株式譲渡の譲渡価格の決め方を解説!譲渡価格を高めるコツも

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株式譲渡の際の価格算定には、多くの要素が関わってきます。とくに非公開株式の場合は、市場での明確な価格が存在しないため、適切な評価方法を理解し適用することが重要です。譲渡価格は、企業の現在の価値と将来の成長見込みを反映するものです。そのため、適切な価格設定をすることは、譲渡の成功に直結します。

目次

株式には公開株式と非公開株式がある

株式市場では、株式は大きく二つのカテゴリに分けられます。一つは多くの投資家によって取引され、価格が公開されている「公開株式」です。もう一つは、限られた条件下でのみ取引される「非公開株式」です。非公開株式は、一般的には市場での価格が公開されていません。

公開株式とは

公開株式は証券取引所に上場されており、一般に流通している株式です。公開株式は市場の需給バランスにより価格が決定され、透明性が高いのが特徴です。

公開株式は投資家にとってアクセスしやすく、企業にとっては資金調達の手段として利用されます。価格は株式市場での取引により決定され、株価指数や個別株の動向によって変動します。

非公開株式とは

非公開株式は証券取引所には上場されておらず、一般には流通していない株式です。非公開株式の価格は、企業の財務状況や将来の収益予測をもとに算定されることが多く、取引は特定の条件下でのみ行われます。

非公開株式は企業のプライバシーを保ちつつ、選ばれた投資家にのみ売買の機会を提供します。非公開株式の価格算定には純資産価額方式やDCF法、類似業種比準方式などが用いられ、企業の内部情報に基づいて行われます。

株式譲渡における譲渡価格の算定方法

株式の種類により、譲渡価格の算定方法は異なります。公開株式は市場で自由に取引されるため、市場価格がそのまま譲渡価格となります。一方、非公開株式は市場での価格が存在しないため、特定の評価方法を用いて譲渡価格を算定する必要があります。

公開株式、非公開株式とでは価格の算出方法が異なる

公開株式の価格は市場で形成され、株価は証券取引所での取引によって決定されます。これに対して、非公開株式の価格算定には複数の方法があり、主に以下のようなアプローチが用いられます。

    • コストアプローチ

企業の純資産額を基準にして株式譲渡価格を算出します。

    • マーケットアプローチ

同業他社の株式の価値と比較して株式譲渡価格を決めます。

    • インカムアプローチ
    • 企業の将来の利益予想やキャッシュフローをもとに株価を算定します。

時価による算定方法

時価にもとづく算定方法は、資産や負債の価値を市場での取引価格や同業他社の株価など、実際の市場データを用いて評価する手法です。この方法は、とくに金融商品や不動産など市場価格が頻繁に変動する資産の価値を算定する際に用いられます。

時価は、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の資産の売却価格、または負債の移転価格として定義されます。

【メリット】

時価による算定方法のメリットは、市場の実勢価格を反映するため、資産や負債の価値が公平かつ透明な方法で評価される点です。これにより、投資家やステークホルダーは企業の財務状況をより正確に理解でき、企業価値の評価や投資判断に役立てることが可能です。

また、時価評価はM&Aなどの企業価値の算定においても重要な役割を果たします。

【デメリット】

一方で、時価による算定方法のデメリットは市場の変動により価格が大きく変動する可能性があることです。市場の不安定さは時価評価額を影響し、評価するタイミングによっては価格が大きく変わる可能性があります。

これにより、とくに短期的な視点で見た場合は企業の財務状況が実際よりもよく見えたり、悪く見えたりすることがあります。さらに、将来の収益性や無形資産など、帳簿上に計上されない要素を企業価値に反映させることが困難です。

純資産価額による算定方法

純資産価額による算定方法は、企業が解散した場合に株主に返せる金額を基に株式の評価額を算出する手法です。具体的には、貸借対照表に記載された総資産から総負債を差し引き、さらに評価差額(含み益)に対する法人税等を控除した純資産をもとに計算します。

【メリット】

純資産価額による算定方法のメリットは、企業の財務状況を直接反映するため、企業の実質的な価値を比較的正確に客観的に把握できる点です。また、計算が比較的簡単であり、ほかの評価方法と比べて短時間で評価を行うことが可能です。買い手から見た場合は、リスクが少なくなるという利点もあります。

【デメリット】

純資産価額による算定方法のデメリットは、時価純資産法は清算価値の考え方が反映されており、将来の収益性や市場のポテンシャルを考慮しないため、とくに成長が見込まれる企業や無形資産を多く持つ企業の場合は実際の価値を過小評価する可能性がある点です。また、評価時点での純資産にもとづくため、市場環境の変化による資産価値の変動を反映できないという点も問題とされています。

類似業種比準による算定方法

類似業種比準法は、特定の企業の株式価値を算定する際に、事業内容・規模・収益性などが類似する同業他社の財務データや市場データを参照する方法です。このアプローチでは、上場している同業他社の株価倍率(P/E比率、P/B比率など)を用いて、非公開企業の株式価値を推定します。この方法は、とくに非公開企業や上場を目指す企業の価値評価に有効です。

【メリット】

類似業種比準法のメリットとしては、業界全体の平均的な評価を反映し、市場の実情に即した価格設定が可能である点です。また、同業他社の公開データを用いる(市場の株価と財務数値を反映させる)ことで評価の客観性を確保し、業界内での企業の相対的な位置づけを容易に理解できます。これにより、合理的かつ公平な株式価値の評価が行えるという利点があります。

【デメリット】

類似業種比準法を用いた株式評価のデメリットは、企業固有の特性や戦略が十分に反映されないため、個々の企業の独自性を捉えるのが難しい点です。また、類似企業がない場合は使用できず、適切な比較対象企業の選定が困難である場合は、不適切な比較によって誤った評価を導くリスクが生じます。

さらに、業界や市場の変化が評価に迅速に反映されない場合は、時代遅れの評価結果となる可能性もあります。これらは、類似業種比準法を用いる際の注意すべき点です。

配当還元による算定方法

配当還元法は、企業が将来支払うであろう配当を現在価値に割り引いて、企業価値を算定する方法です。具体的には、将来予想される配当を一定の割引率で現在価値に変換し、その合計を企業価値とします。配当還元法は、とくに配当支払いが安定している企業の評価に適しています。

【メリット】

配当還元法のメリットは、配当に基づいた価格設定が可能であることです。これにより、配当を重視する投資家にとって魅力的な価格設定が行え、投資判断の一助となります。また、配当の実績にもとづくため、計算が比較的シンプルで客観性が高いという利点もあります。

【デメリット】

配当還元法のデメリットは、配当のみに注目するため、非配当企業や成長性を重視する企業の価値を見落とす可能性がある点です。配当政策によって評価額が左右されるため、配当を多く出している企業は過大評価され、逆に配当を出していない企業は過小評価される傾向にあります。さらに、配当が不安定な企業では適用が難しいという問題もあります。

DCF法による算定方法

DCF法(Discounted Cash Flow method)は、企業や投資プロジェクトの価値を評価する際に用いられる手法です。DCF法では、将来発生するキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引くことで企業やプロジェクトの現在の価値を算出します。DCF法は、とくに長期的な投資のリターンを評価する際に有効です。

【メリット】

DCF法のメリットは、継続企業を前提とした評価で、企業の将来の事業による収益力を評価に反映させられる点です。これにより、成長性や事業計画を価格設定に組み込むことが可能です。また、買収後の目標設定としても使用できます。

さらに、詳細な財務予測に基づく分析を通じて、企業の内部的な強みや市場のポテンシャルを把握できます。DCF法は柔軟性が高く、さまざまなシナリオを想定したリスク分析にも利用できるため、投資判断において重要な手法となっています。

【デメリット】

DCF法のデメリットは、長期にわたる予測が必要であり、その不確実性が計算結果に影響を与える可能性がある点です。また、割引率や将来のキャッシュフローの計算が複雑で主観が入りやすく、これが価値算定に大きな影響を及ぼします。

さらに、DCF法は計算が複雑で多くの仮定にもとづいており、理解しにくいという側面もあります。割引率やキャッシュフローなどの前提条件の設定の仕方によっては、評価が大きく変動する場合があります。これらの要因は、DCF法を用いた企業価値評価の際に慎重な検討が求められる理由です。

株式譲渡の譲渡価格を決める際の注意点

株式譲渡の価格を決定する際は、単に市場価値や企業価値を反映させるだけでなく、税務上の影響も考慮すべき重要な事項です。適切な価格設定は、将来的な税金の負担を避けるためにも必要です。とくに株式の譲渡価格が実際の時価と大きく異なる場合は、税務当局からの追加課税や罰則のリスクが生じる可能性があります。

低額譲渡と高額譲渡について

低額譲渡は、株式をその時価よりも著しく低い価格で譲渡することを指し、税務上のリスクが伴います。このような取引は、みなし贈与と見なされて贈与税が課されることがあります。また、譲渡価格が時価の一定割合以下の場合は、譲渡損失が認められないことがあります。

一方、高額譲渡は時価を超える価格で株式を譲渡することを指します。この場合、譲渡益に対して所得税や法人税が課税されます。高額譲渡が行われた場合、売主は通常の譲渡所得として課税されます。そのほか、時価を超える部分については贈与とみなされることがあり、贈与税が課される可能性があります。

したがって、株式譲渡を行う際は適切な価格設定をすることが非常に重要です。税務上のリスクを避けるためにも、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

時価価格で算出した譲渡の場合も課税が発生する

時価で算出された譲渡価格には、通常、所得税や法人税が課税されます。これは資産の売買や交換が行われた際に、実際の取引価格が市場価格(時価)と異なる場合はとくに重要です。時価を基準にした譲渡価格は、税務上の課税対象となる譲渡所得を計算する際の基礎となります。

個人から個人の場合

個人間で資産が譲渡される場合は、譲渡所得に対して所得税が課税されます。この所得税は、譲渡価格と資産の取得コストとの差額に基づいて計算され、譲渡益が発生した場合に適用されます。

時価での譲渡が行われたとみなされる場合は、たとえ実際の取引価格がそれより低かったとしても、時価に基づいた譲渡所得が課税されることがあります。

法人から個人の場合

法人から個人への資産譲渡では、法人税が課税される可能性があります。法人が資産を譲渡する際は、その資産の時価に基づいて譲渡所得を計算し、法人税が課税されます。とくに、法人が役員や関連する個人に対して資産を譲渡する場合は、時価よりも低い価格で譲渡されたとしても税務上は時価で譲渡されたとみなされ、その差額に対して法人税が課税されることがあります。このような取引は税務当局によって厳しくチェックされるため、適切な価格設定が重要です。

低額譲渡で譲渡する場合、買い手側も課税が発生する

低額譲渡とは、市場価値よりも著しく低い価格で資産を譲渡することを指します。このような取引では、譲渡価格と市場価値との差額が「贈与」とみなされるため、買い手側にも税金が課税される可能性があります。具体的には、贈与税が課税されることが一般的ですが、取引の詳細によっては所得税や法人税が適用される場合もあります。

個人から個人の場合

個人間で低額譲渡が行われた場合は、贈与税の対象となる可能性が高いです。贈与税は、受け取った贈与の価値に応じて課税されます。ただし、一定の条件下では贈与税が免除される場合もあります。例えば、一定の範囲内での家族間の贈与などが該当します。

また、贈与税の計算には多くの控除が適用されるため、実際に税金が発生するかどうかは個々の状況により異なります。

法人から個人の場合

法人から個人への低額譲渡の場合、通常は法人税が適用されます。法人が資産を低額で譲渡すると、その差額が給与や報酬とみなされ、受け取った個人は所得税の対象となる可能性があります。

また、法人にとっては市場価値と譲渡価格との差額が損失として計上されるため、税務上の損益計算に影響を与えることがあります。このような取引は、税務調査の対象となることもあるため、適切な価格設定と正確な税務申告が重要です。

高額譲渡で譲渡する場合の課税に関する注意点

高額譲渡とは、資産を市場価値よりも高い価格で譲渡することを指します。このような取引から生じる利益に対しては、譲渡益として税金が課税されます。譲渡益は、資産の売却価格からその資産の取得コストや改良コストを差し引いた金額です。譲渡益に対する税率は、取引の性質や譲渡者の税務状況によって異なります。

個人から個人の場合

個人から個人への高額譲渡の場合、譲渡益は譲渡者の所得税の対象となります。所得税は、譲渡者の年間総所得に応じて累進的に課税されるため、譲渡益が大きいほど高い税率が適用される可能性があります。また、譲渡益には特定の控除が適用されることがあり、例えば住宅の売却に関する特別控除などがあります。

法人から個人の場合

法人から個人への高額譲渡では、譲渡益は法人税の対象となります。法人が資産を高額で譲渡した場合、その利益は法人の所得として計上され、法人税率に基づいて課税されます。受け取った個人は、その資産から生じる利益に対して所得税を支払う必要があります。

この場合、個人は資産を「収入」として申告し、その後の売却や利用から生じる利益に対しても税金が課税されることになります。

株式譲渡で譲渡価格を上げるためのコツ

株式譲渡の際に譲渡価格を上げるためには、市場の動向を正確に把握して自社の価値を適切に伝えることが重要です。買い手に自社株の価値を理解してもらうためには、以下のようなアプローチが効果的です。

入札形式で競わせる

入札形式の採用は、複数の潜在的な買い手に対して競争を促す効果的な手段です。この方法では、買い手同士が互いに価格を上回ろうとするため、譲渡価格が市場価値を反映し、時にはそれを上回る可能性があります。入札プロセスを透明に保ち、公平な競争を促進することで最終的な譲渡価格を高められます。

自社情報を具体的に提供する

自社株式の価値を正確に評価してもらうためには、財務状況や事業計画、市場での立ち位置、成長戦略など、自社の情報を具体的かつ詳細に提供することが重要です。投資家や買い手に対して、自社の強みや将来性を明確に伝えることで株式の魅力を高め、譲渡価格の向上につながります。また、自社の成功事例や業界内での評価など、信頼性のあるデータを提供することも有効です。

まとめ

公開株式は市場価格に基づいて容易に価格が決定できる一方で、非公開株式の価格算定には複数の評価方法が必要です。非公開株式の価格算定方法には、時価純資産法や修正簿価純資産法、DCF法、配当割引モデルなどがあります。これらの方法はそれぞれメリットとデメリットがあり、適切な方法を選択することが重要です。

これらの方法を用いて株式の譲渡価格を算定する際は、税務上の注意点も重要です。低額譲渡や高額譲渡の場合には、それぞれ異なる税金が課せられることを理解しておく必要があります。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。