事業売却の5つのメリットとデメリット!売却までの流れも5ステップで解説

事業売却における売手の最大のメリットは、売却した資金で負債の返済や新規事業の展開などを実施できることです。

また、買手にとっても構築された組織を運営できるので、スムーズに事業を展開できたり、節税効果を期待できたりするメリットがあります。しかし、事業売却には、メリットと同じようにデメリットも存在するのが事実です。

この記事では、事業売却のメリットやデメリット、売却までの流れについて解説します。事業売却について悩んでいる人は、ぜひこの記事を参考に、新しいビジネスの一歩を踏み出してください。

事業売却の5つのメリット

事業売却のなかでも事業譲渡のメリットは次の5つです。

    1. 売却により資金を得られる
    2. 主力事業に集中できる
    3. 従業員の雇用を引き継げる
    4. 節税効果が期待できる
    5. 債権者への通知がいらない

事業譲渡のメリットは、売手だけでなく買手にもあります。それぞれのメリットを把握したうえで、売却を進めましょう。

1.売却により資金を得られる

事業を売却することで、資金を得られるのは最大のメリットです。

売却で得た資金を新しいビジネスに投資したり、負債の返済に充てたりすれば、経営状態の改善が期待できます。ただし、資金は経営者個人のものではなく法人のものであるため、私的利用と思われるような使い方には注意しましょう。

売買契約を結ぶ際は、資産と負債のそれぞれの条件をすり合わせる必要があります。

2.主力事業に集中できる

不採算事業を売却することで、従業員や資金を主力事業に集中させられます。

また、主力事業に人員や資金を集中させれば、損失を最小限に防ぐだけでなく、経営の安定化にもつながるでしょう。売却で得た資金を活用すれば、さらなる経営の拡大も期待できます。

3.従業員の雇用を引き継げる

事業譲渡を選択する場合、会社自体は存続することから不採算事業であっても従業員の雇用を継続できるのがメリットです。。雇用契約の結び直しや配置換えなどは必要ですが、従業員への影響を最小限に抑えられるでしょう。

また、会社ごと売却するわけではないことから、必要な資産を残しておけるのも特徴です。ただし、買手とのトラブルを防ぐために、売却する資産としない資産を契約書に明記しておく必要があります。

4.買手は節税効果が期待できる

事業譲渡では、「のれん」といわれるノウハウやブランドなどは、資産に計上されたあとも5年間は経費として計上できます。

たとえば、資産8,000万円、負債2,000万円の事業を7,000万円で購入する場合、負債を除いた実質的な資産は6,000万円なので、1,000万円の差額が発生します。この差額が「のれん」です。帳簿に載らないノウハウや取引先などの価値を表します。

株式譲渡で株式を7,000万円で取得した場合と異なり、「のれん」は償却して経費計上できるため、買手は節税が可能です。

5.債権者への通知がいらない

事業売却は債権者への通知や公告が不要なため、手続きの手間を減らせます。売手だけでなく、買手にとってもスムーズに売却を進められることから、双方にとってメリットを感じられるでしょう。

事業売却の5つのデメリット

事業売却にはメリットも多いですが、次のようなデメリットもあります。

    1. 同じ事業を一定期間行えなくなる
    2. 手続きに時間がかかる
    3. 税金がかかる
    4. 負債の扱いを検討する必要がある
    5. 許認可の再取得が必要

売手と買手のそれぞれのデメリットを把握すれば、慎重に売却を進められるでしょう。

1.同じ事業を一定期間行えなくなる

会社法第21条により、売却した事業と同じ事業を、同一・隣接する市町村では展開できません。売却後に同じ事業を展開すると、ノウハウや人脈をそのまま活用できるので、買手の競合相手になってしまうからです。

基本的に、当事者間での合意がなくても、20年間は同じ事業を行えません。契約書の特約を設けた場合は、最大30年間同じ事業が展開できないので注意しましょう。

ただし、交渉次第では期間を短縮できるとされています。また、法律の解釈上は事業制限の排除も可能とされているため、契約を結ぶ前に専門家に相談してみるとよいでしょう。

2.手続きに時間がかかる

事業売却は個別に資産や負債を譲渡するため、手続きに時間がかかる傾向にあります。これは、買手と売手の双方のデメリットです。雇用契約や取引先との基本契約・賃貸借契約・不動産・債務や債権の移動などを、個別に手続きしなければなりません。

また、売却に当たっては、各関係者への説明や承諾も必要です。そのため、承諾を得るための交渉に時間がかかる場合もあるでしょう。

3.税金がかかる

株式譲渡であれば消費税は発生しませんが、事業売却は譲渡する資産の内容によって、税金が発生します。

たとえば、買手に消費税が発生する項目は次のとおりです。

課税対象土地以外の有形固定資産
無形固定資産
棚卸資産
営業権(のれん代)
非課税対象土地
有価証券
債権

土地だけを譲渡された場合は税金がかかりませんが、建物を譲り受けると消費税がかかるので注意しましょう。

売手と買い手に発生する消費税を含めた税金は以下のとおりです。

売手法人税
消費税
買手消費税
不動産取得税
登録免許税

なお、消費税を負担するのは買手ですが、納付するのは売手です。事業売却は株式譲渡と比較して、買手の税金の負担が重くなりやすい傾向にあります。

4.負債の扱いを検討する必要がある

事業売却では、買手は負債や簿外債務など、不要なものを買収する必要はありません。

買手にとってはメリットですが、売手は事業売却後に負債が残った場合の扱いについての検討が必要です。不採算事業を抱えている場合は、慎重に売却を検討しましょう。

5.許認可の再取得が必要

株式譲渡と異なり、事業売却では売手の許認可や資格、免許などは引き継ぎができません。

許認可がないと事業を継続できない可能性があるため、買手が許認可や免許を再取得する必要があります。時間や手間がかかることから、すでに必要な許認可や資格を取得している同業者間で売却が実施される場合がほとんどです。

メリットばかり?事業売却後に変わる5つのこと

事業売却によって起こる変化にはメリットも多くあります。しかし、具体的に会社や従業員にはどのような変化が起こるのでしょうか?

一般的に、事業売却後には次の5つの項目が変化します。

    1. 従業員の待遇
    2. 役員の待遇
    3. 人事制度
    4. 福利厚生
    5. 社風

必ずしも良い方向に変わるとは限りませんが、売却後には多くのメリットもあります。買手と従業員の待遇や人事制度を相談したうえで事業売却を進めましょう。

1.従業員の待遇

基本的に、雇用契約が結び直しになるため、仕事内容や役職が変化する可能性はあります。また、売却後の労働条件を決めるのは買手なので、改善だけでなく悪化する場合もあるでしょう。

しかし、買手が上場企業のような大きな会社であれば、新たなポジションに就任し、キャリアアップやスキルアップなども期待できます。株式譲渡の場合は、給与や退職金などの規定は変更になるケースが多いですが、雇用契約はそのまま引き継がれるのが特徴です。

2.役員の待遇

役員は、常勤か非常勤かで待遇が変わります。非常勤の役員は、親族や実態の伴わない人員である場合が多く、退任するケースがほとんどです。

一方で、常勤の役員は、買手の風土や現状への理解が深ければ、本人の実力次第で継続の可能性があります。ただし、報酬は株主総会によって決定するので注意しましょう。

株主総会の判断次第では、減額になる場合もあります。そのため、役員のポジションや報酬を維持したい人は、買手や株主に実力を認めてもらわなければなりません。

3.人事制度

売手に不利にならないような人事制度の統合が求められることから、従業員と個別に制度の変更の合意を得る必要があります。

そのため、制度のすり合わせには1〜2年ほど時間をかけて、徐々に買手の人事制度に移行していく場合がほとんどです。

人事制度を統合しない企業もありますが、人事異動の際にどちらの制度を適用するのかが複雑になるので、ほとんどのケースで統合を進めます。

4.福利厚生

基本的に、買手の福利厚生に変更されます。買手の方が規模の大きな会社であれば、福利厚生が改善されることもあるでしょう。

5.社風

基本的に、買手の社風に変化します。

買手と売手の社風が異なる場合は、ギャップを感じる人もいるでしょう。会社が売却を決定し、雇用契約の継続を決めたなら、社風の変化も受け入れなければなりません。

そのため、社風が合わないと感じる人は、退職を希望することも可能です。

事業売却の流れ5ステップ

事業売却にはさまざまな手法がありますが、ここではM&A仲介業者を利用した場合の流れについて解説します。基本的な流れは次のとおりです。

    1. 事業売却の目的を明確にする
    2. M&Aの仲介業者と相談する
    3. 買手を探す
    4. 条件交渉する
    5. 契約を交わす

売却を成功させるために、しっかりと流れを把握しましょう。事業売却については次の記事も参考にしてください。

関連記事:事業売却とは?4種類の売却方法とかかる税金、注意点について解説

1.事業売却の目的を明確にする

複数の事業を展開している場合は、ボストンコンサルティンググループが提唱したPPM分析の事業区分けを参考に、売却の目的や範囲を明確にしましょう。

    • 花形:大きな投資が必要だが、成長市場でシェアが取れている
    • 問題児:大きな投資が必要だが、成長市場でシェアが取れていない
    • 金のなる木:投資額は小さいが、成熟市場でシェアが取れている
    • 負け犬:投資額が小さく、成熟市場でシェアも取れていない

負け犬事業がマイナスの場合、売却候補に上がりやすいでしょう。一方で、問題児事業も市場の成長が止まってしまうと、投資額が大きい分負債を抱えやすいのでリスクが高いといえます。

これらの分析結果を元に、不採算事業の売却をするのか将来的なリスクの低減を目指すのかなどの目的を明確にしましょう。目的を明確にすることで、買手の選定を進めやすくなります。

また、売却のリスクを減らすために、いつまでに売却するのかを明確にしておくのも重要です。

2.M&Aの仲介業者と相談する

M&Aの仲介業者には専門のアドバイザーがいるので、売却先の選び方やアプローチ方法、交渉の仕方などのアドバイスを受けられます。税務や会計、法務に関する相談も可能です。

交渉や契約の際のトラブルを避けるためにも、M&A仲介業者に相談するのをおすすめします。ただし、仲介手数料や成功報酬は必要です。

3.買手を探す

M&A仲介業者に事業売却の目的や売却先の条件などを伝え、買手の選定を進めてもらいます。

その際には、候補先の企業に渡すためのノンネームシートの作成が必要です。ノンネームシートとは、企業名を伏せて会社概要等の情報を記載したシートで、買手が買収先を選ぶ際に利用します。

買手に興味を示してもらえたら、秘密保持契約を締結し、社内情報や内部情報を公開する場合がほとんどです。

4.条件交渉する

売却や買収の経緯などをトップ同士で共有し、条件のすり合わせを実施します。条件交渉の際には、M&Aアドバイザーも立ち会うので安心です。

理念や人生観に共感を得られると、すぐに話がまとまるケースもあります。売却金額や資産・負債についての合意が得られたら、基本合意書を交わしますが、法的拘束力は持たせない場合がほとんどです。

基本合意を得られたら、買手は最終合意前のデューデリジェンスに進みます。

5.契約を交わす

デューデリジェンスに問題がなければ、最終合意契約を交わします。最終合意までに次の内容を決めておきましょう。

    • 売却価格
    • 譲渡日
    • 従業員の処遇
    • 最終契約までのスケジュール
    • 引き継ぎのスケジュール

基本合意の際に決める内容がほとんどですが、最終合意後の契約変更は難しいため、問題ないかしっかりと確認しましょう。

事業売却のメリットを活かして新しいビジネスを展開しましょう

事業売却をすることで、主力ビジネスに資金や従業員を集中できるので、経営の安定化につながります。不採算事業を売却できれば、損失も最小限に防げるでしょう。

その一方で、資産や負債などを個別に譲渡するため、手続きに時間がかかるのがデメリットです。

また、事業内容によっては、買手が許認可の再取得もしなければなりません。事業売却を進める際は、M&A仲介業者に依頼し、条件に合った買手先を見つけましょう。

契約を交わす際は、双方が納得のいく条件を擦り合わせるのが重要です。新しいビジネスの展開を考えている人は、ぜひこの記事を参考に、メリットとデメリットを把握し、売却までの方法について検討してみてください。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。