M&Aにおけるレーマン方式とは?種類や成功報酬の計算方法からメリットも解説

「M&Aにおけるレーマン方式とはどのような意味なの?」「レーマン方式はどのように計算するの?」というように、レーマン方式について詳しく知りたい人は多いことでしょう。

レーマン方式はM&Aにおける報酬の計算方法です。

本記事ではレーマン方式とは何か、報酬の計算式はどのようになっているのか、利用するメリットはあるのかなど解説します。レーマン方式について詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてください。

レーマン方式とはM&Aの成功報酬の計算式

レーマン方式は、M&Aの成功報酬を算出する計算方法です。レーマン方式という名称は、ドイツの経営学者レーマン博士の名前に由来しています。

レーマン方式の計算方法は、次のとおりです。

レーマン方式による成功報酬金額 = 報酬基準額 × 報酬率

なお、レーマン方式の報酬率は、次のように報酬基準額によって階層化されています。

図表1

報酬基準額報酬率
5億円以下5%
5億円超10億円以下の部分4%
10億円超30億円以下の部分3%
30億円超50億円以下の部分2%
50億円超の部分1%

なお、レーマン方式の報酬率や階層は決まっているわけではなく、M&A仲介会社ごとにより異なるためあくまで参考としてください。

レーマン方式の計算方法とシミュレーション計算

レーマン方式で計算した成功報酬がどの程度の金額になるのかシミュレーション計算していきます。

【シミュレーション条件】

・M&A取引金額(報酬基準額):30億円

・報酬率と報酬階層は上記の図表1を使用

【シミュレーション計算】

・5億円以下に該当する部分

5億円 × 5% = 2,500万円(1)

・5億円超 10億円以下に該当する部分

(10億円 – 5億円)× 4% = 2,000万円(2)

・10億円超 50億円以下に該当する部分

(30億 – 10億)× 3% = 6,000万円(3)

(1)+(2)+(3)= 1億500万円(報酬額)

つまり、M&Aを成立させ、上記の条件でレーマン方式の報酬を払う場合には1億500万円必要です。

M&Aで使われるレーマン方式の種類

M&Aで使われるレーマン方式の種類は、次のとおりです。

    • 株価レーマン方式
    • 企業価値レーマン方式
    • 移動総資産レーマン方式
    • オーナー受取額レーマン方式

レーマン方式の報酬は、採用している方式により変動します。報酬額を間違えないためにも、どのような方式があるのか理解しておきましょう。

なお、すべての方式でシミュレーション計算を行ってみますので、方式の違いによる報酬額の違いを確認ください。

株価レーマン方式

株価レーマン方式は、株式売却額を報酬基準額にして計算する方法です。

株式の売却額だけを使って計算するため、計算式がシンプルです。また、株式の売却額だけを利用して計算することもあり、株式譲渡での事業承継の成功報酬としてよく用いられます。

【株価レーマン式のシミュレーション計算】

・株式の売却額:1億円

・報酬率:5%

1億円 × 5% = 500万円(報酬額)

企業価値レーマン方式

企業価値レーマン方式は、株式売却額と有利子負債とを合計し計算する方法をいいます。

有利子負債とは、返済に利子が付く借金です。有利子負債から解放されて得をするのは売り手企業であるため、売り手企業がM&Aを行うときによく採用されます。

株式売却額だけではなく、有利子負債を足すため、株価レーマン方式よりも報酬が高額になります。

【企業価値レーマン方式のシミュレーション計算】

・株式の売却額:1億円

・有利子負債額:5,000万円

・報酬率:5%

(1億円 + 5,000万円) × 5% = 750万円(報酬額)

移動総資産レーマン方式

移動総資産レーマン方式は、株式の売却額と負債総額とを合計し計算する方法です。

負債総額とは、有利子負債と買掛金や未払金など無利子負債を合計した負債です。移動総資産レーマン式は負債総額まで加味するため、株価レーマン方式や企業価値レーマン方式よりも高額になります。

レーマン方式の中でも費用が高くなる計算方式であり、移動総資産レーマン方式を採用しているM&A仲介会社を利用するときには報酬の見積もりを行っておきましょう。

【移動総資産レーマン方式のシミュレーション計算】

・株式の売却額:1億円

・有利子負債額:5,000万円

・無利子負債額:5,000万円

・報酬率:5%

(1億円 + 5,000万円 + 5,000万円) × 5% = 1,000万円(報酬額)

オーナー受取額レーマン方式

オーナー受取額レーマン方式は、株式の売却価格と役員借入金とを合計して計算する方法です。

役員借入金とは、経営者や役員などから会社が借入した金銭です。売り手会社の中には役員借入金があるケースも多く、役員借入金があることを見込んでオーナー受取額レーマン方式を採用しているM&A仲介会社もあります。

【企業価値レーマン方式のシミュレーション計算】

・株式の売却額:1億円

・役員借入金額:5,000万円

・報酬率:5%

(1億円 + 5,000万円) × 5% = 750万円(報酬額)

レーマン方式を用いて報酬を設定するメリット

レーマン方式を用いて報酬を設定するメリットは、次のとおりです。

    • 買収する会社規模によって報酬額が変わる
    • M&Aに必要な費用があらかじめわかる

レーマン方式を用いた報酬にはどのようなメリットがあるのか確認し、メリットを活かしていきましょう。

買収する会社規模によって報酬額が変わる

レーマン方式を採用すれば、買収する会社規模によって報酬額が変わります。

報酬率が一定だと、小規模なM&Aの報酬は低くなり大規模なM&Aの報酬は高くなります。たとえば、報酬率が一律5%とされていると、50億のM&Aが成約した場合には2億5,000万円もの報酬を払わなければなりません。

しかし、レーマン方式の場合は、報酬基準額によって報酬率が異なり、大規模なM&Aの報酬を抑えることが可能です。

M&Aの規模が大きくなるほど階層別による報酬率の低下していくため、大規模なM&Aを行う場合にはなるべくレーマン方式を採用している会社を選択するようにしましょう。

M&Aに必要な費用があらかじめわかる

レーマン方式で報酬を払うようにすれば、M&Aに必要な費用をあらかじめ買収計画に計上できます。

報酬をレーマン方式で計算することが事前にわかっていれば、報酬額の概算をM&A計画に盛り込むことが可能です。M&Aには高額な費用がかかるケースもあり、あらかじめ費用が計上できれば、想定外の費用を払うことなく計画を進めていけます。

また、レーマン方式で報酬を計算することがわかっていれば、M&A成功時にM&A仲介会社から法外な報酬の請求を防止することもできます。

レーマン方式を用いて報酬を設定するデメリット

レーマン方式を用いて報酬を設定するデメリットは、次のとおりです。

    • レーマン方式の種類によって報酬額が異なる
    • 小規模なM&Aには最低手数料がある

レーマン方式を用いた報酬にはメリットだけでなくデメリットもあるため、デメリットの内容を確認してからM&Aを進めていきましょう。

レーマン方式の種類によって報酬額が異なる

報酬を計算するときに、採用するレーマン方式の種類によって報酬額に大きな差が発生します。

レーマン方式には主に4種類の計算方式があり、それぞれの計算が異なります。M&A仲介会社がレーマン方式を採用している場合、どの方法で算出するのかまで確認しておかないと、想定よりも高額な費用を請求されてしまうことには注意しなければなりません。

小規模なM&Aには最低手数料がある

レーマン方式の報酬には、最低手数料が定められているケースがあります。

M&Aのサポートをする場合、M&A仲介会社には費用がかかり、小規模なM&Aのレーマン方式で計算した報酬では利益が出ないケースがあります。利益が発生しないことを防止するために、M&A仲介会社は最低手数料を設定するわけです。

たとえば、最低手数料を1,000万円と設定されていた場合、レーマン方式で報酬を計算して800万円になったとしても、成功報酬として1,000万円をM&A仲介会社に支払わなければなりません。

最低手数料の金額を見逃していると、想定外の費用を払わなければならなくなるため注意しましょう。

成功報酬以外にかかる費用

M&Aを実行する場合、成功報酬以外にも次のような費用が発生するケースがあります。

    • 着手金
    • 中間報酬
    • リテイナーフィー

上記の費用がどのようなものか確認し、利用するM&A仲介会社がどのような報酬体系を採用しているのか確認しましょう。

着手金

・M&A仲介会社が仕事を始めるのに必要な費用

・買収できなくても戻ってこない

着手金とは、M&A仲介会社が依頼者のサポートを開始するのに必要な費用です。

着手金はあくまでサポートを開始するために払う費用であり、M&Aに成功しなかったり買い手を紹介できなかったりしたとしても返還されません。

着手金を払うリスクは高く、依頼者が警戒してしまうため、近年は着手金ではなく中間報酬を受領するM&A会社が増えています。

中間報酬

中間報酬とは、買い手と売り手がM&Aの基本合意に達したときに発生する費用です。

基本合意に達した後に、話が破断してしまったときの取り扱い、中間報酬を払うタイミング、払う回数など、M&A仲介会社によって採用している条項が異なります。

中間報酬を採用しているM&A仲介会社に依頼するときには、中間報酬の支払い時期と回数などを確認しておきましょう。

リテイナーフィー

リテイナーフィーとは、月額でかかる費用です。

M&Aを成功させるには多くのサポートが必要であるため、サポートを行う費用としてリテイナーフィーが設定されるときもあります。

リテイナーフィーが設定されているM&A仲介会社を利用する期間が長くなると、費用がかさむため注意しなければなりません。

レーマン方式についてよくある質問

レーマン方式についてよくある質問は、次のとおりです。

    • 逆レーマン方式とはどのような報酬ですか?
    • レーマン方式の報酬はいつのタイミングで払うのですか?
    • レーマン方式を採用しているM&A仲介会社選びのポイントは?

レーマン方式についてよくある質問の内容を確認し、同じような疑問をもたないようにしておきましょう。

逆レーマン方式とはどのような報酬ですか?

逆レーマン方式とは、報酬基準額が低いほど報酬率が高くなる報酬計算方法です。

逆レーマン方式では、次のように報酬率が変わります。

レーマン方式の報酬はいつのタイミングで払うのですか?

・レーマン方式の報酬が発生するタイミングはM&A仲介会社によってまちまち

内部リンク「M&A」

レーマン方式の報酬は、依頼しているM&A仲介会社によって異なります。

報酬基準額報酬率
1億円以下の部分1%
1億円超5億円以下の部分2%
5億円超10億円以下の部分3%
10億円超20億円以下の部分4%
20億円超の部分5%

上記のように報酬基準額が高くなるほど、報酬率が上がっていきます。小規模なM&Aを実行する場合には、逆レーマン方式のほうが低い報酬になります。ただし、逆レーマン方式にも最低手数料が設定されているケースもあるため注意しなければなりません。

レーマン方式を採用しているM&A仲介会社選びのポイントは?

レーマン方式を採用しているM&A仲介会社選びのポイントは、次のとおりです。

    • 完全成功報酬である
    • M&Aの経験や実績が豊富である
    • 情報量が多い
    • 多くの専門家とネットワークを構築している など

M&A仲介会社は数多くあり、信頼できる会社かどうか確認する必要があります。M&Aを成功させるにはM&A仲介会社のサポートが重要であるため、会社選びのポイントを押さえて依頼しましょう。

レーマン方式の内容を理解しM&Aに必要な費用を知ろう

レーマン方式とは、M&Aの報酬額を計算する方法です。

レーマン方式の計算方法は一定の基準があるものの、計算の元となる基準がレーマン方式の種類によって異なります。レーマン方式は主に4種類あり、どの種類で計算するかで報酬額が大きく変わってしまうため、注意しなければなりません。

また、レーマン方式を採用しているM&A仲介会社の中には、最低手数料を設けているケースがあります。小規模なM&Aを行うときには、最低手数料が設定されていないか確認しておくことが大切です。

レーマン方式の内容を理解し、正確な費用を計上してM&Aを実行していきましょう。

ディスクリプション

レーマン方式はM&Aの報酬を決めるための計算方法です。レーマン方式を採用するM&A会社だとしても、計算の種類が異なるケースもあるため注意しなければなりません。M&A仲介会社を利用する際には必ずレーマン方式の内容を理解しておきましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。