合同会社の事業継承や譲渡における注意点とその対策とは?
一般的に、事業承継の際の売り手は株式会社であることが多い印象ではないでしょうか。実際のところ、売り手が合同会社である場合も事業承継をすることはもちろん可能です。
しかし、合同会社という形態であるために、株式会社による事業承継の場合と比べて手続きの難易度が上がったり、気を付けるべきポイントが異なったりと、合同会社特有の問題を抱えることがあります。
そこで、本記事では、合同会社を事業承継する方法や、メリット・デメリットについて解説します。株式会社との違いを押さえながら、どのような方法があるのかを予め把握しておくことで、合同会社の事業承継をよりスムーズに実行することができます。
合同会社とは
合同会社とは、有限責任を持つ社員で構成される組織形態です。ここでいう社員とは従業員のことではなく、会社の構成員(出資者)のことを意味します。
合同会社は合名会社や合資会社と同じ持分会社の一種で、2006年の改正会社法によってそれまでの有限会社制度が廃止され、新たに導入されました。合同会社は、アメリカのLLC(Limited Liability Company)を参考に制度化されています。
合同会社は、基本的には出資者が経営に携わることを前提とした制度です。そのため、出資者と会社経営者が一致している状態で事業運営を行う形態になります。また、原則として、出資者であるすべての社員が経営権を持ちます。ただし、業務執行権を与える社員を定めることも可能です。
合同会社の特徴
合同会社の出資者は、株式会社と同様に有限責任を負います。有限責任とは、仮に会社が債務不履行に陥っても、出資者は出資額を超える責任を負わないということを意味します。出資金を諦めればそれを超えて会社の債務を負担する必要はありません。
株式会社の場合は1株に対して1議決権が認められるため、保有株数が多いほど議決権の数も多く保有することが可能です。一方の合同会社の出資者は、出資額に関わらず1人1票与えられ、頭数で意思決定を行う形となります。
合同会社の場合、業務執行を担う代表社員の任期に関する規定が特段定められていないため、同じ社員が長期にわたって代表を続けることが可能です。
合同会社と株式会社の違い
前述した通り、合同会社の場合は、所有と経営が一致していることが原則です。株式会社は原則としてこの二者が分離しています。
その他の異なる点としては、株式会社では株主たる地位は原則として株主が自由に第三者に持分を譲渡することが可能ですが、合同会社の場合は原則として他の社員の同意が必要となります。
また、利益の分配については、株式会社の場合は持株数に応じて配当が行われるのに対して、合同会社の場合は定款で自由に定めることが可能です。定款で定めていない場合は、出資額に応じて決まります。
合同会社 | 株式会社 | |
所有と経営の分離状況 | 原則、所有と経営が一致 | 原則、所有と経営が分離 |
出資者の責任範囲 | 有限責任 | 有限責任 |
構成員の地位の譲渡性 | 原則として、他の社員の同意が必要 | 原則として自由 (ただし定款で譲渡制限を課すことは可) |
利益の分配 | 定款で定めることが可能 | 持株数に応じて分配 |
合同会社の事業承継が難しい理由
合同会社で事業承継を行うことは株式会社と比べて難しいといえます。ここでは、その主な理由として以下の3つについて解説していきます。
- 社員全員の承認が必要なため
- 合同会社の事業承継は会社変更手続き
- 合同会社を買収するメリットが少ない
社員全員の承認が必要なため
1つ目の理由は、合同会社が社員の持分を譲渡する形で事業承継を行う場合、原則として、その持分の譲渡について社員全員の承認が必要となるためです。繰り返しとなりますが、ここでの社員とは従業員のことではなく、合同会社の構成員(出資者)のことをいいます。
複数人の社員で構成される合同会社の場合、持分の譲渡について承認しない人が1人でもいれば事業承継は成立しません。
なお、持分を譲渡する方法ではなく、事業そのものを譲渡する方法(事業譲渡)でも事業承継を行うことは可能で、この場合は社員の過半数の承認が必要になります。
組織変更するハードルが高い
2つ目の理由は、あとから株式会社に組織変更することが難しいという点です。合同会社から株式会社に組織変更することで、株式を譲渡する形で事業承継を行うことができるようになります。こうすれば、合同会社のままよりもスムーズに事業継承を進めることが可能です。
しかし、合同会社から株式会社への変更に際しては、組織変更計画に対する社員全員の同意が必要になります。そのため、複数人の社員によって構成される場合は、1人でも反対すれば変更することができません。複数人の社員がいる場合は、あとから株式会社に変更するハードルが、場合によっては高くなることが想定されます。
合同会社を買収するメリットが少ない
3つ目は、買い手にとっての合同会社を買収するメリットが、株式会社と比べて少ないという点です。そもそも、合同会社は株式を発行しないので、株式市場に上場ができません。もし買い手が当該の会社を将来的に上場させることを視野に入れているならば、どこかのタイミングで株式会社への変更手続きが必要になるなど、手間がかかってしまいます。
また、合同会社の社員となった場合、原則として経営に携わらなければなりません。所有と経営が一致しており、出資者が経営の業務執行を担うことが合同会社の原則だからです。つまり、株式会社のように経営を取締役や役員に任せるというような形は、合同会社では取れないという点に留意が必要です。
合同会社を事業承継する方法
ここまで合同会社の事業承継が難しい理由について解説しました。しかし、難しいとはいえ、合同会社のままでも事業承継をする方法はいくつかあります。そこでここでは、合同会社を事業承継する主な方法を6つ紹介します。
- 1.M&Aによって事業承継を行う
- 2.合同会社を株式会社へ変更する
- 3.吸収合併
- 4.合同会社のまま持分譲渡
- 5.定款に規定を記載しておく
- 6.複数人の出資者を確保する
1.M&Aによって事業承継を行う
1つ目は、事業譲渡の方法による事業承継です。事業譲渡とは、売り手企業が有する一部または全部の事業を買い手に譲渡することをいいます。合併の場合は会社の権利・義務関係がまるごと承継されるのに対して、事業譲渡の場合は特定の事業を選定し、その事業にかかる権利・義務関係のみを譲渡するという特徴があります。もちろん、社員が持分を譲渡する形とも異なります。
事業譲渡を行う場合、どの事業を譲渡し、どの資産や負債を承継させるかを契約で定める必要があります。また、原則として事業譲渡の実行について社員の半数の合意を得なければなりません。
2.合同会社を株式会社へ変更する
2つ目は、合同会社を株式会社に変更する方法です。前述した通り、合同会社の持分を譲渡するには、原則として社員全員の同意を得なければなりません。複数人の社員で構成される場合は、1人でも反対すれば譲渡できないため、事業承継が不成立となります。
そこで、事業承継前に予め株式会社へと変更しておくことで、株式の譲渡という形を取れるようになります。ただし、株式会社に変更する場合、組織変更計画書を作成し、それについて社員全員の同意を得るなど、会社法で定められた一定の手続きが必要です。
3.吸収合併
3つ目は、吸収合併する方法です。吸収合併とは、売り手の会社の権利・義務の全部を買い手が承継する合併のことをいいます。
吸収合併は、合同会社も利用することができる方法です。合同会社が吸収合併を利用すると、合同会社の権利・義務全てが買い手側に承継され、取り込まれます。
なお、吸収合併を実施する場合は吸収合併契約を締結し、全社員の同意を得なければならないなど、会社法で定められた一定の手続きが必要です。
4.合同会社のまま持分譲渡
4つ目は、合同会社の会社形態を維持したまま、持分を譲渡して事業承継を行う方法です。これまでに説明した通り、合同会社の社員がその持分を譲渡する場合は、原則として全社員の同意が必要となります。
持分の譲渡は、社員全員の同意、持分の譲渡契約の締結、登記の変更といった流れで行われます。
5.定款に規定を記載しておく
5つ目は、定款に承継に関する規定を予め記載しておくという方法です。定款とは会社運営のためのルールを定めたもので、いわば会社の憲法のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。
合同会社の場合、社員が欠けると会社法で定められた解散事由に該当することになり、清算手続きに入らなければなりません。こうなってしまうと事業承継をすることができなくなります。こうした事態を防ぐために、予め定款に、例えば社員が死亡した場合、相続人が事業を継承して社員となる趣旨の内容を定めておくことができます。あらかじめ備えておくことで、外部の人が会社を継承することを防ぐことができます。
6.複数人の出資者を確保する
6つ目は、複数人の出資者を確保しておく方法です。出資者が1人の場合、その1人が亡くなって社員が欠けると、会社法で定める解散事由に該当するため清算手続きに入ります。つまり会社自体が存続しなくなるため、M&Aによる事業承継ができません。
ただし出資者が複数人いる場合は、誰か1人が亡くなったとしても、合同会社の清算が行われることはありません。複数人の出資者を確保しておくということは、経営を維持する方法としては有効な対策です。
出典:e-Gov法令検索
合同会社を事業承継するメリット
合同会社を事業承継する主なメリットとしては、以下の4つが挙げられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
- 事業承継する事業を選べる<
- 従業員の雇用維持につながる
- 経営強化につながる
- 会社の存続に繋がる
事業承継する事業を選べる
1つ目は、事業譲渡の方法を採用する場合、事業承継する事業を選べるという点です。事業譲渡とは、前述の通り、売り手企業の一部または全部の事業を買い手に譲渡することをいいます。持分譲渡が社員たる地位の譲渡によって事業承継を行う方法であるのに対して、事業譲渡の場合は会社が営む事業にかかる権利・義務を買い手に譲渡する形です。
事業譲渡の場合、たとえば複数の事業を営んでいる会社であれば、不採算事業などを切り出して買い手に売却することが考えられます。そうすることで経営資源を配分すべき本業に振り向けることが可能となるメリットがあります。
従業員の雇用維持につながる
2つ目は、合同会社を事業承継することは、従業員の雇用維持にもつながる側面がある点です。仮に合同会社の出資者が1人だとした場合、その人が亡くなって社員が欠けると、前述の通り、合同会社は解散事由に該当して清算手続きに入ることになります。そうすると、従業員の雇用が失われる可能性があるため、合同会社で事業承継をすることは従業員の雇用維持のためにも重要なのです。
持分譲渡の場合は、原則として従業員の雇用条件は継続されます。一方で、事業譲渡の場合は、その事業にかかる雇用契約を個別に引き継ぐか、該当の従業員に同意を得る必要があるため、この点において手続きが異なってくることに注意が必要です。
経営強化につながる
3点目は、合同会社の事業承継は経営の強化につながることです。たとえば、複数の事業を抱えている場合で、事業譲渡によって一部の事業を譲渡することにしたとしましょう。これまで足かせとなっていた不採算事業を売却することで、経営資源を本業に集中させるという「選択と集中」を行うことができます。また、売却によって獲得した資金を本業に充て、さらに本業を強化することが可能になります。
さらに、買い手にとっては、売り手から事業を買い取ることは、自社の事業に足りない機能を補強し、シナジー(相乗効果)を創出させることであり、事業の成長に繋げることができます。
会社の存続に繋がる
最後4点目は、会社の存続につなげることができることです。たとえば、事業譲渡による方法であれば、売却対象となる事業のみが切り離されるだけなので、引き続き、売り手の会社と残った事業は継続する形となります。
また、持分譲渡による場合も、合同会社の社員たる地位が買い手に承継されるだけなので、会社自体は引き続き存続します。この場合、社員が入れ替わることになり、基本的に買い手側が経営を担うことになるので、後継者選びで悩んでいた売り手にとってメリットとなるのです。
合同会社を事業承継するデメリット
以上が合同会社を事業承継するメリットですが、ここからは合同会社を事業承継するデメリットについて解説していきます。ここで取り上げるデメリットは2つです。
- 手続きに時間がかかる
- 課税や負債への対応
手続きに時間がかかる
合同会社の事業承継の場合、手続きに時間がかかることがあります。たとえば、持分譲渡の方法で事業承継を行う場合、その持分の譲渡には社員全員の同意が原則として必要です。社員が1人であればスムーズに行うことができますが、複数人となると1人でも反対すれば譲渡することができません。反対する社員を説得する時間を要するなど、手続きに時間がかかることが想定されます。
また、事業譲渡による場合、譲渡の対象となる資産や権利・義務を特定することが必要です。特に売り手の事業にかかる義務を買い手に引き継いでもらう場合、原則として債権者から同意を得る必要があるなど、個別の契約ごとに手続きが必要になります。こうした理由から、手続きに時間を要することがあるのです。
課税や負債への対応
事業承継によって発生した売却益に対して課税されるため、その対応が必要となります。
また、事業承継によって事業を引き継いだ買い手は、売り手側が従前に有していた負債も引き継ぐことになるため、対応が求められます。持分譲渡による事業承継の場合にも、買い手は、売り手が従前に有していた全ての負債に対して対応しなければなりません。
これに対して、事業譲渡の場合は、売り手と買い手同士で定めた負債についてのみ対応が必要です。この場合、売り手側に残った事業に関する債務が残存することがあります。
まとめ
合同会社を事業承継させる場合、株式会社を事業承継させる場合と比べ、手続きの難易度が上がる可能性があります。事業譲渡の方法であれば社員の過半数の承認、持分譲渡の方法による場合であれば、全社員の同意が原則として必要です。その他にもさまざまなリスクが伴います。
しかし、合同会社の事業承継の場合も、リスクを的確に捉え、適切な対策を講じることでスムーズに実行することができます。合同会社を事業承継させる方法を押さえつつ、合同会社を事業承継するメリット・デメリットを踏まえて検討していくことがポイントです。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。