事業承継で必要な準備とは?準備する内容と必要な期間について解説

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事業承継をスムーズに行うためには、早い段階での準備が欠かせません。しかし、何をどのように進めたらよいかわからずお困りではないでしょうか。

後継者の選定はもちろん、税制の理解や支援策の確認など、事業承継の準備には時間がかかります。そのため、まずは全体像を理解したうえで少しずつ進めていくことが大切です。

この記事では、事業承継で必要な準備について解説します。ぜひ参考にしてください。

目次

事業承継で準備が重要な理由

事業承継では、早期から準備を進めておくことが重要です。

主に3つの理由があります。

    • 何を引き継ぐべきかを選定・把握するため
    • 後継者探しに時間がかかるため
    • 税制度の理解が難しいため

これまで会社を引っ張ってきた経験があっても、いつかは後継者に引き継ぐ必要があります。とくに年齢を重ねてくると、いつ何が起こるかわかりません。準備不足のまま経営者を交代した場合、承継の当事者だけでなく会社全体を巻き込むことになります。これまで育ててきた会社が、望外の理由で立ち行かなくなってしまうのは本意ではないでしょう。

会社を守るためにも、事業承継の準備は早いうちに始めることが重要です。事業承継は税金や法律などが密接に関係するため、正しい知識を獲得するためにも着実に準備する必要があります。

いきなり事業承継をしようとしても、確かな知識がなければうまくいきません。将来を見据えて、今のうちから事業承継の準備を進めていきましょう。

事業承継に必要な準備期間

事業承継に必要な準備期間は、会社の状況ごとに異なります。そのため、どのくらいの期間が必要であるかは一概にはいえません。しかし一般的には、後継者の選定・育成から実際に事業承継を行うまで、5年〜10年ほどの期間が必要です。

長い期間がかかる理由は、準備段階からやるべきことが多分にあるためです。

事業承継に必要な準備は、主に以下のとおりです。

    • 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
    • 事業承継に向けた経営改善
    • 事業承継計画策定
    • 活用できる支援策の確認

無事に事業承継を済ませたとしても、後継者の能力が不足していればその後の経営は立ち行かなくなってしまいます。そのため、後継者の育成も見据えて準備をしていきましょう。

また、事業承継を行う平均的な年齢は70歳前後です。遅くとも60歳ごろには、事業の引き継ぎを考えておいたほうがよいでしょう。

事業承継でやるべきこと

事業承継でやるべきことは、以下の3つです。

    • 事業承継を準備する前にすること
    • 経営資源・経営リスクの分析
    • 代表の財産と債務

以下の項目から、それぞれのポイントを解説していきます。ひとつずつ整理して、準備を進めていきましょう。

事業承継を準備する前にすること

事業承継を準備する前にすることは、主に以下の2つです。

    • 経営資源・経営リスクの分析
    • 代表の財産と債務

この2つを行うことで、何を引き継ぐべきかが明確になります。どちらも事業承継には欠かせない内容のため、しっかり取り組んでいきましょう。

経営資源・経営リスクの分析

まずは、経営資源・経営リスクの分析を行います。会社が持つ経営資源やどのような経営課題を抱えているのかを明確にすれば、後継者の負担を減らすことにもつながるでしょう。外部の人材に承継する場合も、会社の売却価格を算定することにも役立ちます。

会社の強み・弱みがどこにあるのかを明確にしておけば、承継後にどういった方向性で経営を進めればよいのか、どのようなリスクに対して施策が必要なのかがわかります。このような分析を丁寧に行うことが、事業承継を円滑に進める鍵となります。

具体的にどのような項目を分析すればよいのかは、経営状況・経営課題等の把握(見える化)で詳しく解説します。

代表の財産と債務

中小企業の場合、代表社員の個人財産が会社の資産・負債と密接に関わり合っていることも珍しくありません。そのため、代表の個人財産についても分析を行う必要があります。

代表の財産と債務を分析するときは、以下の項目を分析しましょう。

資産についての分析

    • 代表の自社株保有数、持株割合
    • 自社株の相続税評価額
    • 代表名義の不動産資産

負債についての分析

    • 代表個人の債務内容・金額
    • 会社の債務に関する個人保証の内容

代表の財産と債務の状況を把握することも、事業承継では重要な意味を持ちます。余計な経営リスクを追わないためにも、金銭に関わる部分の分析を怠らないようにしましょう。

事業承継の準備

事前にやるべきことが済んだら、事業承継の準備に移ります。

事業承継の準備は、以下のステップで行います。

    1. 後継者の選定と育成
    2. 経営状況・経営課題の把握(見える化)
    3. 事業承継に向けた経営改善
    4. 事業承継計画書策定
    5. 活用できる支援策の確認

事業承継は、段階的に進めていくのがおすすめです。5つのステップを意識して、着実に準備を進めていきましょう。

準備1.後継者の選定と育成

最初に行うのは、社内にアナウンスすることと後継者の選定と育成です。どの人物を次の経営者に指名するのか、あらかじめ考えておきましょう。また、会社の顧問税理士・顧問会計士に相談をしましょう。

承継先には、以下のような選択肢があります。

    • 親族(事業承継の多くは親から子へ承継)
    • 従業員
    • 第三者への承継(M&A)

事業承継の大きな悩みどころは、後継者問題です。自分は適任だと思う人材がいたとしても、本人に後を継ぐつもりがなければ円滑な事業承継は行えません。親族や従業員に後継者がいない場合は、M&Aを行って外部の人材に承継する可能性があることも考慮しましょう。

準備2.経営状況・経営課題等の把握(見える化)

経営状況や経営課題の把握も重要な項目のひとつです。会社の持つ強みと抱えている課題が明確になれば、承継後の対策も取りやすいでしょう。

経営状況・経営課題として分析すべきは、以下の項目です。

    • 業界の将来性
    • 資産・負債の内容
    • 従業員の人数や年齢構成、平均年齢などの状況
    • 株主の状況等

事業承継では、会社の状況以外にも引き継ぎにあたってどのような問題があるのかを把握することも重要です。経営者本人が取り組むことがまずは重要ですが、必要に応じて専門家のアドバイスをもらうなどの施策も行っていきましょう。

準備3.事業承継に向けた経営改善

経営状況・経営課題等を把握したら、事業承継の実施に向けた経営改善を行いましょう。具体的な戦略としては、以下の例が挙げられます。

    • 商品やサービスの品質向上
    • ブランドイメージの向上
    • 優良顧客の選定
    • 優秀な人材の確保
    • 信用関係の構築(金融機関・株主など)

このような体制を積み上げていけば、後継者を指名したときに進んで引き受けてもらえる可能性は高くなります。承継する側の人間にとって魅力的だと思えるような会社を作っていくことが大切です。

準備4.事業承継計画策定

次に行うのは、事業承継計画の策定です。ここまでの準備で、会社の状況がかなり明確になったはずです。その内容を踏まえて、将来を見据えた事業承継計画を策定しましょう。

計画を立てるときのポイントは、以下を意識することです。

    • いつ
    • 何を
    • だれに
    • どのように

これらを意識することで、より具体的に計画を策定できます。事業承継計画は後継者やその他従業員、取引先などと一緒に進めていくのが効果的です。事業承継を行うことに関して理解を得る必要もあるため、計画の内容に不備がないか、無理のない計画になっているかなどを確認しておきましょう。

準備5.活用できる支援策の確認

事業承継を行うにあたり、さまざまな支援を受けられます。主な支援策として、以下の例が挙げられます。

    • 事業承継税制の活用
    • 事業承継・引継ぎ支援センターへの相談
    • 事業承継・引継ぎ補助金の活用
    • 事業承継ファンドの活用

事業承継に関するお悩み相談や節税対策など、支援策を活用することで経営者・後継者の負担を軽減できます。どの支援策を活用すればよいかについては、中小企業庁が公開している事業承継に関する主な支援策(一覧)を参考にするのがおすすめです。

事業承継の進め方

準備が完了し、実際に事業承継を行うことになったら、以下のように進めていきましょう。

    • 後継者へノウハウを伝承する
    • ステークホルダーへ周知・広報を行う
    • 経営権の移行を引き継ぎ含めて行う

それぞれにポイントがあるため、確実に押さえておくことが重要です。

後継者へノウハウを伝承する

事業承継の際は、後継者へノウハウを伝承することが最初に行うべきことです。こちらは準備段階で後継者を育成するときに伝えているかもしれませんが、改めて伝承するとよいでしょう。営業・現場・企画・経理・人事など、それぞれを経験させるのが望ましいといわれています。

具体的に伝承する情報は以下のような例が挙げられます。

    • 事業運営に関する知見
    • 営業や労務など経営管理に関する知見
    • 人脈やノウハウ

後継者の育成は、事業承継における最重要課題です。適切にノウハウ・技術・マインドの伝承がなされれば、承継後も安心して事業を任せられるでしょう。後継者が承継後に戸惑わないように、方向性を指し示してあげることも大切です。

ステークホルダーへ周知・広報を行う

事業承継を行う際は、ステークホルダー(利害関係者)への周知・広報を行う必要があります。説明が不十分なまま経営陣の交代が行われた場合、従業員や取引先との不和につながる可能性も低くありません。

後継者が決まった段階で、ステークホルダーへの周知を行いましょう。また、事業承継計画を提出して事業承継に納得してもらうことも必要です。周囲が振り回されることのないように、少しずつ事業承継を進めていきましょう。

経営権の移行を引き継ぎ含めて行う

最終段階として、事業承継計画に沿って経営権の移行を行います。この際、後継者への引き継ぎも併せて行いましょう。経営権が移動すると、会社の資産も同様に移動します。

事業承継でしばしば問題となるのが、株式の承継についてです。事業承継の際に、社長の地位だけを与えて株は先代が保有したままにする(実権を手放さない)場合も少なくありません。しかし、それでは後継者はお飾り社長であると捉えてしまい、経営に対する意欲を失うきっかけになりかねません。少なくとも、過半数以上渡すのが重要であるといわれています。なお、安定的な会社経営には67%以上の株式が必要であるといわれています。

事業承継は、実行段階でもさまざまな条件が変化します。短期的に終了するものではなく、長期的な対応が必要になることは理解しておきましょう。また、事業承継の実行中でも事業承継計画はこまめに見直しておくことが重要です。

なお事業承継の実行手続きは法的な手続きや税務処理が必要になるため、専門家と相談しながら進めるのがベストです。

まとめ

事業承継の準備は、引退を考える10年ほど前から進めておくのがおすすめです。早いうちに行動しておけば、事業承継を行う際に負担が軽くなります。

事業承継の準備は多岐にわたるため、ひとつずつ着実に進めていきます。丁寧に準備をしていても状況が変わることは珍しくないため、専門家に相談するなど、プロの意見も聞きながら進めるようにしてください。支援策の確認も忘れずに行い、活用できる制度は積極的に活用していきましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。