黒字廃業とは?意味やその理由、現状の割合から読み取れる課題と対策について解説

廃業する会社は赤字が続いていて経営困難なイメージが先行しがちですが、利益が出ていても廃業をする黒字廃業が現在は多い傾向にあります。

本記事では

  • 黒字廃業とは
  • 黒字廃業する割合や件数などの現状
  • 黒字廃業する理由
  • 黒字廃業するときに注意すべき点
  • 黒字廃業させないための対策

について詳しく解説します。

黒字廃業に関する概要や現状、廃業するまでの流れなどを幅広く理解できますので、中小企業やベンチャー企業等を経営している人におすすめです。黒字廃業に関する知識を深めておきたい人や実際に黒字廃業を検討している人などは、ぜひ本記事を参考にしてみてください。

黒字廃業とは

黒字廃業とは、業績自体は黒字で問題はないものの、事業を廃業しなくてはいけない状況を指します。一般的に廃業と聞くと、経営状況が苦しく赤字続きで事業の継続が厳しい場合に行うものといった認識の人も多いでしょう。

しかし、実際には業績だけを確認すると経営状況に余裕があるように見えても、事業を廃業する人もいます。廃業理由はそれぞれですが、余力のあるうちに廃業することから「あきらめ廃業」や「隠れ倒産」と呼ばれる場合もあります。

廃業と倒産の違い

「廃業」と似た言葉として、「倒産」があります。しかし、「廃業」と「倒産」では事業を終了させる意味としては似ていますが、厳密には異なります。倒産とは、債務が弁済できなくなってしまい事業を終了させることです。

例えば、赤字が続いて会社の資産を超えてしまい、立て直しができないときに倒産してしまうケースが考えられます。このように債務が原因で事業を終了させる「倒産」に対して、「廃業」は経営者の判断で事業を終了させるときに使われる言葉です。

廃業する理由はさまざまですが、例を挙げると経営者の年齢的な問題などが考えられるでしょう。このように「倒産」と「廃業」では、債務に左右されて事業をたたむのか、経営者の判断で事業を終了させるのかという点が見極めのポイントとなります。

今回解説する黒字廃業は、倒産ではなく廃業です。そのため、赤字ではないものの何らかの理由があり、経営者の判断で事業をたたむケースで考えてみましょう。

黒字廃業の件数と割合

事業をたたむときには、経営状況が厳しかったイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、黒字でも事業をたたむ人も一定数いるのが現状です。そこで、実際にどの程度の企業が黒字廃業をしているのか、日本の休廃業の現状と合わせて見ていきましょう。

  • 日本における休廃業の現状
  • 黒字廃業の件数は10年間で60万社

日本における休廃業の現状

2022年における国内の休業や廃業、そして解散を行った企業は53,426件です。2021年と比較すると2022年は約1,300件(2.3%)減少しました。2019年には一度増加したものの、ここ3年の推移を見ると減少傾向にあります。

集計した年 1年間の件数 前年比
2020年 56,103件 5.3%減
2021年 54,709件 2.5%減
2022年 53,426件 2.3%減

また、雇用数に関しては企業の休業や廃業などで82,053人が影響を受けたとされています。

休業や廃業等の推移とは異なり、前年と比較すると約3,600人増えました。雇用数と同じく、売上高に関しても前年より消失額が増えており、2022年は2兆円越えとなりました。

出典:株式会社帝国データバンク

黒字廃業の件数は2025年までに約60万社

2022年に休業や廃業した企業のうち、63.4%が資産超過型休廃業をしました。また休廃業する前の決算に着目すると、当期純損益が黒字だった割合も54.3%と半分よりも高く、赤字等の理由で休廃業した数よりも多いです。

新型コロナウイルスの流行により経営状況が厳しかった2021年は、各種コロナ支援によって休廃業を免れていた企業も、支援策の縮小に伴って経営が厳しくなっている傾向にあります。

そして、黒字廃業で注目しなければいけないのが後継者問題です。現在では、2025年までに70歳以上となる経営者の中で、後継者が決まっていない中小企業約127万社のうち、黒字廃業の可能性がある約60万社が、第三者へ事業承継を目指すことを目標としています。

つまり、2025年までに黒字廃業となる件数が、約60万社になる可能性もあります。黒字廃業の件数を少なくしていくためにも、いかに早い段階で第三者へ事業承継をしていけるかが課題と言えるでしょう。

出典:経済産業省

黒字廃業となってしまう理由

黒字であったとしても廃業する企業は多いですが、なぜ黒字なのにもかかわらず廃業してしまうのか、理由を見ていきましょう。

黒字廃業する主な理由としては、以下の3つが考えられます。

  • 後継者がいない
  • 資金繰り・負債の増加
  • キャッシュフローの悪化

後継者がいない

1つ目の理由は、事業を引き継ぐ後継者がいないことです。まず、以下に後継者不足に関する推移の表を確認してみましょう。

集計した年 後継者の不在率
2017年 66.5%
2018年 66.4%
2019年 65.2%
2020年 65.1%
2021年 61.5%

後継者不在率に関しては2017年から徐々に下がってはいるものの、2021年を見てもまだ60%以上と決して低い数字とは言えません。また経営者の平均年齢も徐々に上がっていて、2020年には62.5歳となっています。経営者の年齢層を見ても70代や80代以上が増えているため、早めに後継者確保に向けて動き出す必要があるでしょう。

出典:中小企業庁

資金繰り・負債の増加

2つ目の理由は、資金繰りが難しくなった、あるいは赤字ではないものの負債が増加してしまうことです。事業を行うにあたって、利益が出ていたとしても資金が企業に入ってくるまでには時間がかかります。

例えば、さまざまなコストカットをした上でなんとか黒字である場合、たとえ利益を出していても資金繰りが厳しくなり、先の見通しが立たないでしょう。また赤字とまではならなくても負債が増え続けると、余計に資金繰りが厳しくなります。

このように、事業は利益が出ていれば継続していけるわけではありません。もちろん、黒字であることも重要ではありますが、どのような状況下での黒字なのかも事業をするときには重視されます。

キャッシュフローの悪化

3つ目の理由は、キャッシュフローの悪化です。キャッシュフローとは現金の流れを指し、事業を安定させるための重要なポイントとなります。

例えば、キャッシュフローが悪化してしまう原因としては、主に以下の3つが考えられます。

  • 売掛金が多く現金が不足している
  • 収支のバランスが取れていない
  • 負債が増加してしまい利益が出ていても経営が立ち行かない

これらの点については、収支管理を徹底していればある程度防げます。しかし、収支管理をおろそかにしてしまうと、キャッシュフローの悪化に気づけず、黒字廃業に追い込まれてしまう可能性が高まるのです。

そのため、キャッシュフローの管理については定期的に確認をして、収支のバランスに問題が生じていないか把握する必要があります。

黒字廃業の流れ

実際に黒字廃業する場合は、段階を踏んで手続きを進める必要があります。基本的に会社の清算手続きについては、経営者か弁護士が行います。

廃業までの大まかな流れは、主に以下のとおりです。

  • 官報公告により会社の解散の報告と債権申出を求める
  • 財産目録や貸借対照表を作成して株主総会で承認を得る
  • 売掛金を回収したり資産を売却したりする
  • 債務がある場合は支払いを済ませる
  • 債務の支払いが済んだ後に財産がある場合は株主へ分配する
  • 決算報告書の作成と株主総会における承認を受ける
  • 清算完了登記を法務局で行う

廃業する場合であっても、清算登記をするときに確定申告をする必要がありますので注意しましょう。また手続きを進めるにあたって、従業員や取引先に廃業の意向を伝える必要があります。従業員は新たな職を見つける必要があり、取引先も新しい提携先を探す必要があるため、廃業が決まったら、できるだけ早めに報告するようにしましょう。

黒字廃業する時の注意点

事業を行っていると、実際に黒字廃業しなければいけないときが来るかもしれません。もし廃業をする際は、以下の3つの注意点について考えつつ手続きを進める必要があります。

  • 取引先に迷惑をかけてしまう
  • 廃業のため従業員解雇が必要になる
  • 黒字廃業の場合でも納税義務はある

取引先に迷惑をかけてしまう

黒字廃業だけに限られた話ではありませんが、事業を廃業してしまうと取引先に迷惑をかけてしまいます。また廃業する事業の内容が大きいほど迷惑をかけてしまう取引先も増える可能性がありますので、下請け企業にも大きな影響が出るでしょう。

もちろん、取引先だけではなく株主や今まで借入をしていた銀行などにも迷惑をかけてしまいます。経営の継続が難しく廃業する場合は、できるだけ早く関わりのある取引先などに連絡しておき、相手が対策を立てられるように配慮しましょう。

廃業のため従業員解雇が必要になる

事業を廃業する際は、従業員を解雇しなければいけません。つまり、廃業する企業等で働いている従業員は、できるだけ早めに新しい職を探す必要があります。従業員も生活がかかっているため、経営者は時間をかけてでも納得のいく説明をする必要があるでしょう。

また必要に応じて次の働き先の斡旋や退職金等の手続きなど、トラブルに発展しないためにも責任持って対応にあたる必要があります。そのため廃業する際は、最後まで従業員に寄り添うことを忘れないようにしましょう。

黒字廃業の場合でも納税義務はある

黒字廃業であっても、納税義務があるため確定申告を行う必要があります。廃業する年の確定申告は、個人と法人でタイミングが異なりますので注意しましょう。

個人の場合は翌年の2月16日から3月15日までです。一方、法人の場合は清算登記の際に確定申告をします。また、廃業した後に発生する費用に関しても確定申告で計上可能です。

例えば、オフィスに残っている備品の処分等で費用が発生する場合も考えられます。廃業後でも費用が発生した際は、確定申告で忘れずに計上しましょう。

黒字廃業を防ぎ事業を存続させる方法

黒字廃業の実態や廃業になる理由などを解説してきましたが、できるのであれば黒字廃業させずに済ませたいという人も経営者の中には多いでしょう。そこで、黒字廃業させたくない場合には、以下の4つの方法を検討してみましょう。

  • M&Aの専門家に相談する
  • 事業承継の対策を早めに行う
  • キャッシュフローの管理
  • 資金調達を強化する

M&Aの専門家に相談する

M&Aの専門家に相談し、他の誰かに経営権を渡すことを検討してみましょう。例えば、黒字廃業しそうな原因が後継者問題であり、自分自身で見つけられるのであれば問題ありません。

しかし、自力で後継者を見つけられない場合は、専門家に相談しつつ探してみる方法も1つの手です。ただし、専門家に依頼してもすぐに譲渡先が見つかるわけではない点に加えて、仲介手数料も発生します。

また譲渡先の意向によっては売却前と比較して、企業の状況が変化してしまう可能性もあります。そのためM&Aを行うときには、メリット以外にも目を向けて最善の選択ができるように検討しましょう。

事業承継の対策を早めに行う

後継者を確保できるように、早めに対策を立てておきましょう。親族の中から選べたらスムーズに後継者を決められますが、実際にはなかなか思うように行きません。

そのため、現在働いている人の中から適任者を見つけるか、M&Aのどちらかを選ぶ方法も検討しましょう。

もし前者の従業員の中から探す場合には、ある程度時間をかけて教育や引き継ぎをしていく必要があります。そのため、事業承継を考えているのであれば早めに対策を進めましょう。

キャッシュフローの管理

収支のバランスを崩さないためには、キャッシュフローの管理を徹底しましょう。収支の管理を徹底せずにいると、在庫管理や売掛金の管理に問題が生じてしまい、資金繰りが厳しくなってしまいます。資金繰りが苦しくなってしまうと新しい事業にも挑戦しづらいですし、企業としての成長も難しくなるでしょう。

また企業は収益を上げてもすぐに資金を調達できるわけではないので、収支のバランスの異常に気づくのが遅れてしまうと、対応が難しくなります。そのため、資金繰りが厳しくなって黒字廃業する前に、キャッシュフローの管理を徹底しましょう。

資金調達を強化する

資金繰りが厳しくなる前に、資金調達を強化しておきましょう。日頃からキャッシュフローの管理を徹底していれば、資金繰りが厳しくなるといったリスクを減らせます。

しかし、管理を徹底していても不測の事態が起きてからでは遅いため、あらかじめ対策を練っておく必要があるでしょう。例えば、以下のような対策が考えられます。

  • 融資先を複数確保しておく
  • 金融機関と関係を深めておく
  • 信用枠を確保しておく

万が一に備えて資金調達を強化しておけば、収支のバランスが少々乱れても大事に至る可能性を少なくできるでしょう。

黒字廃業する会社を買収するメリット

主に黒字廃業になりそうな経営者に向けての内容をお伝えしましたが、現在経営がうまくいっている経営者の中には、黒字廃業しそうな会社を買収することを検討している人もいるでしょう。

実際に買収するメリットとしては、主に以下の3つがあります。

  • M&Aの交渉がスムーズに進む
  • 経営資源を引き継いだまま事業開始できる
  • 新たな販路拡大の糸口となる

M&Aの交渉がスムーズに進む

黒字廃業する会社を買収する場合、M&Aの交渉がスムーズに進みやすい傾向にあります。なぜなら、黒字廃業する会社は譲り手を探すことを重視している場合が多いからです。

M&Aで売却を考えている人の中には、売却益を目的としている人もいます。売却益を目的としている場合は、相手と条件面の交渉が難しく、思うように話がまとまらず長引いてしまったり合意に至らない場合もあります。

黒字廃業する会社では、後継者不足や資金繰りなどが原因で売却を検討している場合もあるため、正当な条件であれば話がスムーズにまとまりやすいでしょう。

経営資源を引き継いだまま事業開始できる

黒字廃業する会社を買収すれば、経営資源をそのまま活かして事業を進められます。もし0から事業を始める場合は、経営の基盤を整えるのに時間がかかります。

しかし、黒字廃業する会社を買収する場合は、すでにいる人材や顧客を活かして事業を始められるため、0から事業を始めるより時間はかかりません。

このように、予算と時間をかけずリスクを減らした上で新たに事業を始めたいならば、黒字廃業する会社の買収を検討してみましょう。

新たな販路拡大の糸口となる

会社を買収できれば、既存事業の新たな販路拡大の糸口となる可能性があります。会社を買収できれば、すでに働いている人材やノウハウ、顧客などをそのまま引き継ぐことができます。そのため、既存事業と親和性が高ければ、より現在手がけている事業を伸ばしやすくなるでしょう。

0から事業を作り上げる場合と比較すると、時間をかけずに済むため、既存事業の成長を考えているのであれば、黒字廃業する会社を買収するのも1つの手です。また0から事業を作るよりも安く済む可能性もあるため、新たな販路や取引先を開拓する際もコストを削減できます。

黒字廃業を防ぐための「M&A」とは

M&Aとは、簡単に説明するとある企業が他の企業を合併・買収して1つの会社になることです。黒字廃業を検討している経営者の中には、後継者を見つけられなかったり資金調達ができず経営が苦しかったりするなどの理由から、やむを得ず事業をたたむ場合もあります。

しかし、M&Aの仕組みを利用すれば余力のある会社に事業を引き継ぐため、黒字廃業せずに済むのです。

まとめ

本記事の黒字廃業に関する解説のまとめは、以下記のとおりです。

  • 休廃業する会社の中には赤字でなくても事業をたたむ黒字廃業が多い
  • 2022年は休廃業した会社のうち63.4%が資産超過型休廃業
  • 黒字廃業は後継者不足や資金繰り、キャッシュフローの悪化が原因
  • 黒字廃業をしてしまうと従業員や取引先など多くの人に迷惑をかける
  • 黒字廃業しないよう専門家に相談したり早めに後継者探ししたりする

黒字廃業を減らしていくためには、後継者不足や資金繰りなどの問題を解決していく必要があります。現状、後継者問題について後継者不在率は減少傾向なものの、未だに約6割の経営者が悩んでいます。

休廃業する会社の代表年齢を見ても年々高くなっていることから、今後は早めに後継者探しや育成等の対策を進める必要があるでしょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。