後継者不足の現状は?主な原因や対策についても解説

後継者不足により、多くの経営者が事業の継続に頭を悩ませています。少子高齢化の進行や家族経営の伝統の減少に加え、経営者の高齢化と適任者不在が原因で、経済全体への影響も懸念されている問題です。

今回の記事では、

  • 後継者不足を引き起こす背景と現状
  • 後継者不足の解決に有効な対策
  • 後継者不足の対策を相談できる窓口

などについて詳しく解説します。後継者不足に悩む経営者が適切な選択を行い、事業承継を成功させるための実践的な情報となっています。

後継者不足とは

後継者不足とは、中小企業を中心に広がる社会問題で、企業の創設者や現経営者が退任する際、その事業を引き継ぐ人材が見つからない状況を指します。

特に、日本では少子高齢化の進行や家族経営の伝統が減少していることが背景にあり、多くの企業が後継者不足に直面しています。これにより、経営の継続が困難になり、事業承継は深刻な問題です。

後継者の不足は、中小企業の廃業や国内GDPの減少、さらには国際競争力の低下にもつながるリスクを持っています。

後継者不足の現状

日本国内で深刻化する後継者不足問題は、中小企業を中心に経済全体への影響が懸念されています。経営者の高齢化が進み、適任とされる後継者が見つからないことで、多くの企業が存続の危機に瀕しています。

後継者不足は、単に企業の経営継続に関わる問題ではなく、地域経済の活性化、雇用の安定、そして国内GDPの減少といった、より広範な経済的影響を及ぼす可能性があるでしょう。この状況は、将来にわたって日本の競争力を低下させる要因となり得るため、政策立案者、経営者、そして社会全体の協力が求められています。

約6割以上の企業が後継者不足に

中小企業の後継者不足問題は、現在の日本経済において深刻な課題の一つです。多くの企業が後継者不在により黒字でありながらも、廃業を余儀なくされています。特に、後継者が見つからないことで廃業する企業の約6割が直前期決算で黒字であるという現状は、多くの資源と可能性が無駄に失われていることを意味しています。

帝国データバンクによる全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)では、全国の休廃業・解散件数が4年ぶりに急増し、5万9105件に達しました。休廃業する主な理由として、経営者の高齢化と後継者不在が挙げられます。また、代表者の年齢が60歳以上の企業が休廃業企業の8割以上を占めるというデータは、この問題の深刻さを物語っています。

出典:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)

業界・業種別の後継者不足の現状

業界・業種別での後継者不足の現状を詳しく見ていきましょう。帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2023年)によれば、特に建設業、サービス業、不動産業で後継者不足が顕著に表れていることがわかります。

建設業は、技術や経験が重視される業種でありながら、後継者不在率が60.5%に上り、業界全体で最も高い数値を示しています。これは、後継者を育成するための制度が未整備であること、また、専門性が高いため適切な後継者が見つかりにくいことが原因の一つと考えられます。

次に、サービス業と不動産業も後継者不足に悩む業界として挙げられます。サービス業の後継者不在率は58.2%、不動産業では54.5%と、どちらも全国平均を上回る高い割合を示しています。これらは、個人のスキルやネットワークが事業成功の鍵を握るため、特に後継者選びが難しい業種といえるでしょう。

出典:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)

地域別の後継者不足の現状

帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2023年)によれば、三重県では、後継者不在率が30.2%と全国で最も低い水準を記録しています。これは、地域金融機関をはじめとする密接な支援体制や、比較的安定した経営・商圏を持つ企業が多いことが背景にあると考えられます。

三重県の例からは、地域コミュニティや金融機関との連携により、事業承継の環境を整えることの重要性がうかがえます。一方で、鳥取県と秋田県は後継者不在率が70%台に上り、全国平均の53.9%を大幅に上回る数値です。これは地域の産業構造や人口減少など、より深刻な課題に直面していることを示しています。これらの現状は、地域ごとに事業承継のサポート体制や経済環境が異なり、一様な対策では限界があることを物語っています。

出典:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)

後継者不足の主な原因

後継者不足の問題は単一の原因によるものではありません。社会的・経済的要因が複雑に絡み合っています。

ここでは、後継者不足の主な原因について、

  • 少子高齢化
  • 親族内承継の減少
  • 会社の将来性
  • 後継者の人材育成・採用
  • 事業承継の準備

に焦点をあてて解説します。

少子高齢化による労働人口の減少

日本は世界でも顕著な少子高齢化社会を迎えており、これが経営者の高齢化とともに、後継者不足を加速させています。特に、中小企業経営者の子どもの世代では、自らのキャリアを優先し、親のビジネスを継ぐことへの関心が低下しているといえるでしょう。

この現象は、労働人口の減少と相まって、企業の生産性向上が一層求められる状況を生んでいます。

親族内承継が減少傾向にあること

かつては親から子への事業承継が自然にされていましたが、近年ではその慣習が薄れつつあります。多様なキャリアの選択肢がある中で、次世代は自分の興味や能力に合った道を選び、家族経営のビジネスを継ぐことを避ける傾向にあります。この変化は、事業承継計画において、家族外からの後継者を見つける必要性を高めているといえるでしょう。

会社・事業の先行きに不安がある

経済環境の変化、市場のグローバル化、そして技術革新のスピードは、経営者に事業の将来性への不安を抱かせます。このような不確実性は、後継者が事業継承を躊躇する潜在的な要因となり、さらには経営者自身が事業を持続させる意欲を損なう場合もあります。

将来性を感じていない事業からは、自然に後継者が遠ざかる傾向にあるといえるでしょう。

後継者の人材育成・採用ができていない

後継者を適切に育成する体系が確立されていない場合が多く、また、外部からの人材獲得も困難になっています。資本提携を含めた新たな人材獲得策が増加傾向にありますが、それでもなお、適任者を見つけ、育て上げるまでのプロセスには時間と労力が必要です。

事業承継の準備ができていない

多くの企業では、事業承継に必要な計画が立てられておらず、実際に承継が必要になった際に手遅れになるケースが見られます。承継準備には1年から3年の期間を要することが多く、計画的な準備が求められます。

後継者不足におすすめの対策11選

後継者不足の解決に効果的な、おすすめの対策は、以下があげられます。

  • 後継者募集の求人サイトに登録
  • 後継者特化のマッチングサイトに登録する
  • M&A仲介や士業などの専門家に相談
  • 事業承継・引き継ぎ支援センターに相談
  • 親族内承継を進める
  • 従業員承継を進める
  • M&A(第三者承継)を進める
  • 外部からプロ経営者を採用する
  • 企業価値を外部にアピールする
  • 株式公開(IPO)を目指す
  • 廃業

それぞれのメリット・デメリットをまとめると以下の通りです。

対策 メリット デメリット
後継者募集の求人サイトに登録 広範囲から多様な候補者にリーチできる。 選考に相応の時間と労力が必要。
後継者特化のマッチングサイトに登録する 候補者とのマッチング精度が高まる。 利用料が発生し、プライバシー管理が必要。
M&A仲介や士業などの専門家に相談 専門家がサポートし、適切なアドバイスを提供。 報酬や手数料が発生し、適切な専門家を見つける必要がある。
事業承継・引き継ぎ支援センターに相談 コストを抑えつつ信頼できるアドバイスが得られる。 サポートの範囲や内容に限りがあり、競争が激しい。
親族内承継を進める 事業の理念や文化をスムーズに継承できる。 親族間の対立や感情的な問題が生じるリスクがある。
従業員承継を進める 企業文化や事業内容に精通した人材が経営を引き継ぐ。 必ずしも経営者としての資質を有している従業員がいるわけではない。
M&A(第三者承継)を進める 新たな経営資源やアイデアが導入され、事業の成長が期待できる。 適切な買い手を見つけるまでに時間がかかる。
外部からプロ経営者を採用する 新たな視点からの事業改革を進められる。 高額な報酬要求や企業文化との齟齬が生じる可能性がある。
企業価値を外部にアピールする 買い手や投資家の関心を引き、事業承継の機会を広げる。 効果的なPR活動にはコストと時間がかかる。
株式公開(IPO)を目指す 企業の信用と知名度が向上し、資金調達の機会が広がる。 高いコストと厳しい審査基準があり実現のハードルが高い。
廃業 経営資源の有効活用が難しくなった場合に、リスクを最小限に抑えられる。 従業員の雇用問題や社会的影響が大きく、心理的負担が伴う。

1. 後継者募集の求人サイトに登録

求人サイトを利用して後継者を募集する方法は、広い範囲から多様な候補者にリーチできるため、経営者経験がなくても潜在能力に溢れる人材に出会えるチャンスが広がります。

しかし、求人サイトを通じて多くの応募者が集まることは確かですが、その中から事業承継にふさわしい資質を持つ候補を見極めるには、丁寧な選考プロセスが必要となり、それには相応の時間と労力が必要です。

2. 後継者特化のマッチングサイトに登録する

後継者特化のマッチングサイトに登録することは、事業承継に特化した興味を持つ候補者と直接つながれる大きなメリットがあります。これにより、候補者とのマッチング精度が高まり、事業承継の過程をよりスムーズに進められる可能性があります。

ただし、このようなサービスには利用料が発生することもあり、プライバシーの管理にも特に注意が必要です。

3. M&A仲介や士業などの専門家に相談

M&A仲介や士業の専門家に相談することで、事業承継のプロセスを円滑に進められます。専門家は、適切な評価額の設定や法的な手続きに関するアドバイスを提供できるため、事業承継におけるさまざまな課題を解決するサポートが期待できます。

しかし、専門家に依頼することは報酬や手数料が発生するうえ、自社に最適な専門家を見つけ出すこと自体が難しい場合もあるでしょう。

4. 事業承継・引き継ぎ支援センターに相談

公的な支援機関である事業承継・引き継ぎ支援センターに相談することは、コストを抑えつつ、信頼できるアドバイスや情報を得られる方法です。補助金や助成金の情報提供も受けられるため、経済的負担を軽減しつつ事業承継を進めることが可能です。

ただし、利用できるサポートの範囲や内容には限りがあり、地域によってはサポートを受けることが難しい場合もあります。

5. 親族内承継を進める

親族内承継は、事業の理念や文化をスムーズに継承できる方法であり、家族間の信頼を基にした経営が可能になります。しかし、この方法では親族間の対立や感情的な問題が生じるリスクもあり、また、適切な後継者がいない場合には、他の選択肢を検討する必要が出てきます。

6. 従業員承継を進める

従業員を後継者とすることで、企業文化や事業内容に精通した人材が経営を引き継ぐことが可能となり、事業の安定性と継続性を高めることができます。従業員のモチベーション向上にもつながりますが、全ての従業員が経営者としての資質やスキルを持っているわけではないため、適切な教育と準備が求められます。

7. M&A(第三者承継)を進める

M&A(第三者承継)を進める選択肢は、日本の経済の持続的成長のために事業承継の課題を解決する有効な手段として注目されています。

帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2023年)によると、近年事業承継をした経営者の就任経緯について、買収や出向を中心にした「M&Aほか」(20.3%)、社外の第三者を代表として迎える「外部招聘」(7.2%)などの割合が増加しています。

第三者承継を選択する理由としてのメリットは、以下です。

  • 創業者やその家族にとって、企業を売却することで資産を確保し、創業者利益を得る。
  • 創業者や家族の連帯保証の負担を解消することが可能になる。
  • 新しい経営者から新たな経営資源やアイデアが導入され、事業の成長や発展が期待できる。
  • 事業を継続することで、従業員の雇用を守ることができる。

これらのメリットは、経営者が事業承継を考える際の重要な検討ポイントとなり、特に経営者の高齢化が進む中での事業承継の選択肢として、M&Aによる第三者承継が重要な役割を果たしています。

事業承継は単なる経営体制の変更ではなく、企業のさらなる成長・発展を遂げるための転換点になり得ます。

出典:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)

8. 外部からプロ経営者を採用する

外部から専門的な知識と経験を持った「プロ経営者」を採用することで、新たな視点からの事業改革を進めることが可能です。しかし、外部の経営者は高額な報酬を要求する場合があり、企業文化との齟齬や従業員との関係構築に時間がかかることもあります。

9. 企業価値を外部にアピールする

自社の強みや魅力を積極的に外部にアピールすることで、買い手や投資家の関心を引き、事業承継の機会を広げられます。ただし、効果的なPR活動にはコストと時間がかかり、期待した成果を得るまでには努力が必要です。

10. 株式公開(IPO)を目指す

株式公開(IPO)を目指すことは、企業の信用と知名度を高め、資金調達の機会を広げることができます。事業の透明性が高まり、経営基盤の強化にもつながりますが、IPOには高いコストと厳しい審査基準があり、その実現のハードルは高くなります。

11. 廃業

廃業は、経営資源の有効活用が難しく、事業承継の見込みがない場合にリスクを最小限に抑える方法です。しかし、従業員の雇用問題や社会的影響が大きく、経営者にとっては心理的な負担が伴います。また、廃業に伴う手続きの複雑さも考慮する必要があります。

後継者不足の対策を相談できる窓口

後継者不足は、多くの経営者が事業の将来について頭を悩ませており、特に適切な後継者が見つからない場合、その不安はさらに増大します。しかし、このような状況に直面しても、経営者が一人で解決策を見出さなければならないわけではありません。事業承継をスムーズに、かつ、効果的に進めるためのサポートを提供する以下の窓口が存在しています。

  • 1.事業継承・引き継ぎ支援センター
  • 2.取引実績のある金融機関
  • 3.商工会議所・商工会
  • 4.M&A仲介会社
  • 5.公認会計士・税理士
  • 6.弁護士

後継者不足の問題に直面している経営者が利用できる、主要な相談窓口について解説します。

1.事業承継・引き継ぎ支援センター

事業承継に関する相談を行うために設置された公的機関です。中小企業庁が全国の47都道府県にセンター相談窓口を設けており、さらに詳細な支援が必要な場合は、全国7か所にある事業引継ぎ支援センターが対応します。

これらの機関では、後継者不足や事業承継の計画についての相談を無料で受け付けています。公的機関であるため、利用者に対して中立的な立場からのアドバイスが期待できるでしょう。

2. 商工会議所・商工会

地域の中小企業や商業者を支援するための組織です。これらの組織では、事業承継に関する相談から具体的な支援プログラムまで、幅広いサービスを提供しています。会員であれば、法律相談や税務相談、経営相談といった基本的なサービスを無料、または、低コストで受けることが可能です。

商工会議所や商工会は、地域のネットワークを活用したビジネスマッチングの場を提供することで、後継者を見つけるための支援も行っています。

3. 金融機関

中小企業が普段から取引を行っている金融機関は、事業承継の相談にも応じています。多くの金融機関では、中小企業の事業承継をサポートするための専門部署を設置しており、事業承継に関する基本的な相談から融資の提案まで、幅広い支援を行っています。

金融機関のメリットは、既存の取引関係に基づく信頼関係を背景に、気軽に相談できる点です。資金調達に関する相談を直接行えるため、事業承継に必要な資金計画の立案にも役立ちます。

4. 弁護士・司法書士

事業承継プロセスにおいて、法律的な問題は避けて通れません。特に、相続法や商法など、事業承継に直結する法律の知識が必要となる場面では、弁護士や司法書士の専門的なアドバイスが不可欠です。

弁護士や司法書士に相談するメリットは、法律上のリスクを事前に回避し、事業承継をスムーズに進行させるための戦略を立てられる点にあります。また、これらの専門家は相続と事業承継を連携させるためのアドバイスを提供することで、長期的な視点から事業の継続性を高めるサポートを行います。

5. M&A仲介業者

M&Aを事業承継の手段と考える場合、M&A仲介業者に相談することが有効です。これらの業者は、企業の売買や統合に関する専門知識と豊富な実績を有しており、事業承継を円滑に進めるためのサポートを提供します。

M&A仲介業者を利用するメリットは、買い手や売り手のマッチングから交渉、契約の締結まで、M&Aプロセス全体をサポートしてもらえる点です。M&A市場の最新動向や価格相場に関する情報提供も受けられるため、適切な価値評価に基づいた事業承継が可能となります。

6. 公認会計士・税理士

事業承継では、税務上の問題が大きな課題となります。公認会計士や税理士は、税務申告や会計監査などを通じて企業の財務状況に精通しており、事業承継における税務計画の立案や相続税対策のアドバイスを提供できます。これらの専門家に相談するメリットは、税務面での最適な事業承継プランを立案できる点です。

特に、事業承継に伴う税負担を最小限に抑えるための戦略や、効率的な資産移転の方法に関する専門的なアドバイスが得られます。

まとめ

事業承継は、中小企業経営者をはじめ避けて通れない大きな課題です。後継者不足に悩む企業が増える中で、事業承継を成功させるためには、計画的に準備を進め、必要に応じて専門家や支援機関の助けを借りることが重要です。

後継者募集からM&A、親族内承継まで、さまざまな選択肢が存在しますが、もっとも大切なのは、事業の理念や価値を継承し、発展させていくことです。

事業承継は終わりではなく、新たなスタートです。次世代へと事業を繋げるための一歩を踏み出し、必要に応じて適切な支援を得ることが、事業の持続的な成長と発展を実現する鍵となるでしょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。