事業投資とは?目的・種類・方法・進め方や個人で行う場合のポイントを解説

事業投資とは、利益獲得を目的として事業に投資することです。企業が自社の事業に投資する場合と、投資会社や個人投資家が他の事業者の事業に投資する場合の2つがあります。近年では、個人投資家がクラウドファンディングなどを通じて小口の事業投資を行うケースも増えています。

そこでこの記事では、

  • 事業投資の基本的な意味
  • 事業投資と金融投資の違い
  • 事業投資の目的・種類
  • 事業投資の主な方法
  • 事業投資の投資主体別パターン
  • 事業投資の効果的な進め方
  • 事業投資を個人で行う場合のリターン相場・メリット・注意点

などについてわかりやすく解説します。

事業投資とは

事業投資とは、利益獲得や企業価値向上を目指して事業に投資することを意味します。主に自社の事業に投資するケース(A)と、他の事業者の事業に投資するケース(B)があります。

A のケースでは、新規事業開拓や既存事業安定化、事業間のシナジー効果(相乗効果)追求などを目的として、以下のような投資が行われます。

  • 設備・機器・システムの導入や拠点の新設(設備投資・IT投資)
  • 人員拡大や人材教育強化(人的投資)
  • 他社事業の譲受や他社の子会社化(M&A)

一方Bのケースでは、株式取得(出資や子会社化)を通して他社に事業資金や経営ノウハウなどを提供し、株価を向上させた上で株式を譲渡して、譲渡益を獲得します。Bのタイプの事業投資は、典型的には投資会社や総合商社、個人投資家が行いますが、一般の事業会社でも行うケースもあります。

事業投資と金融投資の違い

金融投資とは、配当金や利息の受け取り、売買による譲渡益の獲得などを目的として、株式や社債・国債、投資信託などの金融商品に投資することを意味します。事業投資でも株式の取得が行われるケースはありますが、事業投資と金融投資は典型的には以下の点で異なります。

  • 事業投資ではその株式を発行する会社の事業に投資者が関与するが、金融投資では投資者は傍観者的立場に留まり、投資対象とは切り離されている
  • 事業投資は法人や大口投資家が行うケースが一般的だが、金融投資は個人の小口投資家も行う

ただし、事業投資と金融投資の境界は曖昧です。売買による差益獲得を目的として上場株式を購入したり、投資会社が販売する投資信託を購入したりするのは、明らかに金融投資と言えます。

一方、個人投資家がベンチャーキャピタルや株式投資型クラウドファンディングなどを通してスタートアップ企業・ベンチャー企業に出資を行うケースは、投資額が小口で投資者が経営に関与しない場合でも、事業投資と見なされるのが通例です。その種の投資は企業の成長に中長期的に寄り添う側面が強く、投資家も企業を応援する意識で投資活動を行っている例が多いことから、金融投資とは性質が異なり、事業投資に分類されます。

事業投資の目的と種類

事業投資の目的には、キャピタルゲイン獲得、インカムゲイン獲得、シナジー効果追求の3種類があります。それぞれの内容を簡単にまとめると、以下のようになります。

キャピタルゲイン獲得 投資対象の売買による差益(株式譲渡益など)の獲得
インカムゲイン獲得 投資対象の保有から定期的に発生する利益(配当金や家賃など)の獲得
シナジー効果追求 投資により新たに生まれる要素(新規事業・新拠点など)と既存の要素を掛け合わせることで、足し算以上の効果(相乗効果)を追求

それぞれの目的について詳しく解説します。

キャピタルゲイン獲得

キャピタルゲインとは、投資時の金額と売却時の金額の差額により得られる利益を指します。例えば、1株1,000円の株式を10万株取得し、1株1,500円になってからすべて売却すれば、「売却金額1億5,000万円−取得金額1億円=5,000万円」がキャピタルゲインとなります。

一般的に、キャピタルゲインを目的とした投資は投資対象の金銭価値の変動が大きい場合に行われ、代表的な例には株式投資が挙げられます。創業間もないベンチャー企業に出資し、その企業がIPO(新規株式上場)を果たしてから株式を譲渡した場合、創業からIPOまでの間に株式の価値は大きく上昇していることから、大きなキャピタルゲインが得られます。

インカムゲイン獲得

インカムゲインとは、資産の保有そのものから定期的に得られる利益を指します。例えば、株式や社債を保有していれば、その会社の業績が順調である限り、配当や利息の形で定期的に利益(インカムゲイン)を受け取れます。

不動産を所有している場合、賃貸借契約によって地代・家賃の形で利益(インカムゲイン)を獲得できます。不動産の獲得・造成・修繕は、不動産賃貸会社にとって中心的な事業投資です。不動産会社以外でも、自社保有の遊休不動産を造成・リフォームして賃貸物件として活用するなど、インカムゲインを目的とした事業投資が行われる場合があります。

シナジー効果追求

設備投資やM&Aによって新たに獲得された要素(新商品・新拠点・新規事業部門など)が既存の要素と掛け合わされて、足し算以上の効果(相乗効果)をもたらす場合があり、このようなプラスの効果をシナジー効果と言います。以下のような例が、代表的です。

  • 既存事業の販路を活用して新規事業の商品を販売したり、新規事業で獲得した顧客に既存事業の商品を販売したりすること(クロスセル)により、相乗的に売上を向上
  • 新たな拠点と旧来の拠点が共通の取引先から仕入れを行うことで、双方の仕入れコストを削減
  • サービス提供地域や顧客層が拡大することで会社の認知度が上昇し、会社全体の利益率や採用力が向上

事業投資によって新たな要素が並列的に付け加わるだけでは、見かけが大きくなっただけで、事業成長にはつながりません。新しい要素と従来の要素を掛け合わせてシナジー効果が生まれることによって、企業は真の成長を遂げられます。

シナジー効果の追求は事業成長の原動力であり、キャピタルゲインやインカムゲインの獲得を目指す場合にも重要な目標となります。

事業投資の代表的な方法3選

事業投資の方法としては、新規事業投資、既存事業投資、M&Aの3つが代表的です。簡単にまとめると、以下のようになります。
新規事業投資 既存事業とは異なる方面の事業を開拓
既存事業投資 既存事業の中で業務改善と規模拡大を図る
M&A 他社の経営資源を取得することで新規事業開拓や既存事業拡大を一気に推進

それぞれの特徴を詳しく解説します。

新規事業投資

新規事業投資は、これまでの事業とは顧客層や市場、業種、分野が異なる新事業を一から立ち上げる投資方法です。 新規事業投資には、以下のようなメリットがあります。

  • 今後伸びが予想される分野に率先して進出することで、競争力を強化できる
  • 事業ポートフォリオを拡充することで、認知度・ブランド力の強化や、外部環境変化に強い事業構造の構築が可能
  • 新たな収益基盤を確保することで、事業構造改革(先細りが予想される既存ビジネスモデルからの転換など)を実現できる
  • サプライチェーンの川上・川下に事業を拡張する(例えば製造業が原料生産や小売を始める)ことで、事業の安定化やコスト削減が実現できる
  • 成功した場合のシナジー効果が大きく、投資対効果が高い(ハイリターン)

一方で、以下のようなデメリットもあります。

    • 新たなノウハウや顧客、取引先を獲得しなければならないため、ハイリスク

<li>比較的大きな設備投資や人的投資が必要

  • 成功するとしても、事業が軌道に乗るまでにはかなり時間がかかる

既存事業投資

既存事業投資とは、既存事業の内部で設備投資やIT投資、人的投資を行うことにより利益向上を図る方法です。既存事業投資では既存の顧客基盤、販路、ノウハウ、インフラなどを活用できるため、新規事業投資よりもローリスクで、軌道に乗るまでの時間が短くてすみます。

一方で、大規模な顧客開拓やビジネスモデル転換が行われるわけではないため、大幅な収益向上を図ることは難しい場合が多いです。地道なコスト削減による業務効率化が投資効果の中心となり、期待される効果の大きさは新規事業投資に比べて小さめです。

M&A

M&A とは「合併(Mergers)」と「買収(Acquisitions)」を合わせた用語であり、以下のような投資方法を指します。

  • 他社と合併し、法人として1つになる
  • 株主議決権比率50%超〜100%の株式を取得して経営権を握り、他社を子会社化する
  • 他社の事業を譲受し自社に一体化する

事業会社が行うM&A には、自社とは顧客層や市場、業種、分野が異なる会社・事業を取り込むケース(A)と、自社と同じような会社・事業を取り込むケース(B)があります。Aのケースでは、相手方(売り手企業)の経営資源を既存の資源と掛け合わせて活用することで、新規事業投資の目標(市場拡大分野での競争力強化、事業ポートフォリオの拡充・転換など)をよりスムーズに、短期間で達成できる点がメリットです。

Bのケースでも、同様の手順を踏むことで既存事業投資の目標(主にコスト削減)をより大きな規模で迅速に実現できます。投資会社や総合商社が事業会社を買収するケースでは、買収対象企業の経営資源と自社や他の投資先(傘下企業)の経営資源を掛け合わせることでシナジー効果を追求し、買収対象企業や自社・傘下企業の企業価値向上を図ります。

買収対象企業を十分に成長させてから再びM&Aを行って第三者に売却すれば、大きなキャピタルゲインが得られます。ただし、M&Aには以下のような問題から投資が失敗に終わるリスクも存在します。

<li> M &A 後の組織統合や経営資源の統廃合が想定通りに行かず、販路・生産設備の重複などによるコスト増が発生

<li>組織風土の違いなどから役員・従業員の間に反発が生じ、主要人材の離職や大量離職が発生

<li> M&Aを機にブランドイメージが変容し、顧客離反が発生

<li>売り手企業が抱えていた潜在的な債務・リスク(残業代未払い・不当解雇・取引トラブル・環境汚染による損害賠償など)がM&A後に浮上

こうしたリスクを少しでも小さくするために、買収・合併契約の締結前に売り手企業に対し詳細な調査(デューデリジェンス、買収監査)が行われます。相当のコストがかかりますが、M&Aを行う上で必須のプロセスの1つです。

出資・資本提携

議決権比率が過半数に満たない範囲で、会社に出資するという投資方法もあります。そのような場合には、主に第三者増資による新株の引き受けや自己株式の譲受が行われます。これの投資方法は、エンジェル投資家によるベンチャー/スタートアップ企業への投資や、企業間提携(資本提携)などで用いられます。

出資者が対象会社の経営にどの程度関与するかは出資比率や個々のケースによりさまざまですが、M&Aに比べると投資者に対する対象会社の独立性が高く、資本関係の解消も比較的容易と言えます。経営統合は行われず、協力関係に留まるため、出資先企業と出資者の事業との間に発生するシナジー効果はM&Aに比べて小さめです。出資比率が低いため、キャピタルゲインやインカムゲインも小さくなります。

事業投資の主要なパターン(投資主体別)

事業投資を行う主体には、事業会社、総合商社、投資会社、ファンド、エンジェル投資家などがあります。それぞれの投資の特徴を簡単にまとめると、以下のようになります。

投資主体 投資の特徴
事業会社 自社グループの事業成長を目的とした新規事業投資、既存事業投資、M&A・出資
総合商社 トレード事業を行う事業会社としての投資
グループ企業間のシナジー効果追求やインカムゲイン獲得を主な目的としたM&A・出資
投資会社 キャピタルゲイン獲得を目的としたM&A・出資
ファンド キャピタルゲイン獲得を目的としたM&A・出資(3〜5年の短期スパン)
エンジェル投資家 事業成長支援とキャピタルゲイン獲得を目的としたベンチャー/スタートアップ企業への出資

投資主体ごとの投資パターンを詳しく解説します。

事業会社

事業会社においては、従来の事業との間にシナジー効果を生み出し、自社およびグループ企業の収益性や企業価値を向上させるために、新規事業投資や既存事業投資、同業者・異業種企業へのM&A・出資を行うのが基本的な投資のあり方です。

総合商社

総合商社はトレード事業(輸出入仲介)と他社への投資事業を主な事業内容としています。トレード分野においては、一般の事業会社と同様の投資活動により事業拡大を図ります。また事業投資分野においては、株式取得による子会社化や資本提携を通して投資先企業との間にシナジー効果を追求し、インカムゲインやキャピタルゲインの獲得を図ります。

総合商社は一般的に多数の子会社を抱えており、株式売却によるキャピタルゲインよりもグループ内協働を通したシナジー効果の追求とインカムゲインの向上を重視する傾向があります。トレード事業を担う子会社も多く、トレード分野での投資と事業投資分野での投資の間に関連性があるケースが多い点も特徴です。

投資会社

投資会社が行う事業投資では、キャピタルゲインの獲得を目的としたM&A・出資が中心となります。出資および経営支援を通して投資先企業の企業価値向上やIPO(新規上場)、事業再生などをサポートし、IPO後の市場取引やM&Aにより株式を売却してキャピタルゲインを獲得します。

投資会社が直接株式取得(子会社化や出資)を行うケースと、ファンドを通して行うケースがあります。

ファンド

事業投資の分野では、ファンドとは「投資事業有限責任組合」のことを指すのが通例です。投資事業有限責任組合とは、複数の投資者の出資により組成される組合であり、投資会社が無限責任組合員(業務執行を担当し無限責任を負う組合員)となり、他の出資者は出資額の限度内で責任を負う有限責任組合員となるのが一般的なパターンです。

投資事業有限責任組合は、成長過程にあるベンチャー/スタートアップ企業や事業再生を目指す企業などに対し通例3〜5年程度の短期的スパンで出資し、企業価値向上やIPO、事業再生を成功させたのちに株式を売却してキャピタルゲインを獲得し、出資比率に応じて組合員に分配(償還)します。

エンジェル投資家

エンジェル投資家とは、創業期のベンチャー/スタートアップ企業に対して積極的に出資を行う個人投資家です。エンジェル投資家は最終的には株式売却によるキャピタルゲイン獲得を投資の目的としていますが、出資先の事業を支援する意識で投資活動を行う傾向が強い点が特徴です。

ベンチャー/スタートアップ企業は事業成長のためにまとまった額の資金調達を必要としており、エンジェル投資家が直接出資を行うケースでは1,000万円単位の投資になるケースが多いです。出資先の事業はまだ不安定な状況にあり、株式は非上場で流動性が低いため、投資には大きなリスクが伴います。

エンジェル投資家の多くは起業家として成功した経験のある人物で、出資による資金提供だけでなく経営に関するアドバイスや取引先紹介などの支援も行う例も見られます。

事業投資の効果的な進め方

事業投資は、以下のような流れで行うと効率的です。

<li> 1.プランニング(事業計画に基づいた投資案作成と投資成果・リスクの事前分析)

  • 2.投資実行&事後モニタリング
  • 3.EXIT戦略の見直しと実行

プランニング:事業計画に基づいた投資案作成

まずは事業投資のプランニングを行います。以下のように事業ポートフォリオ最適化の視点でプランニングを行うと効果的です。

  • 投資対象となる会社(自社あるいは投資先)について、事業を一覧化したポートフォリオ(事業ポートフォリオ)を作成
  • 事業ポートフォリオ上の各事業の収益性や成長性、強み・弱みを中長期的な視点で分析した上で、優先的に投資すべき事業分野と縮小・再編・撤退を検討すべき事業分野を抽出
  • 投資する事業分野(および縮小・再編・撤退してリソースを他に回す事業分野)を決定し、事業投資戦略の策定と投資予算の編成を行い、中期的な事業計画に落とし込む
  • 事業計画に基づいて具体的な投資案を作成

投資案には、投資の目標・実行内容・実行方法、リスク対策、投資開始後のモニタリング、投資金額の回収方法(EXIT戦略)などを定めます。事業会社や個人投資家など、事業投資が専門ではない法人・個人が事業投資を行う場合、プランニングの段階から事業投資の専門家に相談する方法がおすすめです。

プランニング:投資の成果やリスクの事前分析

事業投資戦略や投資案がある程度固まった段階で、投資により期待できる成果や予想されるリスクの評価・分析を行います。成果・リスクの大きさを数値化(定量化)して分析するとともに、投資に影響する外部環境要因・内部環境要因を定性的に把握した上で、全体的な視野で投資の事前評価を行い、リスク対策を検討して、投資案に反映させます。

投資実行&事後モニタリング

投資案に従って投資を実行しつつ、投資の実行状況やリスク発生状況をモニタリングします。モニタリングに基づいて計画との差やリスクの影響などを検討し、必要に応じてリスク対策や投資計画の調整・修正を実施します。

EXIT戦略の見直しと実行

これまでの投資結果を見直し、投資計画の最終段階をどのように遂行するかについて再検討します。投資会社やファンドなどの投資案件では、投資者が最終的に株式を手放してキャピタルゲインを回収することをEXITと表現します。投資者も投資を受ける企業側もEXITに向けた戦略を検討する必要があります。

EXIT戦略は、大きく分けてIPOとM&Aがあります。IPOの場合、企業は上場して公開会社として次のステージに進み、投資者(創業者や投資会社・個人投資家など)はIPO後に株式市場で株式を売却してキャピタルゲインを得ます。

一方M&Aの場合、投資対象企業は買い手企業のグループ企業として新たなスタートを切り、投資者は株式を買い手に譲渡してキャピタルゲインを獲得します。EXIT戦略は創業の段階でも検討しますが、投資の最終段階においても、IPOとM&Aのどちらをどのようなタイミング・条件で行うべきかについて、現実的に再検討する必要があります。

投資判断としては、投資の効果(投資対効果)を現実的な範囲で最大化する(マイナスの結果が予想される場合にはできる限りマイナスを小さくする)ことが重要です。当初はIPOを目指していたとしても、最終的に大手企業へのM&AによるEXITが成立すれば、企業には更なる事業成長の機会が得られ、投資者には巨額のキャピタルゲインが入るため、成功と言えるでしょう。

場合によっては、早めに事業に見切りをつけ、業績が悪化しすぎないうちにM&Aで事業を売却する方法も、有効なEXITの1つです。

事業会社が新規事業開拓・既存事業拡大のために行う設備投資やM&A についても、EXIT戦略と同様の検討が求められます。これまでの投資の効果を具体的に把握した上で、事業の更なる継続・拡大、縮小・撤退、売却などの選択肢を現実的に検討しましょう。

事業投資は個人でも可能?

事業投資は個人でも十分に可能です。個人の事業投資では主にベンチャー/スタートアップ企業が投資対象となります(エンジェル投資家としての投資)。具体的には、以下のようなパターンがあります。

<li>①ベンチャー企業やスタートアップ企業に直接出資

  • ②ベンチャーキャピタルが運営するベンチャー/スタートアップ特化ファンドにLP(有限責任組合員)として参加(LP出資)
  • ③株式投資型クラウドファンディングを通じて出資

①は、起業経験・知名度のあるエンジェル投資家が人脈を介して大口投資を行うケースのほか、一般の個人投資家が起業家と投資家を結ぶ交流イベントやマッチングサイトを介して投資先を見つけるケースがあります。②のLPは公募されているわけではなく、ベンチャーキャピタルと直接交渉して投資に参加する必要があり、投資額の設定も高額です。そのため、この方法を利用できる個人は富裕層や著名投資家などに限られます。

③は1口10万円程度から投資が可能で、インターネット上のサービスを通して容易に参加できます。そのため、個人の事業投資として最もハードルが低い方法と言えます。

エンジェル投資家のリターンの相場は?

日本国内におけるエンジェル投資家のリターン相場は、一般的に10%程度と言われています。また野村総合研究所が行ったアンケート調査によると、 エンジェル投資家がEXITで株式を売却した際の価格は以下のようになっています。
株式売却価格(取得価格との比) 投資家の割合
0(値がつかなかった) 2.6%
半分未満 1.3%
半分〜1倍未満 1.3%
3倍〜5倍未満 2.6%
5倍以上 1.3%

出典:平成26年度 起業・ベンチャー支援に関する調査 最終報告書
1倍〜3倍未満という例はなく、リターンがマイナスのケースと大幅なプラスとなるケースに大きく分かれます。値がつかなかった人(投資額を丸々失った人)と3倍〜5倍で売却できた人がそれぞれ3割近くを占め、非常にばらつきが大きい結果となっています。

事業投資を個人でするメリット

個人での事業投資には、以下のようなメリットがあります。

  • ハイリターンが狙える(とくに創業期ベンチャー/スタートアップ企業への投資の場合)
  • エンジェル税制による優遇措置(投資時の所得控除やEXIT時の損失と所得の相殺)を受けられる
  • 出資比率などに応じてベンチャー経営に携わることも可能

ハイリターンが狙える

創業期のベンチャー/スタートアップ企業への投資では、創業時からEXIT(IPOやM&A)までに企業価値が大幅に上昇し、巨額のリターンが得られる可能性があります。先ほど引用した野村総合研究所の調査によれば、EXIT時の株式譲渡価格が取得価格の3倍以上になった例が42.9%、5倍以上になった例が1.3%を占めます。

エンジェル税制による優遇措置を受けられる

​​エンジェル税制はベンチャー/スタートアップ企業への投資を促進する目的で制定された税制優遇制度です。エンジェル税制には、投資時点で受けられる優遇措置(基本的に2種類)とEXIT時に受けられる優遇措置があります(2024年3月時点)。

    優遇措置の内容
投資時 優遇措置A 「対象企業への投資額−2,000円」をその年の総所得金額から控除
上限:800万円または総所得金額×40%(低い方)
  優遇措置B 対象企業への投資額全額をその年の株式譲渡益から控除
上限:なし
  プレシード・シード特例 対象企業への投資額全額をその年の株式譲渡益から控除
上限:年間20億円
EXIT時   【譲渡損失が発生した場合】
その年の株式譲渡益と相殺でき、相殺しきれなかった分は以降3年にわたり順次相殺が可能
【譲渡益が発生した場合(優遇措置A・B)】
投資時に優遇措置を受けた分も含めて課税(投資時の優遇措置=課税繰延)
【譲渡益が発生した場合(プレシード・シード特例)】
投資額20億円以下の分は非課税(20億円を超える分については優遇措置A・Bと同じ扱い)

​​​​​​​​ベンチャー経営に携わることも可能

企業に出資した株主は出資比率に応じて株主総会議決権を持ち、出資比率がある程度以上になれば実質的に経営に影響を与える発言力を有することになります。実際に経営に関与するほどの発言力を持つようになるのは、組織的に多額の投資を行うベンチャーキャピタルなどの機関投資家か著名なエンジェル投資家であるケースが一般的です。

ただし、出資先の経営者の考え方や経営者と投資者の関係性によっては、比較的小口の出資を行った個人投資家でもベンチャー経営に関与する可能性があります。

事業投資を個人でするときの注意点

事業投資を個人で行う場合には、以下の点に注意が必要です。

    • 元本割れのリスクが高めで、投資額全額を失う人も少なくない

<li>投資金額を回収するまでに時間がかかる(少なくとも数年〜1年)

  • 投資契約をめぐってトラブルになる可能性があるため、事業投資に精通した弁護士などの支援を受けた方がよい

元本割れのリスクが高め

事業投資は比較的ハイリスクで、元本割れ(リターンがマイナス)となるリスクが高いです。ベンチャー/スタートアップ企業は財務基盤が不安定で倒産リスクが大きいことから、とくにハイリスクです。野村総合研究所の調査によれば、半数以上の人が元本割れとなり、投資額全額を失った人も少なくありません。

そのため、ベンチャー/スタートアップ企業への投資では元本割れのリスクを覚悟しておく必要があります。

投資金額を回収するまでに時間がかかる

投資した事業の成果が出るまでには少なくとも数年程度の時間がかかるのが通例です。また、ベンチャー/スタートアップ企業などの非上場企業に投資した場合、IPOやM&Aが行われるまではまとまった量の株式を処分することは困難です。

こうした理由から、事業投資での投資金額回収は上場株式の売買などに比べてかなり時間がかかります。ベンチャーキャピタルが運営するファンドでは、償還期間(ファンド組成〜EXITまでの期間)は一般的に10年で設定されます。ベンチャー/スタートアップ企業への投資では投資回収まで10年は見込んだ方がよく、投資は余剰資金で行うことをおすすめします。

投資契約をめぐってトラブルになる可能性がある

起業家は自社の事業分野には精通していても、資金調達に関する法務に精通しているとは限りません。互いに曖昧な認識のままで投資契約を結んでしまうと、後々トラブルが発生する恐れが高まります。株式の権利内容や余剰金配当などをめぐる争いが深刻なトラブルに発展し、投資解消に至るケースもあります。

そのため投資契約においては、ベンチャーファイナンスに詳しい弁護士などの専門家の支援を受け、契約内容をしっかりチェックしたした上で締結をすることが重要です。

まとめ

事業投資では、キャピタルゲイン・インカムゲインの獲得やシナジー効果の追求を目的として、新規事業や既存事業への設備投資・人的投資、M&A ・出資などを行います。投資を専門とする投資会社・総合商社・大口個人投資家だけでなく、事業会社も日常的に事業投資を行っており、近年では株式投資型クラウドファンディングなどを通して小口投資を行う一般個人投資家も増えています。

事業投資のプランニング・実行・EXITには専門的な判断が求められ、投資契約をめぐってトラブルに発展するケースもあるため、プランニングや契約前の段階から投資や法務の専門家に支援を依頼する方法がおすすめです。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。