レーマン方式とは?成功報酬の計算法について解説
タイトル:レーマン方式とは?成功報酬の計算法について解説

M&A仲介会社の成功報酬の仕組みを複雑に感じる方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、「レーマン方式」について詳しく解説します。
この方式を理解することで、皆様のM&Aに対する不安や疑問が解消され、前向きな一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
目次
レーマン方式の背景
従来のM&A仲介会社の報酬体系は、固定報酬や単純な一定料率が主流でした。
しかし、この方式では、小規模な取引で報酬が高くなりすぎたり、大規模な取引で報酬が安くなりすぎたりと、依頼者と仲介会社の利益バランスが取れないという問題がありました。
こうした背景から、ドイツの経営学者ハンス・レーマン博士が、取引金額に応じて報酬率が逓減していく新しい報酬体系を提唱しました。これが「レーマン方式」の始まりです。
レーマン方式の定義と特徴
レーマン方式とは、M&A取引の成功報酬を計算するための段階的な料率テーブルを用いる方法です。
取引金額に応じて報酬率が下がっていくのが特徴で、以下のような利点があります。
-
- 取引金額に応じて報酬率が変動するため、依頼者と仲介会社の利益バランスが取れる
- 段階的な料率設定により、報酬の予測がしやすい
- 小規模な取引では報酬率が高く、大規模な取引では報酬率が低くなるため、依頼者の負担が適切に調整される
こうした特徴から、レーマン方式は中小企業のM&Aを中心に、広く活用されるようになっています。
レーマン方式の料率テーブルと計算方法

一般的な料率テーブルの解説
一般的なレーマン方式の料率テーブルは、以下のようになっています。
-
- 取引金額が5億円までの部分:5%
- 5億円超10億円以下の部分:4%
- 10億円超20億円以下の部分:3%
- 20億円超50億円以下の部分:2%
- 50億円超の部分:1%
この料率テーブルは、取引金額が大きくなるほど、報酬率が下がっていく仕組みになっています。
計算例の詳細な説明

それでは、具体的な計算例を見てみましょう。取引金額が15億円の場合、以下のように計算されます。
-
- 5億円×5% = 2,500万円
- 5億円×4% = 2,000万円
- 5億円×3% = 1,500万円
- 合計成功報酬 = 6,000万円
この例では、取引金額15億円に対して、合計6,000万円の成功報酬が発生することになります。
累進料率の仕組みと効果
レーマン方式の料率テーブルは、累進料率の仕組みになっています。つまり、取引金額が大きくなるほど、適用される報酬率が下がっていくのです。
この仕組みにより、小規模な取引では報酬率が高く設定され、仲介会社の努力に見合った報酬が得られます。一方、大規模な取引では報酬率が低くなるため、依頼者の負担が抑えられるというメリットがあります。
累進料率の効果により、依頼者と仲介会社の利益バランスが保たれ、双方にとってメリットのある報酬体系が実現されるのです。
異なる算出基準額の検討
レーマン方式を適用する際、算出基準額には様々な種類があります。主なものは以下の通りです。
譲渡価額基準の詳細と計算例
譲渡価額基準は、株式や事業の譲渡価額を基準として成功報酬を計算する方法です。例えば、株式の譲渡価額が20億円の場合、以下のように計算されます。
-
- 5億円×5% = 2,500万円
- 5億円×4% = 2,000万円
- 10億円×3% = 3,000万円
- 合計成功報酬 = 7,500万円
この基準は、譲渡価額が明確な場合に適しています。
企業価値基準の詳細と計算例
企業価値基準は、株式価値と債務の合計である企業価値を基準として成功報酬を計算する方法です。例えば、企業価値が30億円の場合、以下のように計算されます。
-
- 5億円×5% = 2,500万円
- 5億円×4% = 2,000万円
- 10億円×3% = 3,000万円
- 10億円×2% = 2,000万円
- 合計成功報酬 = 9,500万円
この基準は、株式価値だけでなく、債務も含めた企業全体の価値を考慮する場合に適しています。
移動総資産基準の詳細と計算例
移動総資産基準は、譲渡対象の総資産額を基準として成功報酬を計算する方法です。例えば、譲渡対象の総資産額が40億円の場合、以下のように計算されます。
-
- 5億円×5% = 2,500万円
- 5億円×4% = 2,000万円
- 10億円×3% = 3,000万円
- 20億円×2% = 4,000万円
- 合計成功報酬 = 11,500万円
この基準は、資産の移動に着目し、譲渡対象の資産規模を重視する場合に適しています。
オーナー受取額基準の詳細と計算例
オーナー受取額基準は、オーナーが受け取る金額を基準として成功報酬を計算する方法です。例えば、オーナーの受取額が25億円の場合、以下のように計算されます。
5億円×5% = 2,500万円
5億円×4% = 2,000万円
10億円×3% = 3,000万円
5億円×2% = 1,000万円
合計成功報酬 = 8,500万円
この基準は、オーナーの利益に直結する金額を重視する場合に適しています。
各基準の比較と選択のポイント
各基準には、それぞれ特徴があり、M&Aの目的や状況に応じて使い分ける必要があります。選択のポイントは以下の通りです。
-
- 譲渡価額基準:株式や事業の譲渡価額が明確な場合に適している
- 企業価値基準:株式価値だけでなく、債務も含めた企業全体の価値を考慮する場合に適している
- 移動総資産基準:譲渡対象の資産規模を重視する場合に適している
- オーナー受取額基準:オーナーの利益に直結する金額を重視する場合に適している
M&A仲介会社との契約時には、どの基準を採用するのか、十分に議論し、合意しておくことが重要です。
レーマン方式のメリット
レーマン方式のメリットは、以下の通りです。
-
- 公平性:取引金額に応じて報酬率が変動するため、依頼者と仲介会社の利益バランスが保たれる
- 予測可能性:段階的な料率設定により、報酬の予測がしやすい
- 柔軟性:小規模な取引では報酬率が高く、大規模な取引では報酬率が低くなるため、依頼者の負担が適切に調整される
これらのメリットにより、中小企業経営者にとって、レーマン方式は魅力的な報酬体系だと言えます。
レーマン方式のデメリット

一方で、レーマン方式にはデメリットもあります。
小規模M&Aでの報酬負担:小規模な取引の場合、報酬率が高くなるため、依頼者の負担が重くなる可能性がある
努力と報酬の不一致:仲介会社の努力と報酬が必ずしも比例しない場合がある
これらのデメリットは、M&A仲介会社との契約時に、よく確認し、対策を講じておく必要があります。
メリットとデメリットの比較
レーマン方式のメリットとデメリットを比較すると、以下のようなことが言えます。
-
- メリットの方が大きい:公平性、予測可能性、柔軟性などのメリットは、中小企業経営者にとって大きな魅力である
- デメリットへの対策が必要:小規模M&Aでの報酬負担や、努力と報酬の不一致などのデメリットには、適切な対策が必要である
- 個別の状況に応じた判断が重要:M&Aの目的や状況に応じて、メリットとデメリットを比較考量し、最適な報酬体系を選択することが重要である
総合的に見ると、レーマン方式は中小企業経営者にとって魅力的な報酬体系だと言えます。
ただし、個別の状況に応じた判断が必要であり、M&A仲介会社との十分な協議を通じて、最適な契約を締結することが求められます。
レーマン方式を活用する際の注意点
算出基準額の確認と比較
レーマン方式を活用する際は、算出基準額を確認し、比較することが重要です。M&A仲介会社によって、採用する基準が異なる場合があるため、以下の点に注意しましょう。
譲渡価額基準なのか、企業価値基準なのかを確認する
移動総資産基準やオーナー受取額基準の採用有無を確認する
各基準に基づく成功報酬の試算を行い、比較検討する
算出基準額の選択は、M&Aの目的や状況に大きく影響します。慎重に検討し、最適な基準を選ぶことが求められます。
報酬率の設定の妥当性を検証する
レーマン方式の報酬率は、一般的な料率テーブルに基づいて設定されます。ただし、M&A仲介会社によって、報酬率の設定が異なる場合があります。以下の点に注意し、妥当性を検証しましょう。
-
- 各段階の報酬率が適切か、他社と比較検討する
- 報酬率の設定根拠を確認し、納得できるものかを検証する
- 過去の事例や業界水準と比較し、妥当性を判断する
報酬率の設定は、成功報酬の金額に直結する重要な要素です。十分な検討を行い、納得できる設定であることを確認することが大切です。
最低報酬額の有無と影響
レーマン方式を採用する場合、最低報酬額の有無を確認することが重要です。最低報酬額とは、取引金額に関わらず、必ず支払う必要のある報酬額のことです。以下の点に注意しましょう。
-
- 最低報酬額の有無を確認する
- 最低報酬額の金額と、その根拠を確認する
- 最低報酬額が設定されている場合、小規模な取引での影響を検討する
最低報酬額は、小規模な取引の場合、依頼者の負担が重くなる可能性があります。M&A仲介会社との契約時に、最低報酬額の有無と影響を十分に議論し、対策を講じておくことが重要です。
契約書の詳細確認とポイント

レーマン方式を採用する際は、契約書の詳細を確認することが大切です。特に、以下の点に注目しましょう。
算出基準額、報酬率、最低報酬額など、成功報酬に関する条件が明記されているか
支払い時期や支払い方法など、具体的な取り決めが含まれているか
契約解除の条件や、その際の報酬の取り扱いが定められているか
契約書は、依頼者とM&A仲介会社の権利義務関係を定める重要な書面です。専門家の助言を得ながら、詳細を確認し、不明点があれば確認することが求められます。
専門家の助言の重要性
レーマン方式を活用する際は、専門家の助言を得ることが重要です。M&Aや報酬体系に関する知識と経験を持つ専門家に相談することで、以下のようなメリットがあります。
-
- レーマン方式の仕組みや注意点について、詳しく説明してもらえる
- 自社の状況に合わせた最適な算出基準額や報酬率の設定について、アドバイスがもらえる
- 契約書の内容について、専門的な観点から確認してもらえる
専門家の助言を得ることで、レーマン方式に関する理解を深め、適切な意思決定を行うことができます。M&Aを成功に導くためにも、専門家との連携を積極的に図ることが大切です。
レーマン方式導入による効果と影響
レーマン方式を導入することで、以下のような効果と影響が期待できます。
-
- 依頼者と仲介会社の利益バランスが取れ、公平な報酬体系が実現する
- 報酬の予測可能性が高まり、M&Aの計画立案がしやすくなる
- 小規模な取引では報酬率が高く、大規模な取引では報酬率が低くなるため、依頼者の負担が適切に調整される
- M&A仲介会社の報酬に対する納得感が高まり、信頼関係が構築される
一方で、レーマン方式の導入には、以下のような影響もあります。
-
- 算出基準額や報酬率の設定によっては、依頼者の負担が重くなる可能性がある
- M&A仲介会社の努力と報酬が必ずしも比例しない場合がある
- レーマン方式に関する知識や経験が不足していると、適切な運用が難しくなる可能性がある
これらの効果と影響を踏まえ、自社の状況に合わせてレーマン方式の導入を検討することが重要です。
まとめ
レーマン方式は、中小企業経営者にとって魅力的な報酬体系です。依頼者と仲介会社の利益バランスを取り、公平性と予測可能性を高めることができます。一方で、算出基準額や報酬率の設定、最低報酬額の有無など、注意すべき点も存在します。
レーマン方式を活用する際は、専門家の助言を得ながら、自社の状況に合わせた最適な選択を行うことが重要です。また、M&A仲介会社との信頼関係を構築し、円滑なコミュニケーションを図ることも欠かせません。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。