株式譲渡契約書(SPA)とは?作成に関する注意点や記載項目を解説

株式を譲渡する際は、株式譲渡契約書(SPA)を用意することが推奨されています。株式の譲渡は重要な取引であり、会社の支配権が変わることや譲渡価格が大きい場合が多いです。そのため、契約書は細心の注意を払い、ミスのないように作成する必要があります。
この記事では、株式譲渡契約書の記載項目や注意点について解説します。株式譲渡契約書を作成の際の参考にしてください。
目次
株式譲渡契約書とは
「株式譲渡契約書」は、売主から買主へ会社の株式を移転するための契約書のことを指します。主に、企業の所有者が後継者へ株を渡す際に用いられます。
株式の譲渡契約は、対象企業の全株式または一部株式を購入し、それによりその会社の経営権を獲得するような取引です。取引額が高額で取り消しが効かない性質を持つため、契約成立前に買主がデューデリジェンスを実施することが一般的です。
株式譲渡契約と称されてはいますが、株式を売買する行為に他ならず、法律上は売買契約(民法第555条)とみなされます。単に株式売買であり、合併や会社の分割など特別なプロセスを要求されることがないため、他のM&A手法に比べて手続きがシンプルである点がメリットとされています。
株式譲渡契約書に記載する項目
株式譲渡契約書に記載する項目としては以下があります。
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- 基本合意
- 株式譲渡の対価
- 譲渡実行日
- クロージングに関する事項
- 株式譲渡の実行前提条件
- 表明及び保証
- 実行前・実行後の遵守事項
- 損害賠償
- 秘密保持
- 契約の解除
- 反社会的勢力の排除
- 合意管轄・準拠法
基本合意
株式譲渡契約には、譲渡される株式の銘柄、種類、数を明記します。株式の数量を指定する方法には2通りあり、1つ目は具体的な株式の数を明記する方法です。2つ目は、譲渡される株式の比率を示す方法です。
ただし、2つ目の方法を採用した場合、契約が成立した日から株式が譲渡される日までに発行済み株式の総数に変動があると、追加的な契約を結ぶ必要が生じる可能性があるため注意が必要です。
株式譲渡の対価
株式譲渡の対価は、売り手と買い手の間で協議を経て決定され、その額は株式譲渡契約書に明記されます。
たとえば、デューデリジェンスにより対象企業に何かリスクが見つかった場合、その影響で株式の譲渡価格が引き下げられることも考えられます。
譲渡価格は純粋に交渉によって決まるものであり、売り手と買い手の交渉スキルが大きく影響する部分です。一般的には、1株あたりの金額と数、合計数を記載します。
譲渡実行日
株式譲渡契約書においては、契約の成立日と株式を実際に譲渡する日を別々に設定するのが一般的です。事業のスムーズな承継を実現するために、最終的な準備を行う時間を確保する目的があります。
契約成立日から数週間から一か月程度後を譲渡実行日として、株式譲渡契約書に明記します。
クロージングに関する事項
株式の譲渡を実行することを「クロージング」と称し、クロージングの手続きも株式譲渡契約書に明記しておきましょう。そうすることで、譲渡実行日に迷いが生じることを防げます。
クロージングの手続きには、以下の項目を定めておくと有効的です。
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- 譲渡対価の支払方法(振込先、書類の受渡等との同時履行など)
- 株式の移転に関する手続(株券の交付・株主名義書換など)
- 会社法上の手続への協力義務
株式譲渡の実行前提条件
株式譲渡契約書内で定められた「実行前提条件」は、譲渡を行う日までに契約当事者が達成すべき一連の条件を指します。これらの条件のいずれか一つでも満たされていない場合、相手方には株式を譲渡する法的義務は発生しません。
実行前提条件には以下のような内容を記載することが一般的です。
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- 重要な書類の引渡し
- 表明及び保証が真実かつ正確であること
- 実行前の遵守事項に対する違反がないこと
- 表明及び保証が重要な点において真実かつ正確であること
- 対象会社の譲渡承認が得られていること
表明及び保証
「表明及び保証」は、売り手や買い手、またはその対象となる企業に関して特定の事項が真実であり、正確であることを確約する表明、保証を指します。
株式譲渡契約書における表明保証条項は、主にデューデリジェンスの過程で明らかになったリスクが、実際に問題となった場合に売り手が責任を負うために設けられます。
表明保証の詳細な内容は、デューデリジェンスの結果に基づいて売り手と買い手の間で交渉し決定され、一般的には以下の内容を記載します。
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- 対象企業の株式の内容・状態
- 対象企業の財務状態
- 対象企業が保有する不動産に関する事項
- 対象企業が保有する知的財産権に関する事項
- 対象企業が雇用する従業員や労務問題に関する事項
- 現在行っている事業を行うために必要な権限及び機能を有する事
- 契約締結及びその履行について必要な能力及び権限を有する事
- 締結された契約が第三者によって取り消されまたは避妊される原因となる事由が存在しないこと
- 本契約履行に必要な資金を保有または確保している事
実行前・実行後の遵守事項
契約締結時の対象会社の状況をクロージング日まで変更しないように保持することは、買主にとって重要です。そのため、契約書にはクロージング前に遵守すべき事項が規定されています。たとえば、重要な資産の売却禁止や経営陣の変更禁止などがこれに該当します。
さらに、売主と買主の間での交渉を通じて、株式譲渡の実行後に遵守すべき事項も定められることがあります。これには、売主の競業禁止義務や買主による従業員の雇用維持義務などが含まれます。
損害賠償
契約の表明保証や遵守事項に違反し、その結果当事者が損害を受けた場合に対処するため、損害賠償に関する項目を株式譲渡契約書に含めることが重要です。
秘密保持
M&A取引においては、売主と買主の間で多くの機密情報が交換されます。そのため、取引の一環として秘密保持の規定を株式譲渡契約書に含めることは重要です。
秘密保持に関して明記すべき主な事項は、以下のとおりです。
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- 秘密情報の定義
- 第三者に対する秘密情報の開示・漏洩等を原則禁止する旨
- 第三者に対する開示を例外的に認める場合の要件
- 秘密情報の目的外利用の禁止
- 契約終了時の秘密情報の破棄・返還
- 秘密情報の漏洩等が発生した際の対応
なお、M&A取引を開始する前の段階でNDA(Non-DisclosureAgreement、秘密保持契約書)を締結することが一般的です。このような場合、すでに合意されたNDAの内容を株式譲渡契約書内で参照し、その内容を引用する形で対応することが可能です。
契約の解除
株式譲渡契約の締結後、譲渡実行日に至るまでの期間に重大な債務不履行や重要な事情の変更が発生した場合に対応するため、契約解除の条項を設けることは重要です。
契約解除の条件としては以下が挙げられます。
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- 実行前提条件の不充足
- 重大な表明保証違反
- 重大な遵守事項違反
- 対象会社に関する重大な事情変更
- 天災地変などの不可抗力
反社会的勢力の排除
コンプライアンスを確保するため、株式譲渡契約書に反社会的勢力の排除を目的とした条項(反社条項)を設けることが一般的です。
具体的には、以下の内容を規定します。
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- 当事者(役員等を含む。以下同じ)が暴力団員等に該当しないことの表明・保証
- 暴力的な言動等をしないことの表明・保証
- 相手方が反社条項に違反した場合、直ちに契約を無催告で解除できる旨
- 反社条項違反を理由に契約を解除された当事者は、相手方に対して損害賠償等を請求できない旨
- 反社条項違反を理由に契約を解除した当事者は、相手方に対して損害全額の賠償を請求できる旨
合意管轄・準拠法
株式譲渡契約書においては、将来的に売主と買主の間で紛争が生じた際のために、事前に訴訟を提起することが可能な裁判所(合意管轄)を指定しておくとよいでしょう。
可能であれば自社の本店所在地を管轄とする裁判所を指定すると、紛争発生時の対応が容易になります。
グローバル企業が関与する取引では、適用される法律(準拠法)を明確に定めることも重要です。日本企業の場合は、日本法を準拠法とするのが一般的です。しかし、相手方の影響力が強い場合は、交渉によって他国の法律を準拠法として受け入れる必要があります。
株式譲渡契約書の作成に関する注意点
株式譲渡契約書の作成に関する注意点は以下のとおりです。
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- 契約書の保管期間がある
- 非上場株式や個人取引でも契約書は作成する
契約書の保管期間がある
法人が株式譲渡契約書を作成した場合、保管期間は法人税法に基づき通常は7年間です。もし欠損金が発生している場合は、保管期間は10年間に延長されます。
一方、個人間で行われる株式譲渡契約には、法的に定められた保管期限は存在しません。しかし、契約書が確定申告の際に使用された場合、書類は5年間保管する義務があります。
非上場会社や個人取引でも契約書は作成する
非上場企業は、株式が公開市場に出ていません。そのため、売買には通常、制限が伴います。このような状況下では、株式譲渡契約書が非常に重要となり、売り手側の責任において会社から株式譲渡の承諾を得ること、買い手側はこれに協力することなどの取り決めがされることが一般的です。未然にトラブルを避けるために、契約書を作成しておくことが重要です。
また、法人であれ個人であれ、以下の事項に対する契約書の重要性は共通しています。
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- 「株式」の特殊性
- 株主名簿の名義書換
- 譲渡制限株式の発行会社による承認
これらの点から、さまざまなトラブルを避けるためにも、株式譲渡に際して契約書を用意することが必要です。
株式譲渡契約書に収入印紙の貼付が必要なケース
通常、株式譲渡契約書には印紙税が課されないため、収入印紙の貼付は不要です。ただし、特定の条件下では例外があります。株式を購入する側が売り手に前払いを行い、その契約書が「領収証」の機能をも担うケースです。このようなケースでは、契約書に所定の金額の収入印紙を貼り付ける必要が出てきます。
株式譲渡契約書に貼付する収入印紙の金額は以下のとおりです。
記載された受取金額 | 税額 |
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円超200万円以下 | 400円 |
200万円超300万円以下 | 600円 |
300万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 2,000円 |
1,000万円を超え2,000万円以下 | 4,000円 |
2,000万円を超え3,000万円以下 | 6,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 20,000円 |
1億円を超え2億円以下 | 30,000円 |
2億円を超え3億円以下 | 60,000円 |
3億円を超え5億円以下 | 100,000円 |
5億円を超え10億円以下 | 150,000円 |
10億円を超えるもの | 200,000円 |
受取金額の記載のないもの | 200円 |
参照元:No.7141印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで|国税庁
まとめ
本記事では、株式譲渡契約書の概要や記載する項目、注意点などについて解説しました。株式譲渡契約では、売り手・買い手の間で株式売買に関するすべての条件及び事項を定めるため、双方の権利・義務を明確にできるメリットがあります。
一方で、契約書の作成には一定の専門知識なども必要なため、専門家のサポートや本記事などを参考にするなど、適切な株式譲渡契約書を作成にしましょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。