとくに推奨しない」という中立の立場を取りました。その背景としては、TOBにおける株式の買取価格が低かったことにあるといわれています。
上場企業のMBOの事例では、買取価格の評価に既存株主が納得いかないケースもみられます。中小企業においても、株価の評価額の決定においては、慎重に進めていく必要があるでしょう。
大正製薬のMBO
大手製薬会社の大正製薬HDは、2023年にMBOによる株式非公開化を発表しました。買収したのは、大手門株式会社で、大正製薬HDの創業家一族で現社長の息子、上原茂副社長が代表を務めています。
大正製薬HDがMBOに踏み切った理由は以下のとおりです。
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- 医薬品部門が2期連続の赤字を計上し立て直しが必要だった
- 上場維持が大正製薬HDの成長戦略にとって障害だった
前身の大正製薬から60年以上、上場を維持してきた大手製薬会社のMBOであったため、話題になりました。
ベネッセのMBO
通信教育会社大手のベネッセは2023年にMBOを行いました。ベネッセHDの創業家と、ヨーロッパの投資ファンド「EQT」の共同です。
ベネッセがMBOを実施した目的は以下のとおりです。
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- 変革事業計画の実現
- 企業価値の向上
- 意思決定の迅速化
ベネッセは教育事業のデジタル化やグローバル展開などを進めたいと考えており、EQTグループのネットワークやノウハウ、経営資源の投入が効果的でした。
また、MBOによって株式を非公開化すると、株主の意見に左右されずに、意思決定をスピーディに行えます。
このように、ベネッセにとって株式非公開化にメリットがあるため、MBOを実施しました。
MBOを行う7つのメリット
MBOを行うと企業にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。
本章ではMBOを行うと得られるメリットについて、以下7つを解説します。
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- 長期的な視点で経営できる
- 従業員の理解を得られやすい
- 意思決定がスピーディになる
- TOBを防げる
- スムーズに事業を承継できる
- コストを削減できる
- 企業情報の秘密保持ができる
長期的な視点で経営できる
上場企業において、株主はいつでも株式を売却できるため、必然的に会社の利益よりも自身の利益を優先しがちです。
そのため、成長性を考えずに短期的な要求をしてしまいます。つまり、株主が多い企業ほどあまり長期的な視点で経営ができないというデメリットがあるのです。
そこで、MBOを行うことで経営陣に経営権が集中し、長期的な視点で経営戦略を建てることが可能になります。その結果、会社の成長につながるのです。また、中長期的な成長戦略を実践できるため、社員や取引先からみても安心できます。
従業員の理解を得られやすい
MBOは、経営陣が株式を買収するため、従業員の理解を得られやすい手法です。
経営陣は変わらず、むしろ経営権が強固になり社内の風通しもよくなるため、従業員のモチベーションアップにもつながります。
一方で、比較対象となるM&Aは第三者に買収されると、経営方針が大きく変わる可能性もあり、従業員が不安を抱えてしまうでしょう。
このように、MBOは従業員目線でも、メリットがある買収戦略といえます。
意思決定がスピーディになる
経営陣以外が株主の場合、意思決定の際に承認を得る必要がでてくるため、時間がかかってしまいます。
しかしMBOを行えば、株主を意識した短期的な収益戦略などに捕らわれる必要がありません。株主の意思=経営陣の意思となり、スピーディに意思決定ができるようになるのです。
また中小企業にとっては、株式の持ち主が社内に集中するため承継しやすいメリットがあります。
他にも次のようなメリットがあります。
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- 経営権争奪を巡るTOB(敵対的買収)からの防衛策
- 事業部門の事業会社化
- 中小企業の事業承継や事業譲渡
など、MBOは幅広い目的に活用される経営戦略です。
TOBを防げる
MBOを行うと、現在の経営陣が株主になります。そのため、TOBを防げるのもメリットです。
TOBの場合は、買い手が企業にとって望ましくない可能性もあります。一方でMBOは現在の経営陣がそのまま株主になるため、不安がありません。
スムーズに事業を承継できる
MBOを行うと、スムーズに事業を承継できるのもメリットでしょう。中小企業の場合、後継者が身内におらず、事業承継に悩むケースもあります。
しかし、MBOを活用すると、企業を信頼できる経営陣に承継できるため、安心して事業を継続できます。
事業承継に関しては「跡継ぎがいない場合、事業を存続させる方法とは?」でも詳しく解説しているので参考にしてください。
コストを削減できる
MBOを活用すると、コストを削減できるメリットがあります。上場企業の場合、上場維持のため、以下のようなコストが必要です。
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- IRや企業情報の開示
- 株主対策
- 株価対策
株式公開は、資金調達も容易になり知名度も上がりますが、上場維持にはコストがかかります。MBOは上場時のコストを削減したい場合にも有効です。
企業情報の秘密保持ができる
MBOを行うと企業の秘密保持ができます。株式を保有するのが、従来の株主ではなく、現在の経営陣になるためです。
流通する株式が減少し、企業秘密を共有するメンバーが限られるので、情報漏洩のリスクを下げられます。
また、上場企業とはちがい一般投資家がいないため、情報開示の場もありません。
情報漏洩を防ぐという面でも、MBOは役立ちます。
MBOを行う上での3つのデメリット
MBOは企業経営を一新する際に役に立つ企業買収方法ですが、デメリットもあります。
ここではMBOのデメリットについて以下3つを紹介します。
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- 上場廃止になる
- 資金調達の手段が限られる
- 既存株主と対立するリスクがある
上場廃止になる
MBOによってすべての株式を経営陣がもつようになるので、上場廃止になります。上場廃止にもメリットとデメリットがそれぞれにありますが、一番のデメリットは資金調達がしづらくなることでしょう。
資金調達の手段が限られる
中小企業がMBOを実施する場合は、自社の株式をすべて買い取るための十分な資金を保有していないケースが多くなります。
金融機関や投資ファンドからの融資や出資を受けたり、SPCを活用したりして、株式購入資金を調達しますが、どの手段においても借りた資金を返済しなければいけません。
株式の購入という、事業に無関係の借り入れが増加する点はデメリットです。
このときに、上場企業で再上場できる企業という見込みがある場合には、VC(ベンチャー・キャピタル)が融資をしてくれるケースもあります。
既存株主と対立するリスクがある
株式を売買するときには、どうしても売り手と買い手の間に利益相反がおこります。一般的に考えて、経営陣サイドはなるべく株式を安く買い取りたいと考える一方で、既存株主は少しでも高い価格で株式を売却したいからです。
これをうまく勧めるためには、既存株主に配慮しながら、用意できる資金と今後の経営などをしっかりと事前に計画しておく必要があるでしょう。準備の方法によっては、既存株主が買い取りに応じず、MBOができなくなってしまう可能性もあり得ます。
MBOを行うときの流れ
実際にMBOを行うときの流れを確認しておきましょう。
MBOを実行する際の流れは以下のとおりです。
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- 企業価値を算出する
- SPCを設立する
- 資金調達をする
- SPCが株式を買い取る
- SPCとMBO対象企業を合併させる
今回の説明ではよく使われるSPCを利用した説明をしています。ただ、SPCは必ずしもMBOに必要というわけではありません。
1.企業価値を算出する
MBOを実行する際は、まず企業価値を算出します。MBOでは株式を取得しますが、その際資金をいくら調達すべきか計画するためです。
企業価値の算出には下表のような手法を使います。
特徴 | 代表的な方法 | |
コストアプローチ | 企業の保有している純資産をもとに企業価値を算出する方法 | ・簿価純資産額法 ・時価純資産額法 |
マーケットアプローチ | 市場価格(株価)を参考にして企業価値を算出する方法 | ・類似会社比準法 ・類似取引比較法 |
インカムアプローチ | 将来的な収益を考慮して企業価値を算出する方法 | ・DCF法 ・配当還元法 ・収益還元法 |
価値を知りたい企業の特徴に合わせて算出方法を選択しましょう。
2.SPCを設立する
MBOを行うときは、株式購入後の受け皿として「SPC(Special Purpose Company)」を設立します。
SPCとは、特別目的会社とも呼ばれ、資産の流動化に関する法律にもとづいて設立できる法人です。簡単に説明すると、SPCには、資産を所有するためだけの箱の役割があります。
MBOを行う場合、よほど小規模な企業でない限り、経営陣がすべての株式を購入できるほどの資金を保有しているケースは少ないでしょう。
そのため、資産を保有するだけが役割のSPCが必要なのです。
SPCについては「SPCとは何か?M&Aにおいて利用する場合のメリットとデメリット、事例などを解説」でも詳しく解説しているので参考にしてください。
3.資金調達をする
SPC設立後は、金融機関から株式取得のために、資金調達を行います。このとき、経営陣が直接金融機関から資金調達をするのではなく、SPCを仲介します。
SPCを仲介する理由は以下のとおりです。
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- 個人資金と分けて資金管理できる
- SPC名義で資金調達すると、経営陣は負債を抱えないため
経営者個人に負債が発生するリスクをさけるためにも、SPCを仲介して資金調達を行います。
4.SPCが株式を買い取る
資金調達後は、既存株主からSPCを仲介して株式を買い取ります。MBOを行う対象企業が上場企業の場合は、TOBを活用するケースもあります。
TOBは第三者から買収されるケースもありますが、この場合は事前に話が済んでいるケースです。
5.SPCとMBO対象企業を合併させる
SPCがMBO対象企業の株式を買い取ったあとは、以下の流れで経営権が移ります。
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- SPCがMBO対象企業の株式を買い取る
- MBO対象企業を子会社化する
- 子会社化したMBO対象企業とSPCを合併する
- 合併した企業の経営陣が株主になる
- 現在の経営陣が経営権を獲得する
このような流れで、MBOが成立します。実際にMBOを行うとなると、企業価値の算出やSPCの設立、資金調達などさまざまな専門知識が必要です。
そのため、MBOを行う際は専門家に依頼し、事前に準備をしましょう。
MBOは企業における買収戦略の1つ
MBOは企業における買収戦略の1つで、経営陣が企業の株式を買い取り、経営権を取得します。
MBOを行う主な目的は以下のとおりです。
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- 株主と経営権利の一新
- コストの削減
- 事業承継
企業によってMBOを行う目的はさまざまですが、現状より改善できる場合は事業規模の大小に関わらず行うべきでしょう。
MBOを行うまでの流れは、専門知識が必要になるため、M&Aや事業承継に強いサービスを利用するのがおすすめです。
「TSUNAGU」は、第三者承継に強いサービスを展開しています。相談と着手金は無料なので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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ディスクリプション
MBOとは「経営陣による企業買収」で、M&Aの1つです。本記事ではMBOの意味や目的、メリットやデメリットを解説しています。実例も踏まえて説明しているので、ぜひ参考にしてください。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。