資本提携における契約書について解説!書き方や交わすタイミングも

自社の業容を拡大するため、他社との資本提携を検討している方もいるのではないでしょうか。しかし、実際に手続きをする際に、どのような準備をすればよいかわからない方も多いでしょう。
今回は、資本提携における契約書の作成について解説します。資本提携の種類や契約を交わす際の注意点などについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
そもそも資本提携とは?
そもそも、資本提携とはどのようなものなのでしょうか。資本提携とは、経営権に影響のない範囲で他社の株式を購入する形で出資し、協力関係を構築する提携の手法です。
資本提携の目的は、複数の企業がそれぞれの持つ技術や業務上のノウハウおよび資金などを提供し合い、自社単独では達成が難しい成果の獲得を目指すことにあります。
一般的には一方が他方の株式を購入する形で出資するケースが多く、規模の大きな企業がスタートアップや中小企業、およびベンチャー企業などに出資する資本提携が該当します。提携する企業双方がお互いの株式を購入し、持ち合いにする場合もあります。
大企業が資金を提供し、代わりにスタートアップやベンチャー企業が持つ先進的な技術やノウハウの提供を受けるような事例が多いです。出資をすることにより関係性が強固なものになるとともに、対外的にも与信を高めて信頼度を得るなどの効果が期待できます。
資本提携は、長期的な視点で協力して事業を展開する戦略を立てる場合に適した提携方法といえるでしょう。お互いに既存の経営権を保ちながら、お互いの持つ資本や技術を効率よく活用できる手法として、さまざまなケースで広く用いられています。
「資本提携」と「業務提携」との違い
資本提携と似た言葉に業務提携がありますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
業務提携とは、複数の企業が契約を交わし共同で事業に臨む提携方法です。資本提携が一方、あるいは双方が株式を購入する形で出資をして資本関係を築くのに対し、業務提携においては資本の移動はありません。つまり、資本提携と業務提携の最大の違いは提携にともない株式の取得があるかどうかという点です。
そのため、資本提携に比べて業務提携のほうが関係性は弱いのが一般的です。資本提携は、資本移動を伴い出資の形式をとるため、強固な関係性が築けます。一方、業務提携の場合は提携のメリットが得られなくなったと一方が判断すれば、契約を解除するケースもあります。業務提携の場合は、契約時に期限を設けている場合も多いです。
また、業績面に与える影響においても両者には違いがあります。資本提携の場合は、出資をしているため、一方の企業の業績が向上すれば、他方の企業において増配や株価上昇などのメリットが得られます。一方、業務提携の場合はお互いの業績がどのようなものであったとしても、直接的な影響はありません。
お互いの技術やノウハウのみを享受したい場合には業務提携を選択し、資本関係を持ち長期的な視点で提携をしたい場合は資本提携を選択するのが一般的です。
業務提携の意味や目的とは?メリット・デメリットや進め方、注意点も解説
「資本提携」と「M&A」との違い
複数の企業が提携をする形式として、M&Aも有名です。資本提携とM&Aの違いとはどのようなところにあるのでしょうか。
M&Aとは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略称で、2つ以上の企業が1つになる合併や一方の企業が他方を購入する買収のことです。M&Aを広義に捉えると提携を含む場合もありますが、一般的には合併と買収を指すケースが多いです。
資本提携もM&Aも、ともに資本関係の移動を伴う提携という点では同じです。しかし、経営権に関する扱いに大きな差があります。資本提携は経営権に影響しない範囲で株式の購入による出資を行なうのに対し、M&Aの場合は相手企業の経営権・支配権を獲得して組織の再編を行うことが主な目的です。
資本提携の方がお互いの企業の形式をそのまま保ったまま協業を展開するのがメインの考え方であるのに対し、M&Aの場合は企業ごと取得する意味合いを持ちます。提携先企業の組織そのものが変化するため、協力関係を築くことはできないでしょう。事業展開が芳しくない企業を救済する目的でM&Aを実施する事例も少なくありません。
M&Aとは?買手・売手の目的やメリット・デメリット、手法、費用まで解説
資本提携の種類
資本提携は、いくつかの種類があります。実施前に、それぞれの特徴を理解して適切な種類を選択することが重要です。資本提携の種類として、主なものを以下に4種類紹介します。
-
- 株式譲渡
- 第三者割当増資
- 株式移転
- 株式交換
以下でそれぞれの種類について解説します。ご自身の状況に見合った最適な方法を選択してください。
株式譲渡
株式譲渡とは、資本を引き受ける側の企業が保有する株式を資本提供側の企業に譲渡する手続きのことです。資本提供側は、受け取った株式に見合う対価を支払います。株式譲渡の方法は、資本提携の際だけでなく、経営権が売り手から買い手に移るM&Aの際にも用いられるケースが多い方法です。
株式譲渡の具体的な方法としては、以下の3種類があります。
-
- 相対取引
市場で株式のやり取りができない非公開株式の取扱いで用いられる
-
- 市場買付
上場している株式を市場から対価を支払って取得する
-
- TOB(株式公開買付)
買い手側があらかじめ買取価格・数量を告知し市場で株式を購入する
相対取引の場合は、買い手と売り手が直接交渉して数量・価格・決済方法を徹底します。
市場取引は証券市場を介して株式を取得する方法ですが、大量の買い注文を行うと株価が高騰するため、資本提携実行の際にはあまり実施されない方法です。
株式譲渡とは?事業譲渡との違いや4つのメリット、税金などを解説
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新しく発行する株式(または自己株式)を割り当てて増資を行う方法のことです。資本提携の手続きにおける第三者割当増資の場合は、資本を引き受ける側が新株を発行し(または自己株式)、資本提供側に対して割当を行います。
結果的には売り手側の株式が対価と引き換えに買い手側に譲渡されるため、株式譲渡と同様の資金および株式の流れになります。株式譲渡が既存発行の株式を譲渡するのに対し、第三者割当増資は原則として新株を発行する点に違いがあります。
第三者割当増資を実行すると、当該企業単体で見ると増資になるため、資本提携を経て対外的な評価が高くなり、業績が上向く効果が期待できます。一方、既存の株主にとっては、株式の数の増加により持株比率が下がるためデメリットと感じられるでしょう。
第三者割当増資を選択する際は、既存株主との関係性を考慮しながら実施の可否を決めましょう。
第三者割当増資とは?事業承継におすすめな6つの理由を徹底解説!
株式移転
株式移転とは、既存の株式会社が新規で親会社を設立し、発行済株式をすべて取得させる方法です。株式移転は、組織再編時に用いられることが多い手法で、新設法人を頂点にしてグループ全体を持株会社化する場合などに利用されるケースが多いです。
売り手側の企業は、実質的には買い手側企業の完全子会社となり経営権が移行するため、狭義的には資本提携とは異なる手法といえます。買い手側企業も新設した法人の傘下に入りますが、実質的な経営権は買い手側にあると考えて差し支えありません。
株式移転による資本提携は、資金が必要ない点が利点といえます。売り手側株式の購入対価は新たに発行した新設法人の株式であるため、実質的な負担が発生しません。手続きも簡単に進められるため、スムーズな組織再編が実現できるでしょう。
株式交換
株式交換とは、売り手側の株式の全部を取得する対価に、原則として自社の株式の一部を用いる方法です。株式交換は、M&Aの時と同様売り手側企業が買い手側企業の100%子会社にある場合に利用される場合が多いです。
M&Aとの違いとして、株式の対価が現金ではなく自社株式である点が挙げられます。株式譲渡の場合は、100%子会社となった後も提携前の企業単位が継続するため、業態を大きく変えずに済みます。M&Aが実施された場合は組織再編を余儀なくされるため、影響は大きいといえるでしょう。
株式交換は、広義的には資本提携の一部とみなされていますが、経営権は買い手側企業に移るため、本来の意味での資本提携とは異なる手法です。売り手側において提携前後の経営権を変えたくないと考えるのであれば、株式移転以外の方法を選択する必要があります。
株式交換とは?M&Aで大きなメリットに!実施の流れや注意点も解説
資本提携における契約書の書き方(記載内容)
資本提携を実行するためには、当事者である企業間で契約を交わす必要があります。取り決める内容が多岐にわたるため、口約束ではなく契約書として形に残すのが一般的です。
資本提携における契約書の書き方としては、最低限以下の内容を盛り込みましょう。
-
- 資本提携の目的
- 資本提携に関する概要
- 資本提携の期間・時期
- 資本提携の内容・責任
- 秘密保持の義務
- 知的財産権の帰属に関する条項
- 協議事項
各項目について、以下で詳細を解説するので参考にしてください。
M&Aで使用する契約書を解説!記載すべき内容やポイントを紹介
資本提携の目的
まずは、資本提携を行うにあたっての目的を明確に記載しましょう。一言で資本提携といっても、状況によってさまざまな目的があってしかるべきです。目的に加えて、業務範囲を明確にすると両者で解釈の行き違いが生じた時に解決の指針となります。
資本提携の目的として明文化しておくと、契約する両者にとって同じ目標に向かって取り組む方向づけができます。提携することにより明確なメリットが得られるよう、お互いが協力して業務に当たるための目的を最初に明示します。
資本提携に関する概要
次に、資本提携に関しての概要を明記するのが一般的です。概要として盛り込むべき内容は、以下のとおりです。
-
- 企業の名称
- 所在地
- 会社の代表者の氏名
もちろん、資本提携をする両者の情報を記載する必要があります。概要の項目は事実をそのまま盛り込むところであるため判断に迷うところは少ないですが、代表者名称が契約書の最終箇所に記載する署名欄の氏名と異ならないように注意しましょう。
資本提携の期間・時期
資本提携の契約書には、提携の効果が発生する日時を明確に記載するのが一般的です。しかし、契約段階では確実な効力発行日を決められない場合もあります。その際は、「●●月●●日を目処に資本提携をする」といった記載でも問題ありません。
資本提携には、株式のやり取りや業務上の取り決めなど対応するべき内容が多いです。契約書上に、資本提携の日程について盛り込んでおくとよいでしょう。手続きの目安として、指針となってくれます。
資本提携の内容・責任
契約書には、資本提携の内容や両者の責任の所在についても記載するのが一般的です。資本提携を行うにあたり、資本関係の移動に関連する以下のような内容を明記します。
-
- 株式の種類
- 取り扱う株数
- 株式の価格
- 取得予定日
- 株式比率(株式交換の場合)
- 株式譲渡の方法
また、出資した資金の用途についても契約書上に明記しておくと安心です。提携後にスムーズに業務展開ができるよう、資本関係については具体的かつ詳細に盛り込みましょう。
秘密保持の義務
秘密保持の義務についての記載も、資本提携の契約書には必要不可欠です。秘密保持の義務とは、資本提携によって知ったお互いの企業が保有する秘密事項について、公開することなく保持する義務を課すことです。
企業秘密が外部に漏れると、場合によっては自社の損失につながる可能性があります。秘密保持の義務を契約書上に明記することにより、お互いの情報を厳格に管理でき、提携における目的達成とは関係のない場面での情報利用を禁止できます。
知的財産権の帰属に関する条項
知的財産権の帰属に関する条項も、資本提携の契約書に盛り込みたい内容の一つです。知的財産権とは、知的な創造活動によって生み出されたものは創作したものの権利となり、他者が許可なく利用することを禁じることを指します。
資本提携により協業を行うなかで、知的創造物が出来た際にどちらの会社の所有物とするのか、契約書上に明記するべきです。帰属のルールについて明記しておかないと、知的財産権をめぐって両者に争いが生じるかもしれません。
協議事項
契約書上には、協議事項についても盛り込むとよいでしょう。協議事項とは、契約締結後に契約書上で規定していない事項が発生した場合には、双方の協議によって対応方法を検討する旨の記載のことです。
契約の段階では、想定される重要事項についてすべて網羅していると考えられます。しかし、実際に協業を開始するなかで想定していなかった事態が発生するかもしれません。双方の協議で解決する旨を契約書上に謳っておくと、一方のみの利益に帰属せず争いへの発展を抑制できる可能性が高いです。
資本提携における契約書を交わすタイミング
資本提携の契約を交わす際に作成する契約書について解説をしてきましたが、契約書を作成し契約締結を実行するタイミングはいつにすればよいのでしょうか。
原則的に、資本提携をして協業を開始する前にできうる限りの内容を盛り込んで契約書を交わしましょう。場合によっては、契約締結までに決定できない事項が多く、契約書の取り交わしを資本提携後に実施したほうがいいと考える人もいるかもしれません。
しかし、資本提携はお互いの企業の資本を始めさまざまな事項に影響が及ぶ重要な手続きです。契約締結段階で決められないことがあったとしても、秘密保持の義務や知的財産権の帰属など最低限の条項を盛り込んだうえで契約書を交わしましょう。未決定の事項は、決定次第覚書などで追加の取り交わしを行うのが理想的です。
資本提携における契約書を書く際の注意点
資本提携における契約書を作成する際は、さまざまな注意点があります。状況によって個別の事情があるため、注意するべきポイントもさまざまです。
しかし、最低限押さえておきたいポイントはあります。以下に契約書を作成する際に注意したいポイントについて3点紹介します。
-
- どちらかが有利になる書き方をしない
- 双方が合意した内容を記載する
- 弁護士や専門家など第三者に依頼する
どちらかが有利になる書き方をしない
契約書上には、どちらか一方が有利になる内容の記載をしないように注意しましょう。資本提携は、お互いが協力し合って共通の目的に向けて取り組む形式です。どちらか一方の企業に利益が偏るような事態が発生すると、提携自体の維持が難しくなるかもしれません。
契約締結を実行する前に、契約書の内容をお互いに確認し合い、かつ繰り返し話し合いの場を設けて両者が納得のうえで契約を締結できるようにするのが肝要です。
自社の利益が増加するのは、経営者として当然の考え方かもしれません。しかし、資本提携においては双方の企業が協力し合い、業務目的を達成するのが第一義であるべきです。一方の企業が有利になる内容は、提携関係に支障を来す可能性があるため避けましょう。
双方が合意した内容を記載する
契約書には、当事者双方が合意した内容を記載するのが原則です。契約書作成の実務においては、どちらか一方の企業が原案を作成し、もう一方の企業が確認するという形式が一般的です。確認する側の企業は、自社の不利になる内容を見つけた場合は、たとえ相手が大企業であったとしても臆することなく修正案を提示するべきです。
契約書を取り交わしたあとでは、不利な点を見つけたとしてもやり直すのは難しいでしょう。資本提携は、企業の行く末を決める重要な事項です。慎重に慎重を重ねて、合意しかねる内容については納得の行くまで協議する姿勢を崩してはいけません。
弁護士や専門家など第三者に依頼する
資本提携が初めての経営者も多いなか、契約書の内容に問題がないか、判断するのは難しいでしょう。従って、資本提携のような重要な契約を取り交わす際は、弁護士など第三者の専門家に相談するのが一般的です。
弁護士は、法律関係のプロであるとともに、企業間の契約についても専門的な知識を持って対応できる専門家です。契約書の中に自社にとって不利になる要素がないか、プロの目線でチェックしてもらえるでしょう。
弁護士に契約書の内容をチェックしてもらうためには、一定の費用がかかります。しかし、資本提携を失敗した際に被る損失を避けるためには、必要な経費と考えるのがよいでしょう。
まとめ
資本提携は、複数の企業が共通の目的に向かって協業をする事業形態です。株式を購入する形式で出資を行うなど、資本移動を伴うのが特徴です。業務提携と比較して、強固な関係を築けるため、長期的な視点で事業展開を想定している場合に適した方法といえます。
資本提携を行う前には、契約を交わす必要があります。契約書に盛り込む内容は法的な定めはありませんが、双方において不利益がないように、今回紹介した内容は最低限押さえておきましょう。
一方に有利になるような内容を残さないよう、慎重に内容を精査し合意できる内容のみを記載するのが重要です。自社で判断が難しい場合は、弁護士など専門家に依頼をして内容の確認をするのがよいでしょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。