合併のメリット・デメリットを種類ごとに紹介|合併の成功事例と必要な手続き

「合併のメリットとは?」「合併を成功させるためには何が必要?」などと悩んでいませんか?

合併には吸収合併と新設合併の2種類があり、メリット・デメリットがそれぞれ異なります。合併を進めていく場合、どんな利点や注意点があるかを理解しておくことが大切です。

本記事では、合併のメリット・デメリットを種類別で詳しくまとめています。合併の成功事例や必要な手続きもまとめているため、ぜひ参考にしてください。

合併の種類

企業合併には大きく分けて「吸収合併」と「新設合併」の2つのタイプが存在します。吸収合併は、一方の企業が他方を吸収し、後者の企業が法的に消滅する形式です。

新設合併は両企業が法的に消滅し、まったく新しい企業が設立される形式を指します。合併の形式は、企業の目指す戦略や目的、経済的・法的条件によって選択されますが、日本で行われている合併のほとんどは吸収合併です。

合併のメリット

合併は企業が成長し、市場での競争力を高めるための重要な戦略のひとつです。合併を行うと、以下のメリットが期待できます。

    • シナジー効果が期待できる
    • 雇用契約や取引先との契約を新たに取り交わす必要がない

それぞれ詳しく解説します。

1. シナジー効果が期待できる

合併によって、異なる企業がもつ強みや資源が組み合わされることで、単独の企業では達成できないシナジー効果が期待できます。たとえば、合併を行えば製品開発の加速や市場へのアクセス拡大、コスト削減といった効果があります。

技術力をもつ企業と販売網をもつ企業が合併すれば、新しい製品をより迅速に市場に投入し、売上の増加を実現することが可能です。そのため、事業拡大・コスト削減などを目指すのであれば、他社と合併することで売上増加が期待できます。

2. 雇用契約や取引先との契約を新たに取り交わす必要がない

合併では、既存の雇用契約や取引先との契約がそのまま継続されます。そのため、合併後の移行期間における業務の中断や混乱を最小限に抑えられます。ビジネスの安定性を保ちながら、新たな経営戦略を実行する上で大きなメリットです。

従業員や取引先からの信頼を維持できるため、スムーズな経営移行も可能です。

合併のデメリット

合併には、いくつかのデメリットも存在します。課題を理解し、事前に対策を講じることが大切です。

合併のデメリットをまとめると以下の通りです。

    • 組織の融合と業務の統合に時間と労力とコストがかかる
    • 簿外債務を引き受けるリスクがある

それぞれ詳しく解説します。

1. 組織の融合と業務の統合に時間と労力とコストがかかる

異なる企業文化をもつ組織の融合は、時間と労力を要します。合併の手続きは事業譲渡や株式譲渡よりも多く、従業員に対しても詳しく説明を行う必要があるため、事前に準備しておくことが大切です。

たとえば、従業員に対しても合併の計画や理由、与える影響などを伝える必要があります。従業員とのコミュニケーションを怠ると、生産性の低下や従業員のモチベーション低下を引き起こす可能性が高いです。

また、業務内容の統合やシステムの統一には大きなコストが伴います。合併はほかのM&Aより手間がかかるため、手続きを進める際には注意しましょう。

2. 簿外債務を引き受けるリスクがある

合併により、存続企業は消滅企業の負債を含むすべての権利義務を引き継ぎます。引き継ぐ過程において、予期せぬ簿外債務が明らかになる場合があり、これが存続企業に予期せぬ財務負担をもたらすリスクがあります。

簿外債務の存在が後になって明らかになった場合、合併の経済的利益を損なうことになりかねません。したがって、合併前の詳細な事前調査や話し合いが重要です。

吸収合併のメリット

吸収合併は、ひとつの企業が別の企業を吸収する合併形式です。吸収された側の企業は、法的に消滅します。企業再編や成長戦略の一環として利用されることが多く、活用することで以下のメリットが得られます。

    • 手続きが少ない
    • 資金調達せずに買収できる
    • 法人税を節税できる可能性がある

それぞれ詳しく解説します。

1. 手続きが少ない

吸収合併の大きな利点のひとつは、合併に関連する手続きが比較的少なく、簡単である点です。新設合併に比べ、既存の企業が資産と負債を引き継ぐため、新たな法人の設立や資産の移転に関連する複雑な手続きを避けられます。

また、吸収合併では消滅会社が保有する許認可や免許を、存続会社がそのまま引き継ぐことも可能です。業界によっては許認可の取得が困難で時間がかかる場合もあるため、簡略化できる点は、ビジネスの継続性を確保します。

結果、合併に必要な手続きを迅速かつ効率的に進められ、合併にかかる時間とコストを大幅に削減できます。そのため、企業は重要なビジネス活動により多くのリソースを割り当てることが可能です。

2. 資金調達せずに買収できる

吸収合併であれば、資金調達をせずに買収ができます。なぜなら、現金だけでなく存続会社の株式や社債、新株予約権を交換する形で合併対価を支払う方法が認められているからです。

たとえば、技術力をもつ小規模企業を大企業が自社株を用いて吸収合併すれば、新技術を獲得しつつ研究開発コストを削減できます。そのため、財務負担を最小限に抑えつつ、企業の成長や市場拡大を図ることも可能です。

3. 法人税を節税できる可能性がある

吸収合併において、消滅会社の繰越欠損金を存続会社が引き継げる場合、法人税の節税効果が期待できます。繰越欠損金とは過去の欠損金を将来に繰り越す制度で、未利用の損失を将来の利益によって補えば、存続会社の課税所得を減少させて法人税負担を軽減することが可能です。

たとえば、A社が年間利益1億円でB社の繰越欠損金が5千万円だったとして、A社がB社を吸収合併したとしましょう。B社の繰越欠損金をA社が引き継ぐ形になり、5千万円の利益に対して30.62%の法人税が課税され、節税額は1,531万円になります。

ただし、繰越欠損金の引き継ぎには一定の要件を満たす必要があります。節税効果を最大限に活用するためには、適切な税務計画と専門家のアドバイスが必要です。

吸収合併のデメリット

吸収合併は企業再編の手段として利用されますが、いくつかのデメリットも伴います。以下のデメリットを理解し、事前に対策を講じることが大切です。

    • 合併の対価を株式で支払えない場合がある
    • 持ち株比率が低下して株価が下落する恐れもある
    • 債務が存続会社に引き継がれる可能性もある

それぞれ詳しく解説します。

1. 合併の対価を株式で支払えない場合がある

吸収合併では、消滅会社の株主に対する合併の対価として、通常は存続会社の株式が支払われます。しかし、株式ではなく現金での支払いが必要となる場合もあるため、注意が必要です。

たとえば、消滅会社の株主が株式の価値を認めず、株式交換比率が不当に低いと判断した場合、株主は現金対価を請求できます。他にも、消滅会社が債務超過の場合、株式は価値がないと考えられるため現金で支払わなくてはいけません。

現金で支払う場合、存続会社は多くの資金を準備する必要があり、資金調達が企業の財務状況に負担をかける場合もあります。大規模な合併では数十億円から数百億円の現金が必要となり、準備には相応の時間とコストがかかるため注意しましょう。

2. 持ち株比率が低下して株価が下落する恐れもある

吸収合併の際、存続会社は消滅会社の株主に対して自社株を発行し、合併対価を支払います。新株発行により、既存株主の持ち株比率が希薄化し、株価の下落を招く可能性があります。

持ち株比率の低下は、株主にとっては自身の投資価値が減少することを意味し、大規模な合併では影響が顕著に現れることも多いです。株価の下落は投資家の信頼を損ない、企業の市場評価にネガティブな影響を与える可能性があります。

そのため、合併を計画する際には株価への影響を最小限に抑えるため、適切な企業価値で合併比率を算定することが重要です。

3. 債務が存続会社に引き継がれる可能性もある

吸収合併では、消滅会社の負債も存続会社に引き継がれます。負債の引き継ぎは、存続会社の財務状況に大きな影響を与える可能性が高いです。

消滅会社が大きな負債を抱えている場合、債務のサービスによって存続会社のキャッシュフローが圧迫される場合もあります。負債の引き継ぎによるリスクを最小限に抑えるためには、合併前の詳細な財務分析と適切なリスク管理が不可欠です。

債務を引き継がない方法として、事業譲渡を選択する方法もあります。事業譲渡では特定の資産や負債を選択的に引き継ぐことができ、不要な負債を引き受けることなく価値ある資産のみを取得できます。

存続会社は必要な部分のみを統合し、不要な負債の負担を避けることが可能です。事業譲渡については、以下の記事で詳しく解説しています。

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新設合併のメリット

新設合併は、2つ以上の企業が合併し、まったく新しい企業を設立する方法です。新設合併は、以下のメリットがあります。

    1. 対等な立場での合併を実現できる
    2. 買取資金の準備が必要ない
    3. 市場での競争力を高められる

それぞれ詳しく解説します。

1. 対等な立場での合併を実現できる

新設合併は2つ以上の企業が対等な立場で合併し、まったく新しい企業を設立する取り組みです。新設合併は、どの会社も同じスタートラインに立てるため、新しい会社のルールや規定などを公平な立場で一緒に決めることが可能です。

対等な立場での合併は、従業員や株主からの支持を得やすく、合併後の組織の安定性と一体感を促進します。新しい企業は参加企業の強みを統合し、市場での競争力を高めることも可能です。

対等な合併を通じて、新しいビジョンと目標に向かって全員が一致団結すれば、合併後の成功の可能性が高まります。

2. 買取資金の準備が必要ない

新設合併では既存の企業が消滅し、参加するすべての企業の資産と負債を引き継ぐ新しい企業が設立されます。買収と異なり、現金の準備や資金調達を行う必要もありません。

合併に関連する財務的な負担が軽減され、企業は合併後の事業展開や成長戦略に必要な資金を確保しやすくなります。買取資金の準備が不要である点は、資金調達が困難な中小企業にとって大きなメリットとなるでしょう。

3. 市場での競争力を高められる

新設合併によって設立される新しい企業は、合併前の企業がもっていた強みや資源を統合できるため、市場での競争力を大幅に高められます。新しい企業はより大きな市場シェアを獲得し、新しい顧客層にアプローチできる点が大きなメリットです。

経営資源の最適化により、製品やサービスの品質向上やコスト削減、イノベーションの加速も期待できます。企業の成長と持続性を支えるという点でも、合併は事業拡大に必要な選択肢です。

新設合併のデメリット・問題点

新設合併の主なデメリット・問題点は、以下の通りです。

    • 新設会社の設立には費用がかかる
    • 合併後の統合作業手続きが多い
    • 株主へ現金の受け渡しができない

それぞれ詳しく解説します。

1. 新設会社の設立には費用がかかる

新設合併ではまったく新しい法人を設立する必要があり、登記費用や法務費用、会計費用といった多額の初期費用が伴います。具体的には、数百万円から数千万円の範囲で費用が発生します。

新しい企業のブランディングや市場への導入にも、追加の費用が必要です。かなりの初期投資がかかるため、合併の全体的なコストを増加させる可能性があります。

2. 合併後の統合作業手続きが多い

新設合併後は、異なる企業文化やシステムをもつ複数の企業をひとつに統合する必要があります。従業員の再配置や業務プロセスの統一、ITシステムの統合など、膨大な作業と時間が必要です。

統合作業は複雑で、以下のようなトラブルが発生する恐れがあります。

    • 手続きに時間とコストがかかる
    • 企業文化の衝突
    • システム統合におけるセキュリティ問題
    • 人員整理による従業員の反発

そのため、成功させるには詳細な計画と適切なリソースの配分、従業員とのコミュニケーションが不可欠です。

3. 株主へ現金の受け渡しができない

新設合併では既存の企業が消滅し、株主は新設された企業の株式を受け取ります。手続きの中で、株主が現金を受け取る選択肢は通常提供されません。

現金を受け取りたいと考えている株主のニーズに応えられないことで、株主との関係が悪化する可能性があります。短期的なリターンを期待している株主や現金化の必要がある株主がいる場合、不満が高まる可能性が高いです。

株主が新設合併に反対する可能性もあるため、株主からの信頼を獲得するための対策が必要です。

合併の成功事例

合併を行うことで、シナジー効果が期待でき、雇用契約や取引先との契約を新たに取引をする必要もありません。メリットを活用したことで、合併を成功に導いた企業は多く存在します。

ここでは、合併の成功事例をご紹介いたします。

ソフトバンクグループとスプリントの合併

ソフトバンクグループとスプリントの合併は、2013年に完了した大規模な国際的M&Aの成功事例です。ソフトバンクは、日本国内の通信市場で既に成功を収めていましたが、さらなる成長を求めて米国市場に目を向けました。スプリントは、米国第3位の携帯通信事業者でしたが、長年にわたり収益性の低下と競争激化に苦しんでいました。ソフトバンクは、スプリントの業績改善と米国市場での競争力強化を目指し、2012年に約216億ドルでスプリントの70%の株式を取得しました。

この合併により、ソフトバンクは米国市場における事業基盤を確立し、国際展開を強化しました。一方で、スプリントはソフトバンクの技術や資本を活用して経営改善を図ることができました。ソフトバンクの投資により、スプリントは設備投資やネットワークの改善に注力でき、米国内での競争力が向上しました。また、両社の技術的シナジーにより、より効率的な運営と新たなサービス展開が可能となりました。

参考:https://group.softbank/news/press/20200402

将来を見据えた戦略的合併|スクウェア・エニックス

2003年、スクウェア株式会社とエニックス株式会社が合併し、スクウェア・エニックス株式会社が誕生しました。両社の強みを組み合わせることで、より大きな市場での競争力を高める戦略的な決断でした。

合併により、スクウェア・エニックスはゲーム業界におけるリーダーの地位を確立し、新たな価値創造と事業拡大を実現しています。合併の成功は、両社間の補完性の高さと、将来のビジョンに対する共通の理解にもとづいています。

また、従業員や顧客への丁寧なコミュニケーションが、スムーズな統合を支えました。戦略的な視点での合併の重要性と、関係者とのコミュニケーションの大切さを学べた事例です。

合併に必要な手続き

合併を行うには、事前準備を含め法的手続きの遵守が必要です。以下に必要な手続きの流れをまとめます。

    1. 事前準備と交渉
    2. 合併契約の承認
    3. 株主総会での特別決議
    4. 債権者保護手続
    5. 反対株主に対する買取機会の確保
    6. 登記申請

株主総会では合併計画に対する承認が求められ、合併登記によって合併が法的に完了します。手続きの内容は、合併の種類や関与する企業の法的要件によって異なる場合があるため、専門家のアドバイスのもと手続きを進める点も検討しましょう。

合併の手続き方法を詳しく知りたい場合は、合併の基礎をまとめた以下の記事をご覧ください。

▽内部リンク「合併」

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合併は、企業が成長し市場での競争力を高めるためにも必要な戦略です。合併によってシナジー効果が期待できるものの、組織の融合と業務の統合に時間と労力とコストがかかるといったデメリットも存在します。

合併やM&Aは複雑なプロセスであり、成功させるには専門的な知識と経験が必要です。法的手続きを進めるのであれば、プロのアドバイスのもと進めていくと効率よく進められます。

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【ディスクリプション】

合併のメリットは、シナジー効果が期待でき、雇用契約や取引先との契約を新たに取り交わす必要がない点です。本記事では、合併のメリット・デメリットや成功事例、必要な手続きを解説します。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。