ビジネスデューデリジェンスでは何をするの?目的・進め方・成功のコツを解説

 

ビジネスデューデリジェンスとは、買収対象企業のビジネス実態や将来性を把握する調査のことです。

今回こちらの記事では、

  • ビジネスデューデリジェンスとは何か
  • ビジネスデューデリジェンスを行う目的
  • ビジネスデューデリジェンスの種類
  • ビジネスデューデリジェンスの進め方
  • ビジネスデューデリジェンスで使える分析方法
  • ビジネスデューデリジェンスを成功させるコツ

などをわかりやすく解説します。ビジネスデューデリジェンスについて詳しく知りたい方はぜひこの記事をご参考にしてください。

ビジネスデューデリジェンスとは

ビジネスデューデリジェンスとは、買収対象企業のビジネス実態や将来性を分析する調査のことです。

将来における買収先の競争優位性や収益の源泉となる強みを、外部環境や内部環境などの視点から分析・調査します。

ビジネスデューデリジェンスは、M&Aの成否にかかわる重要な役割を担っています。買収対象企業の事業内容や資産状況、人事状況を把握しておくことで、事業計画の改善や買収金額の修正、M&A後の経営戦略に役立てることができます。

加えて、ビジネスデューデリジェンスでは、M&A実行後にどのくらいの相乗効果を見込めるかなど、自社とのシナジーといった観点の分析も行います。

ビジネスデューデリジェンスはM&Aの成功に欠かせない重要な作業の一つです。

ビジネスデューデリジェンスを行う目的

ビジネスデューデリジェンスを行う目的は、大きく以下の7つに分けられます。

  • 会社の現状を把握する
  • 会社の将来性を把握する
  • 事業シナジーを明確にする
  • M&Aの判断材料にする
  • バリュエーションの検証・修正
  • 事業計画の修正・改善
  • 財務デューデリジェンスに活用する

会社の現状を把握する

ビジネスデューデリジェンスでは、事業の状況に関する事項を幅広く確認し、会社の状況を客観的に分析します。

客観的に会社の状況を分析するために、外部・内部環境の両面から調査を実施します。外部環境を把握できれば、今後の売上に影響を及ぼすリスクを確認できます。例えば市場状況が変化した場合、問題なく対応できる力を持ち合わせているかなど、買収対象企業が抱えるリスクを判断できます。

内部環境を分析することで、買収対象企業の商品やサービス、人材、技術力などを事前に把握でき、経営統合後に必要な準備をスムーズに進められるでしょう。

ビジネスデューデリジェンスは、買収前に対象企業の現状を客観的に把握し、リスクを顕在化させるために実施されます。

会社の将来性を把握する

ビジネスデューデリジェンスで買収対象企業の取り巻く環境を詳細に分析することにより、対象会社の将来性などを明らかにできます。

ビジネスデューデリジェンスでは市場状況や、競合状況、顧客動向など、買収対象企業に及ぼす影響を多角的に調査し、会社の将来性について予想します。

市場における買収対象企業のポジションを認識できるのは、その一例です。既にある程度のポジションを獲得している企業を買収できれば、市場で優位な位置を一気に獲得でき、将来性・安定性の高いM&Aを実現できるでしょう。

買収対象企業が有する情報から分析するだけでなく、買収先の経営に深く精通している人物からのヒアリングを通して情報を集めるケースもあります。

事業シナジーを明確にする

ビジネスデューデリジェンスは、事業同士の相性の良さを分析する際にも役立ちます。

M&Aを検討する企業は、シナジー効果を期待してM&Aを実行します。シナジー効果とは、2つ以上の企業や事業部門が作用して生み出す効果や機能のことです。

M&Aにより経営資源を統合することで、単に1 + 1=2ではなく、2以上の効果を生み出せれば、M&Aによる高いパフォーマンスを発揮できていると判断されます。

大きなシナジー効果を獲得するためには、適切な相手選びが重要なポイントとなります。ビジネスデューデリジェンスにより、買収によって期待できる事業シナジー効果の程度を明確にすることで、買収対象企業が本当にM&Aにふさわしい相手かどうか見極められるでしょう。

M&Aの判断材料にする

M&Aの判断材料としても、ビジネスデューデリジェンスは役立ちます。ビジネスデューデリジェンスを行うことで、自社とのシナジー効果などを把握できるほか、M&Aの必要性も検討できます。

M&Aはシナジー効果を期待して実施されるものであるため、高いシナジー効果を得ることができなければ実行する必要がありません。

買収対象企業が本当にM&Aの買収先としてふさわしい企業であるかどうか、あるいは自社とのシナジー効果を最大化するにはどのような経営統合を実施すればよいのか、今後のM&Aの進め方を検討する判断材料として、ビジネスデューデリジェンスが役立ちます。

バリュエーションの検証・修正

ビジネスデューデリジェンスでは、シナジー効果の内容や可能性を把握し、買収金額が妥当であるかどうか判断します。

外部・内部環境の視点を踏まえて、当初予想していた買収金額が妥当であるか、バリュエーションの検証をします。バリュエーションとは、企業価値評価のことです。

バリュエーションを検討する際には、自社とのシナジー効果による影響も考慮する必要があります。M&Aで得られるシナジー効果が当初の想定よりも高ければ、買収金額が高まる可能性があります。反対に、当初の想定よりも得られるシナジー効果が低ければ、買収金額を低めに見直す必要があるでしょう。

バリュエーションを検証し、問題があれば買収金額を修正します。

事業計画の収支・改善

M&A後に影響する事業戦略や事業計画の修正も、ビジネスデューデリジェンスを行う目的に含まれます。

ビジネスデューデリジェンスでは、買収対象企業の強みや弱み、市場の将来性などを分析します。そして、分析の結果をもとに買収後の事業計画の修正を行います。

M&Aでは、買収対象企業が用意した事業計画を受け取るケースがあります。買収対象企業が作成した事業計画は自社をアピールする目的で作られた場合が多く、希望的観測が含まれている可能性も否定できません。

ビジネスデューデリジェンスにより、買収対象企業の強みと弱みを客観的に分析した上で、買収対象企業が作成した事業計画の正当性を確認するのです。

買収対象企業の強みや弱み、市場の将来性を把握した上で、事業計画の収支や改善を行うことは、ビジネスデューデリジェンスを行う重要な目的の一つです。

財務デューデリジェンスに活用する

ビジネスデューデリジェンスで対象となる範囲において、財務的、計数的な視点から調査・分析を行います。

財務デューデリジェンスは買収対象企業の財務状況や将来の収益性を確認する調査です。

財務諸表の誤りを見つけるだけでなく、事業計画のベースとなっている数字を確認する作業も調査内容に含まれます。

ビジネスデューデリジェンスと財務デューデリジェンスは密接な関係にあり、調査範囲は重複しやすい傾向にあります。そのため、ビジネスデューデリジェンスで得られた結果を財務デューデリジェンスに共有し、調査を進めることになります。

ビジネスデューデリジェンスの種類

ビジネスデューデリジェンスでは、複数の観点から買収対象企業を調査するのが一般的です。

以下では、代表的なビジネスデューデリジェンスの種類を5つ紹介します。

  • コマーシャルデューデリジェンス
  • オペレーショナルデューデリジェンス
  • ITデューデリジェンス
  • ガバナンスデューデリジェンス
  • サステナビリティデューデリジェンス

コマーシャルデューデリジェンス

コマーシャルデューデリジェンスとは、企業を取り巻く市場状況や、競合状況、顧客動向など、買収対象企業の社外環境を中心に調査する方法です。

買収対象企業が属する市場状況や競争優位性などの外部環境から客観的に調査を行い、M&A実施後のリスクや成長の余地を検討することが、コマーシャルデューデリジェンスの役目です。

市場状況や競合状況、顧客動向といった外部環境の影響を受けない企業は存在しません。コマーシャルデューデリジェンスを活用し、買収対象企業の社外環境を分析することで、買収後の経営戦略に組み入れることができます。

オペレーショナルデューデリジェンス

オペレーショナルデューデリジェンスは買収対象企業の業務フローや生産プロセスといった「事業の進め方」を調査する工程です。

コマーシャルデューデリジェンスが買収対象企業の「外部環境」を分析するのに対し、オペレーショナルデューデリジェンスは買収先の「内部環境」に焦点を当てた分析を実施します。

具体的には、生産や製造コスト、納期に加え、品質や人員、機械設備、コストなどの観点から、買収対象企業が有する生産オペレーションの評価を行います。

オペレーショナルデューデリジェンスでは、M&A実施後において円滑に業務が行えるかどうかの判断が可能です。特に、生産能力を強みとする製造業では、オペレーショナルデューデリジェンスを取り入れるケースが多くなります。

ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスは、企業の情報システムを評価してリスクを予測する調査です。

買収対象企業の情報システムを調査することで、使用しているシステムの違いが及ぼす影響を把握できます。買収後に統合するためのコストや要する時間などをITデューデリジェンスで明らかにできるのです。

経営統合後に複数のシステムを有する必要はないため、システムの統合は欠かせない作業となります。ITデューデリジェンスの重要性は、年々高まっていると言えるでしょう。

ガバナンスデューデリジェンス

企業のガバナンス(管理体制)を調査するのが、ガバナンスデューデリジェンスの役割です。

買収対象企業のガバナンスが、買い手企業のガバナンス基準と同じ程度か、あるいはそれ以上であるかを精査します。例えば、決裁権限や子会社管理が適切に運用されているかどうかについて、買収先の経営陣に対してヒアリングをして確認します。

買収対象企業のガバナンスが買い手企業以下であった場合、M&A実施後のリスク要因となる可能性が高くなります。修正にかかるコストを算出し、買収金額に落とし込む必要があるでしょう。

ガバナンスデューデリジェンスで得られた結果は、法務デューデリジェンスと関連する部分も多く、情報が活用されるケースもあります。

サステナビリティデューデリジェンス

サステナビリティデューデリジェンスとは「ESG」や「SDGs」のような、サステナビリティに配慮した経営をしているかどうかを調査することです。

ESGとは環境や社会、ガバナンスを考慮した事業活動や事業、投資活動のこと。一方のSDGsは、持続可能な開発目標を意味します。

従来のデューデリジェンスの主な対象は「財務」といった収益性のみにフォーカスされていました。しかし、激変する外部環境に対応するためには、財務面のみでは足りず「非財務価値」といったより広範囲での視点を取り入れる必要があります。

買収対象企業が経済や環境などに配慮した活動を行っているかどうか、人権に十分に配慮しているかなどの確認が求められます。

ビジネスデューデリジェンスの進め方

幅広い知識や手続きが必要となるビジネスデューデリジェンスは、専門家を活用して進めましょう。ビジネスデューデリジェンスの一般的な進め方は、次のとおりです。

  • 1.専門家に依頼
  • 2.調査する内容を決定
  • 3.調査資料を開示
  • 4.聞き取り調査を実施する
  • 5.専門家による調査・分析
  • 6.外部環境の分析
  • 7.内部環境の分析
  • 8.シナジー効果等を分析
  • 9.定量評価・実現可能性の検証
  • 10.議場計画を修正・立案

1.専門家に依頼

ビジネスデューデリジェンスを開始するにあたり、まずはコンサルティング会社や公認会計士といった専門家に依頼します。

ビジネスデューデリジェンスは買収企業自身が行う場合もありますが、買収対象企業が属する市場やM&Aに関する高度な知識が求められることから、専門家に依頼するのが一般的です。

財務デューデリジェンスなどと比較すると、ビジネスデューデリジェンスの専門家の数は多くありません。余裕のあるスケジュールで依頼しましょう。

2.調査する内容を決定

依頼する専門家が決まった後、調査する内容を決定します。ビジネスデューデリジェンスの調査範囲は経営に関するあらゆる項目が対象であり、その対象範囲は明確に定まっていません。

調査範囲を決めておかなければ、調査項目が膨大となり、余計なコストがかかるおそれがあります。

専門家の助言をもとに、目的、対象企業の特徴、規模感によって優先順位を決めましょう。

3.調査資料を開示

貸借対照表や損益計算書など、ビジネスデューデリジェンスに必要な資料の開示を買収対象企業に請求します。

請求する際には、買収対象企業が提示していない資料の開示も求めることも可能です。

4.聞き取り調査を実施する

買収対象企業の経営陣に対して、対面でのヒアリングを行います。

資料では見極めることが難しい企業の理念や経営者の人間性などをヒアリングで把握しましょう。

ヒアリングは専門家が実施するほか、自社の社員が行う場合もあります。

5.専門家による調査・分析

資料やヒアリングの内容をもとに、対象企業の事業について調査・分析を行います。

ビジネスデューデリジェンスで発見されたリスクについては、最終契約前に買収対象企業に確認し、対応してもらう必要があるでしょう。

調査・分析の結果によっては、M&Aの実行を取りやめるといった判断に迫られる場合もあります。

6.外部環境の分析

外部環境とは、買収対象企業を取り巻く市場や競合他社、顧客動向などを指します。外部環境の分析を通じて、買収対象企業が抱えるリスクを顕在化させます。

市場状況が変化したり、競合他社に抜かれたり、顧客ニーズが変化したりするなど、買収後に外部環境が大きく変化する可能性は大いにあるでしょう。外部要因を適切に判断できなければ、事業継続が上手くいかない可能性が高まります。

ビジネスデューデリジェンスにおいて買収対象企業の外部環境を適切に分析することで、買収後のリスクを軽減できます。

外部環境の分析では「5フォース分析」や「PEST分析」といったフレームワークが利用されます。

なお、外部環境の分析は、内部環境の分析と同時に行うのが望ましいです。

7.内部環境の分析

内部環境とは、自社のサービスや商品などのことです。M&A実行後において、買収対象企業はどのような商品やサービスを提供できるのか、社会に対してどのような貢献ができるのか分析します。

社会や顧客のニーズを的確に捉えた商品やサービスは、他社に負けない武器となります。内部環境分析によって買収先の持つ強みを明確にすることで、自社の優位性を保てるでしょう。

内部環境の分析では「VRIO分析」、「バリューチェーン分析」といったフレームワークが利用されます。

なお、内部環境の分析は、外部環境の分析と同時に行うと良いでしょう。

8.シナジー効果等を分析

外部環境と内部環境の調査結果に基づいて、競合と比較した際の強みや弱みなどを明確化します。

買収対象企業の強みを活かして、M&A実行後にどの程度のシナジー効果が見込めるか分析します。シナジー効果とは、買収対象企業と売り手企業が組み合わさった際に生まれる大きな相乗効果のことです。買収により、どのような種類・大きさのシナジーが生まれるかを確認します。

同様に、買収によって生じるディスシナジー効果(マイナスの効果)も分析します。場合によってはM&Aを実施した結果、M&Aを行う前より業績が悪くなってしまう可能性もあります。統合により取引先が重複し、売上が低下するといったマイナスの効果も十分に検討する必要があるでしょう。

9.定量評価・実現可能性の検証

シナジー効果とディスシナジー効果の実現可能性を検証します。例えば、M&Aによる販路拡大を目指すのであれば、想定される売上高や顧客数を算出するのはもちろん、買収によって生じるコストも見積もった上でメリットが得られるかどうかを検証する必要があります。

シナジーの定量評価、実現可能性を正しく判断できなければ、M&Aが失敗におわる可能性が高まります。

各項目について定量化(数値化)し、実現の可能性がどのくらいあるのか的確に判断しましょう。

10.事業計画を修正・立案

「9.定量評価・実現可能性の検証」で明らかになった実現可能性をもとに、事業計画の妥当性を見極めたり、事業戦略の立て直しを図ったりします。

当初のバリュエーションが適正な金額でない場合、買収金額の修正も必要です。

買収金額を修正する際の買い手企業における注意点としては、期待できるシナジー効果分を買収金額に加えないことです。

シナジー効果で得られる利益を買収金額に含んでしまうと、受け取れるメリットをすべて支払ってしまうことになります。万一、予想したシナジー効果を見込めなかった場合に大きな損失となってしまうため注意が必要です。

ビジネスデューデリジェンスで使える分析方法

ビジネスデューデリジェンスでは、さまざまなフレームワークを活用して買収対象企業の外部環境や内部環境を分析します。以下では、ビジネスデューデリジェンスで使える5つの分析方法を紹介します。

  • 5フォース分析
  • PEST分析
  • VRIO分析
  • バリューチェーン分析
  • SWOT分析

5フォース分析

5フォース分析は、新規参入の脅威、競合の脅威、代替品の脅威、供給者の脅威、購入者の脅威の5項目から業界構造を分析する手法です。

買収対象企業の脅威となり得る項目に焦点を当てた分析方法で、外部環境を分析する際に利用されるフレームワークです。

5フォース分析の目的は、業界の市場環境を分析・評価し、M&A後の事業戦略に役立てることです。

5フォース分析を行うと、外部環境における5つの競争要因を洗い出すことができます。買収対象企業にとっての脅威とチャンスを把握できるため、M&A実行後の効率的な事業戦略の策定が可能となります。

PEST分析

PEST分析は、マクロ視点でM&Aの対象企業に与える要因を分析・整理するフレームワークです。

「Politics(政治的要因)」、「Economics(経済的要因)」、「Social(社会的要因)」、「Technology(技術的要因)」の4つの頭文字をとってPEST分析と呼ばれています。

PEST分析では、買収対象企業が属する市場において、それぞれが与える要因を分析します。

  • 政治的要因:法令や政策の変更によって買収対象企業が受ける影響を分析します。
  • 経済的要因:景気の動向や、物価の変動、経済成長率や為替などの経済的要因が買収対象企業に与える影響を分析します。
  • 社会的要因:人口動向や教育、流行、文化などの社会的要因が与える影響を確認します。特に少子高齢化が与える影響は大きいため、事前の準備が求められます。
  • 技術的要因:新たな技術が買収対象企業に与える影響を分析します。特に買収先がIT関連の企業であれば、最新技術が登場した際にどのような対応が取られているのか調査する必要があるでしょう。

前述の5フォース分析よりも幅広い視点から外部環境を分析する点がPEST分析の特徴です。

VRIO分析

VRIO分析は、買収先が有する強みや、競合と比較した商品・サービスの優位性を把握する分析手法です。

「Value(経済価値)」、「Reality(希少性)」、「Imitability(模倣困難性)、「Organization(組織)」の4つの頭文字をとり、VRIO分析と呼ばれています。

VRIO分析は買収対象企業の内部環境分析をする際に用いられる手法です。

それぞれの分析目的は以下のとおりです。

  • 経済価値:買収対象企業の商品やサービスが持つ経済的価値を評価します。
  • 希少性:買収対象企業の商品やサービスは競合他社が有していないものかどうか分析します。
  • 模倣困難性:買収対象企業の商品やサービスは他社が真似しやすいかどうかを分析します。
  • 組織:買収対象企業が持つ商品やサービスを活用し続けられる組織能力があるかどうかを分析します。

上記の4項目に「Yes」か「No」で答えることで、買収対象企業に経済価値があるか、他社が模倣できない希少性のある商品やサービスがあるか、また有効に機能する組織能力があるかを把握できます。

バリューチェーン分析

各部門の役割や貢献度、ビジネス全体の流れといった買収対象企業の内部環境を分析対象とするフレームワークがバリューチェーン分析です。

バリューチェーンとは、企業の事業活動で生み出される価値を一連の流れとして捉える考え方です。各事業活動の機能を細かく分類し、どの工程がどれだけの付加価値を生み出しているのか把握した上で、どこに力を注いでいくべきかといった判断を下す際に役立ちます。

また、バリューチェーン分析では企業活動の一つの工程だけでなく、複数の工程が合わさることで生まれる価値を発見することができます。複数の工程によって生じる付加価値は、簡単には他社が模倣しづらい領域であり、大きな強みとなるでしょう。

SWOT分析

SWOT分析は、企業の内部環境、外部環境それぞれの項目において、ポジティブ要素とネガティブ要素を分析する手法です。

分析された各要素は「Strength(強み)」、「Weakness(弱み)」、「Opportunity(機会)」、「Threat(脅威)」の4項目に分類されます。

  • Strength(強み):自社の強みや長所。内部環境のポジティブ要素。
  • Weakness(弱み):自社の弱みや短所。悪影響を及ぼす可能性がある内部環境のネガティブ要素。
  • Opportunity(機会):社会動向や市場変化などにより、買収対象企業にとってプラスの影響を与える外部環境のポジティブ要素。
  • Threat(脅威):社会動向や市場変化により、買収対象企業に悪影響を及ぼす可能性がある外部環境のネガティブ要素。

内部環境と外部環境のポジティブ面とネガティブ面を洗い出すことで、買収対象企業の現状を把握でき、今後の経営戦略の立案に利用できます。

ビジネスデューデリジェンスを成功させるコツ

最後に、ビジネスデューデリジェンスを成功する4つのコツを紹介します。

  • 調査する項目の優先順位を決めておく
  • 社内・社外での協力体制を構築する
  • M&Aの規模に応じて調査範囲を決める
  • 情報管理に細心の注意を払う

調査する項目の優先順位を決めておく

ビジネスデューデリジェンスは調査項目が膨大なため、優先順位を付けて重要なものから調査していくことが重要です。

優先順位は以下のような判断基準をもとに決めると良いでしょう。

  • 買収目的
  • 業界構造
  • 買収対象企業の特徴
  • 買収対象企業の規模

優先順位が曖昧であれば、必要のない部分も調査をしてしまい、余計なコストや時間が発生します。

また、調査範囲も広いため、本来であれば調査しなければならない項目が漏れてしまう可能性もあるでしょう。

買収対象企業に対し、一般的なチェックリストなどの説明が可能であれば実施します。チェックリストを買収対象企業に配布することで、調査項目の抜けをカバーできるだけでなく、対象企業の準備負担も減らせるでしょう。

社内・社外での協力体制を構築する

ビジネスデューデリジェンスを成功させるためには、社内・社外での協力体制を構築することが大切です。

ビジネスデューデリジェンスはM&A実行後の事業計画や経営戦略に影響するため、社内においてビジネスデューデリジェンスを専門に担当する人を設定します。

担当者を設定する際には、ビジネスデューデリジェンスに携わる人の仕事は他の人に割り振り、負担の軽減を図ることが重要です。

ビジネスデューデリジェンスで協力が必要な部署には、あらかじめ連絡しておくことも忘れてはいけません。事前に情報を共有しておくことで、ビジネスデューデリジェンスを円滑に実施できます。

また、外部の専門家を活用することも検討しましょう。同業者のM&Aを実施する場合は買い手企業自身がビジネスデューデリジェンスを実施するケースもありますが、幅広い知識が求められるため専門家の協力を得るのが望ましいです。特に、異業種買収を検討している場合は、専門家の活用は避けられません。

ビジネスデューデリジェンスを円滑に進めるためには、社内外の協力体制を整えておくことが重要です。

M&Aの規模に応じて調査範囲を決める

M&Aの規模に応じてビジネスデューデリジェンスの調査範囲を決めましょう。案件規模が小さい場合は、範囲を絞り込み、案件規模が大きくその分リスクの度合いも高い場合は、調査範囲を広げることが成功の秘訣です。

ビジネスデューデリジェンスを専門家に実施して行う場合、案件規模や内容によって異なりますが、数十万円から200万円とまとまった費用が必要となります。案件規模に応じた調査を行わなければ、買収そのものの利益が少なくなってしまいます。

M&Aの規模を見極め、調査範囲を決定することが、ビジネスデューデリジェンスでは大切です。

情報管理に細心の注意を払う

情報管理に細心の注意を払うことも、ビジネスデューデリジェンスを成功させる秘訣です。

売却企業から開示される情報や資料はすべて機密情報となるため、厳重な取り扱いを意識しなければなりません。

万一情報が漏洩してしまえば、企業の経営に悪影響が出ることはもちろん、これまで労力をかけて実施してきたM&Aが実行できない可能性が高まります。

また、M&Aが進められていることを知ってしまった社員が動揺し、貴重な人材が流出してしまうリスクも出てきます。

情報漏洩によるさまざまなリスクを避けるためには、情報の取り扱いに十分に気をつける必要があるでしょう。

まとめ

ビジネスデューデリジェンスは買収対象企業のビジネスに関する状況を分析する手法です。

買収対象企業の強みや弱み、属する市場環境を分析し、適切な買収金額や事業計画に修正することで、M&Aを成功に導きます。

ビジネスデューデリジェンスは買収企業自身が行う場合もありますが、調査範囲が広いため、想定していたような結果が得られない場合も少なくありません。

ビジネスデューデリジェンスを実施する場合には、外部の専門家の活用を検討しましょう。円滑なM&Aを目指すのであれば、専門家の力が不可欠です。

ビジネスデューデリジェンスを検討している方は、お気軽にご相談ください。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。