事業承継に必要な資金とは?調達方法、融資制度を解説

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事業承継は、企業の持続的な成長と発展を実現するための重要なものです。しかし、その成功には適切な資金調達が不可欠です。本記事では事業承継に必要な資金、その調達方法、そして利用可能な融資制度などについて解説します。

事業承継の状況によっては資金が必要なケースがある

事業承継を進める際、状況によっては相当な資金が必要になる場合があります。とくに、後継者が家族外から選ばれるケースやM&Aによる事業承継では、企業の買収費用や承継に伴う諸経費を賄うための資金が求められます。また、親族への事業承継でも相続税の支払いや経営資源の強化、事業の拡大を目指す場合には、外部からの資金調達が必要になることがあります。

このような資金は、事業の持続的な成長と安定を確保するために欠かせないものであり、承継プロセスの初期段階で調達方法を検討することが重要です。資金調達の方法は多岐にわたり、銀行融資や公的融資制度、プライベートエクイティの活用など、事業の規模や承継の形態、経済状況に応じて選択肢を検討する必要があります。

事業承継に必要な資金とは

それでは事業承継に必要な資金とは、一体どんな目的のために必要なのでしょうか。一般的には下記の用途があります。

    • 分散した株式を取得するための資金
    • 持株会社などが株式を取得するための資金
    • 贈与税、相続税などの納税資金
    • 会社に必要な運転資金

それぞれについて説明していきます。

分散した株式を取得するための資金

事業承継において、分散した株式を一元化するためには、相応の資金が必要となる場合があります。とくに家族経営の企業や中小企業では、経営権の安定化を目的として、他の株主から株式を買い取る必要が生じることがあります。株式の集約は、事業承継の成功にとって重要なものです。

資金調達の際は、事業の将来性や現在の財務状況、融資条件などを総合的に評価し、最も適した方法を選択する必要があります。また、株式取得による経営権の集中は、事業の長期的な成長や安定に寄与するため、計画的な資金調達と戦略的な株式取得が求められます。

持株会社などが株式を取得するための資金

持株会社や関連する法人が株式を取得するための資金は、事業承継計画の中核をなす要素の一つです。この方法は、経営権の集約化や事業承継をスムーズに進めるために利用されることがあります。なお、株式を取得することにより、先代経営者に譲渡所得税が課税されることがあるため確認しておきましょう。

持株会社が株式を取得することで、経営資源の効率的な再配分や事業の柔軟な再編が可能となり、長期的な事業戦略の実現の可能性が高まります。資金調達の際には、将来のキャッシュフローや返済計画、事業の持続可能性などを総合的に検討し、計画的に進めることが重要です。

贈与税、相続税などの納税資金

事業承継に際しては、贈与税や相続税の納税資金の準備も重要です。事業の世代交代が発生する際、とくに家族経営の企業では大きな資産価値を有する事業の移転に伴い、高額な税金が課せられることがあります。これらの税金を支払うための資金計画は、事業承継計画の初期段階で慎重に検討する必要があります。

資金調達のオプションとしては、内部留保の活用や銀行融資、生命保険の利用、公的融資制度などが考えられます。とくに、生命保険は相続税の納税資金を準備するための一般的な手段として知られており、適切に計画された保険加入は、事業承継の際の財務負担を軽減できます。税負担の軽減策として、納税猶予制度や分割納付制度の利用も検討する価値があります。

会社に必要な運転資金

事業承継においては、承継後の会社運営をスムーズに進めるための運転資金の確保が不可欠です。日々の業務運営や従業員の給与支払い、原材料の購入、ローンの返済などの資金を指します。事業承継が行われる際、新たな経営体制のもとでの安定した事業運営を目指し、十分な運転資金を準備しておくことは、事業の持続可能性を確保する上で極めて重要となります。

とくに、事業承継に伴う経営の移行期には不測の支出が発生する可能性も考慮に入れ、運転資金の余裕を持たせることをおすすめします。運転資金の計画は、事業承継計画の初期段階で慎重に策定し、新たな経営体制の下での安定したキャッシュフローの確保を目指すべきです。

事業承継に必要な資金調達方法

事業承継に必要な資金調達方法として、おもに以下のものが挙げられます。

    • 日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を活用する
    • 信用保証協会による「事業承継特別保証」を活用する
    • 民間金融機関からの融資を受ける

それぞれについて説明します。

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を活用する

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、事業承継やM&Aに取り組む中小企業者の資金調達を支援する制度です。この制度を利用することで、事業承継計画を実施するための設備資金や長期運転資金、事業承継・集約を行うための設備資金や運転資金など、さまざまな資金調達が可能となります。

対象者中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含みます。)と共に事業承継計画を策定している方や安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方など
借入期間~20年
設備資金:20年以内<うち据置期間2年以内>、運転資金:7年以内(既往の公庫融資の借換を含む場合は8年以内)<うち据置期間2年以内>
借入可能額(融資限度額)7,200万円
金利(年率)2.06%~2.55%

信用保証協会による「事業承継特別保証」を活用する

信用保証協会では、事業承継でお悩みの中小企業・小規模事業者向けに、さまざまな保証制度を用意しています。

事業承継特別保証

経営者保証が不要であり、また経営者保証ありの既存の借入金についても借換により経営者保証を不要にすることが可能な保証制度です。

さらに、専門家(※)による確認を受けた場合には、保証料率が大幅に軽減されます。

※経済産業省の委託またはその委託を受けた者の再委託を受けて事業の承継に対する支援に係る事業を行う者が雇用する専門家です。

対象者次の(1)又は(2)に該当し、かつ、(3)に該当する中小企業者
(1)3年以内に事業承継を予定する事業承継計画を有する法人
(2)事業承継から3年を経過していない法人(令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した場合に限る。)
(3)次の①から④までに定める全ての要件を満たすこと。
①資産超過であること
②EBITDA有利子負債倍率(注)が15倍以内であること
(注)EBITDA有利子負債倍率=(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)
③法人・個人の分離がなされていること
④返済緩和している借入金がないこと
資金使途事業資金
既存のプロパー借入金(個人保証あり)の本制度による借り換えも可能
(ただし、一定の期間内に事業承継を実施した法人に対しては、事業承継前の借入金に係る借換資金に限る)
限度額2億8,000万円

事業承継サポート保証

持株会社を設立し、持株会社が事業会社の株式を買い取る資金に利用できる保証制度です。

対象者新設持株会社
資金使途事業会社の株式取得資金
限度額2億8,000万円

経営承継関連保証

中小企業者が経営の承継のために必要な資金に利用できる保証制度です。

対象者経営承継円滑化法第12条第1項第1号イ又は第2号イの規定による経済産業大臣の認定を受けた中小企業者
資金使途
  • 議決権株式の取得資金
  • 事業用資産の取得資金
  • 事業用資産等に係る相続税又は贈与税の納税資金
  • 遺産分割に伴う返済資金又は遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額
  • 運転資金
限度額2億8,000万円

特定経営承継関連保証

後継者である中小企業者の代表者が経営の承継に伴い当該中小企業者以外の者から株式等を取得するために必要な資金に利用できる保証制度です。

対象者経営承継円滑化法第12条第1項第1号イの規定による経済産業大臣の認定を受けた代表者
資金使途
  • 株式等の取得資金
  • 事業用資産の取得資金
  • 事業用資産等に係る相続税又は贈与税の納税資金
  • 遺産分割に伴う返済資金又は遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額
  • 認定中小企業者の事業活動の継続にとくに必要な資金
限度額2億8,000万円

経営承継準備関連保証

M&Aによる事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。

対象者経営承継円滑化法第12条第1項第1号ロ、第2号ロ又は第1号ハ(※)の規定による経済産業大臣の認定を受けた中小企業者
資金使途
  • 株式等の取得資金
  • 事業用資産等の取得資金
限度額2億8,000万円

特定経営承継準備関連保証

従業員をはじめとした事業を営んでいない個人による買収(EBO等)による事業承継に必要な資金に利用できる保証制度です。

対象者新設持株会社
資金使途事業会社の株式取得資金
限度額2億8,000万円

経営承継借換関連保証

経営者保証を提供している金融機関からの借入れによる債務を経営者保証が不要とする融資に借り換えるための保証制度です。

さらに、専門家(※)による確認を受けた場合には、保証料率が大幅に軽減されます。

※経済産業省の委託又はその委託を受けた者の再委託を受けて事業の承継に対する支援に係る事業を行う者が雇用する専門家です。

対象者経営承継円滑化法第12条第1項第1号ニの規定による経済産業大臣の認定を受けた中小企業者
資金使途経営の承継に必要な資金のうち、認定日から経営承継日までの借換資金
(代表者が保証債務を負う借入に限る)
限度額2億8,000万円

引用元:事業承継をお考えの方 | 一般社団法人 全国信用保証協会連合会

M&Aにおける資金調達の方法は?方法別のメリット・デメリットを解説

民間金融機関からの融資を受ける

民間金融機関からの融資も、ひとつの資金調達方法です。銀行や信用金庫などの金融機関は、事業承継に伴うさまざまなニーズ、例えば運転資金の確保や設備投資、株式取得費用などの資金提供を行っています。融資を受けるためには、事業計画の提出や財務状況の開示が必要となり、金融機関はこれらの情報を基に返済能力を評価します。

複数の金融機関からの融資を比較検討することで、より有利な融資条件を得ることが可能になります。

融資を受けて事業承継するメリット

ここからは、融資を受けて事業承継するメリットについて説明します。

    • 持株比率の変動を抑えて資金調達ができる
    • 事業の引き継ぎに関するアドバイスが受けられる
    • 手持ちの資金が少なくても買収できる

これらのメリットについてみていきましょう。

持株比率の変動を抑えて資金調達ができる

融資を受けて事業承継を行うメリットの一つは、持株比率の変動を抑えながら必要な資金を調達できる点にあります。これにより、事業承継を計画している経営者や後継者は企業の所有権を大きく渡すことなく、必要な資金を確保することが可能になります。

とくに家族経営の中小企業などでは、経営権の維持が大きな課題となることがありますが、融資を利用することで、この点のリスクを軽減できます。

事業の引き継ぎに関するアドバイスが受けられる

金融機関から事業の承継に関するアドバイスを受けられる点も、融資を受ける際のメリットです。多くの金融機関は融資だけでなく、事業承継のプロセスをサポートするためのコンサルティングサービスを提供しています。

これにより、後継者は財務管理や計画の策定、市場分析など、事業承継に際して必要なさまざまな知識やスキルに関する専門的なアドバイスを得られます。

手持ちの資金が少なくても買収できる

融資を受けて事業承継を行うもう一つのメリットは、手持ちの資金が少なくても買収を実行できる点です。とくに、優良な事業を承継したいが資本力に限界がある後継者や、外部から経営者を迎え入れる場合は、銀行融資や政策金融公庫からの支援を活用することで、大きな財務的負担を抱えることなくスムーズに事業承継を進めることが可能になります。

このような資金調達手段を利用することで、必要な運転資金や改革・拡大のための投資資金も確保でき、事業承継後の成長機会を大きく広げられます。

事業承継で融資を受ける条件

事業承継で融資を受けるには、いくつかの条件があります。まず、金融機関は事業の持続可能性と収益性を重視します。これは融資された資金が適切に使用され、計画通りに返済されることを確認するためです。したがって、明確かつ実行可能な事業承継計画の提出が求められます。この計画には、承継者の経営能力や事業戦略、財務計画が含まれる必要があります。

また、融資を受けるには適切な保証人や担保の提供が求められることが多いです。これにより、融資に伴うリスクを金融機関が軽減できます。

加えて、金融機関は事業の過去の実績にも注目します。過去数年間の財務諸表や税金の納付状況などが評価の対象となり、これらの資料を通じて、事業の健全性や信頼性を判断されます。さらに、特定の融資制度を利用する場合は、政府や地方自治体の規定する特定の条件を満たす必要があります。これには、事業の所在地や業種、従業員数などの条件が含まれることがあります。

事業承継で融資を受ける場合の注意点

事業承継で融資を受ける場合の注意点として、以下のものが挙げられます。

    • 個人保証が求められる場合がある
    • 融資に関わる費用が発生する
    • すぐに融資が受けられるとは限らない

それぞれについて説明します。

個人保証が求められる場合がある

事業承継で融資を受ける際には、金融機関から個人保証を求められる場合があります。個人保証が求められることで、事業が困難な状況に陥った場合でも保証人個人の資産を使って融資の返済が行われることになります。このため、融資を受ける際には、この点を十分に理解し、慎重に検討する必要があります。

とくに、事業承継を行う場合、新たな経営体制のもとでの事業の安定性や収益性が未確認であるためリスクが伴います。そのため、個人保証による責任の重さを認識し、事業計画の実現可能性をしっかりと評価することが重要です。また、可能であれば、個人保証に代わるほかの保証方法や、個人保証の責任範囲を限定する交渉を金融機関と行うことも一つの選択肢となり得ます。

融資に関わる費用が発生する

事業承継で融資を受ける場合、多くの人が注目するのは融資の金額や利率ですが、それ以外にも融資に関わる費用が発生することを理解しておくことが重要です。これらの費用には、手数料や保証料、諸経費などが含まれ、融資を受ける際の総コストに大きく影響します。

例えば、融資申込み時には審査手数料が発生する場合があり、これは融資が実行されるか否かにかかわらず支払う必要があることもあります。また、融資額に対する保証料も重要な費用の一つで、これは信用保証協会などの保証機関が融資の保証を行う際に必要となる費用です。さらに、融資が実行された際は、契約手数料や印紙税などの諸経費がかかることもあります。

すぐに融資が受けられるとは限らない

融資を受けようとするとき、多くの方が見落としがちなのは、必要な融資がすぐに受けられるとは限らないという点です。金融機関は融資の審査において、申込者の信用状況や事業計画の実行可能性、返済計画の信頼性などを詳細に検討します。これらの審査プロセスには時間がかかることがあり、とくに事業承継のような複雑な取引においてはさらに慎重な審査が行われる傾向にあります。

また審査の結果、融資の条件が当初の期待と異なる場合や、最悪の場合融資が拒否されることもあり得ます。これらの事態を避けるためには、融資申請前に十分な準備を行うことが重要です。

まとめ

事業承継に必要な資金の調達方法は、多岐にわたります。政策金融公庫の支援資金や信用保証協会の特別保証、民間金融機関の融資など選択肢は豊富です。計画的に準備し、適切な方法を選ぶことが成功の鍵となります。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。