業務提携では、報酬や手数料はどのくらいかかる?M&Aとの違いも解説


経営者の皆様、事業承継についてお悩みではありませんか。後継者不在という課題を抱えたまま経営していては、将来への不安は尽きないものですよね。
そんな時、一つの選択肢として検討したいのが「業務提携」です。本記事では、業務提携の基本的な仕組みやメリット、費用やかかる手数料などについて、分かりやすく解説します。
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業務提携とは
業務提携とは、複数の企業が互いの強みを活かしながら協力関係を築くことです。完全な経営統合ではなく、それぞれの独立性を維持したまま、取引関係の強化や新規事業の共同展開などを目指します。法的には、契約書などを通じて提携関係を明文化するのが一般的です。
中小企業にとって、業務提携のメリットは大きく3つあります。
事業成長につながる
業務提携は、後継者不在の課題を抱える企業にとって、事業を存続・成長させる有効な手段となります。提携先との協力により、自社だけでは実現が難しかった事業展開や市場拡大が可能になります。
提携先との協力により、自社の強みを生かしつつ、弱みを補完することで、事業の成長につなげることができるのです。
特に、後継者不在で事業の先行きに不安を抱える企業にとって、業務提携は、事業を存続・発展させるための有力な選択肢となるでしょう。
自社に不足している経営リソースを調達できる
業務提携の大きなメリットの一つは、自社に不足している経営リソースを、提携先から調達できることです。中小企業にとって、人材、技術、ノウハウ、設備、資金など、経営に必要な資源をすべて自前で用意することはほとんど不可能と言えます。
しかし、業務提携を活用することで、自社に不足するリソースを提携先から調達することができます。
業務提携を通じて、自社だけでは獲得が難しい経営リソースを外部から調達することで、自社の競争力を高めることができるのです。提携先と良好な関係を構築することで、自社の経営基盤を強化していくことができます。
リスク分散につながる
業務提携は、事業に伴うリスクを分散する効果も期待できます。特に、新規事業への参入や、海外進出など、リスクを伴う取り組みにおいて、提携先と共同で事業を進めることで、リスクを軽減することができます。
特に、中小企業にとって、大胆なリスクをとった事業立ち上げは荷が重いですよね。業務提携を活用することで、リスクを軽減しつつ、新たな事業機会に挑戦していくことができるのです。
業務提携を活用することで、単独では難しい課題の解決や成長機会の獲得が期待できます。自社の強みと弱みを冷静に分析し、最適な提携先を見つけることが重要です。
M&Aと業務提携の違い
M&Aと業務提携は、どちらも企業の成長戦略の選択肢として挙げられますが、その目的やメリット・デメリットには違いがあります。
以下、M&Aと業務提携の違いを、メリットとデメリットの比較を通じて明らかにします。
M&Aのメリット
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- 経営資源の獲得:M&Aを通じて、人材、技術、ノウハウなど、自社に不足する経営資源を調達できます。
- シナジー効果の創出:両社の強みを組み合わせることで、コストの削減や売上の拡大など、シナジー効果が期待できます。
M&Aのデメリット
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- 高いコスト:M&Aには多額の資金が必要であり、財務的な負担が大きくなります。
- 統合の難しさ:異なる企業文化や経営スタイルを持つ企業同士が統合するのは容易ではない。
業務提携のメリット
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- 低いコスト:業務提携は、M&Aと比べて資金的・工数的な負担が少なく、低コストで実現できます。
- リスクの分散:業務提携では、パートナー企業と責任やリスクを分担できるため、事業リスクを軽減できます。
- 柔軟性の高さ:業務提携は、目的に応じて柔軟に提携内容を設計できるため、状況の変化に対応しやすくなります。
業務提携のデメリット
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- 意思決定の難しさ:業務提携では、パートナー企業との合意形成が必要なため、意思決定に時間がかかる場合があります。
- 機密情報の管理:業務提携では、パートナー企業との間で機密情報を共有する必要があるため、情報管理のリスクが高まります。
- 提携解消のリスク:業務提携は、提携関係が悪化した場合、解消されるリスクがあります。
以上のように、M&Aと業務提携にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
M&Aは、経営資源の獲得やシナジーの創出に優れていますが、高いコストや統合の難しさが課題となります。一方、業務提携は、低コストで柔軟性の高い提携が可能ですが、意思決定の難しさや提携解消のリスクがあります。
企業は、自社の状況や目的に応じて、適切な選択をする必要があります。
業務提携の代表的タイプ
業務提携には、提携内容に応じてさまざまな類型があります。代表的なものを見ていきましょう。
販売提携
互いの販路を活用し合い、商品・サービスの売上拡大を目指します。 メリットは売上増加や顧客層の拡大ですが、提携先の不祥事などで自社イメージが損なわれるリスクもあります。
技術提携
技術やノウハウを持ち寄り、新商品の開発や生産効率の向上を図ります。メリットは技術力の向上や開発期間の短縮ですが、提携先への技術流出のリスクも考慮が必要です。
業務委託提携
間接部門の業務を相手先に委託し、経営の効率化を進めます。 メリットは社内リソースの最適化や固定費の削減ですが、提携先の質の見極めが重要となります。
資本提携
株式の持ち合いなどを通じて、強固な協力関係を構築します。メリットは経営の安定性や信頼関係の強化ですが、出資比率などを巡る交渉が難航することもあります。
どのタイプであれ、自社の課題やニーズを明確にし、それを解決できる最適な提携先・提携内容を見極める必要があります。
業務提携で発生する報酬・手数料

仲介手数料
M&A仲介業者など、提携先を紹介してくれた機関への支払い。着手金と成功報酬を組み合わせたものが多く、金額は案件の規模や難易度で異なります。
デューデリジェンス費用
提携先の事業や財務を精査するための調査費用。専門家への報酬や実査にかかる交通費などが含まれ、数十万円から数百万円の範囲が相場です。
契約書作成費用
弁護士など専門家への依頼費用。契約書のボリュームや複雑さに応じて数十万円程度が目安となります。
報酬と手数料の水準については、自社の事業規模や提携の位置づけを踏まえながら、適切なバランスを見出すことが重要です。
提携先との交渉次第では、手数料の一部を折半したり、報酬の一部を株式で受け取ったりするなどの工夫も可能でしょう。
業務提携で専門家を利用するメリット
①提携先の発掘や見極め
業務提携を行う際、最も重要なのが提携先の選定です。自社の事業にとって最適な提携先を見つけることが、業務提携の成否を左右すると言っても過言ではありません。提携先の発掘や見極めは、経営者の皆様にとって容易な作業ではないでしょう。
そこで、専門家の力を借りることをおすすめします。
例えば、M&Aの専門家であれば、自社の事業に適した提携先の発掘や評価を行ってくれます。提携先候補の事業内容、経営陣の評判など、様々な角度から分析を行い、最適な提携先を見極めてくれるのです。
また、提携先との交渉の場面でも、専門家の存在は心強い味方となります。交渉のプロである専門家が、自社の立場に立って提携先との交渉を進めてくれるでしょう。専門家の交渉力を借りることで、自社に有利な条件で業務提携を締結できる可能性が高まります。
②スムーズな提携の進行
業務提携は、複雑なプロセスを経て実現するものです。提携先との協議から、契約締結、提携の実行に至るまで、様々な段階があります。そのプロセスを、専門家のアドバイスなしにスムーズに進行させることは、なかなか難しいものです。
そこで、専門家の力を借りることで、業務提携をスムーズに進めることができます。専門家は、業務提携のプロセスを熟知しています。それぞれの段階で必要な対応をしっかりと行い、プロセス全体を円滑に進めていけます。
提携先との契約締結の段階では、専門家が契約書作成や条件交渉を行います。提携の実行段階では、専門家が、提携先との連携体制の構築をサポートしてくれます。
このように、専門家の力を借りることで、業務提携のプロセス全体をスムーズに進めることができるのです。
業務提携のリスク・注意点とは

業務提携にはリスクや注意点もあります。主なものは以下の3点です。
①提携先との認識の相違
目的や役割分担について、提携先と認識があっていない恐れがあります。例えば、提携先が自社を単なる下請けとしか見ていないケースなどです。対等な関係を築くには、綿密なすり合わせが欠かせません。
②提携先の経営悪化
提携先の業績不振により、自社にも悪影響が及ぶ可能性があります。提携先の倒産で連鎖倒産に陥るケースや、提携先の不祥事で自社のブランドイメージが傷つくケースなどです。定期的なモニタリングが重要となります。
③ノウハウ流出
自社の強みとなる技術やノウハウが、意図せず提携先に流出するリスクがあります。特に、提携先が将来の競合となる可能性がある場合は要注意です。秘密保持契約の締結や情報管理体制の整備が必須です。
これらのリスクを最小限に抑えるには、入念な事前調査と綿密な契約締結が欠かせません。提携先の経営状況や信頼性を見極め、守秘義務やリスク分担についても書面で明確にしておくことが求められます。
業務提携契約のポイント
円滑な業務提携には、しっかりとした契約書の締結が不可欠です。トラブルを防ぐには、以下の点に特に注意が必要です。
①目的の明確化
提携の目的や期間、互いの役割分担を具体的に記載します。曖昧な表現を避け、できる限り数値化するのが望ましいでしょう。
②秘密保持条項
互いに開示する機密情報の取り扱いについて取り決めます。守秘義務の対象や期間、違反した場合の措置などを明記します。
③リスク分担
提携に伴うリスクを双方でどのように分担するか明記します。想定される損害の種類や補償の範囲などを具体的に盛り込みます。
④終了時の取り決め
提携の解消手続きや残務処理の方法についても規定します。スムーズな提携解消のためにも、予めルールを定めておくことが重要です。
このほか、提携事業で生じた知的財産の帰属や、提携先の倒産時の対応なども盛り込んでおくと安心です。
契約書の作成にあたっては、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。業界の商慣行なども考慮しながら、提携内容を過不足なく盛り込むことが求められます。
業務提携の進め方
ここからは、業務提携の具体的な進め方を見ていきましょう。提携先の選定から契約締結、運用開始までの一連の流れは、以下のようなステップで進むのが一般的です。
①提携の目的・方針の明確化
自社の経営課題や提携に求める効果を整理し、提携の目的や方針を明文化します。社内の合意形成を図るためにも重要なプロセスとなります。
②提携先の選定
自社の提携方針に合致する企業を探します。経営者の人脈はもちろん、金融機関や支援機関等を通じた紹介も有効です。複数の候補先をリストアップしておくと良いでしょう。
③提携先との交渉
選定した提携先と、提携の目的や期待する効果、役割分担などを擦り合わせます。トップ同士の対話を重ねることが、相互理解や信頼関係の構築に役立ちます。
④デューデリジェンス
提携先の業況や法的リスクなどを調査します。財務諸表の精査はもちろん、主要な契約書や許認可証の確認、製造物責任の有無など、多岐にわたるチェックが必要です。
⑤契約書の作成・締結
デューデリジェンスの結果を踏まえ、提携の具体的な内容を契約書に落とし込みます。リスク分担や守秘義務など、重要な項目は特に慎重に検討しましょう。
⑥提携の開始・運用
契約締結後は、提携事業の運用を開始します。定期的な進捗確認の場を設けるなど、PDCAサイクルを回す仕組みを整えることが肝要です。
進め方のポイントは、十分な情報収集と、提携先との緊密なコミュニケーションにあります。特に、経営理念や価値観の共有は、長期的な信頼関係を築くうえで欠かせません。
専門家の活用と支援策

業務提携を円滑に進めるうえでは、専門家の知見を活用することも有効です。各分野のプロフェッショナルが、提携の成功を力強くサポートしてくれるはずです。
弁護士
契約書の作成や法的リスクの検討で、弁護士の助言は欠かせません。提携先との交渉の場に同席してもらうことで、法的な観点からの歯止めをかけることもできるでしょう。
税理士・公認会計士
提携に伴う税務処理や会計処理のアドバイスを得られます。デューデリジェンスの財務面の調査も、会計の専門家の助言があれば安心して進められます。
M&A仲介会社
提携先の選定から交渉、契約締結までを一気通貫でサポートしてくれる心強い味方です。M&Aの実務経験が豊富な専門家なら、業界の慣行やトラブル事例なども熟知しているはずです。
加えて、業務提携に関する公的支援策も知っておくと良いでしょう。
例えば、国が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」では、M&Aや事業承継に関する無料相談に応じています。提携先探しから契約書のチェックまで、幅広いニーズに対応してくれます。
各地の商工会議所や金融機関でも、事業承継や業務提携をテーマにしたセミナーを開催しています。専門家による解説を聞けるほか、経営者同士の情報交換の場としても活用できるでしょう。
業務提携を検討する際は、まずはこうした専門家や支援機関に相談してみると良いかもしれません。
まとめ
業務提携は、経営課題の解決に向けた強力な一手となり得ます。老舗企業から創業間もないベンチャーまで、どのような企業にも事業を伸ばすきっかけとなります。本記事を参考に、業務提携について検討いただければ幸いです。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。