M&Aの基本的な手順を解説!売り手・買い手が知っておくべき重要ポイントも

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M&Aは、企業の成長戦略や事業承継の手段として重要です。本記事では、売り手・買い手が知っておくべきM&Aの基本的な手順と、重要ポイントをわかりやすく解説します。

目次

M&Aの基本的な手順と流れ

M&Aは、下記の流れで進めていきます。

    1. 準備:目的、方向性を明確に定める
    2. 仲介契約:相手となる企業候補探し
    3. 方針の検討:企業価値評価、企業概要書の作成
    4. M&Aの選定と交渉:売り手、買い手同士の最終判断
    5. 基本合意締結:取引価格、独占交渉権の確認
    6. デューデリジェンスの実施:買い手側が企業監査をおこなう
    7. 最終条件交渉:最終的な取引金額や譲渡の範囲の条件決定
    8. 最終契約の締結:法的拘束力が発生する
    9. クロージング:計画書をもとにおこなう
    10. 統合プロセスの実施:買い手側企業の意識統一作業
    11. 情報開示、事業展開:社内外への情報開示

下で詳しく説明します。

準備:目的、方向性を明確に定める

M&Aを成功に導くためには、準備段階での目的と方向性の明確化が欠かせません。この段階では、売り手は自社を売却する理由や何を達成したいのかをはっきりさせる必要があります。これには、自社の成長戦略や事業承継問題の解決など、M&Aを行う理由と目標が含まれます。

具体的な目標設定は、効果的なパートナー選定や価格交渉の基準、期待されるシナジーの特定などに役立ちます。

仲介契約:相手となる企業候補探し

仲介契約は、M&Aプロセスにおいて相手となる企業候補を探し出す重要な契約です。専門のM&A仲介業者が活用されることが多く、その業者は売り手と買い手双方のニーズに合致する企業候補のリストアップや接触を仲介します。仲介業者は多くの経験と専門的な知識を持ち、適切なマッチングを促進するための専門的な評価やアドバイスをしてくれます。

秘密保持契約の締結

M&Aにおいて、秘密保持契約(NDA)の締結は初期段階で非常に重要です。この契約は、交渉過程で共有される機密情報の保護を目的としており、買い手と売り手双方が機微に触れるようなビジネスの情報を安心して交換できるようにします。

M&Aの協議を開始する段階で、秘密保持契約を結ぶことで企業は自社の財務状況や事業戦略、顧客情報などの重要なデータを開示する際のリスクを最小限に抑えることが可能になります。この契約は両当事者間の信頼関係を構築し、後続の交渉やデューデリジェンス(買収前調査)がスムーズに進む基礎となります。

アドバイザリー契約の締結

アドバイザリー契約は銀行、法律事務所、会計事務所などの専門家からなるチームと契約を結びます。これらのアドバイザーは取引の各段階において重要な役割を担い、価格評価やデューデリジェンス、契約交渉、規制対応などの複雑なプロセスをサポートしてくれます。

専門的な知識と経験を有するアドバイザーを選定することで、M&A取引のリスクを最小化し、目的を達成するための戦略的なアドバイスを得ることが可能になります。

自社情報をアドバイザーに提出

アドバイザーに提出する自社情報は、商業登記簿謄本や定款、組織図、賃貸借契約書、財務諸表、事業計画、市場分析、重要契約、人材情報などの詳細な企業データになります。これらの情報はアドバイザーが企業の価値を適切に評価し、買い手候補に対する魅力的な提案書の作成や、交渉戦略の立案の基礎となります。正確かつ包括的な情報提供は、プロセス全体の透明性を高め、買い手からの信頼を構築する上で不可欠です。

【買い手側の流れについて】

はじめに、買い手は自社の戦略的目標に合致する潜在的な買収ターゲットを特定します。次に秘密保持契約(NDA)の締結を通じて、ターゲット企業から詳細な情報を取得し、その価値を評価します。

ここで財務や法務、事業などの面からデューデリジェンスが行われ、リスク評価とシナジー効果の分析が進められます。情報分析の後、買い手は買収提案を行い、価格や取引条件に関する交渉が始まります。交渉が成功し、双方が合意に達した場合は最終的な契約書が作成されて買収が完了します。

方針の検討:企業価値評価、企業概要書の作成

M&Aの方針検討段階では、企業価値評価と企業概要書の作成が重要です。企業価値評価は、売却価格を決定するために必要で、一方、企業概要書は譲渡企業の詳細情報が記載された資料になります。

対象企業の評価

M&Aにおける企業価値評価は、企業全体の価値を評価することです。企業全体の価値とは、企業が保有する資産の価値だけでなく、企業の収益力や無形資産も含めた価値となります。

この評価を通じて、売り手は自社の真の価値を定量的に理解します。企業価値の評価には、DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法や比較企業分析、資産ベースのアプローチなど、複数の方法が存在します。

企業概要書の作成

M&Aにおける企業概要書は、譲渡企業の詳細情報を詳細に記載した資料であり、買い手企業がM&Aの実施を検討するために必要となります。企業概要書は、譲渡企業の事業内容や財務状況、資産に関する情報、M&Aの条件などが詳細に記載されています

企業概要書は潜在的な買い手に対して、売り手企業の主要な情報を簡潔に伝えるために用います。内容には、企業の歴史や事業内容、市場での位置づけ、財務概況、成長戦略などが含まれます。作成にあたっては正確さと説得力を確保するため、具体的なデータや成功事例を盛り込み、企業の強みと潜在能力を明確に示すことが求められます。この資料で買い手企業に興味をもってもらい、意向表明書の提出やデューデリジェンスと次のステップに進むか否かの判断材料として提供することが目的となります。

【買い手側の流れについて】

買い手は提供された情報を基に企業価値を評価し、適切な買収価格や条件を検討します。デューデリジェンスはこのプロセスにおいて重要な役割を果たし、買い手はターゲット企業の財務状況や事業運営、市場環境、M&Aの条件などを詳細に調査します。適切な評価と調査を経て、買い手は交渉を進め、合意に至れば最終的な契約締結に進みます。

M&Aの選定と交渉:売り手、買い手同士の最終判断

M&Aにおいて売り手、買い手同士の最終判断は、次の流れを経て進められます。

    1. トップ面談の実施
    2. 意向表明書の提示

トップ面談の実施

トップ同士の面談は、売り手と買い手双方の最終決定を判断するうえで重要です。この面談では、両社の最高経営責任者(CEO)や主要な経営陣が直接会い、事業の将来ビジョンや買収後の経営方針、文化の統合方法について深く議論します。

この直接対話を通じて、双方の期待と懸念が明確にされ、買収に向けた相互の理解と信頼が深まります。トップ面談は、買収提案の具体的な内容や価格、その他の重要な条件についての合意形成へ欠かせない面談であり、後続の交渉の基盤を築く役割を果たします。

意向表明書の提示

意向表明書は、買い手が売り手に対してM&Aを行いたい意志があることを示すための書面であり、希望買値や買収する目的、M&Aのスケジュールなどが記載されます。意向表明書はあくまでも最終契約締結に向けた話し合いの相手を絞り込むことにあり、法的拘束力はありません。売り手企業は意向表明書をもとにして、企業を売り渡す具体的な交渉を進めることになります。

また、買い手の企業が複数社になる場合は、この意向表明書がどの買い手企業と実際に交渉をするか判断する材料となります。

基本合意締結:取引価格、独占交渉権の確認

基本合意締結では、取引価格や独占交渉権の有無、その他の核心となる条件が明確化されます。基本合意に至るまでのプロセスは、意向表明書の提示に続き、両者間での詳細な交渉を経て形成されます。取引価格の確定には、両社の財務状態や市場環境、将来の成長見込みなど、多くの要因が考慮されます。

また独占交渉権は一定期間、売り手が他の買い手と交渉しないことを買い手に保証するもので、買い手にとってはデューデリジェンスを進めるための重要な権利です。

デューデリジェンスの実施:買い手側が企業監査をおこなう

デューデリジェンスは、買い手側が対象企業の詳細な監査を行うことです。この監査には、財務状況や法的問題、事業運営、市場ポジション、従業員情報など、企業のあらゆる側面が含まれます。目的は、投資に関連するリスクを明らかにし、買収対象となる企業の真の価値を理解することにあります。

さらにデューデリジェンスを通じて、買い手は発見された問題や隠れた負債、リスクなど、潜在的な問題を発見できる可能性があります。これらは最終条件や契約書に反映されることになります。

最終条件交渉:最終的な取引金額や譲渡の範囲の条件決定

最終条件交渉では、デューデリジェンスの結果をもとに双方が交渉テーブルにつき、企業価値評価に基づいた適正な取引価格や譲渡の範囲を決定します。また、具体的な支払い条件や債の引き継ぎ、将来の業績に基づく追加報酬の可能性、保証や補償の範囲など、取引の細かい条件もこのときにつめられます。

双方の利益を守りつつ、合意点を見出すための交渉技術が求められる重要な交渉であり、しばしば複数回にわたり交渉が行われます。

最終契約の締結:法的拘束力が発生する

最終契約の締結は、M&Aのクライマックスであり、この段階で法的拘束力のある契約が両当事者間で合意されます。この契約には、交渉を通じて合意されたすべての条件や取引の価格、支払い条件、責任と保証、そして譲渡の範囲が詳細に記載されます。

最終契約文書の作成は、徹底的なデューデリジェンスと厳密な条件交渉の結果をもとに、買い手と売り手双方の法的な権利と義務を明確にします。この契約締結により、M&A取引は正式に成立し、企業の所有権移転が法的に確定されるのです。

クロージング:計画書をもとにおこなう

クロージングでは計画書に沿って、買収代金の支払いや株式や資産の正式な移転、登記など必要な法的手続きなどが行われます。クロージングの日には両当事者とそのアドバイザーが集まり、関連する書類に署名し、取引の条件を満たすための最終的な手続きを確認します。

この段階で、取引に関わるすべての合意事項が完了し、買い手は正式に企業の新しい所有者となります。

統合プロセスの実施:買い手側企業の意識統一作業

統合プロセスの実施では、買い手側企業にとって新たに獲得した企業を効果的に組み込むための意識統一作業が求められます。異なる企業文化の融合や組織構造の再編、システムやプロセスの統合が中心となります。

買い手側は、統合の目標と戦略を明確にし、全従業員に対してコミュニケーションをとりながら、組織全体の意識統一を図ります。成功の鍵は両社の強みを活かし、シナジー効果を最大限に引き出すことにあります。

情報開示、事業展開:社内外への情報開示

M&Aが成立した後の情報開示と事業展開は、社内外へのコミュニケーションが重要です。この段階では、新たに統合された事業の方針や戦略、組織体制などを明確に伝えることが求められます。社内に対しては、新たなビジョンや目標を共有し、従業員の理解と協力を得ることが重要です。

一方、社外に対しては、投資家や取引先、顧客などに対して、統合による事業の強化や成長戦略を伝えることで、信頼と理解を深めることが可能です。

【売り手側】M&Aの手順で知っておくべき重要ポイント

ここでは売り手側として、M&Aの手順で知っておくべき重要ポイントを紹介します。

    • 仲介会社の選定は、実績と信用を重視する
    • 基本合意(仮契約)の時点で正確な資料を提出する
    • トップ面談前に確認ポイントをまとめておく
    • 基本合意締結前に問題点を解決しておく
    • 最終契約調印式前までにやることを整理しておく
    • 情報管理を徹底する

これらについて下記で説明します。

仲介会社の選定は、実績と信用を重視する

M&Aの成功には、適切な仲介会社の選定が重要です。実績豊富で信用のある仲介会社を選ぶことで、取引の実現可能性を最大限に高め、適切な買い手とのマッチング、有利な条件での交渉が期待できます。仲介会社の選定にあたっては、過去の成功事例や専門性、市場における評判を徹底的に調査し、自社のニーズと合致するかを確認することが重要です。

基本合意(仮契約)の時点で正確な資料を提出する

基本合意(仮契約)の締結時には、売り手側が正確な資料を提出することが極めて重要です。この段階での資料提出は、買い手が事業の実態を理解し、評価を行うための基盤となります。

財務報告書や事業計画、重要契約書類、法的コンプライアンス状況など、正確かつ透明な情報を提出することで、信頼関係を築き、その後の交渉をスムーズに進めることが可能となります。

トップ面談前に確認ポイントをまとめておく

トップ面談前に、確認ポイントをまとめておくことは重要です。売り手側が買い手側との面談に備え、事業の強みや将来性、財務状況などの重要ポイントを明確に理解し、伝えるための準備をします。

これらの情報は、買い手側が適切な評価を行い、公正な取引価格を決定するための基礎となります。もちろん売り手側だけではなく、買い手側にも同じことがいえます。

基本合意締結前に問題点を解決しておく(買い手も同じことが言えることに言及)

基本合意締結前には、可能な限りすべての問題点を解決しておくことが極めて重要です。デューデリジェンス過程で明らかになり得る法的や財務的、運営上の問題を事前に特定し、適切な解決策を講じることで交渉プロセスをスムーズに進行させ、取引の成功率を高められます。

問題点の未解決は、取引価格の減額や最悪の場合、取引そのものの破談につながるリスクがあります。売り手側だけではなく、買い手側も同様に確認しておきましょう。

最終契約調印式前までにやることを整理しておく

最終契約調印式前には、売り手側で完了すべき事項を明確に整理し、リスト化しておきましょう。残存する懸念事項の解消や必要な書類の最終確認、関連するステークホルダーへの通知、そして内部承認プロセスの完了、反社会的勢力との関係チェックなどなど、確認すべきことは多岐にわたります。

これらの準備を事前に整理し、実行リストとして管理することで調印式当日にスムーズに進行でき、未解決の問題による遅延や誤解を避けられます。

情報管理を徹底する

情報管理の徹底は、売り手側にとって極めて重要です。適切な情報管理には、秘密保持契約(NDA)の締結や情報公開の段階的管理、内部での情報共有の制限などが含まれます。情報漏洩を防ぎ、プロセスの透明性を保つためにも、どの情報をいつ、だれに、どのように提供するかを事前に計画し、徹底した管理体制を整えることが必須です。

【買い手側】M&Aの手順で知っておくべき重要ポイント

ここでは、もう一方の主役である買い手側の、M&Aの手順で知っておくべき重要ポイントを紹介します。

    • 意思表示がすぐにおこなえるよう事前の準備をしておく
    • 条件に関する調整はトップ面談前に済ませる
    • 企業監査は必要な範囲を予め見極めておく

では詳しくみていきましょう。

意思表示がすぐにおこなえるよう事前の準備をしておく

買い手側は、M&Aのチャンスを逃さないために意思表示がすぐに行えるよう事前の準備を徹底することが重要です。財務状況の分析や投資資金の確保、内部承認プロセスの整備、法的・財務的アドバイザーの選定などが含まれます。事前準備は、適切なタイミングで確実に意思表示を行い、良好な取引条件を確保するために欠かせないのです。

条件に関する調整はトップ面談前に済ませる

トップ面談前に、条件に関する調整を済ませておくことも重要です。面談時にはより戦略的な議論に集中でき、企業間のビジョンや将来の方向性について深く掘り下げることが可能になります。また、事前に詳細な条件や期待する成果、解決すべき課題を明確にしておくことで、両者間の合意形成をスムーズに進められます。

企業監査は必要な範囲を予め見極めておく

買い手側が企業監査を行う際は、必要な範囲を予め見極めておきましょう。企業監査では財務状況や法的リスク、業績予測など、取引に影響を及ぼす可能性のある要素を詳細に調査します。これらの調査は、取引の成功を左右する重要なものであり、適切な範囲の監査を行うことで、未知のリスクを最小限に抑えることが可能となります。

まとめ

M&A成功の鍵は、準備の徹底と丁寧な進行管理にあります。売り手・買い手双方が明確な目的を持ち、情報管理やデューデリジェンス、そして適切な条件交渉に注力することで、双方にとって有益な取引が実現します。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。