M&Aにおけるクロージングとは?当日までの流れや必要条件、手続きや書類まで徹底解説
M&Aにおいて初めて買い手(譲受側)になる場合、クロージングについての基本知識を事前に把握しておくことが重要です。
クロージングとは、M&Aを完了させるための実務手続きのことです。クロージングの準備や手続きに不備があると、相手先との関係が悪化したり、深刻なトラブルが発生したりといったリスクがあります。
本記事では、M&Aのクロージングに関する基本知識や必要な手続き、書類などをわかりやすく解説します。これを読むことで、M&Aのクロージングの準備がしやすくなり、安心して当日を迎えられるようになるはずです。御社のM&A成功に、ぜひお役立てください。
目次
M&Aにおけるクロージングとは
M&Aのクロージングとは、経営権の移転を完了させるための手続きを指します。例えば株式譲渡によるM&Aの場合、売り手が株式を引き渡し、買い手は対価を支払うような手続きです。これらの手続きを実行することで、経営権の移転が完了します。
また、株式の引き渡しや対価の支払いと共に役員の改選などが必要であれば、それもこのタイミングで実行します。
クロージングはM&Aの流れの中でも重要な工程です。引き渡す書類や手続きに不備があると、深刻なトラブルが発生する可能性があるためです。特に書類のやり取りが多い場合や条件設定が複雑な場合は、クロージングに向けて万全の準備をする必要があります。
M&Aのクロージング日・当日の流れ
M&Aのクロージング当日の流れはさまざまですが、一般的な手続きは以下の通りです。
- 株式引渡し(売り手)
- 株式の対価の支払い(買い手)
- 株主名簿の名義変更
- 必要に応じて登記手続き
M&Aのクロージングにおいては、上記の手続きを当日になって一気に進めることはほぼありません。通常、クロージングの1週間程度前から前日までにかけて、売り手と買い手が協議をしながら準備を行います。また、すべての手続きが完了した後には、調印式や挨拶などのセレモニーが行われることもあります。
M&Aのクロージングに要する期間
M&Aのクロージングに要する期間は、一般的に3〜6カ月程度です。ただし、中小企業による規模の小さいM&Aの場合、数日~1カ月程度で済むこともあります。反対に、時間を要する場合はクロージングに1年以上を費やすこともあり得ます。
通常のM&Aでは、譲渡契約書の締結後、一定期間を経てからクロージングの手続きが行われます。そのため、譲渡契約書の締結日とクロージング実施日(最終的な成約日)は異なります。これを踏まえて、本記事でいう「M&Aのクロージングに要する期間」とは、譲渡契約書の締結日からクロージング実施日までの期間を指します。
M&Aにおけるクロージングまでの流れ
初めてM&Aを実行する場合は、クロージングを含む全体の流れを把握しておくことも重要です。そうすることで「次のステップでは、どのような準備をすればよいか」「M&Aをクロージングする際のポイントは何か」などを理解しやすくなります。M&Aをクロージングさせるまでのステップとしては、全部で以下の7つがあります。
- 1.M&A仲介会社や専門家への相談・契約
- 2.企業価値算出(株価算定)
- 3.M&Aの相手先の選定
- 4.トップ面談・交渉
- 5.基本合意の締結
- 6.デューデリジェンス(DD)の実施
- 7.最終合意の締結
1.M&A仲介会社や専門家への相談・契約
売り手側も買い手側も、クロージングに向けて最初に取り組むべきことは、M&Aを支援してくれる専門家を選ぶことです。主な依頼先は以下の3つです。
- M&A仲介会社
- マッチングプラットフォーム
- 国(都道府県)の支援機関 など
上記のうち1つに相談すると、最終的には二者(例:M&A仲介会社とプラットフォーム)または三者(M&A仲介会社、マッチングプラットフォーム、国の支援機関)が連携して支援してくれるケースもあります。
専門家に相談しないと、知識不足が原因のトラブルや情報漏洩などのリスクが生じる可能性があるため、専門家に相談することを基本としましょう。
2.企業価値算出(株価算定)
売り手側が非上場企業で会社ごと売却したい場合、なるべく早い段階で専門家に「企業価値算出(株価算定)」を依頼するのが理想です。なぜなら、非上場企業の場合、税務上の株価とM&Aで取引される株価がイコールではないからです。
自社のM&Aの相場を知っておくことで、適正な売却価格の設定が容易になります。ただし、同じ企業でも、算定方法や着目点が異なれば株価(企業価値)が変わることには留意しましょう。
なお、買い手側も、相手先の選定やその後の交渉などの段階で、相手先の企業価値の算出が必要になります。
3.M&Aの相手先の選定
買い手はM&Aの相手先を絞り込んでいきます。一般的なM&Aの場合、クロージングまでの間でこのステップが最も時間を要します。このステップはそれほどに重要であり、M&Aの成功に大きな影響を与えるのです。
M&Aの相手先の選定は、M&A仲介会社とプラットフォームのどちらを選ぶかによって、内容が変わってきます。
- M&A仲介会社:情報提供を待つ
- プラットフォーム:自身で検索をかけて情報収集する
さらに、M&Aの相手先を選定する際のポイントは、以下の通りです。
- 事業内容や社歴
- 事業シナジー
- 業績や財務内容
- 営業エリア
- 企業や事業を売却したい理由 など
4.トップ面談・交渉
買い手が会社や事業の買収意向を示した後には、トップ面談や条件交渉が行われます。トップ面談に参加するメンバーとしては、以下のようなパターンがあります。
- 両社の経営者
- 売り手の経営者と買い手の経営層
- 売り手の経営者と買い手の担当者
これらの交渉においては、売り手または買い手を支援する専門家が同席することもあります。トップ面談では、案件概要だけではわからないM&Aの詳細や、経営者の想いや条件などのヒアリングが実施されます。トップ面談の所感が、買い手から意向表明書が出されるか否かを左右します。
5.基本合意の締結
トップ面談や条件交渉の結果、両者がM&Aに向けて前向きになった段階で「基本合意書」の締結が行われます。基本合意書を取り交わすことで、買い手に対して独占交渉権が付与され、法的な拘束力も生じます。
M&Aにおける基本合意書には、以下の内容が盛り込まれるのが一般的です。
- M&Aの基本的な合意内容
- 選択されるM&Aスキーム
- 譲渡価額
- クロージングまでのスケジュール など
※入札方式のM&Aの場合、このステップは省かれます。
※上場企業の場合、基本合意書が簡略化された書面になる場合もあります。
6.デューデリジェンス(DD)の実施
基本合意の締結後は、デューデリジェンス(Due Diligence)が行われます。デューデリジェンス(DD)の一般的な目的は、投資をする側が投資対象の価値とリスクを洗い出すことです。M&AにおけるDDでは、買い手が売り手に対して、以下のような多角的な観点から調査と評価を行い、クロージングすべきかを判断します。
- 財務DD:業績や収益力など
- 事業DD:対象企業の事業可能性など
- 法務DD:訴訟トラブルなど
- 税務DD:税務リスクなど
- ITDD:既存システムの有効性など
- 人事DD:労使関係など
7.最終合意の締結
デューデリジェンスと最終交渉が終わると、クロージング前の最終契約書を締結します。一般的に、M&Aの最終契約書には以下の内容が盛り込まれます。
- 譲渡方法
- 譲渡価額
- 表明保証
- 誓約事項
- クロージングの前提条件
- 上記に違反した場合の補償
最終契約書を締結すると、その内容に沿ってM&Aをクロージングするための準備手続きに入ります。
※上場企業の場合、最終契約の締結は金融商品取引法などの法令の対象となるため、最終契約の内容を開示・届出する必要があります。
M&Aにおけるプレ・ポストクロージング手続き
これからM&Aを行う予定の方は、M&Aの現場でよく使われる「プレクロージング」と「ポストクロージング」についても知っておくとよいでしょう。それぞれの意味は次の通りです。
- プレクロージング:クロージングの準備
- ポストクロージング:クロージング後に義務づけられた手続き
プレクロージングとポストクロージングのいずれも、M&Aをスムーズに進めるのに必要な過程です。
プレクロージング
M&Aのプレクロージングの概要は、以下の通りです。
- 内容:クロージングの事前準備
- 実施タイミングや期間:クロージングの数日前程度~前日
- やるべきこと:チェックリスト作成、必要な書類の準備など
プレクロージングは、M&Aのクロージングを不備なく執り行うための段取りといえるでしょう。プレクロージングをどのような体裁で行うかについて決まりはありませんが、チェックリストを作成したうえで、M&Aの関係者が集まって行うのが理想です。そうすることで、漏れている書類や手続きに気付きやすくなります。
ポストクロージング
一方のポストクロージングの概要は、以下の通りです。
- 内容:クロージング後に両者に義務づけられた手続き
- 実施タイミング:クロージング直後
- やるべきこと:M&A実行に必要な決議を取る、最終契約書内の誓約事項の実施、財務諸表の作成、対価の調整など
また、M&Aのクロージング後には、合わせてPMI(post-merger integration 経営統合作業)を進めていく必要があります。PMIはクロージング前でも着手可能なため、経営統合の方針を整理しておくのが望ましいでしょう(PMIの詳細については後述)。
M&Aのクロージング手続き
クロージングの実務は、選択するM&Aスキームによって具体的な内容が変わってきます。まずM&Aスキームの種類を整理すると、以下のような選択肢があります。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 合併、会社分割
- 株式交換、株式移転
- 第三者割当増資
ここからは、それぞれのM&Aスキームの概要と必要な手続きについて見ていきましょう。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手から買い手に株式を譲渡することで経営権を移すM&Aスキームです。他のM&Aスキームと比べて簡便に実行できるため、中小企業のM&Aで数多く使われています。
M&Aで株式譲渡を選択した場合の主なクロージング手続きは以下の通りです。
- 株式譲渡(売り手側)
- 対価の支払い(買い手側)
ただし、上記は中小企業の一般的なM&Aの場合のクロージング手続きであり、上場会社や株券不発行の会社の場合は手続き内容が異なります(詳細は後述)。
上場会社
前述の通り、一口に株式譲渡のクロージング手続きといっても、中小企業と上場企業の場合では内容が異なります。上場企業の場合のクロージング手続きは複雑で、以下によって規定されています。
- 社債、株式等の振替に関する法律
- 証券保管振替機構の規定
上場企業の株式譲渡のクロージングの実務として、株主振替制度に従って口座の保有欄に対象株式の数の増加の記載や記録を受ける必要があります。詳細については証券保管振替機構の公式サイト(外部リンク)をご参照ください。
非上場かつ株券不発行の会社
株券不発行の会社(非上場)の場合、株式譲渡のクロージング手続きは上場企業と比べ簡易です。企業間の株式譲渡は両者の意思表示だけで可能なため、上場企業のような口座への記録・記載といった面倒な手続きはありません。
ただし、買い手企業が対象企業の株式を保有していることを第三者に対抗するためには、以下の実務上の手続きが必須です。
- 株主名簿の名義書換に必要な書類の交付
- 書換済みの株主名簿の写し
事業譲渡
事業譲渡とは、売り手の事業を買い手に売却するM&Aスキームです。全部の事業を売却することもあれば、事業の一部を売却することもあります。買い手は対価として現金を支払い、経営権を得るのが一般的です。事業譲渡も中小企業のM&Aで選択されることが多いスキームです。
事業譲渡のクロージングにおいては、法的に規定されている手続きはありません。一般的なクロージング手続きは以下の通りです。
- 事業譲渡契約の締結
- 事業譲渡に関する特別決議(売り手側)
- 事業を引き継ぐために必要な契約の締結や名義変更(買い手側)
- 事業を引き継ぐために必要な許認可の取得(買い手側)
これらのクロージング手続きの完了後、譲渡事業の引渡し(売り手)や対価の支払い(買い手)を行います。
合併、会社分割
M&Aスキームにおける「合併」と「会社分割」は、それぞれ以下を指します。
- 合併:複数の会社が1つの会社になること
- 会社分割:対象企業の権利義務(全てまたは一部)を既存の会社や新設した会社に承継させること
合併、会社分割のどちらも成立までに一定の期間を要するため、最終契約からクロージングまで期間が空く場合が大半です。合併と会社分割はさらに以下のように区分されます。
- 吸収合併
- 新設合併
- 吸収分割
- 新設分割
それぞれの概要とクロージング手続きについて見ていきましょう。
吸収合併
吸収合併とは、消滅する会社の権利義務の全てを存続する会社に承継させるM&Aスキームであり、合併の中でも多く採用される手法です。例えば、A社がB社に吸収合併される場合、A社が消滅して、A社の事業がB社に承継されます。
吸収合併のクロージングには、法的な手続きは含まれません。最終契約で決められた前提条件が全て満たされれば、効力発生日に吸収合併が成立したと見なされます。
新設合併
新設合併とは、新たに設立される会社に権利義務の全てを承継させるM&Aスキームです。吸収合併と比べ、採用されることはまれです。例えば、A社とB社が新設合併する場合、新たにC社が立ち上げられ、A社とB社の事業が承継されます。
新設合併のクロージングの主な実務としては、以下の項目があります。
- 新設会社の設立登記(これによって効力が発生)
- 消滅する会社の株主に対し、新設された会社の株式を交付
吸収分割
吸収分割とは、対象事業に関する権利義務の全て(または一部)を分割し、これを既存の会社に承継させることM&Aスキームです。例えば、A社の飲食事業を同社から切り離し、既存のB社に承継させることなどが該当します。
吸収分割のクロージング手続きに関しても、法的な義務はありません。クロージングの主な実務としては、以下の項目があります。
- 事業を分割した会社の株主に対し、承継会社の株式を交付
- または、事業を分割した会社の株主に対し、現金を支払う
新設分割
新設分割とは、新たな会社を設立し、ここに既存の会社から分割した事業を承継させるM&Aスキームです。例えば、A社のアパレル事業を同社から切り離し、設立したB社に承継させるようなやり方です。
新設分割のクロージング手続きに関しても、法的な義務はありません。新設分割のクロージングの主な実務としては、以下の項目があります。
- 新設会社の設立登記(これによって効力が発生)
- 新設された会社から株式を交付
株式の交換・移転
M&Aスキームにおいて「株式交換」と「株式移転」は、以下を意味します。
- 株式交換:株式会社が発行済株式を他の会社に取得させること
- 株式移転:株式会社が発行済株式を新たに設立する会社に取得させること
一般的に、前出の「会社分割・合併」と比べて「株式交換・移転」のほうがクロージングの手続きにかかる手間が少なく済みます。
株式交換
株式交換とは、株式会社の発行済株式の全てを既存の会社に取得させるM&Aスキームです。株式を取得した側の会社を「完全親会社」と呼び、株式を取得された側の会社を「完全子会社」と呼びます。
株式交換における完全子会社の株式への対価としては、以下の2通りがあります。
- 完全親会社の株式
- 現金の支払い
対価が完全親会社の株式の場合、子会社の株主に対して親会社の株式が交付され、最終契約で規定した前提条件が満たされることで株式交換の効力が発生します。
株式移転
株式移転とは、株式会社が発行済株式の全てを設立する株式会社に取得させるM&Aスキームです。株式を取得させる側の会社は1社とは限らず、2社以上のこともあります。
M&Aにおいて株式移転が選択されることはまれですが、合併すると軋轢が大きい場合などに、緩やかな統合を目指して選択される場合があるでしょう。
株式移転の主なクロージング手続きは、以下の通りです。
- 新設会社の設立登記(これによって効力が発生)
- 新設された会社から株式を交付
なお、株式移転の場合、株式の対価として現金を支払うことは認められていません。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株受取の権利を与え資金調達をするスキームで、M&Aでも活用されています。
他のスキームと比較した場合、例えば株式譲渡では株式を50%以上取得することで経営権を得られます。これに対して、第三者割当増資の場合は経営権が得られることはありませんが、新株を取得することで議決の際の影響力が高まる効果があります。
第三者割当増資の主なクロージング手続きは、次の通りです。
- 新株発行(株式を取得される側)
- 新株取得の対価の支払い(株式を取得する側)
M&Aのクロージング条件(条項)とは
M&Aのクロージング条件(条項)とは、株式譲渡を行う際の一定条件を指します。
あらかじめ定められた一定条件が満たされることで、売り手から買い手に対して重要物(株券や代表印など)が引き渡されます。
重要物の引き渡しなどを受けて、買い手が売り手に対して対価(譲渡価額など)を支払うことで、M&Aのクロージングが完了します。
クロージング条件が重要である理由
M&Aのクロージングを実行するにあたり、一定条件を満たすことは極めて重要です。なぜなら、クロージング条件を満たさない場合には以下のような不都合が生じるからです。
- M&Aのクロージングが仕切り直しになる
- M&Aが実行されない
クロージングが仕切り直しになってしまった場合、M&Aの成立までに長期間かかる可能性が出てきます。また、M&Aが実行されない場合、クロージングに向けて費やしてきた時間や費用が無駄になってしまいます。これらのリスクを考えると、条件が満たされないことは絶対に避けたいところです。
クロージングの前提条件の例
M&Aのクロージングを円滑に進めるために、前提条件は以下のことに配慮して定める必要があります。
- 真実かつ正確であること
- 具体的に定めること
- 客観性をもって定めること
- 主観を排除すること
上記を踏まえたクロージングの前提条件の例として、次のような内容が挙げられます。
- クロージング日までに履行義務を果たすこと
- 売り手の取引先企業から取引継続の同意を得ること
- M&A後の事業に必要な許認可の届け出をすること
- 事業継続のキーマンとなる役員や従業員の同意を得ること など
M&Aのクロージングに必要な書類
実務的には、クロージング行う前段階でM&Aに必要な書類を全て用意しておく必要があります。ただし、用意する書類の内容は譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)で異なります。
ここでは、M&Aで選択されることが多い株式譲渡を例にしながら、譲渡側と譲受側でそれぞれクロージング手続きに必要な書類を紹介します。
譲渡側が用意する主な必要書類
M&Aのクロージング前に譲渡側(売り手側)が用意する主な書類としては、以下のものが挙げられます。
- 株式譲渡承認の議事録
- 株主名簿
- 株式譲渡承認書兼承認通知書
- 株主名簿記載事項書換請求書
- 株式譲渡代金の領収書
上記の中でも特に重要なのが「株式譲渡承認の議事録」です。譲渡制限株式会社の場合、必要に応じて株主総会の特別決議などを行い、株式譲渡の承認を得た内容を議事録としてまとめる必要があります(承認が得られない場合、M&Aのクロージングはできません)。
また、譲渡企業が中小企業の場合、株主名簿が見当たらないというケースもあり得ます。そのため、株主名簿の有無を早めに確認することをおすすめします。
譲受側が用意する主な必要書類
M&Aのクロージング前に譲受側(買い手側)が用意する主な書類としては、以下のものが挙げられます。
- 顧問契約書
- クロージング書類受領書
- 印鑑証明書
- 登記簿謄本
顧問契約書は、事業が安定するまでの一定期間、譲渡側の経営者に引き継ぎ業務や顧問をしてもらうための契約書です。M&A後、譲受側のみでの事業遂行に不安がある場合、顧問契約書の締結は必須です。
顧問契約書の契約期間は業種や企業規模などによって異なりますが、一般的には数カ月〜1年程度です。M&Aのクロージング後にトラブルが生じないよう、以下のことを明確にしましょう。
- 顧問契約の期間
- 業務内容
- 拘束時間の条件
- 報酬
M&Aのクロージングが完了した際の挨拶
M&Aのクロージングが完了した際の挨拶をする相手先として、以下の対象が想定されます。
- 従業員
- 取引先
- その他、事業や会社に深く関わる方々
※ただし、大口の取引先などには事前に内諾を得ることもあります。
クロージング後に挨拶に行った方がよい理由は、M&Aが成立するとは限らないからです。クロージング前に挨拶をしてしまうと、破談となった場合に従業員や取引先に無用な心配をさせることになってしまいます。
M&Aのクロージングが完了した際の挨拶の内容に決まりはありませんが、従業員や取引先の安心感を醸成するため、以下のテーマを選択することが多いでしょう。
- M&Aに至った背景
- M&Aをするにあたっての心境
- 買い手の概要や新社長の人柄
- M&Aによって拓ける展望 など
社内への挨拶は従業員を集めて行うのが一般的ですが、手紙を添えるケースもあります。いずれにしても、誠意を持って従業員や取引先に接することが重要です。
M&Aのクロージング後に行うPMIとは
M&Aのクロージング後に実行することの中には、重要度が高い「ポストマージャーインテグレーション(Post-Merger Integration)」があります。これは売り手と買い手の「経営統合作業」のことで、M&Aの現場では「PMI」という略称が用いられています。
M&Aの基本では、PMIはクロージング後に行うものとされることも多いですが、準備や検討事項についてはクロージング前に着手するのが理想です。早めに着手することで、PMIを効率的に進められます。
PMIの実務に関してはケースバイケースですが、一例は以下の通りです。
- 経営統合の基本方針の整理
- DDで顕在化した問題点を盛り込みながら統合事項をリスト化
- リストアップされた統合事項を実施する方法や時期の決定 など
なお、統合作業に必要な事項を実行する場合、優先度を整理することが重要です。クロージング直後(数カ月以内など)に行う統合作業の計画は「ランディングプラン」と呼ばれます。このプランを通して、優先度の高い事項が予定通りに進んでいるかの確認と見直しをしていくことも重要です。
まとめ
冒頭で述べた通り、M&Aクロージング(経営権を移転するための手続き)の基本知識を知ることは重要です。事前にクロージングの内容を把握することで、M&Aを成功に導きやすくなります。
クロージング当日は、数多くの書類と手続きが必要です。漏れがないよう、プレクロージング(事前準備)をしっかり行いましょう。その際、チェックリストの作成は必須です。また、一口にM&Aのクロージングといっても、スキームによって手続きの内容が異なります。自社が選択するスキームにおける内容を必ず確認しましょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。