プロラタ方式とは?意味や計算方法・資金調達の手順について解説
M&Aを実施する際には多額の資金調達が必要となります。
自社の企業が順調であり返済能力に問題ないと見なされれば、メインバンクから多額の融資を受けられるかもしれません。
しかし、多くの企業にとって、ひとつの借入先から巨額の融資をもらうのは難しいでしょう。
そこで、資金調達をする手法として採用されるのがプロラタ方式です。
ここでは、プロラタ方式の意味や資金調達との関係、計算方法などについて網羅的に解説していきます。
M&Aの資金調達に悩んでいる事業者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
M&Aなどの資金調達で用いられるプロラタ(プロラタ方式)とは
プロラタ(プロラタ方式)とは複数の金融機関から借り入れをしている企業が、借り入れ額に比例する形(比例配分)で返済額を決定することです。
「プロラタ」とは”比例して按分する”という意味のラテン語「pro rata」に由来します。
また、英語の「prorate(プロレート)」には、”割り当てる”や”案分比例する”といった意味もあるため、実際のプロラタの意味とも合致します。
企業の財政状況や業績が芳しくない状態では返済能力が怪しまれてしまい、外部の金融機関から多額の資金調達を行うのは現実的ではありません。
こうした時、ひとつの金融機関単独で融資を受けるのではなく、複数の金融機関とのプロラタ方式で融資を受けられる場合があるのです。
貸付を行う金融機関の視点でも、融資額が少なくなることで資金回収不可のリスクを抑えられます。
返済計画に関しても、各金融機関は「どこの金融機関からどの程度資金調達を行っており、合計の融資総額はいくらなのか」が把握できます。
たとえ毎月の返済金額が小さくとも、「回収が遅れるのでは」という心配も抑えられるでしょう。
このように、金融機関はリスクが抑えられ債務の回収見通しが立てられるため、財政状況や業績がよくない企業にもプロラタならば融資ができるというケースが多いのです。
2種類のプロラタ方式とそれぞれの計算方法
プロラタ方式を利用する際には、以下のような基準で比例按分し返済額が算出されます。
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- 借入残高のみを参照して比例按分する「残高プロラタ」
- 借入時の担保も踏まえて比例按分する「信用プロラタ」
各プロラタ方式の概要と計算方法、特徴を見ていきましょう。
借入残高のみを参照して比例按分する「残高プロラタ」
残高プロラタとは、返済額を計算した時点での借入金残高のみを基準として、各借入先への毎月の返済額を定めていく方法です。
基準日の時点で、金融機関3社から借入を行っており、借入残高が合計1億円とします。
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- A社:6,000万円
- B社:3,000万円
- C社:1,000万円
事業の業績が悪く毎月返済できる金額として500万円しか捻出できない場合、借入残高の合計1億円と3社の借入金額より、A社からは全体の60%、B社からは30%、C社からは10%借入をしている計算になります。
この割合をもとに、毎月の返済金額を計算するとA社へ300万円、B社へ150万円、C社へ50万円となるでしょう。
【表1】残高プロラタのプロラタ計算方法
借入残高 | 総借入残高に対する割合 | 毎月の返済額 | |
金融機関A社 | 6,000万円 | 60% | 300万円 |
金融機関B社 | 3,000万円 | 30% | 150万円 |
金融機関C社 | 1,000万円 | 10% | 50万円 |
合計 | 1億円 | 100% | 500万円 |
残高プロラタでは、毎月の返済額は各金融機関からの借入残高の割合をもとに比例按分して求めます。
そのため、借入残高の多い金融機関への返済額は多く、借入残高の少ない金融機関への返済額は少なくなります。
これにより、公平性を保てるのが残高プロラタの特徴といえるでしょう。
借入時の担保も踏まえて比例按分する「信用プロラタ」
信用プロラタとは、返済額を計算する時点で、借入額だけでなく担保も考慮して算出する方式です。
各金融機関への借入金残高から担保の評価額を差し引いた金額をもとに、返済に充てられる金額を振り分けていきます。
先ほどと同様、借入残高が合計1億円とし、各金融機関からの借入額は以下の通りで考えていきます。
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- A社:6,000万円
- B社:3,000万円
- C社:1,000万円
そして、A社から融資を受ける際には3,000万円の価値がある担保を提供し、B社から融資を受ける際には1,000万円の価値がある担保を提供し、C社からは無担保で借り入れたとします。
信用プロラタ方式では、この担保が返済に充てられた場合を考慮した上で、各金融機関への返済額を計算していくのです。
そのため、担保を取り除いた上での全体の借入残高は1億(10,000万)円ー3,000万円ー1,000万円=6,000万円となり、各金融機関の実質的な借入残高の割合はA社が50%、B社が33%、C社が17%です。
この割合をもとに比例按分すると、各金融機関への毎月の返済額はA社が250万円、B社が165万円、C社が85万円となります。
【表2】信用プロラタのプロラタ計算方法
借入残高 | 担保額 | 借入残高の内無担保額 | 総無担保額に対する割合 | 毎月の返済額 | |
金融機関A社 | 6,000万円 | 3,000万円 | 3,000万円 | 50% | 250万円 |
金融機関B社 | 3,000万円 | 1,000万円 | 2,000万円 | 33% | 165万円 |
金融機関C社 | 1,000万円 | 0円 | 1,000万円 | 17% | 85万円 |
合計 | 1億円 | 4,000万円 | 6,000万円 | 100% | 500万円 |
差し入れている担保を考慮せずに残高プロラタで返済額を決定すると、担保が差し入れられていない金融機関にとっては不公平な返済計画となってしまいます。
借入残高だけでなく、差し入れられている担保の価値も踏まえて比例按分するのが、信用プロラタ方式の特徴です。
プロラタ方式の手順と基本的な流れ
プロラタ方式を行う際の手順として以下の通りに実施されます。
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- 各金融機関の借入金額を専門家に依頼して洗い出す
- 金融機関へ出向きプロラタ方式での返済について協議する
- 専門家に同席してもらい、借入残高を按分していく
- 各金融機関と個別に調整を取りながら返済計画を定めていく
プロラタ方式を利用して資金調達を行う場合は、税理士や公認会計士、弁護士、M&A仲介会社などの専門家の助けを借りましょう。
プロラタ方式を利用してM&Aに必要な資金調達を行い返済計画を立てるといっても「返済能力に疑問が残る企業に多額の融資をする」ということに他なりません。
専門家を同行させずに金融機関へ交渉を行っても、多額の資金調達に同意してくれる企業は少ないでしょう。
そこで、各工程ごとに専門家に依頼して、返済計画の設定や各金融機関との交渉・協議を進めていくのがおすすめです。
プロラタ方式のメリット:金融機関からの融資が受けやすくなる
プロラタ方式のメリットは、金融機関からの融資が受けやすくなることです。
プロラタ方式の返済では、公平性の観点から借入を行っているすべての金融機関に対して一斉に返済が行われます。
そのため、金融機関の立場からすると貸付を行った企業が複数の金融機関から融資を受けたとしても返済を後回しにされず、債権未回収のリスクが抑えられるのです。
また、複数の金融機関で借入金額を分配するため、金融機関には以下2点のメリットがあるでしょう。
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- ひとつの金融機関あたりの借入金額は低く抑えられる
- 借入金額によって返済額が定められる
他にも同じ企業へ貸付を行っている金融機関の動向を把握できる点も、金融機関側の安心材料として挙げられます。
こういったさまざまな理由から通常なら融資が難しい場合でも、プロラタ方式を利用すれば資金調達できる可能性が高まります。
事前に知っておきたいプロラタ方式の3つの注意点
プロラタ方式は貸付を行う金融機関にとって都合のよいポイントが多いため、多額の借入が難しい企業であってもM&Aに必要な資金を調達できます。
しかし、プロラタ方式を利用する上では注意しなければならない点が3つ挙げられます。
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- 各借入先の金融機関に対して平等な返済を心がける
- プロラタ方式での返済は全行一致で開始する
- 信用プロラタが採用されるケースはまれ
各注意点の詳細を見ていきましょう。
1.各借入先の金融機関に対して平等な返済を心がける
プロラタ方式を採用して借入を行う際には、各金融機関すべてに対して平等な返済になるよう心がけましょう。
借入の交渉時に、ある金融機関にとって不平等な設定になっていると、受け入れてもらえない可能性が高くなります。
最悪の場合、各金融機関の間でトラブルに発展する恐れもあるでしょう。
公平性が保たれた返済計画を見積もるためにも、顧問税理士や公認会計士、自社の経理担当との連携が必須となります。
プロラタ方式の返済計画を受け入れてもらった後も、すべての金融機関に対して公平性が求められる点も注意しなければいけません。
たとえば、追加融資が必要になった際や、返済計画の見直しが必要になった際にも公平性が求められ、一部の金融機関が反対すると実現が難しくなります。
2.プロラタ方式での返済は全行一致で開始する
プロラタ方式での返済では、『全行一致』を原則としなければいけません。
そのため、返済開始時期や返済終了時期についても、借入をしているすべての金融機関が同時になります。
そもそもプロラタ方式では、複数の金融機関から融資を受けるためにすべての金融機関を平等に扱うことを前提にしています。
もし、一部金融機関への返済開始時期が遅れてしまうと、先に返済が開始された金融機関の方が短期間で返済が完了するため、返済開始が遅れた金融機関は不利になってしまうでしょう。
また、借入金額によって比例按分したにもかかわらず、返済終了時期が金融機関ごとに異なる場合、そもそもの返済金額の計算が誤っており、一部の金融機関にとって不利な契約になっていたことになります。
このように、返済開始時期や返済終了時期のどちらか一方が遅れると、一部の金融機関にとって不公平な契約となってしまうため全行一致が重要です。
3.信用プロラタが採用されるケースはまれ
借入金額だけでなく事前に差し入れていた担保も考慮に入れる信用プロラタ方式は、一見すると残高プロラタ方式に比べても精度の高い算出法に見えます。
しかし、実際の資金調達や返済計画の見直しをする場合、信用プロラタが採用されるのはレアケースとなります。
信用プロラタ方式を採用した際、担保の評価額を算出するのが難しいためです。
担保として差し入れられるものの例としては、不動産や株式証券、自動車などが挙げられます。
信用プロラタ方式で返済金額を決定する際には、担保の評価額について各金融機関や返済者などの関係者全員が合意しなければなりません。
しかし、担保の価値が購入する人や売却時期によって変動するため、関係者全員が各担保の評価を一致させるのは困難です。
また、返済金額の調整に関しては対象債権者全員の一致が原則であるため、ひとつの金融機関が反対を示した段階で合意形成ができません。
裁判所が絡んでくるような法的整理の場合であれば信用プロラタの採用もあり得ますが、私的整理においてはあまり採用されないのが実情です。
返済計画の見直しに用いられる最終手段としてのプロラタ
ここまではM&Aなどによって、多額の資金調達をしなければならない時の借入方法としてプロラタ方式を紹介してきました。
しかし、プロラタ方式は返済計画を見直す際にも用いられます。
業績悪化などによって企業財政の立て直しをする際、借入をしている金融機関に対して毎月の返済条件を見直す必要があります。
とはいえ、返済条件を見直すといっても企業側がとれる選択肢は限られており、「借入金返済を一時停止する」や「毎月の返済金額を抑えてもらう」などが挙げられるでしょう。
いずれの方法にしても、その企業が業績改善し返済金額をもとの水準まで戻せるのかは不透明である以上、金融機関側からはリスクが大きい提案になります。
そこで、返済方法をプロラタ方式に変更することで、金融機関からの理解を得ながら毎月の返済金額を抑えられるようになります。
プロラタ方式を提案するならばなるべく早い段階で
資金繰りが厳しく返済計画の見直しを検討しているのであれば、早い段階でプロラタ方式を提案しましょう。
もし、資金繰りが厳しくなってきた段階で一部の金融機関だけ返済を一時停止してしまうと、後々プロラタ方式に変更したい時にこれらの金融機関から反対される可能性があります。
借入金返済にプロラタ方式の採用を検討している場合、すべての金融機関からの承認を得なければ、返済計画は変更できない点を踏まえておきましょう。
【パリパス条項について】パリパスとプロラタの違いとは
パリパス条項とは、ローン契約の返済順位において優先順位はなく、複数の借入に際して平等に返済していかなければならないことを定めた条項です。
プロラタ方式によって複数の金融機関から借入を行う際、以下のような公平性や平等性が求められるのもパリパス条項が理由のひとつです。
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- 返済時には毎月の返済金額が比例按分によって求められる
- 返済開始時期はすべての金融機関で必ず一致させなければならない
プロラタ方式を利用しているにもかかわらず、債務者が他の借入先となる金融機関との間で担保権などを設定した場合、パリパス条項の違反となります。
この時、すでに融資を行っている他の金融機関は、同債務者に対して直ちに返済を求められます。
プロラタ方式を利用してM&Aの資金調達を成功させよう
M&Aを実施するには多額の資金が必要となります。
もし、買収資金を自社で用意できないのであれば、金融機関からの融資を受けなければなりません。
とはいえ、企業の業績や財政に不安が残る場合、ひとつの金融機関から必要な金額を出資してもらうのは難しいでしょう。
プロラタ方式ならば複数の金融機関でリスクを分散でき、返済計画においても公平性が確保できるため、多額の資金調達も成功しやすいといわれています。
現時点でM&Aを検討している事業者の方は、プロラタ方式の活用も選択肢に入れ、税理士や公認会計士、M&A仲介会社などの専門家に相談してみましょう。
【ディスクリプション】
プロラタ方式とは複数の金融機関から借り入れをしている企業が、借り入れ額に比例する形で各金融機関への毎月の返済額を決定する方式です。業績や財政状況が悪くとも、多額の資金調達が行える手法として注目されています。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。