親の会社を継ぐメリットは多い?親族内承継の方法や注意点を解説
親族間承継は現在も一般的な事業継承の方法として多くの企業で行われています。
後継人となる経営者の子どもは、親の会社を継ぐ際に身に付けるべきノウハウが多数あります。
また、親族内承継にはメリット・デメリットのどちらも存在することは理解しておくことも大切です。
今回は親族内承継における税金の種類から手続き方法、注意点まで以下の流れで解説します。
目次
親の会社を継ぐとは?親族内承継の現状について
経営者が自身の子どもや兄弟、孫などの親族を後継者として事業を承継する手法を親族内承継といいます。
日本全体で見ると、親族内承継は減少傾向にあるのが現状です。
社会の成熟化や価値観の多様化によって職業の選択肢が増えてきたことや、身の回りの環境変化が激しいことなどが背景にあると考えられています。
たとえ親族内に後継者となる候補者がいても、本人はやりたい仕事に就くことを望み、親はそれを容認する風潮になりつつあるのが現状です。
ニーズの変化が激しい現代において、子どもに会社を継がせることに不安を感じることも背景の一つと考えられます。
親の会社を継ぐタイミングは3つ
親の会社を継ぐことが分かっていても、実際にどのタイミングで引き継ぐべきか分からず事業承継を先送りしてしまうケースもあります。
結論から言えば、引き継ぐタイミングは事業や当人の状況によって異なるため「今が引き継ぐときだ」と思ったときこそ適切なタイミングです。
しかしその中でも、過去に親族内承継を行ってきた人に多く見られるタイミングがあります。
よくあるタイミングとして以下の3つが挙げられます。
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- 親が亡くなったとき
- 年齢による引退
- 当初約束していた時期になった
引き継ぐタイミングに悩む場合には、自身の状況に応じてベストな時期を検討するとよいでしょう。
1.親が亡くなったとき
先代の経営者である親が亡くなったときの相続によって、会社の株式や資産を引き継いで経営者になるパターンです。
相続人が複数いる場合は、一人の後継者に株式を保有させるために遺産分割をする必要があります。
遺産分割は手続きが複雑で、相続に対して課税されることからも、子どもの負担は大きいと言えます。
また、親が亡くなるタイミングは予測不可能です。
突然会社の引き継ぎが迫られる場合も多く、後継者である子どもは事前に承継への準備や心構えをしておくことが大切です。
2.年齢による引退
「70歳になったら引退する」といったように、特定の年齢を節目として子どもに会社を引き継ぐタイミングにするケースもあります。
高齢になっての会社経営は体力的にも負担が大きいです。
歳を重ねると健康な状態を維持するのが難しくなり、病気になると経営に全力で取り組めなくなることもあります。
そのため、年齢的な体力低下や健康への障害を機に経営者としての限界を感じ、子どもへ引き継ぐことを決意する経営者も多いです。
中小企業庁のアンケート調査では、中小企業における平均引退年齢は67〜70歳で年々上昇傾向にあります。
後継者が経営に関するノウハウを身に付け、ある程度の年齢になっていれば親が50〜60歳代で引き継ぐこともあります。
3.当初約束していた時期になった
昔から会社を継ぐことが決まっており、当初から約束していた時期に差し掛かったタイミングで引き継ぐケースです。
この場合、他のケースと比べてある程度予定されているタイミングであるため、後継者としての準備期間は十分にあります。
心の準備もしやすく、事業承継の際もスムーズに進められる点がメリットです。
しかし、年単位での準備期間があると、その期間内で子どもはさまざまな経験をし「会社を継ぎたい」という気持ちが変わる可能性があります。
状況によって予定通りに承継が進まないことも考えられるため、どう対応するかを事前に話し合っておくことが大切です。
親の会社を継ぐメリット3選
親族内承継には、従業員や第三者などの親族外承継にはないメリットが多いです。
主なメリットは以下の3つです。
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- 前経営者が身近にいる安心感
- 経営基盤が確立された状態でスタートできる
- 自分の子どもにも引き継げる
メリットを理解することでモチベーションの向上や引き継いだ後の将来像がイメージしやすくなります。
1.前経営者が身近にいる安心感
子どもが会社を継ぐ場合、前経営者は親になるため長期間かつ日常的に接することが可能です。
そのため、知らず知らずのうちに親である経営者としての考え方を学ぶことができるというメリットがあります。
他人が承継した場合、前経営者と身近に接する機会はほとんどありません。
親子として日常的に接していることで、経営者としての考え方や立ち居振る舞いなどを意識せず身に付けられる可能性があります。
2.経営基盤が確立された状態でスタートできる
ある程度経営基盤が確立された状態から経営に携わることができる点は大きなメリットです。
事業がうまく回っている会社であれば人材、事業資金、取引先、顧客、設備などのビジネスに必要な資産が揃っている状態で事業を引き継ぐことができます。
ゼロから会社を立ち上げる場合はこれらすべてを自分で揃える必要があります。
経営の基盤が十分に整った状態でのスタートは、負担や労力をすべて事業継続にあてることができる点で有利に働く可能性が高いです。
3.自分の子どもにも引き継げる
親族内承継によって引き継いだ会社は、将来的に自分の子どもに引き継ぐことも可能です。
事業が好調に進み多くの資産を生み出せる状態であれば、将来の子どもの生活を支える手段の一つとして選択肢を与えられます。
また、親から引き継いだ会社をさらに後世に承継することに大きな喜びを感じられます。
親の会社を継ぐデメリット2選
親の会社を継ぐことはメリットだけではなく、デメリットも存在します。
主なデメリットは以下の2つです。
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- 負債を引き継ぐリスクがある
- 収入が安定しない
経営者になるということは、大きな責任とリスクも背負うことにも繋がります。
メリットの部分だけではなく、デメリットとなる点も十分に理解して心構えをしておくことが大事です。
1.負債を引き継ぐリスクがある
親の会社を継ぐことで負債を抱えるリスクがあります。
事業承継によって会社の資産を引き継げますが、これはマイナスの資産であっても同様です。
つまり、親の会社に負債がある状態の場合、事業承継とともに会社の負債も引き継がなければなりません。
返済義務が後継者に課せられることで負担やプレッシャー、リスクは大きいものとなります。
2.収入が安定しない
経営者になれば、常に不安定な収入というリスクと向き合う必要があります。
会社員やサラリーマンの場合は、雇い主の企業がある程度の給料を保障してくれます。
多少の増減があるケースもありますが、会社の業績に関わらず生活していくための最低賃金は確保できることがほとんどです。
たとえ会社が倒産しても失業保険などの制度を利用できます。
一方で、経営者は会社の業績が悪化すれば自身の収入に直結します。
責任を負わず安定した収入を求める場合は、経営者よりも雇用を受ける立場で仕事をする方が現実的です。
親の会社を継ぐ際に注意すべきこと
親の会社を継ぎ、経営者として事業を進める前に注意すべきことがあります。
注意点は以下の2つです。
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- 経営者に必要なスキルや能力を理解する
- 事業承継のタイミングを入念に擦り合わせる
事前に親の会社を継ぐことが決まっている場合は早い段階で準備を進め、心構えをしておくことが大切です。
経営者に必要なスキルや能力を理解する
会社経営に必要な知識やスキルは、現場の仕事ではなかなか身に付けられません。
経営に関する知識や発想力、精神力などさまざまな能力を身に付け、磨く必要があります。
事業承継までに十分な期間があれば、経営者に必要な能力を理解し同業他社で修行期間を設けるなどの学習意欲を持つことが大切です。
現経営者である親からノウハウを学ぶ方法もありますが、セミナーや書籍から学べることも多いでしょう。
事業承継のタイミングを入念に擦り合わせる
事業承継のタイミングをあらかじめ先代と後継者の間で入念に擦り合わせておくことで、スムーズな引き継ぎが可能です。
具体的なタイミングは先代と後継者の年齢や後継者の能力、会社の状況を考慮して話し合うことが大事です。
また、タイミング以外にも承継後の方向性について話し合うことで、事業に失敗するリスクを減らせる可能性があります。
タイミングを決めた後は、その時期に向かって計画的に経営ノウハウや知識を身に付けるためのプランを作成しましょう。
親の会社を継ぐ際の手続き方法
親の会社を継ぐ際は、事業承継に関する手続きが必要です。
手続きの方法を理解しておくこともスムーズな引き継ぎには不可欠です。
個人事業主の場合と法人の場合で手続きの方法が異なるため、各業態別に手続き方法を解説します。
個人事業主の場合
個人事業主として事業を営んでいる場合は、以下の手順で手続きを進めます。
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- 現経営者が廃業届を提出する
- 後継者が開業届を提出する
- 社内外の関係者への挨拶
- 資産の確認・引き継ぎ
法人とは違い、あくまで個人の事業を引き継ぐことから承継の際の課税は後継者個人に対して行われます。
そのため、現経営者である親が廃業届を提出し、後継者である子どもが開業届を提出することで課税の対象を子どもへ移行します。
その後、社内外の関係者に対して事業承継への了承を得るため、挨拶回りをすることが大切です。
資産を引き継ぐ際には、売買や贈与によって所有権を移行させます。
法人の場合
引き継ぐ会社が法人である場合は、以下の手順で手続きを進めます。
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- 贈与または相続による継承の手続き
- 株式の把握と確保
- 税金の対策
法人の場合、経営権を得るためには3分の2以上の株式を保有しなければなりません。
親から株式を引き継ぐ方法は、生前贈与・相続・株式売買の3通りがあり、確保した株式は課税の対象になります。
還暦贈与や相続時精算課税制度を利用して税金対策をすることも負担軽減には重要です。
親の会社を継ぐ際に起こりうるトラブル
親族内承継においては、さまざまなトラブルが起きる可能性があります。
起こりうるトラブルは、以下の例が挙げられます。
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- 子どもが会社を継ぎたくない
- 相続をめぐって親族間で争う
- 関係者に反対される
場合によっては事業承継自体が叶わなくなるケースも少なくありません。
事前に起こりうるトラブルを把握して、対処法を考えておくなどのリスクヘッジが大切です。
子どもが会社を継ぎたくない
経営者の子ども全員が親の会社を継ぎたいと考えているわけではありません。
他にやりたいことがある、会社の将来性に不安を感じるなどの理由で継ぎたがらないケースも多いです。
子どもに継いでもらえない場合には他の親族を後継者として承継するほか、親族外承継も視野に入れる必要があります。
相続をめぐって親族間で争う
経営者である親が事故や病気などで突然亡くなってしまい、事業承継のきっかけになるケースも多いです。
事業承継における資産や株式等の準備がない状態では、親族間で遺産分割や相続を巡って争いが起きる可能性があります。
もし遺産分割により他の親族に資産を分ける必要があれば、承継後の経営への大きな負担になりかねません。
経営者はあらかじめ遺言の作成や生前贈与などで、相続に関するトラブルへの対処をする必要があります。
関係者に反対される
事業承継においては、従業員や得意先などの関係者から理解を得られない、または反対されることで難航するケースも多いです。
周囲の同意を得られない状況で会社を引き継いでも、不満を持つ従業員が退職したり取引先との契約を切られたりと、トラブルに発展することもあります。
親の会社を継ぐ際にかかる税金
親族内承継に伴って課せられる税金はいくつかあります。
主な税金は以下の3つです。
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- 贈与税
- 相続税
- 譲渡所得税
また、どのような方法で事業承継するかによって税金の種類も異なります。
事前に必要となる税金を把握しておくことが資金繰りには重要です。
贈与税
親の会社を継ぐ際にかかる贈与税は、年間110万円までは非課税となり、年間110万円を超えた分が課税対象となります。
贈与額が110万円以上ある場合は110万円以下に分割し、数年かけて贈与を行うことで非課税になります。
贈与税額の計算方法は、「(1年間の贈与額−110万円)×税率−控除額」で算出が可能です。
また、税率と控除額は課税対象となる金額に応じて異なります。
相続税
相続税の税率と控除額は課税対象となる金額に応じて異なりますが、基本的に税率は10%〜55%、控除額は50万円〜7,200万円が相場です。
現金預貯金や株式、不動産といった、亡くなった人が所有していた財産の合計額を算出し、そこから基礎控除を引きます。
差し引いて余った部分法定相続分で相続したものとみなし、各相続人に配分します。
一般的に自社の株式は高く評価されるため、株式を相続した相続人は相続税の負担も多くなるでしょう。
譲渡所得税
株式の譲渡によって得た利益に対しては、譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得は「譲渡価額−必要経費(取得費+委託手数料)」で算出できます。
非上場株式の譲渡所得にかかる税金は、所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%の合計20.315%です。
親の会社を継ぐ際の費用を抑える方法
親の会社を継ぐ際には、いかにコストを抑えるかが今後の事業継続において重要です。
費用を抑える主な方法は以下の3つです。
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- 事業承継時補助金
- 事業承継税制
- 融資制度
税金対策や補助金、融資制度といった社会資源をうまく活用することで承継の際の負担を軽減できます。
事業承継時補助金
費用を抑える方法の一つに、中小企業庁による事業承継時補助金制度があります。
事業承継時補助金は、「事業承継やM&Aを契機とした経営革新等への挑戦や、M&Aによる経営資源の引き継ぎ、廃業・再チャレンジを行おうとする中小企業者等を後押しするための支援」です。
補助金の限度額は申請類型や対象要件によって異なります。
親の会社を継ぐ親族内承継の場合は、「経営革新事業」のⅡ類「経営者交代型」となり、限度額は600〜800万円です。
事業承継税制
事業承継税制は相続税、贈与税の納税猶予が受けられる制度です。
国税庁によると、「後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税、一定の要件のもと、その納税を猶予」と定義されています。
事業承継税制を利用するには、「贈与の際に、後継者とその親族などで総議決件数の50%以上を保有」していることが条件です。
融資制度
事業承継に際しては、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を利用することもできます。
大きく分けて「国民生活事業」と「中小企業事業」の2つの融資方法があり、それぞれに条件や限度額が異なります。
国民生活事業の場合は、融資限度額は7,200万円で、うち運転資金が4,800万円です。
担保や保証人は不要で、返済期間は用途によって10〜20年と、要件により異なります。
融資要件は「中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む)と共に事業承継計画を策定している方」が対象です。
親の会社を継ぐ際のポイントを理解し、メリットを最大限に活かそう
親の会社を継ぐメリットやデメリット、引き継ぎの際の注意点や資金繰りのポイントについて解説しました。
親族内事業承継は減少傾向にあるものの、現在も事業承継の有効な手段として取り入れられています。
負債を引き継ぐ危険性や収入が不安定なリスクがある反面、将来的に大きな資産を残せる可能性も秘めているのも事実です。
スムーズに引き継ぎを行うためにはポイントを理解し、起こりうるトラブルを事前に把握しておくことでリスクを回避することが大切です。
メリットを最大限に活かすために、期間に十分な余裕を持って準備を進めていきましょう。
ディスクリプション
この記事では親の会社を継ぐ人へ向けて、そのメリットとデメリット、事業承継の際の注意点を解説しています。元記事の知識性に加えて、トラブルの回避やスムーズな事業承継ができるよう費用対策などの見出しを追加しました。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。