M&Aにおけるエスクローとは?仕組みやメリット・デメリットを解説

「エスクローとはどのような意味なの?」「エスクローにはメリット・デメリットはあるの?」というように、M&Aにおけるエスクローについて詳しく知りたい人は多いことでしょう。

M&Aにおけるエスクローとは、M&Aに必要な費用を保全する仕組みであり、利用にはメリット・デメリットがあります。

本記事ではエスクローとは何か、エスクローの仕組みやメリット・デメリットについて解説します。エスクローについて詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてください。

M&Aにおけるエスクローとは

エスクロー(Escrow)とは、買い手が契約時に代金を第三者に預け入れ、商品の引渡しが確認できたときに第三者から売り手に代金がわたる仕組みです。

M&Aにおけるエスクローの場合、M&Aの最終契約がなされたときに買い手が第三者に代金を預け、最終契約の内容が達成されたことを確認できたら、第三者が売り手に代金を支払います。

エスクローを実施することで、買い手は代金支払い後の売り手の条件未達リスクを回避でき、売り手は安心して契約後の手続きを行えます。

エスクローの仕組み・流れ

エスクローの仕組み・流れは、次のとおりです。

Step1.M&Aの最終契約を締結する

Step2.買い手はエスクロー事業者に代金を入金する

Step3.エスクロー事業者が売り手に買い手から入金があったことを報告する

Step4.売り手がクロージングを進める

Step5.売り手が最終契約の内容に沿ってクロージングを進める

Step6.買い手がクロージングの内容を確認しエスクロー事業者に支払いを指示する

Step7.エスクロー事業者が売り手に代金を支払う

エスクローを利用する段階に入るのは、M&Aの最終契約締結時です。

最終契約を締結したら取り決めした代金をエスクロー事業者に預け入れます。最終契約の内容に沿ってクロージングが終わったときに、買い手からの指示でエスクロー事業者が売り手に預かっていた代金を支払います。

エスクローのメリット

エスクローのメリットは、次のとおりです。

    • 安全な取引ができる
    • 買い手と売り手の認識の違いを回避できる

エスクローを実行するメリットは多くあるため、M&Aの実行計画を立てるときにはエスクローの利用を検討しましょう。

安全な取引ができる

エスクローを実施すれば、安全な取引が可能です。

売り手として、最終契約の締結をした場合でも、契約条件を満たしたときに本当に金銭を払ってくれるのかは懸念事項です。しかし、最終契約が終わった段階でエスクローが実行されていれば、安心してクロージングの手続きを進めることができます。

また、買い手からするとクロージングの進行を担保したいものの、最終契約直後に代金を全額支払うのはリスクが高すぎます。しかし、最終契約直後にエスクローを活用すれば、クロージングの進行の担保ができ、売り手がスムーズに手続きしてくれることが期待できるでしょう。

代金を受け取らないとクロージングするのが心配という売り手と、クロージングの進行を担保したいが契約後すぐに代金を渡すのは心配、という買い手との溝を埋めるのがエスクロー事業者です。

買い手と売り手の認識の違いを回避できる

エスクローを利用すれば、買い手と売り手の認識の違いを回避できます。

M&Aの契約条項は数が多く、内容も複雑であるため、折衝段階で認識の違いが残ったまま契約に進んでしまうこともありえます。認識の違いが大きいと、契約の破棄につながってしまうおそれもあるため注意しなければなりません。

しかし、エスクローを利用することでエスクロー事業者が第三者として契約内容を確認するため、買い手と売り手の認識の違いを是正することが可能です。買い手と売り手は相反する考えをもっているケースも多く、第三者の視点で契約も内容が公平か確認できます。

エスクローのデメリット

エスクローのデメリットは、次のとおりです。

    • 手数料がかかる
    • 手続きに時間がかかる

エスクローにはメリットがあるもののデメリットも存在するため、デメリットの内容を確認してから利用するかどうかを決めましょう。

手数料がかかる

エスクローを利用する際には、手数料がかかります。

手数料はエスクロー事業者によって異なるものの、一般的には取引価格の1%〜2%程度かかります。

たとえば、30億の取引価格でエスクローの手数料が2%だった場合、6,000万円もの費用がかかるということです。エスクローの手数料はM&A仲介会社の手数料とは違うものであり、別途支払わなければなりません。エスクローの手数料は決して安くなく、M&A手数料やデューデリジェンスの費用などとあわせると高額な費用となってしまいます。

エスクローを利用すれば代金の支払いリスクが抑えられるため、手数料の金額とリスク回避どちらを取るのか検討すべきでしょう。

手続きに時間がかかる

エスクローの手続きには時間がかかります。

エスクローを実行するには、エスクローに対する契約を締結しなければなりません。エスクローの締結をするには買い手と売り手、エスクロー事業者による調整が必要です。エスクローを信託契約で実行する場合、信託の手続きも行う必要があります。

M&A自体、相当な手間と時間がかかるにもかかわらず、エスクローの手続きもしなければなりません。手続きの負担が増えることで、M&Aをスピーディーに行えなくなるおそれもあります。

エスクローを活用する際には、余裕あるスケジュールを組み、M&Aに影響しないよう計画立てしておくことが大切です。

エスクローの手法とその特徴

エスクローの手法は、次のとおりです。

    • 信託契約を利用する
    • 銀行口座を利用する

エスクローの手法によって違いがあるため、利用する際には手法による違いを理解しておきましょう。

信託契約|代金を受託者に信託して契約する

信託契約を活用し、代金を受託者に信託します。

信託契約とは、委託者(M&Aの場合は買い手)が受託者(M&Aの場合はエスクロー事業者)に財産を移転し、受託者に受け取った財産を管理・処分させる契約です。

エスクローを信託契約で実行する場合、まず買い手が信託会社や信託銀行であるエスクロー事業者に代金を預け入れます。エスクロー事業者は代金を信託財産として管理・運用します。M&Aのクロージングが完了したときに、エスクロー事業者は最終契約の内容が履行されているか確認し、売り手へ信託財産を渡して手続きは完了です。

銀行口座|第三者の口座に代金を保全し契約する

第三者の銀行口座を利用し、代金を第三者に預けます。

買い手がエスクロー事業者の口座に代金を入金し、クロージングの完了をもってエスクロー事業者が売り手に代金を振り込みます。

なお、買い手と売り手が連名で銀行口座を開設して代金を保全することも可能です。連名での口座は買い手と売り手のどちらからでも残高確認ができるため、透明性が高い方法といえます。

エスクローの活用事例

エスクローの活用事例は、次のとおりです。

    • アーンアウトを利用し条件を達成するごとに払いたいとき
    • 買収対象が複数あり代金を分割して払いたいとき

エスクローが活用される局面は多く、応用的な使い方もされます。エスクローがどのように活用されているのか確認し、エスクローを最大限に活かしていきましょう。

アーンアウトを利用し条件を達成するごとに払いたいとき

アーンアウトを利用したいときには、エスクローを活用するとよいでしょう。

アーンアウトとはM&A実行後、取り決めた条件ごとに代金を追加で支払う義務です。

アーンアウト条項を設定すれば、最終契約の締結が完了したら代金の一部を払い、M&Aがクロージングしたときに残金を払うなどの支払いを分けられます。

エスクローとアーンアウトを併用すれば、買い手は条件達成ごとに代金を払うことができ、売り手は受け取った代金を活用しながらM&Aを進めていけます。

買収対象が複数あり代金を分割して払いたいとき

買収の対象が複数あるときは、エスクローを活用するとスムーズに進みます。

エスクローは代金の一括払いだけでなく、分割払いにも対応できます。たとえば、買収対象がチェーン店のように複数あった場合、1店舗買収するごとに代金を払っていくという方法も可能です。

条件を達成するごとに代金を分割して支払うことができれば、一括で代金を払う必要がなくなり、買い手も安心して買収を実行できます。

エスクローについてよくある質問

エスクローについてよくある質問は、次のとおりです。

    • エスクローの費用はどちらが買い手と売り手どちらの負担ですか?
    • エスクローにおける信託契約と銀行口座の違いは何ですか?

エスクローについてよくある質問の内容を確認し、自分が同じ質問をしなくてもよくなるようにしておきましょう。

エスクローの費用はどちらが買い手と売り手どちらの負担ですか?

エスクローの費用は、原則買い手と売り手が折半して払います。

ただし、必ず折半で払うという決まりはなく、買い手と売り手で取り決めした内容で負担すれば構いません。買い手が全額払ってもよいですし、費用の3分の2を売り手が払ってもよいということになります。

エスクローを利用する場合、エスクローの契約の内容によって代金の支払い方法も変わるため、内容にあった費用負担で進めていきましょう。

エスクローにおける信託契約と銀行口座の違いは何ですか?

エスクローにおける信託契約と銀行口座の違いは、次のとおりです。

 信託契約銀行口座
手続きの複雑さ複雑簡単
手続きの時間長い短い
金融機関の倒産リスクないある
手数料高い低い

信託契約と銀行口座には上記のような違いがあり、スピーディーかつ手数料を低く抑えたい場合は、銀行口座を利用したエスクローを利用するとよいでしょう。一方、時間をかけてでもリスクを抑えたい場合は信託契約が向いています。

エスクローとは第三者にM&A代金を保全してもらう仕組み

M&Aにおけるエスクローとは、M&Aの代金を第三者に保全してもらう仕組みです。

M&Aでは基本合意に達成後に合意内容が破棄されるケースもあり、買い手にとって代金を先に払うことにはリスクがあります。売り手にとっては合意内容の実行後に代金が払われないというリスクがあります。

しかし、エスクローを利用することで買い手と売り手のリスクを抑えることが可能です。

エスクロー利用時には手数料を払わなければならないなどのデメリットがあるため、メリットとデメリットを理解した上で活用していきましょう。

ディスクリプション

エスクローとは第三者にM&Aの代金を保全してもらう仕組みです。エスクローを利用することにはメリットやデメリットがあるため、仕組みを理解してから利用していきましょう。本記事ではメリット・デメリットだけでなく仕組みや流れについても詳しく解説しています。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。