中小企業の廃業の実態は?廃業率・理由・手順・費用・対策法をまとめて解説

昨今、後継者不足や経営者の高齢化などにより、廃業する中小企業が増加しています。

本記事では、

  • 中小企業の廃業の推移・実態
  • 中小企業が廃業する主な理由
  • 中小企業の廃業が及ぼす影響
  • 中小企業の廃業を防ぐ対策法
  • 中小企業を廃業する手順
  • 中小企業を廃業するときにかかる費用

について詳しく解説します。

中小企業の廃業を防ぐ事業承継やM&Aなどの方法も紹介するため、業績の悪化や後継者不足を理由に廃業を考えている方におすすめです。

中小企業の廃業の実態や理由、解決策などを理解して、会社経営において後悔しない選択をしましょう。

中小企業の廃業の推移・実態

昨今、中小企業の開業・廃業が増加しています。開業率は、1988年をピークに下降し始め、2000年代以降は少しずつ上昇していました。しかし、2017年ごろから再び下降傾向です。

出典:中小企業庁

一方、廃業率は、1996年から上昇し続けていましたが、2010年を境に減少しています。

ただし、現在127万社が後継者不在の問題に直面しており、今後は廃業する中小企業が増えると予想できるでしょう。

ここでは、廃業・開業した企業の数や業種割合について解説します。

廃業した企業の数

東京商工リサーチによると、2022年の休廃業および解散企業の件数は49,625件に上り、前年と比較して11.8%増加しました。2021年には新型コロナウイルスの影響に対する各種支援によって企業の市場離脱が一時的に抑えられましたが、その後の支援策の縮小が影響を及ぼしています。

また、休廃業企業の財務状態に目を向けると、2022年は黒字の企業の割合が54.9%であり、前年の56.5%から減少し、過去最低を記録しました。

黒字の割合が減少した理由の1つとして、企業が資金繰り支援に依存し、中長期的な事業価値の向上に向けた取り組みを行わなかったことが考えられます。

廃業した企業の業種割合

2022年に廃業した企業の業種割合においては、特にサービス業での休廃業が多く、飲食業や宿泊業、非営利団体を含むサービス業その他で15,876件(全体の32%)が廃業し、前年比で12.8%増加しています。建設業の廃業は8,079件(全体の16.3%)、小売業は5,559件(全体の11.2%)と報告されました。

さらに、45に細かく分類した業種別では、情報サービス・制作業が2,765件(前年比で31.3%増)、飲食業が1,899件(前年比で15.6%増)と、高い増加率を示しています。

出典:東京商工リサーチ

開業した企業の数

中小企業の廃業に対し、新たに開業する企業の数はどうだったかを見てみましょう。2022年の新設法人は142,189社であり、前年比1.6%と、2年ぶりに減少しました。

なかでも、コロナ禍の影響を受けた飲食業や宿泊業、建設業の開業数が減少しています。対照的に、税理士法人は19.4%増(288社から344社)、社会保険労務士法人は6.6%増(254社から271社)となり、士業や医療関連の分野での新設法人が増えています。

コロナ禍を背景に、起業に対する人々の意識が変わりつつあるといえるでしょう。

出典:東京商工リサーチ

中小企業が廃業する主な理由

中小企業が廃業する理由は多種多様です。中小企業庁の委託によって行われた東京商工リサーチの2016年11月の調査によると、廃業を考えている理由は以下の通りです。

廃業理由 割合
業績の悪化 37.3%
後継者を確保できない 33.3%
会社に将来性がない 30.7%
自分の世代で会社をたたむ予定だった 30.7%
経営者の高齢化 22.7%
従業員の確保が困難 17.3%
技能等の引継ぎが困難 14.7%
事業用資産の老朽化 6.7%

出典:中小企業庁

ここでは、中小企業が廃業する理由の中で特に割合の高いものを詳しく解説します。

業績の悪化

中小企業の廃業理由においては、業績の悪化が高い割合を示しています。東京商工リサーチの調査結果によると、2023年に休廃業した企業のうち、赤字企業率は47.6%に上りました。

新型コロナウイルスの影響下では多くの企業が助成金によって経営を支えられていた反面、支援が終了すると経営難に陥る企業が多く見られました。また、人件費や原材料の価格上昇も業績悪化の理由の1つです。

業績が悪化すると、経営者は事業の継承よりも廃業を選択する傾向が高まります。

出典:東京商工リサーチ

後継者を確保できない

中小企業における廃業の一因として、後継者問題も深刻です。2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業の経営者は約245万人に上りますが、そのうち127万人は後継者が未定だと報告されています。

親族内で後継者を探そうとしても、現代においては職業選択の自由が尊重され、身内では決まらない状況が増えています。

さらに、事業承継を行う際には、企業の資産だけでなく負債の引継ぎも必要となるため、消極的な姿勢を示す経営者も多い傾向です。

このように後継者不足の問題は深刻化しており、2025年には多くの中小企業が、黒字でありながら廃業を余儀なくされる可能性があるのです。

出典:中小企業庁

会社に将来性がない

中小企業の廃業の理由としては、会社のビジネスの将来性に対する懸念も挙げられます。

中小企業庁の調査では、廃業を考えている企業の中で、経常利益が赤字である割合は35.2%です。昨今、収益性の低下に直面している企業が多く、自社の将来性を否定的に見る経営者が30.7%であると報告されました。

このように経営者の中には、自分の代で事業を終えて、後継者に負担を残さないよう決断する方もいます。

出典:中小企業庁

自分の世代で会社をたたむ予定だった

中小企業が廃業に至る理由の1つには、経営者自身が事業を自分の世代で終える予定だったというケースがあります。

日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、新型コロナウイルスの影響を受けて廃業を決断した企業の中で「自分の代で事業を終える予定だった」と答えた割合は、86.2%にも上りました。

外部環境の影響を受けての廃業という結果であったとしても、もともと事業承継する意思がなかった経営者も一定数いるのです。

出典:日本政策金融公庫

経営者の高齢化

経営者の高齢化も中小企業の廃業の理由に挙げられます。中小企業庁によると、2025年には中小企業や小規模事業の経営者のうち、70歳以上である人の割合が半数を超えるとされています。具体的には、70歳以上が約245万人、70歳未満が約136万人に上ります。

当然経営者の平均年齢も上昇傾向にあり、2013年時点では60.4歳でしたが、2020年には62.5歳に達しています。これに伴い、休廃業や解散の件数も34,800件から49,698件へと増加しているのです。

年齢を重ねて思考能力や体力が低下すると、企業経営の継続を困難に感じる経営者も増えます。そのため、業績が黒字であっても事業を継続せず廃業を選択するケースがあるのです。

出典:中小企業庁

廃業以外の選択肢を知らない

廃業以外の選択肢を知らないことも、中小企業が廃業する理由になります。M&Aなどの代替手段があっても、多くの経営者はこれらの方法に疑念を抱いているのです。

実際に、東京商工会議所の調査によって、M&Aに関して以下のような否定的な印象をもつ経営者が多いことがわかりました。

  • 乗っ取られて会社がなくなってしまう
  • 社名が変わる
  • 従業員も職場が変わる
  • 雇用が不安定になる
  • 高額な費用がかかる

特に、M&Aを実施すると「会社が乗っ取られる」というイメージに対して、中小企業は非上場株式の多くが譲渡制限株式(自由に売買できない株式)であり、発行会社の同意なく売買できません。

それゆえ、売り手と買い手がしっかりと話し合い、双方が納得したうえで法的手続きを踏めば、M&Aによる友好的な譲渡を実現できるのです。会社が乗っ取られるのではないかという心配はありません。

そのほかにも、自社がM&Aの対象となる可能性に気づいていない経営者は40.3%いると報告されてます。M&Aにおいては、企業規模が大きくなくても、年商1億円前後であれば譲渡できる可能性があるのです。

このように、廃業以外にも、M&Aなどの代替手段で事業承継することができます。

出典:東京商工会議所 中小企業M&A連載第2回

中小企業の廃業が及ぼす影響

中小企業の廃業は、働いている従業員だけでなく、日本全体に大きな影響を及ぼします。

  • 雇用が失われる可能性が高まる
  • 売上高・GDPの損失
  • 中小企業の技術の消失につながる

ここでは、中小企業の廃業によるこれら3つの影響について解説します。

雇用が失われる可能性が高まる

中小企業の廃業によって、雇用の喪失がもたらされるのではないかと懸念されています。従業員が勤務先を失うことで収入の確保が困難になる可能性があるのです。特に、廃業が近づくにつれ、職を失う従業員の数は増加する傾向があります。

廃業予定の中小企業における5年以内の従業者数減少の実態によると、約371.4万人が職を失う見込みで、これは廃業予定企業の従業者数の52.7%に相当します。さらに、6年から10年後の期間では、全体の22.6%にあたる約159.5万人が影響を受けると予測されています。

廃業決定企業では、廃業予定時期の5年以内に約23.7万人、6年から10年後に約15.8万人の雇用が失われる見通しです。累計では10年間で約39.5万人が影響を受け、最終的には約54.4万人の雇用が失われると予想されています。

また、廃業未定企業が廃業する場合、5年以内に約46.7万人、6年から10年後には約31.1万人の雇用が喪失する可能性があります。

出典:東京商工リサーチ 中小企業の廃業がマクロ経済に与える影響

売上高・GDPの損失

中小企業の廃業問題は、国内総生産(GDP)にも影響を及ぼし、経済全体にとって大きな損失をもたらす可能性があります。中小企業庁の試算によれば、中小企業や小規模事業者の廃業が増えると、GDPは約22兆円失われると見込まれています。

また、売上を生み出す能力を持ちながらも廃業に追い込まれる企業も存在します。この形で失われる売上高は110.3兆円に上り、中小企業全体の売上高の約15.3%、大企業を含む民営企業の売上高の約6.8%に相当します。

廃業予定時期別では、5年以内に失われる見込みの売上高は48.2兆円で、全体の43.7%を占めると予測されました。6年から10年後の期間では、30.5兆円が失われる見込みで、全体の27.7%に相当します。このように、廃業によって失われる売上高の約7割が10年以内に発生すると考えられているのです。

売上高やGDPに対する損失を抑えるためにも、廃業だけでなく、M&Aを含むさまざまな戦略をとることが求められます。

出典:中小企業庁 中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題

出典:日本政策金融公庫 中小企業の廃業がマクロ経済に与える影響

中小企業の技術の消失につながる

中小企業が廃業してしまうと、その企業独自の技術が消失する恐れがあります。経営者が長年にわたり築き上げてきた経営資源を失うことで、一企業の廃業に留まらず、業界全体の技術力の低下を招く可能性も考えられるのです。

雇用の喪失・売上高・GDP・技術の喪失について考慮すると、廃業を避けるための選択肢も視野に入れることが望ましいでしょう。ここからは中小企業の廃業を防ぐ対策法について解説するため、参考にしてください。

中小企業の廃業事例

中小企業の廃業事例を以下に紹介致します。

非常に後継者不在や様々な理由によって廃業をご選択された事例となります。

  • 竹林味噌醸造所
  • 木挽町辨松

1. 竹林味噌醸造所

竹林味噌醸造所は、明治時代から続く老舗の味噌醸造所であり、2016年5月に廃業を選択しました。主な廃業理由は後継者不在です。

長年地域に愛されてきた味噌を製造してきたものの、後を継ぐ人材が見つからず、最終的に閉業に至りました。地域の伝統的な味噌文化の一端が失われることとなり、常連客や地元の人々に惜しまれました。
引用元: https://gata21.jp/archives/58930030.html

2. 木挽町辨松

東京・東銀座にあった老舗弁当屋「木挽町辨松」は、152年にわたる歴史に幕を下ろし、2020年4月に廃業しました。この店は歌舞伎座前で多くの役者や観劇客に愛され、池波正太郎のエッセイや久保田万太郎の作品にも登場する名店でした。

廃業の主な要因は、新型コロナウイルスの感染拡大による経営難です。コロナ禍で歌舞伎座や新橋演舞場が休演となり、売上が急激に落ち込みました。さらに、設備の老朽化や後継者問題も重なり、これらの複合的な理由が廃業の要因となりました。

猪飼信夫社長は、譲渡先を探していたが、新型コロナの影響でそれも難航し、最終的に廃業を選択しました。

この老舗弁当屋は、長年多くの人々に親しまれ、歌舞伎や演劇の文化とも深く結びついていましたが、様々な経営課題が重なり、惜しまれながらもその歴史に終止符が打たれることになりました。
引用元: https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1189780_1527.html

中小企業の廃業を防ぐ対策法

業績悪化や人手不足の状況でも、廃業以外の選択肢があります。ここでは、中小企業の廃業を防ぐ6つの対策法について解説します。

  • 親族や社員に事業を継承する
  • 外部から後継者を採用する
  • 補助金・支援金制度を使う
  • M&A(会社の吸収・合併)
  • 士業に相談する
  • 事業引継ぎ支援センターを利用する

親族や社員に事業を継承する

中小企業における廃業を防ぐための対策として、まず事業承継が挙げられます。

その中でも親族内承継は、子や孫といった親族に事業を引き継ぐ手法です。関係者からの受け入れが良く、早期に継承者を決定して準備を進められる利点があります。2023年の親族内承継の割合は33.1%に達していますが、徐々に減少する傾向にあります。

一方の企業内承継は、共同創業者や有望な若手の経営者、現場を牽引するキーパーソンなど、親族以外の社員に事業を引き継ぐ手法です。事業内容を熟知した人物に継承させられる利点があります。

実際に、内部昇格による役員登用は35.5%を占めており、血縁に依存しない継承が行われていることがわかります。ただし、後継者が複数いる状況ではトラブルに発展する恐れがあるため、社内で慎重に話し合いを進める必要があるでしょう。

外部から後継者を採用する

廃業を回避したい中小企業で親族や社内で適切な継承者が見つからない場合、外部の有能な人材を迎える方法があります。この方法のメリットは、経営スキルが高く、企業に新たな視点をもたらすリーダーを選ぶ余地が生まれる点です。

しかし、外部からの後継者採用は、社内からの反発を招きやすい側面があります。既存の従業員の中には、新しい経営者の方針を受け入れがたく感じる人も出てくるかもしれません。そのため、引退するまでの期間で引継ぎを適切に行い、信頼関係の構築を行うことが重要です。

後継者募集のマッチングサイトとは

後継者募集のマッチングサイトとは、経営を継ぎたい意欲のある人々と、適切な継承者を求めている企業を結びつけるサービスです。

このサービスを利用するメリットは、全国から事業承継を希望する企業や個人を見つけ出せるため、事業承継の選択肢が広がる点です。また、M&Aの専門家からのアドバイスを得ながら進められたり、地域に縛られずに、自社に適した能力と意思を持つ人材を探したりできます。

実際に、日本政策金融公庫では「事業承継マッチング支援」を実施しており、複数の企業が事業承継のマッチングサイトを運営しています。

後継者募集のマッチングサイトを利用することで、廃業を避け、経営の継続につなげられるでしょう。

補助金・支援金制度を使う

資金面が理由で経営が厳しいのであれば、廃業ではなく、補助金や支援制度の活用もおすすめします。

中小企業庁が採択した「事業再構築補助金」は、中小企業が事業の再編や事業承継を通して経営の革新を進める際の費用を援助するための制度です。以下のように、枠によって補助額が異なります。

【事業再構築補助金】

種類 補助額
成長枠 従業員数20人以下 :100万円~2,000万円
従業員数21~50人 :100万円~4,000万円
従業員数51~100人 :100万円~5,000万円
従業員数101人以上 :100万円~7,000万円
グリーン成長枠(エントリー) 中小企業(20人以下) :100万円~4,000万円
中小企業(21~50人):100万円~6,000万円
中小企業(51人~) :100万円~8,000万円
中堅企業 :100万円~1億円
グリーン成長枠(スタンダード) 中小企業:100万円~1億円
中堅企業:100万円~1.5億円
卒業促進枠 成長枠・グリーン成長枠の補助額に準じる
大規模賃金引上促進枠 3,000万円

一方で、事業再生・企業再建支援資金は、経営改善・経営再建に取り組む企業を支援する制度です。貸付上限額や基準利率は、以下の通りです。

【事業再生・企業再建支援資金】

貸付上限額 7億2千万円
基準利率 2.5%

出典:日本政策金融公庫 事業再生・企業再建支援資金(企業再建・経営改善支援関連)

補助金や支援制度は、利用できる条件や補助金額・融資額が決められているため、内容をしっかりと把握してから申請しましょう。

M&A(会社の吸収・合併)

M&A(会社の吸収・合併)とは、資本の移動が行われる企業の合併と買収です。

多くの中小企業が後継者不足の問題を抱えており、経営者の高齢化によって廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。このような状況下では、M&Aは有効な選択肢となり得ます。

実際に、国内での中小企業におけるM&A件数は増加傾向にあり、2021年度には事業承継・引継ぎ支援センターで1,514件、中小企業M&A仲介大手5社で899件実施されたと報告されています。

M&Aには後継者問題を解決し従業員の雇用を確保しながら売却益を得られるメリットがあるため、検討する余地があるでしょう。

出典:中小企業庁 「中小M&A推進計画」の主な取組状況

士業に相談する

中小企業の事業承継を考えている場合には、税理士や公認会計士、弁護士などの士業に相談しましょう。税務や会計、法務などの観点から、事業承継をサポートしてくれます。

それぞれの士業の特徴を以下の表にまとめました。

相談先 特徴
顧問税理士・公認会計士 経営状況を理解しており、的確なアドバイスをしてくれる
弁護士 事業承継計画の立案や実行のサポートをしてくれる
行政書士 事業譲渡契約書などの書類のチェックを依頼できる
司法書士 事業承継に関する相談だけでなく、登記の申請や法務局に提出する書類の作成が可能

顧問税理士・公認会計士に相談する場合は、事業承継税制の特例の適用や親族内承継に関するサポートまで受けられます。弁護士の場合は、事業承継のプロセスでよく起こる相続問題について、法的な観点からアドバイスを受けることが可能です。

これらの士業に相談する場合には、各士業同士のネットワークも活用して、複数の視点から事業承継の課題を解決できる場合もあります。

事業引継ぎ支援センターを利用する

事業引継ぎ支援センターは、事業承継に関する幅広い相談に応じている国が設置した公的窓口です。

無料で相談できるだけでなく、後継者の紹介サービスを提供している場合もあるため、後継者不足に悩む経営者に役立つでしょう。47都道府県にそれぞれ認定支援機関が設置されているため、相談しやすい環境が整っています。

また、廃業を検討する際には、休眠会社にするという選択肢もあります。「休眠会社」とは、長期間事業活動をしていない法人のことです。必要な手続きを済ませておけば、将来的に事業を再開させられます。

ただし、休眠中であっても税務申告などの最低限の業務は発生するため、その点を考慮する必要があります。

中小企業を廃業する手順

中小企業を廃業するには、以下の流れで手続きを行う必要があります。

  1. 営業終了日を決める
  2. 株主総会で3分の2以上の承認を得る
  3. 解散決議から2週間以内に解散登記と清算人登記を行う
  4. 清算人(会社解散後の清算事務を行う人)が財産目録・貸借対照表を作成し承認を得る
  5. 廃業・解散の届出をする
  6. 官報で解散公告を行う
  7. 清算人によって清算される
  8. 解散日の2カ月以内に解散確定申告を行う
  9. 清算確定申告
  10. 株主総会で清算決算報告書の承認を得る
  11. 法務局に清算結了登記を行う

特に、廃業する際には、株主総会で3分の2以上の承認を得る必要があるため、会社を解散するに至った理由などを話し、株主の理解を得ましょう。

また、解散公告は2カ月以上の官報掲載が求められます。そのため、廃業には最低2カ月以上の期間を設けてください。

取引先が多い場合や資産が多い場合は、清算に時間がかかり、廃業までに数年かかることもあります。

中小企業を廃業するときにかかる費用

中小企業を廃業する際には、登記や証明書など、多くの費用が発生します。以下に、廃業にかかる費用と内訳をまとめました。

登記・法手続き 解散登記:3万円
清算人の登記:9,000円
清算結了の登記:2,000円
官報による公告:3,589円
在庫の売り切り 在庫量や相場によって異なる(仕入価格よりも低い値)
設備の処分 トラック1台分:数万円~
※1千万円以上かかるケースもある
賃貸物件の原状復帰 1坪あたり数万~10万円
専門家への報酬 司法書士:5万〜10万円
税理士:15万円〜30万円

中小企業庁の調査によると、廃業した企業のうち、100万円以上の費用がかかった割合は36.2%に上ることがわかっています。

事業形態や在庫量、専門家への依頼の有無によって費用が異なるため、廃業決定の前に費用感を確認しておきましょう。

まとめ

中小企業における廃業の実態は、以下の通りです。

  • 休廃業および解散企業の件数は4万9,625件
  • 廃業した業種はサービス業や建設業、小売業が多い
  • 2022年に開業した企業の割合は、14万2,189社

中小企業が廃業する理由として、業績の悪化や後継者不足、経営者の高齢化などが挙げられます。廃業以外の選択肢を知らずに、廃業する企業も少なくありません。

中小企業の廃業を防ぐためには、親族や外部の後継者に事業を継承したり、補助金・支援制度を利用したりする方法が挙げられます。

経営状況によってはM&Aを活用できる場合もあるため、まずは専門家に相談してみましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。