TOB(株式公開買付)とは?5つのメリットと具体的な流れ、成功事例について解説

「TOBとはどんな手法?」「メリットやデメリットは?」「どんな成功事例がある?」そんな疑問を感じてはいませんか。

TOBとは、関係強化や経営権の獲得を目的に、対象となる企業の株式を市場外で買収することです。買収側にも売却側にもメリットとデメリットがあるので、TOBを実施する際は慎重に進めましょう。

この記事ではTOBの目的やメリット、成功事例について解説します。TOBに興味がある人は、ぜひこの記事を参考に、経営戦略を立ててみてください。

買収側がTOBを行う目的とは

TOBとは、「Take Over Bid(株式公開買付)」の略で、相手企業を買収したい企業が株式を市場外で買い集めることを指します。子会社や関連会社への支配権を高めたい企業が実施する場合も少なくありません。

TOBの主な目的は以下の2つです。

    • 経営権の取得
    • 組織再編

市場で株式を購入するよりも、一定の資金でより多くの株式が集められます。

経営権の取得

大半の企業が経営権の取得をTOBの目的にしています。

会社法上では株式を50%超保有すれば、株主総会の普通決議を単独可決できるため、経営権の取得が可能です。また、3分の1超株式を保有している場合は、特別決議拒否権も取得できます。

ただし、金融商品取引法によって、上場企業の株式を3分の1超保有していると、TOBで株式取得をしなければなりません。

組織再編

組織再編を目的にTOBが実施されることもあります。ルール上は、5%以上もしくは3分の1以上の株式を取得しているだけなので、必ずしも経営権の移動が伴うとは限りません。

たとえば、持分適用会社になる20%以上の株式を取得して、グループ化を目指すケースです。一方で、グループ会社にTOBを実施し、非上場にしたうえで、ホールディングスにまとめ上げたパナソニックグループのような例もあります。

TOBを実施したからといって、必ずしも非上場になるわけではありません。

しかし、特定の株主が一定割合以上の持株を所有していると、上場を維持できなくなります。

TOBの種類:友好的TOBと敵対的TOB

TOBは、以下の2種類に分類されます。

    • 友好的TOB
    • 敵対的TOB

種類によって目的や手法が異なるため、違いをしっかりと理解しておきましょう。

友好的TOB

友好的TOBは、対象企業の経営陣が、株式の買収を了承したうえで実施されます。

グループ企業の完全子会社化を目的に実施されるケースが多く、話し合いで事前に条件を決めて買付する場合がほとんどです。国内で実施されるTOBの多くが友好的TOBに該当します。

しかし、両者の合意なしには成立しないことから、話し合いを進めていても買収計画が頓挫してしまうケースも少なくありません。また、友好的TOBにこだわりすぎると、買収チャンスを逃す可能性もあります。

敵対的TOB

敵対的TOBは、対象企業や大株主に対して、合意や事前の通知なしにTOBを仕掛けることです。経営権の取得や関係性強化の手段、発言権を高めるために実施されます。

しかし、最終的にTOBの良し悪しを決めるのは株主であるので、経営陣や取締役会の反対だけでは敵対的TOBを阻止できません。

そのため、買収企業は高い株価での購入や会社の発展などを条件に買付の勧誘をします。一方で対象企業は、事業の成長を理由に引き止める場合がほとんどです。

基本的に上場企業の株主は、経済的な利益を目的に株式を保有していることから、高い利益が見込める方が有利になります。

TOBの買収防衛策はある?

かつては、新株や新株予約権を大量発行することで、議決権に対する分母を増やす防衛策が取られていました。しかし、既存株主が保有している株式価値が下がってしまうため、現在では行われていません。

また、買収防衛策の多くは、既存の株主が保有する株式の権利や価値を損ねる手法だったことから、多くの企業では買収防衛策を廃止しているのが事実です。

現在では、資金力のある投資家をパートナーにして株式を保有してもらう方法が多く取られています。

基本的には、株主や社員・取引先・顧客などに向き合った、長期的な成長戦略の元に経営を続けていくのが重要です。

そのほかにも、透明性が高い情報開示やIRの継続によって、企業価値や株価を上げ続けることも効果的といえるでしょう。

ただし、敵対的TOBは以下のような理由により、失敗するケースも多くあります。

    • 競合相手に負けてしまう
    • 買収したが思ったよりも業績が悪かった
    • 買収により人材が流出し、経営が悪化した

敵対的TOBの場合、限られた情報から対象企業の価値を算出するため、実施の判断が難しい傾向にあります。

TOBの5つのメリット

TOBには以下の5つのメリットがあります。

    1. 買収計画を立てやすい
    2. 株価の影響を受けない
    3. 手続きに手間がかからない
    4. 買い手側はTOBをキャンセルできる
    5. 利益を得やすい(売却側)

買収側と売却側で得られるメリットが異なります。双方のメリットを把握したうえで、TOBを進めましょう。

1.買収計画を立てやすい

事前に計画した期間や株式数、金額で大量の株式を買い取るため、買収計画を立てやすい傾向にあります。

一般的な、株式市場の買付だと、目標株式数に達するまでの予測が立てにくい場合がほとんどです。また、予想以上に高額な費用がかかる可能性もあるでしょう。

買収は期間が長引くと負担が大きくなるので、予測やスケジュールが立てやすいのは大きなメリットです。

2.株価の影響を受けない

事前に価格を決めて株式の買付をするため、市場の株価の影響を受けません。株価が急激に上昇しても、市場を通さないので決めた予算内で買付ができます。

ただし、競合企業が現れると価格がつり上がってしまうことから、予算を大幅に超える可能性もあるため注意が必要です。

3.手続きに手間がかからない

株式譲渡や事業譲渡と比較して手続きに手間がかからないのもメリットです。買収する際に株主総会を開く必要がなく、従業員や取引先との再契約も基本的に不要です。

4.買い手側はTOBをキャンセルできる

買収企業は、予定していた株式を取得できなければ、TOBをキャンセルできます。

市場で取得した場合、必要数に満たなくても買った分は手元に残りますが、TOBは買収した株式をすべてキャンセルできるのが特徴です。

売却側が事前に株式の最大発行数と最小発行数を設定できるので、買収側はこの数字を元にキャンセルの判断をします。ただし、最大発行数は全体の3分の2以上は設定できません。

3分の2以上株式の取得を希望するケースでは、全部買い付け義務が発生し、全株式を取得する必要があります。

5.利益を得やすい(売却側)

売却側がTOBを募集する際は、参考期日の株価に2〜5割程度のプレミアム価格を上乗せできるため、直近の相場よりも高い価格で株式を売却できます。ただし、タイミングによっては損失を被る可能性もあるので注意しましょう。

友好的TOBでは、資金力の高い企業に売却されることで、経営が改善され、株価の高騰も期待できます。

TOBの4つのデメリット

多くのメリットがあるTOBですが、以下のようなデメリットもあります。

    1. 取引で損する可能性がある
    2. 買付情報の公開が必要
    3. 売却後に損失を被る可能性がある(売却側)
    4. 経営権を奪われる(売却側)

買収側と売却側のそれぞれのデメリットを把握したうえで、TOBを検討しましょう。

1.取引で損する可能性がある

売却側の企業とTOBの合意が得られないと敵対的TOBになるため、想定以上に買収資金がかかる可能性があります。また、売却側が別の企業と友好的TOBを画策していると、スムーズに取引を進められないでしょう。

友好的TOBとして進められたとしても、売却側は2〜5割程度のプレミアム価格を上乗せするので、市場内で買付をするよりもコストがかかります。

2.買付情報の公開が必要

TOBを実施するには、株主平等の原則に則り、買付に関する情報を公開しなければなりません。多くの人に注目されるため、TOBにトラブルが発生すると企業イメージが悪くなる可能性があります。

また、買付情報を公開することによって、別の企業が競合として現れ、予想以上の資金がかかる場合もあるでしょう。

3.売却後に損失を被る場合がある(売却側)

敵対的TOBでは、売却側はさまざまな対抗策を取りますが、結果として株価が下がる可能性もあります。

また、対抗策を株主に反対されると、不信感が高まり、防衛に成功しても経営に影響を及ぼすでしょう。万が一、対抗策が株主保護の観点から不当と判断された場合、差し止めを受けるので対策ができなくなります。

4.経営権を奪われる(売却側)

TOBを実施すると、株主構成が変わるため、買収先企業からの要求が増える可能性があります。しかし、経営に対する投票権や影響力は株主の資本比率で決まるので、必ずしも買収企業が権利を持つとは限りません。

一方で、買収側の企業が、新しい株主を募集するケースはあります。また、敵対的TOBの場合は、全く異なる経営方針を打ち出されても拒否できません。

TOBの流れ3ステップ

TOBは、基本的に以下の流れで実施されます。

    1. 公開買付開始の公告と公開買付届出書の提出
    2. 意見表明報告書の提出と回答
    3. 公開買付報告書の提出

全体の流れを把握しておくことで、スムーズにTOBを実施できるでしょう。

ステップ1.公開買付開始の公告と公開買付届出書の提出

買収側は企業情報やTOBの目的、価格を公表し、内閣総理大臣に公開買付届出書と必要書類を提出します。

届出書には、買付価格や買付を予定している株式数などの記載が必要です。届出書を提出することによって、TOBが始まります。

ステップ2.意見表明報告書の提出と回答

売却側は、10営業日以内に、TOBに対する意見や買収側への質問などを記載した意見表明報告書を、内閣総理大臣に提出します。

また、買収側は、売却側の質問に対する回答を5営業日以内に回答報告書に記載のうえ、内閣総理大臣に提出しなければなりません。

ステップ3.公開買付報告書の提出

公開買付期間が終了した日の翌日に買収側が、公開買付報告書を内閣総理大臣に提出し、TOBの手続きが完了します。一般的な公開買付期間は、20〜60営業日です。

期間終了日までに買収側が、総議決権の過半数を獲得していれば、経営権を取得したことになります。

番外編:公開買付撤回届出書の開示

万が一、効果買付期間中にTOBを撤回する場合は、公開買付撤回届出書を提出し、投資家保護のために外部に開示します。届出書には、TOBを撤回する理由を記載しなければなりません。

TOBの成功事例43選

以下のTOBの成功事例を紹介します。

    1. エキサイト株式会社:Xtech株式会社が買収
    2. サンヨーホームズ:日本アジアグループが敵対的TOB
    3. セゾン情報システムズ:エフィッシモ・キャピタル・マネージメントが敵対的TOB
    4. エスエス製薬:ベーリンガーインゲルハイムが敵対的TOB
    5. カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社:自らをTOB
    6. 株式会社ワールド:市場から自社株を買収し非上場化

成功事例を参考に、TOBの戦略を考えていきましょう。

1.エキサイト株式会社:Xtech株式会社が買収

エキサイト株式会社は、ネット広告や通信サービスを扱う伊藤忠商事の子会社です。一方で、Xtech株式会社は、2018年10月にユナイテッド出身の手嶋氏とサイバーエージェント出身の西條氏が設立しました。

Xtech株式会社は、エキサイト株式会社に対して、友好的TOBを実施しています。

2.サンヨーホームズ:日本アジアグループが敵対的TOB

日本アジアグループが資本関係の強化による利益の拡大を目的に、サンヨーホームズへの敵対的TOBを成功させています。しかし、取締役の派遣のような経営の支配はせずに、現状維持を選択しているのが特徴です。

3.セゾン情報システムズ:エフィッシモ・キャピタル・マネージメントが敵対的TOB

エフィッシモ・キャピタル・マネージメントは、純投資を目的にセゾン情報システムズへの敵対的TOBを成功させています。

セゾン情報システムズは特別委員会を開き、株式の買付に反対していましたが、防衛策には至りませんでした。しかし、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントは、株式を33%しか取得せずに、経営に関与しないとしています。

4.エスエス製薬:ベーリンガーインゲルハイムが敵対的TOB

ドイツの製薬会社であるベーリンガーインゲルハイムは、関係性の強化と他社の買収防止を目的として、2000年にエスエス製薬への敵対的TOBを成功させています。

エスエス製薬は、TOBに対して同意や反対の意思表示をしていませんでしたが、個人株主が売却に応じたことで買収が成立しました。

2.カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社:自らをTOB

レンタルビデオショップ「TSUTAYA」等を運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が、経営陣による自社買収を実施し、上場廃止しました。

これは、マネジメント・バイ・アウト(MBO)といわれる手法です。上場を続けるのにもコストと責任がかかるので、企業の現状や目指す方向性を考慮し、上場廃止の選択に至ります。

また、上場しているデメリットが大きく、非上場の方がメリットを得られる場合にも上場廃止が検討されるでしょう。そのほかにも、業界に変化の波が来ていると株価が低下してしまうことから、株主への責任を軽減するために、非上場化する場合もあります。

3.株式会社ワールド:市場から自社株を買収し非上場化

「UNTITLED」や「TAKEO KIKUCHI」を展開している大手アパレル会社の株式会社ワールドは、2005年に市場から自社株を買収することで非上場化しました。

業界再編の時期に短期的な業績がマイナスになり、上場企業のメリットである積極的な資金調達ができなくなったのが理由のひとつです。

しかし、業績が回復したことで、上場のメリットが活かせるようになり、2018年に再上場しています。

TOBは専門家に相談しながら慎重に進めましょう

TOBは買収側の企業にとって、予定した計画の元、買収を進められるのが特徴です。市場外の取引であるため、株価の影響を受けず、想定外の費用がかかる心配もありません。

しかし、TOBを実施するには、公開買付の情報を公開しなければならないので、競合企業が参入してくる可能性もあります。その場合は、価格のつり上げが起こりやすいことから、想定以上の費用がかかってしまうでしょう。

また、敵対的TOBであれば、売却側企業が対抗策を打ち出すため、必ずしも成功するとは限りません。TOBにはさまざまなデメリットとメリットがあるので、慎重に検討しましょう。

TOBを検討している人は、ぜひこの記事を参考に、専門家のアドバイスを受けてみてください。

【メタディスクリプション】

TOBとは対象企業に対して経営権の取得等を目的に、市場外で株式の買収をすることです。株価の影響を受けずに買収を進められます。この記事ではTOBの流れや成功事例についても解説しました。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。