M&Aにおけるロングリストとは?作成時のポイント4つと注意点についても解説

M&Aにおけるロングリストは、M&Aで売買の対象となるターゲット企業を選定するために大変重要な役割を果たします。

ロングリストを適切に作成しておかないと、自社と相性のいい企業を見落としてしまうことにもつながりかねません。

条件・希望にあったM&Aを成立させるためにも、ロングリストの作成には力をいれましょう。

本記事ではロングリストを含むターゲット選定の手順や、ロングリスト作成におけるポイントを解説しています。

注意すべき点についても紹介しているので、参考にしてください。

ロングリストはターゲットプロセスの一部

ロングリストはM&Aにおいて潜在的な買収相手を探すための広範囲なリストを指します。

M&Aにおける取引相手は次のプロセスで選定します。

    1. 基準の作成
    2. ロングリスト作成
    3. ショートリスト作成
    4. 優先順位を決定

売却価格や財務状況、成長性について基準を作成し、潜在的な買収対象企業をロングリストとしてリストアップします。

次に、ロングリストに掲載されている企業の財務状況や成長性について、より詳細に分析して選択肢を絞ったショートリストを作成しましょう。

ショートリストにリストアップされた企業については入念にデューデリジェンス(事前調査)を行います。

リストアップされた企業について事業の方向性やシナジー効果、買収後の統合プランについて考慮しながら交渉の優先順位を決定していきます。

ショートリストとの違い

ロングリストとショートリストには次の違いがあげられます。

    • 作成の目的
    • 記載する内容

ターゲットプロセスの流れを適切に理解するためにも、違いについておさえておきましょう。

ショートリストに関してはこちらの記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。

作成の目的

ロングリストとショートリストの目的には次の違いがあります。

ロングリスト 広範囲の潜在的な買収企業を選定する
ショートリスト ロングリストからさらに対象企業を絞り込む

ロングリストの目的は潜在的な買収対象となる会社を漏らさないことで、できるだけ多くの選択肢を含むことが大切です。

戦略的目的が自社と合っているか、市場の成長性などを考慮し、数十社から数百社程度リストアップしましょう。

一方で、ショートリストでは戦略的成長性や文化的適合性の観点で分析し、ロングリストから交渉やデューデリジェンスに進む対象企業を絞り込んでいきます。

ロングリストでは潜在的買収対象となる企業を幅広く網羅し、ショートリストではロングリストの対象企業を深く分析して絞り込みます。

記載する内容

ショートリストとロングリストでは記載する項目がことなります。

ロングリスト ショートリスト
・企業名
・代表者名
・所在地
・業種・事業内容
・資本金
・売上・利益
・従業員数
・設立年
・財務状況(簡易)
・成長性(簡易)
・ロングリストの記載内容
・事業の強み・弱み
・ブランド力
・技術力
・シナジー効果の可能性
・企業文化・価値観
・財務状況(直近3年間)
・取引銀行・取引先
・株主・役員構成

ロングリストでは基本的な企業情報を中心に、買収対象となる企業を幅広く選定します。

対象企業は数十〜数百にのぼるため、財務状況や成長性において詳細な分析はせず簡易な評価にとどめましょう。

ショートリストではロングリストの記載項目に加え、上記のより詳細な情報を収集分析します。

事業の詳細や財務状況、企業の価値観について詳細に評価し、シナジー効果の可能性やM&A成立後の統合計画についても分析します。

作成のタイミング

ロングリストの作成手順

ロングリストを作成する手順は次の通りです。

    • 自社分析
    • 基準を設定
    • ターゲット企業の選定

対象企業を幅広く網羅したロングリストを作成するために、ぜひ参考にしてください。

1.自社分析

ロングリスト作成の前段階として、自社の課題やM&Aの目標を明確にする必要があります。

自社を分析するためには次のフレームワーク活用が有効です。

    • VRIO分析
    • SWOT分析
    • 3C分析

VRIO分析を活用すれば価値・希少性・模倣可能性・組織化の4つの観点で、市場において持続的な優位性があるか分析可能です。

SWOT分析では企業の強み・弱みといった内部環境と、機会・脅威といった外部環境の両側から企業を評価します。

3C分析は自社・顧客・競合の3つの視点で市場を分析していきます。

上記3つのフレームワークを組み合わせることで、自社の市場における位置づけや競争力、成長性の多角的な分析が可能です。

自社の強みを活かせる企業や、弱みを補完してくれる企業を選定する際の指針にもなるため、自社分析は入念に行うことをおすすめします。

2.基準を設定

自社分析の内容を活用しながら、次は企業選定の基準を設定していきます。

最低限次の項目について、基準を設定しましょう。

    • 事業内容(自社との関連性)
    • 企業規模
    • 所在地
    • 財務状況

そのほかに設ける基準は、M&Aの目的によってことなります。

たとえば自社の生産能力を拡大したいケースでは、優れた生産技術や設備をもつ会社を選定するために「業種」「生産能力」「生産効率」「設備」などの基準を設けるのが適切です。

ロングリストは対象企業を漏らさないようにすることを目的としているため、厳しすぎる基準は儲けません。

共通の基準を設定するのではなく、M&Aの目的に合わせて柔軟に取り決めましょう。

3.ターゲット企業の選定

設定した基準をもとに、買収候補の企業を選定していきます。

潜在的な買収対象企業の選定には、次の情報が活用できます。

    • 業界団体の名簿
    • 企業データベース
    • 自社の取引先
    • 競合他社

これらのデータを組み合わせ、幅広い選択肢の中から対象企業を漏らさないよう選定していきましょう。

ロングリストの作成では、できるだけ幅広い選択肢を残しておくことが重要です。

買い手企業の場合は、予算内で買収できるかも検討しましょう。

またロングリスト作成時にあらかじめ優先順位をつけておくことで、ショートリストの作成をスムーズに進められます。

優先順位の設定には自社の方向性や財務状況、シナジー効果の可能性などを総合的に判断する必要性があります。

適切なロングリストの作成には、M&Aに精通した専門家の意見を取り入れることも有効です。

ロングリスト作成のポイント4つ

ロングリストを作成する際におさえておくべきポイントを4つ解説します。

    • 目的を明確化する
    • 広範囲にわたってターゲットを検討する
    • 相手とのシナジー効果を考慮する
    • 専門家に協力を依頼する

潜在的な対象企業を漏らさないためにも、ぜひチェックしておきましょう。

目的を明確化する

目的の明確化は、ロングリストを作成するうえでもっとも重要なポイントです。

M&Aの目的を明確にしないと、選定する企業の基準があいまいになり、最適な取引相手をリストから漏らしてしまうかもしれません。

M&Aの目的は自社の強みを活かした事業拡大やコスト削減、効率化など企業によってことなります。

最適な取引相手を見つけるためには、M&Aの目的にそった理想の企業を具体的にイメージすることが必要です。

たとえば大手IT企業が新たな技術を迅速に市場に導入するべく、技術力に長けたベンチャー企業を買収するケースについて考えましょう。

この場合は買収相手として、技術面での優れた開発能力や研究実績などを重視します。

M&Aの目的と理想の企業を具体的に定めていくことで、ロングリストを作成するうえで必要な基準も明らかになります。

M&Aの目的についてはこちらの記事で実例を含め詳しく解説しているので、参考にしてください。

広範囲にわたってターゲットを検討する

ロングリストの作成では潜在的な買収相手を見落とさないために、広範囲の基準を設けて検討する必要があります。

M&Aの初期段階であるロングリスト作成では、業界全体を見てできるだけ多くの可能性を探りましょう。

例として、次のような企業があげられます。

    • 異業種でも間接的なシナジー効果の可能性
    • 新しい市場の未評価の企業

範囲を広く設定しておくことで、予想できない機会やまだ評価されていない企業を見つける可能性にもつながります。

対象企業の絞り込みはその後のショートリスト作成で、より詳細な分析のもと進めていきます。

相手とのシナジー効果を考慮する

とくに買い手にとってロングリストの作成で重要な点が、シナジー効果の可能性です。

シナジー効果には次のような側面があります。

    • 費用の削減
    • 収益増大
    • 技術力の強化
    • 運用効率の向上

システムの統合による運用効率の上昇や、それに伴う人件費の削減など、M&Aを通して得られるメリットについて検討していく必要があります。

ロングリストの段階では上記のシナジー効果が実現できそうかを総合的に判断し、基準として取り入れることをおすすめします。

シナジー効果について概要を分析し、M&Aの対象企業として適切かどうか判断しましょう。

専門家に協力を依頼する

M&Aコンサルタントや投資銀行家などの専門家へ依頼すれば、より精度の高いロングリストの作成が期待できます。

自社でロングリストを作成した場合、情報不足によって有力候補をリストから漏らしてしまう可能性が否定できません。

専門家は市場や業界の流れを深く理解しており、潜在的な価値をもつ企業も発見しやすいでしょう。

独自のデータベースをもっているケースも多く、公開されていない情報も含め貴重なデータを提供してくれます。

シナジー効果の可能性についても、相手側からの視点を含め多角的に評価し、M&Aにおいての意思決定をサポートしてくれるでしょう。

ロングリスト作成時の注意点

ロングリスト作成の際には次の点に注意する必要があります。

    • 情報の正確性
    • 情報漏洩のリスク

最適な企業とM&Aを成立させるために、ぜひおさえておきましょう。

情報の正確性

ロングリストを作成する際は、情報が正確かつ最新であることを確認する必要があります。

企業のデータベースや業界団体の名簿などの信頼できる情報を使用し、可能であれば複数の情報源を照らし合わせて正確な情報か確認しましょう。

対象企業の財務諸表や事業計画書については、必ず一次資料を入手するようにしてください。

また専門家に依頼する際は任せきりにするのではなく、必ず自社で内容に相違がないか確認するようにしましょう。

専門家によって作成されたロングリストに加え、潜在的な企業がほかにないか検討することで、選択肢はさらに広がります。

情報が正確かつ最新のロングリストを作成することで、より適切なM&Aの取引先が見つかるでしょう。

情報漏洩のリスク

情報漏洩はM&Aの取引において重大な影響を与えます。

漏洩した情報が競合他社に渡った場合、M&Aの交渉が不利になってしまったり、株価に影響が出たりする可能性もあります。

さらに取引先や従業員からの信頼を失う原因にもなりかねません。

情報漏洩のリスクを最低限におさえるためには、以下の対策が有効です。

    • 秘密保持契約(NDA)の締結
    • 情報共有の制限
    • セキュリティ対策の強化

ロングリストを含むM&Aでの情報管理は社内外の関係者に大きく影響を及ぼすため、適切な管理体制を構築するようにしましょう。

M&Aの候補企業を決めるためには適切なロングリストの作成が必要

本記事ではロングリストについてショートリストとの違い、作成時のポイントについて解説しました。

ロングリストを適切に作成しないと、M&Aにおける優良なターゲット企業を見落としてしまう可能性もあります。

作成の際は自己分析や目的を明確化し、ショートリストと組み合わせてしっかりと企業を選定しましょう。

専門家に協力を依頼すれば、豊富なデータベースや分析力でターゲットの幅も広がります。

ロングリスト作成でお困りの場合は、当社が運営する『TSUNAGU』へご相談ください。

個別相談や企業価値の算出、買い手のマッチングなども無料で実施しています。

【ディスクリプション】

ロングリストはM&Aでターゲット企業を選定する際に重要な役割を果たします。

この記事ではショートリストとの違いやそれぞれの作成方法、ロングリストを作成する際のポイント4つについて解説しています。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。