個人事業のM&Aとは?事業承継する方法やメリット・デメリットを解説
個人事業主が直面する後継者問題や成長の限界は、M&Aで解決することが可能です。そこでこの記事では、個人事業主向けのM&Aの全体像から、成功への道筋を具体的なステップとして紹介します。プロの仲介会社の選定、事業引継ぎ支援センターの利用、コスト効率の良いマッチングサイトの活用方法など個人事業主が行うM&Aを成功に導くための実践的な方法を解説します。
目次
個人事業のM&Aとは?
個人事業のM&A(Mergers and Acquisitions、合併と買収)とは、企業の場合と同様に、個人事業主間での事業売買や統合を指します。個人事業主が行うM&A取引は「スモールM&A」とも呼ばれ、中小企業や個人事業主の後継者不足という社会的課題に対処する手段として注目されています。
中小企業の場合、事業継承が難しいため廃業を選択せざるを得ない事例が増えているのが現状です。そこで、スモールM&AのようなM&Aがこうした状況における有効な解決策の一つとして期待されています。また個人が新たに事業を起こす際のリスクを低減し、買収した企業の既存の事業基盤を活用できるのも大きなメリットであると言えるでしょう。
法人のM&Aとの違いは?
個人事業のM&Aは法人間で行われるM&Aとは異なる特徴を持っています。主な違いは、個人事業では法人としての株式取引が関与しないため、事業譲渡が主な取引の形態となる点です。これは、個人事業主が事業を直接売買することを意味し、法人間で行われる株式譲渡や資産譲渡とは異なるアプローチが必要であることを示しています。またこの違いから、個人事業のM&Aは「スモールM&A」としての性質を帯び、比較的小規模でシンプルな取引が可能です。さらに中小企業におけるM&Aの増加傾向は、個人事業主にも影響を及ぼしています。なぜなら中小企業と同様に、個人事業主も後継者不足や事業拡張の機会探しに直面しており、M&Aが有効な戦略となっているからです。
この動向は個人事業のM&A市場が今後も成長を続けることを示唆しており、個人事業主間での事業譲渡や買収の機会が増加していくことが予想されます。
個人事業主のM&Aの価格相場は?
個人事業主が行うM&A、特に事業譲渡においては、価格相場を正確に把握することが成功の鍵を握ります。価格相場は売却される事業の種類や規模、財務健全性、市場での位置づけ、将来性など多岐にわたる要素に基づいて算出されます。そのため、一概に「これが相場である」と定めることは難しく、事業譲渡ごとに適切な価格を見極めなければなりません。
事業譲渡としての価格相場を算出する方法は、大きく分けて以下のような手法が存在します。
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- 利益倍率法(P/E Ratio)
利益倍率法とは、事業の年間純利益に特定の倍率(業界標準のP/E Ratio)を掛けて事業の評価額を算出する方法です。倍率は業界や市場の状況、事業の成長性などによって変動します。例えば、成長性が高い業界や事業であれば、倍率も高く設定されます。
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- DCF法(割引キャッシュフロー法)
将来事業が生み出すと予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出します。DCF法では、事業の将来性やリスクを詳細に分析する必要があり、事業計画の信頼性が価格算出の鍵となります。
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- 売上高倍率法
事業の年間売上高に倍率を掛けて価格を算出する方法です。特に利益が不安定なスタートアップや新規事業に適している方法とされています。倍率は、業界平均や競合との比較に基づいて調整されます。
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- 類似取引比較法
同業他社や近年の類似M&A取引を基に、事業の価値を推定する方法です。この方法は、市場動向や業界特性を反映した価格算出が可能ですが、十分な情報収集が前提となります。
個人事業主のM&Aでは、これらの方法を適宜組み合わせて、適正な価格を導き出すことが一般的です。重要なのは、売り手と買い手双方が納得できる価格で合意に至る点であり、そのためにも専門家の意見やアドバイスを参考にしながら、公正かつ透明性のある価格算出プロセスを進めることが推奨されます。
個人事業主がM&Aをするメリット
個人事業主がM&Aを行う際、売り手と買い手双方に様々なメリットがあります。M&Aのメリットを理解することは、M&Aプロセスを進める上での動機づけとなり、より良い取引を実現するための基礎を築くことになるでしょう。
個人事業主が売り手の場合
まず個人事業主が売り手の場合にM&Aを行うことで、どのようなメリットがあるかを解説します。
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- 後継者の問題を解決できる
- 売却益を獲得することができる
- 新しい事業に挑戦できる
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後継者の問題を解決できる
個人事業主が直面する最大の課題の一つが後継者問題です。中小企業庁のデータによると、2025年までに個人事業主の65%が廃業する可能性があると推定されています。この背景には、事業を継承する意志のある後継者の不足があります。
個人事業のM&Aは、このような後継者不足の問題を解決する有効な手段の一つです。なり得ます。「手段の一つです。」または「手段の一つに成り得ます」でしょうか?M&Aにより、第三者に事業を引き継げば、事業の継続性を確保し創業者の労苦が無駄にならないようにできます。
売却益を獲得することができる
個人事業の売却は、売り手にとって財務面でのメリットも大きいです。売却によって得られる収入は、借入金の返済や将来の資金計画に大きな役立つ可能性があります。実際に多くの事業主が売却益を利用して、借金の返済に役立てたり、老後資金の確保に役立てたりしています。この過程によって、事業主は財務的な負担から解放され、新たなスタートを切ることが可能になります。
新しい事業に挑戦できる
売却によって得た資金を新たなビジネス機会に再投資できる点も、売り手にとっての大きなメリットです。特に既存事業とは異なる分野に挑戦したい場合や新たな起業を考えている個人事業主にとって、この資金は非常に価値があります。
そのため、一部の事業を売却して新たな事業への投資資金を確保し、事業の多角化や規模の拡大を図ることが可能です。事業主は自身の事業ポートフォリオを拡大し、収入源の多様化を図ることができます。
個人事業主が買い手の場合
次に、個人事業主が買い手の場合にM&Aを行うことでどのようなメリットがあるかを解説します。
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- 初期の設備投資が不要
- 取引先や顧客をそのまま引き継げる
- 許認可が必要なビジネスに参入可能
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初期の設備投資が不要
個人事業主が他の事業を買収する最大の利点は、初期設備投資が不要であることです。新規に事業を立ち上げる場合、店舗のレンタルや改装、必要な機材の購入などかなりの初期投資が必要となります。
しかし、既存の事業を買収すれば、これらの初期投資を大幅に削減することが可能になります。事業買収では、通常設備や在庫なども含まれるため、買い手はすぐに事業活動を開始できます。そのため、時間と資金の節約が可能になり、事業の早期収益化を目指せるのです。
取引先や顧客をそのまま引き継げる
新規事業では、取引先や顧客基盤の構築には時間と労力がかかります。しかし、M&Aによって事業を買収する場合、既に構築されている顧客基盤や取引関係をそのまま引き継ぐことが可能です。
そのため、買収後すぐに安定した収益を見込むことが可能となり、ビジネスの成長加速に直結します。また既存顧客との信頼関係を維持・発展させれば、さらなる事業拡大のチャンスも生まれます。
許認可が必要なビジネスに参入可能
特定の業種に参入する際には、許認可の取得が必要となる場合があります。許認可を新たに取得することは、時間もコストもかかる重要なプロセスです。
しかし、許認可を要する事業をM&Aにより買収すれば、既に許認可を保有する事業の権利を引き継ぐことができます。そのため、許認可取得のプロセスを省略し、迅速に事業展開を進められます。また特定分野への新規参入が容易になるため、事業の多角化や新たな市場への進出が可能となります。事業譲渡の場合には、許認可を引き継ぐことは出来ず、取り直しになるかと存じます。したがって、許認可取得のプロセスを省略できるという表現については違和感がありますので、再考頂けると幸いです。
個人事業主のM&Aのデメリット
個人事業主にとって、M&Aは新たなビジネスチャンスをもたらす一方で、売却側や譲受側にもデメリットが存在します。そこで、個人事業主のM&Aにおける双方のデメリットを深く掘り下げて解説します。
個人事業主が売り手の場合
まずは、売り手側のデメリットについて解説していきます。
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- M&A完了までに時間がかかる
- 情報漏洩のリスク
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M&A完了までに時間がかかる
個人事業主が事業を売却する場合には、適切な買い手を見つける過程、価格交渉、デューデリジェンス、契約書の作成・締結といった一連のプロセスにおいて、予想以上に時間がかかるケースがあります。特に事業の価値評価や買い手との交渉には複雑なプロセスが伴い、売り手側の想定よりも長期間にわたる場合が少なくありません。この過程で事業運営がおろそかになるリスクも考慮する必要があります。
情報漏洩のリスク
M&Aの手続きを進めていく中で、事業に関する機密情報を買い手候補に開示する必要がありますが、その際には情報漏洩のリスクが伴います。特に交渉が不成立に終わった場合、情報を共有した買い手候補による情報の悪用が懸念される点には注意が必要です。適切な秘密保持契約の締結が必須ではありますが、リスクゼロとは言い切れません。
個人事業主が買い手の場合
次に、譲受側のデメリットについて解説していきます。
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- 廃業届を提出する必要がある
- 事業の文化や運営スタイルの違いによる障害
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廃業届を提出する必要がある
個人事業主が他の個人事業を譲受する際には、以前の事業主が行っていた事業に関する廃業届の提出が必要になるケースがあります。この手続きは、一般的に新たな事業主にとって煩雑なプロセスです。廃業届を提出するのは、新たな事業主ではなく、以前の事業主かと存じます。したがって、廃業届出の提出は、新たな事業主の負担にはならないと考えられますので、再考頂けると幸いです。
特に事業の種類によっては、新たに必要な許認可の取得や関連する行政手続きが追加で必要になる場合もあり、事業開始までの準備に予想以上の時間と労力がかかることがあります。
事業の文化や運営スタイルの違いによる障害
譲受側が既存の事業を買収する場合、事業の文化や運営スタイルの違いが思わぬ障害となるケースがあります。買収後に事業の方向性を大きく転換しようとすると、従業員の抵抗に遭遇したり、既存の顧客が離反したりするリスクがあるので注意が必要です。買収した事業をスムーズに運営するためには従業員や顧客とのコミュニケーションを密に取りながら、徐々に変革を進める必要がありますが、時間と精緻な戦略が必要である点に気をつけましょう。
個人事業主のM&Aは買い手と売り手双方にとって大きなメリットをもたらしますが、それぞれ直面するデメリットには事前の十分な準備と戦略的な対応が求められます。M&Aを成功させるためには、これらのデメリットを認識し、適切な対策を講じることが不可欠です。
個人事業主のM&Aを成功させる方法
個人事業主のM&Aは事業の売却や買収を意味し、個人レベルでの事業継承や拡大のチャンスを提供します。このプロセスは、中小企業や個人事業主間でのビジネスの継続性を高めるため、また新たな市場への参入や事業拡張を図るために重要です。M&Aを成功させるには、戦略的な準備と適切なリソースの活用が必要です。
そこで、個人事業主のM&Aを成功に導くための具体的な方法を解説します。
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- プロの仲介会社に依頼する
- 事業引継ぎ支援センターを活用する
- マッチングサイトで手数料を抑える
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1. プロの仲介会社に依頼する
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- 売り手:専門的な評価を受けて適正価格で事業を売却できる
- 買い手:適切な事業選定と詳細なデューデリジェンスにより、リスクを軽減
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売り手にとってプロの仲介会社に依頼する最大のメリットは、事業の専門的な評価を受けて適正価格での売却が可能になる点です。専門家による事業評価は、事業の真の価値を見極める上で不可欠です。そのため、過大評価や過小評価による損失を防ぎながら、最適な価格で事業を売却できます。
買い手には、適切な事業選定と詳細なデューデリジェンスを通じて、投資のリスクを軽減できる大きなメリットがあります。仲介会社は買い手のニーズに合致する事業を厳選して、財務状態や事業運営の実態を詳しく調査することで、未知のリスクを事前に把握できるようになります。
2.事業引き継ぎ支援センターを活用する
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- 売り手:政府や業界団体が運営するセンターからの支援で、適切な買い手を見つけやすくなる
- 買い手:多様な事業から選択肢を得て、専門家からのアドバイスにより事業理解を深めることができる
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売り手にとってのメリットは、政府や業界団体が運営するセンターからの支援を受けられる点です。そのため、適切な買い手を見つけやすくなります。また、支援センターはM&Aのプロセス全体を通じてアドバイスを提供するため、安心して事業売却の手続きを進めることが可能です。
買い手は事業引継ぎ支援センターを通じて、多様な事業から選択肢を得られます。さらに専門家からのアドバイスから事業の理解を深め、より確かな投資判断が可能になります。
3.マッチングサイトで手数料を抑える
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- 売り手:低コストで広範囲の買い手候補にアプローチ可能
- 買い手:様々な売り出し中の事業を手軽に比較検討し、目的に合った事業を見つけやすくなる
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売り手はマッチングサイトを利用することで、低コストで広範囲の買い手候補にアプローチできるようになります。この点は、特に予算に限りがある小規模な事業主にとって大きなメリットです。
買い手にとっては、様々な売り出し中の事業を手軽に比較検討し、自身の目的に合った事業を見つけやすくなる点が最大のメリットです。この手軽さは、時間と資源の節約に直結し、効率的なM&Aを実現させます。
これらの方法を活用すれば、個人事業主はM&Aを成功に導く可能性を高められます。売り手は事業を適正価格で売却し、新しい機会への資金を確保できます。
一方で、買い手は既存の事業基盤を活用して、スタートアップ期間とリスクを大幅に削減できるのです。また買い手は事業の多様性から選べるのです、自分のビジョンに最も合致する事業を選択できる利点もあります。
個人事業主のM&Aにかかる税金
個人事業主が行うM&Aは、その手続きや結果によって様々な税金の対象となります。これらの税金は売り手と買い手の双方に影響を及ぼすので、事前の理解と準備が不可欠です。そこで、個人事業主のM&Aにおける主要な税金である以下の税金について解説します。
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- 所得税
- 消費税
- 相続・贈与
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所得税
売り手は、事業譲渡によって得た売却益(譲渡所得)に対して所得税が課税されることを理解し、準備しておかなければなりません。売却益に適用される税率は、分離課税または総合課税によって異なります。
例えば、不動産の売却など特定の資産譲渡から得られる利益には分離課税、事業所得や給与所得には総合課税が適用されます。売り手はこれらの違いを理解し、売却によって得た利益に対して適切な税率で税金を納めなければなりません。
買い手は、所得税の直接的な影響を受けることはありませんが、売り手が税金の支払いに関して適切な対応をしているかを理解して確認することが、取引の透明性と安心感を保つ上で重要です。
消費税
M&A取引において、売り手は譲渡した事業や資産に対する消費税の納税義務を負います。通常買い手が支払う代金に消費税が含まれるため、売り手はこの税金を適切に国に納付する必要があります。
買い手は、取引価格に消費税が含まれていることを理解し、事業の購入価格を決定する際にこの点を考慮する必要があります。消費税の支払いは、取引の総コストに影響を与えるため、事前の計画と準備が重要です。
相続・贈与の場合
個人事業主が事業を家族に譲渡する際には、相続または贈与の形式を取るケースがあります。この場合、所得税(「譲渡所得税」に限定されるものではないため、「所得税」の方が実態に即していると考えました。)ではなく、相続税や贈与税が課税される点に注意が必要です。これらの税金は、譲渡される事業の価値に応じて計算され、適用される税率は所得税と異なります。
事業を相続または贈与で受け継ぐ買い手は、相続税や贈与税の可能性を理解し、これらの税金が自身の財務計画に与える影響を考慮する必要があります。特に事業の価値が高い場合、税金の負担は大きくなる可能性があるため、専門家のアドバイスを受けながら計画を進めることが推奨されます。
個人事業主のM&Aの流れ
個人事業主がM&Aを行う場合、その流れは以下のようになります。
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- 仲介会社を探す
- 候補選定〜トップ面談を行う
- 基本合意書を作成する
- デューデリジェンスを実施する
- 最終合意
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それぞれのプロセスについて詳しく解説していきます。
1.仲介会社を探す
売却を検討する事業主は、まずM&A仲介会社やM&Aアドバイザーを選ぶことから始めましょう。仲介会社は適切な買い手候補を見つけ出し、適正な価格での事業売却を支援する専門知識と経験を持っています。またマッチングサイトを利用することも一つの手段であり、特に予算に限りがある小規模事業主にとって費用効果的「費用効果的」という表現が見慣れず。。「合理的な選択肢」ではいかがでしょうか?な選択肢となり得ます。
買い手も、自分の投資目的に合致する事業を見つけるために仲介会社やマッチングサイトの利用を検討しましょう。買い手にとっては、これらのサービスが広範囲の選択肢を提供し、効率的な事業選定を可能にします。
2.候補選定〜トップ面談を行う
候補となる事業や買い手が選定されたら、秘密保持契約を結んで、事業概要書を交換します。この段階では、双方が事業の基本的な情報を共有し、初期の関心を探ることが目的です。トップ面談は詳細な条件交渉を行う場ではありませんが、双方の意向や事業に対するビジョンの一致を確認する重要な機会です。
3.基本合意書を作成する
初期の交渉や面談を経て、双方が合意に達した場合、基本合意書(LOI)を作成します。この文書では、M&A成立までの大まかなスケジュールや従業員の扱い、その他の事業運営上の重要な事項が定められます。
4.デューデリジェンスを実施する
基本合意に達した後は、買い手はデューデリジェンス、すなわち事業調査を実施します。デューデリジェンスは買収対象となる事業の財務状態や法務状況、市場の位置づけなどを詳細に調査するプロセスであり、買収後に予期せぬ問題に直面しないようにするために不可欠です。
5.最終合意
デューデリジェンスの結果、買収を進めることに双方が合意すれば、最終的な契約書の作成に移ります。この段階で買い手と売り手は契約書に署名・捺印を行い、M&Aが正式に成立します。契約締結後は、事業の譲渡や統合が法的に効力を持つようになるため、最終合意前に十分契約内容を確認しておきましょう。
個人事業主のM&Aの事例
以下が個人事業主で行われたM&A事例となります。
食品小売業の個人事業主の事業譲渡
地方都市にて長年営業を続けていた食品小売業者が、後継者不在のために事業を譲渡した事例です。買い手は地元を基盤とするスーパーマーケットチェーンで、地域の新鮮な農産物や地場産品を扱っていた個人事業主のノウハウや既存の取引先ネットワークを活かし、さらなる地域密着型の事業展開を図りました。
譲渡後は、スーパーマーケットチェーン全体の地元顧客との結びつきが強化され、売上が向上しました。
都内美容院の事業譲渡
東京の繁華街にある美容院が、事業拡大を目指す大手美容チェーンに譲渡された事例です。美容院は、地域の女性客に対する特化した高品質な美容サービスを提供しており、顧客満足度が高いことが特徴でした。
譲渡後、買収した美容チェーンは既存顧客を引き継ぎ、店舗ブランドの再構築とともに、新たなプロモーションを実施。顧客のニーズに合わせたサービスを強化することで、競争力を高めました。
地方カフェの事業譲渡
地方の観光地で人気を博していた個人経営のカフェが、全国展開を行う飲食チェーンに譲渡されました。カフェは地域の観光客向けに独自のメニューを提供しており、その人気商品が譲渡後も活用されています。
買収後、飲食チェーンはカフェの人気商品を全国の店舗で提供し、売上を拡大。また、観光地での地域ブランドとの連携を強化し、顧客ロイヤルティを維持しました。事業シナジーとしては、観光地の地域資源を活用した商品展開と全国規模でのマーケティング戦略が融合した点が挙げられます。
地方工務店の事業譲渡
地方で住宅建設を営んでいた個人経営の工務店が、大手建設会社に譲渡されました。譲渡の目的は、後継者不在による事業継続の問題を解決することでした。
買い手である大手建設会社は、地域に密着した工務店の技術力やノウハウを活用し、地方での住宅市場における存在感を強化。工務店は従業員をそのまま引き継ぎ、地域住民からの信頼を維持しつつ、規模拡大を実現しました。
ニッチITサービス事業の事業譲渡
特定のニッチ市場に特化した個人経営のITサービス事業が、大手IT企業に譲渡されました。この譲渡では、売手企業が提供していた高度な技術や専門的な知識が、買い手企業の製品ラインに統合され、サービスの幅が広がりました。
買収企業はニッチな市場における競争力を高め、顧客基盤を拡大することに成功。売手の技術力と買手のマーケティング力が結びつき、新しい市場を開拓できた事例となります。
まとめ
個人事業主がM&Aで成功を収めるためには、適切な準備と正確な情報が鍵となります。まずプロの仲介会社の選定や事業引継ぎ支援センターの活用や、コスト効率の良いマッチングサイトの利用が売り手と買い手双方にとって重要な第一歩です。
売り手は事業を適正価格で売却し、後継者不足の問題を解決できる機会を持てます。また、売却益を得ることで新しい事業への投資や借入金の返済に充てられるようになります。一方で、買い手は初期投資を抑えつつ、既存の顧客基盤や取引関係を引き継ぎ、許認可が必要なビジネスにも容易に参入できるメリットがあります。
M&Aプロセスでは、候補選定からトップ面談、基本合意書の作成、デューデリジェンスの実施、最終合意に至るまでの各段階を慎重に進めることが成功への鍵です。
さらに税金面では、売り手は事業譲渡による売却益に対して所得税が課税される点が重要です。買い手は譲渡される事業や資産に対する消費税の扱いを理解する必要があります。買い手について、消費税を留意するという記載をするのであれば、売り手について消費税の納税があるという点も記載した方がいいように考えます。
個人事業主にとってM&Aは大きな転機となり得るため、専門家の助言を受けつつ、自身のビジネスの価値を正確に把握し、適切なパートナーとのマッチングを目指しましょう。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。