合同会社の事業譲渡・売却は可能?難しいといわれる理由や手続きを解説!

事業譲渡は、会社の未来を左右する重要な決断です。とくに合同会社の場合は、その独特の法人形態が事業譲渡のプロセスに特有の課題をもたらします。合同会社の事業譲渡を考える際に、まず理解すべきはその法人形態が株式会社とどう異なるか、そしてその違いが事業譲渡にどのように影響するかです。
今回は、合同会社が所有と経営が一体となっている点や登記事項の違い、株式会社との共通点について詳しく解説します。
目次
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合同会社と株式会社との違い
合同会社と株式会社の主な違いは、所有と経営の関係にあります。株式会社は、株主と取締役が分離しています。株主は会社の所有者であり、取締役は会社の経営を行います。
対して合同会社は、社員が所有者であり、同時に経営者でもあります。所有と経営の一体化は、合同会社が事業譲渡や持分譲渡を行う際に全社員の同意が必要となるなど、運営の柔軟性に影響を与えます。
合同会社 | 株式会社 | |
会社の所有者 | 社員全員 | 株主 |
会社の経営 | 所有と経営が一致 | 所有と経営は分離 |
出資者責任 | 有限責任 | 有限責任 |
決算公告 | 不要 | 必要 |
役員の任期 | 任期なし | 通常2年、最長10年 |
利益配分 | 定款で自由 に規定可能 | 出資比率による |
所有と経営
合同会社では社員が会社の所有者であり、経営者でもあります。このため、意思決定が迅速に行えるというメリットがあります。しかし、事業譲渡や持分譲渡を行う際は全社員の同意が必要となるため、柔軟性に欠ける場合があります。
また、合同会社では原則社員が直接業務を執行することが一般的ですが、業務執行社員や代表社員を設置することで、株式会社のような組織構造をとることも可能です。
登記事項
合同会社と株式会社では、登記に必要な事項にも違いがあります。合同会社は株式を発行しないため、発行済み株式数の登記が不要です。議決権や利益の配分に関しては、定款で自由に定められます。
一方、株式会社では、株主の持つ議決権や利益の配分は出資比率に応じて決まります。合同会社の登記には、目的、商号、本店の所在地、資本金の額、業務を執行する社員に関する事項、公告の方法などが含まれます。
合同会社と株式会社の共通点
合同会社と株式会社の共通点は、出資した金額の範囲内での責任である点が挙げられます。これにより、出資者は自身の出資額以上の負債を負うことはなく、個人の資産を保護できます。
合同会社の事業譲渡・売却は可能か?
合同会社の事業譲渡や売却は法的には可能ですが、実際にはいくつかの困難が伴うことがあります。とくに、合同会社の特徴である社員全員の同意が必要な点や、株式会社への変更手続きの複雑さがハードルとなります。合同会社の事業譲渡や売却には、以下のような特有の課題があります。
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- 社員全員の同意が必要
合同会社では、事業譲渡や持分譲渡を行うには全社員の同意が必要です。社員数が多い場合、とくに困難な課題となります。
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- 株式会社への変更手続きの複雑さ
合同会社から株式会社への変更手続きは、一定の複雑さを伴います。社員全員の同意、債権者保護手続き、新たな定款の作成などが必要です。これらの手続きは時間とコストを要するため、事業譲渡や売却の際の大きな障害となり得ます。
事業譲渡や売却を検討する際は、事前に十分な準備を行い、関係者とのコミュニケーションを密にすることが不可欠です。合同会社の事業譲渡や売却に関する詳細な情報や具体的な手続きについては、専門家に相談したほうがよいでしょう。
合同会社の事業譲渡・売却が難しいといわれる理由
合同会社の事業譲渡や売却が難しいとされる理由は、その構造と法的な制約に起因します。合同会社は、出資者が直接経営に関与することが多く、持分の譲渡や事業の売却には社員全員の同意が必要となることが多いためです。
社員全員の持分譲渡への同意が必要
合同会社では、持分譲渡には定款に別段の定めがない限り、社員全員の同意が法的に必要です。これは、合同会社の持分が個々の社員の財産権と密接に関連しているためです。社員が多い場合、全員の合意を得ることは時間と労力を要し、売却プロセスを複雑にします。
また、社員間で意見が分かれることもあり、合意に至らないリスクが常に存在します。
株式会社への変更手続きが難しい
合同会社から株式会社への変更は、新しい事業を始めたい場合や売却を容易にするために有効ですが、変更には多くの手続きが必要です。具体的には、新たな定款の作成や登記の変更などが含まれます。これらの手続きは専門的な知識を要し、時間とコストがかかるため、売却プロセスの障害となり得ます。
事業譲渡においても半数の社員の同意が必要
事業譲渡は、会社の重要な資産や事業部門を他の企業に移転することを指します。合同会社では、このような重要な決定を行う際は社員の過半数の同意が法律上必要とされています。これは、社員の利益と権利を保護するための措置です。
定款で全社員の同意が必要と定められている場合、それらの要件を満たす必要があるため、事業譲渡のプロセスはより複雑かつ時間を要するものとなります。
合同会社の買収メリットが少ない
合同会社は、資金調達の自由度が低いです。株式の発行や公開市場を通じた資金調達ができないため、買収する側にとってのメリットが少ないとされています。所有と経営が分離できないため、買収後の経営戦略に制約が生じる可能性があります。
また、合同会社の社員は通常、経営に直接関与しているため、新しい所有者が経営方針を変更することが困難です。
資金調達方法の自由度が低い
合同会社は、株式会社に比べて資金調達の選択肢が限られています。株式の発行や公開市場を通じた資金調達ができないため、外部からの投資を受け入れることが難しくなります。これにより、合同会社は成長のための資金を確保する際に制限を受けることになります。
上場ができない
合同会社は法律上、株式市場に上場できません。これは大規模な資金調達が必要な場合に不利となり、成長の機会を逃す可能性があることを意味します。上場によって得られる資金や市場の信頼を活用できないため、合同会社は他の資金調達手段を探す必要があります。
所有と経営が分離できない
合同会社では、所有者が同時に経営者であることが一般的です。これにより、経営の自由度が制限され、経営者が自由に経営を行えないことを意味します。経営の柔軟性が制限されるため、事業戦略の変更や迅速な意思決定が困難になることがあります。
自分だけの意思で決定できない
合同会社では、重要な決定を行う際には社員全員の同意が必要です。これは、迅速な意思決定が困難となり、とくに緊急を要する決定が必要な場合には大きな障害となります。社員間の合意形成が必要となるため、意思決定プロセスが遅延する可能性があります。
資金調達の手段が少ない
合同会社は、株式会社に比べて資金調達の手段が限られています。これは、事業拡大や新規事業の開始に際して、資金調達が難しくなることを意味します。合同会社は、銀行融資や個人投資家からの資金調達に依存することが多くなります。
合同会社を事業譲渡・売却するための4つの方法と手続き
合同会社の事業譲渡や売却を行う際には、以下の4つの方法が一般的です。
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それぞれについて詳しく見ていきましょう。
比較的難易度の低い事業譲渡を活用する
合同会社の事業譲渡は、特定の事業部門や資産を他社に譲渡する比較的容易な方法です。このプロセスには、事業の財務状況や市場での位置づけを考慮した事業評価、適切な買い手の選定と交渉、譲渡条件や価格を定めた契約書の作成、そして必要な法的手続きの完了が含まれます。これらのステップを通じて、合同会社は必要な事業だけを選んで効率的に売却することが可能になります。
売却の前に株式会社へ変更する
合同会社を株式会社に変更することは、株式の売買を容易にし、売却プロセスをスムーズに進めるための有効な手段です。変更プロセスには、社員総会の開催による変更決定、商業登記簿への変更登記、新たな株式会社としての株式発行が含まれます。これにより、合同会社はより広い投資家層にアピールし、売却の機会を増やせます。
合同会社のまま持分譲渡を行う
合同会社の持分譲渡は、会社の持分を他者に譲渡する手続きです。持分の価値評価、譲渡条件を定めた契約書の作成、登記変更というステップを含みます。この方法は、とくに社員数が少なく合意形成が容易な場合に適しており、合同会社の構造を維持しながら所有権の移転を可能にします。
吸収合併も可能
合同会社が他社に吸収合併される際は、まずは詳細な合併計画書を作成し、その計画に基づいて社員総会での承認を得たあと、合併に必要な登記変更を行います。この方法は、事業の継続性を保ちつつ、組織の再編を図る際に適しています。
合同会社が事業譲渡を選ぶメリット
合同会社にとって会社ごとの売却ではなく、事業譲渡を選ぶことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。以下では、合同会社が事業譲渡を選ぶメリットについて解説していきます。
会社を存続させることが可能
事業譲渡を行うことで、合同会社は特定の事業部門や資産を譲渡しながらも、会社自体は存続することが可能です。これは、会社が他の事業活動を継続しつつ、特定の事業のみを売却することを意味します。例えば、合同会社が複数の事業を運営している場合は事業譲渡によって非中核事業を売却し、中核事業に資源を集中させられます。
持分譲渡よりも難易度が低い
事業譲渡は、持分譲渡に比べて手続きが簡単です。社員全員の同意が必要ない場合もあるため、迅速かつ柔軟に事業の一部を売却できます。たとえば、事業譲渡では売却対象となる事業の範囲を明確に定め、特定の資産や従業員を含むかどうかを選択できます。これにより、売り手は事業の一部を選択して売却し、買い手は必要な資産のみを取得することが可能になります。
売却する事業を選択できる
事業譲渡では、売却する事業を選択する自由があります。合同会社は戦略的に事業ポートフォリオを再構築し、経営資源をもっとも効果的な事業に集中させられます。例えば、市場の変化により将来性が低いと判断された事業を売却し、成長が見込まれる新しい事業に投資することが可能です。
従業員の雇用を維持できる
事業譲渡は、従業員の雇用を維持します。彼らの経験と知識を新しい経営者に引き継ぐことで、事業の連続性を保つと同時に移行期間中の混乱を最小限に抑えられます。また、事業譲渡契約を通じて従業員の雇用条件を柔軟に調整し、新しい経営方針に適応させることが可能です。これにより、従業員は安定した職務を維持しながら、変化する経営環境の中で働き続けられます。
後継者問題を解決できる
事業譲渡は、後継者不足に直面する合同会社にとって経営の継続性を確保し、新しい視点と革新をもたらす経営者を選定する機会を提供します。このプロセスを通じて、事業は中断されることなくスムーズに移行します。戦略的な計画に基づいた経営者の交代が可能となり、事業の将来性と安定した成長が促進されます。
合同会社が事業譲渡を選ぶデメリット
合同会社が事業譲渡を選択する際は、デメリットについても考慮する必要があります。以下に、それぞれのデメリットについてまとめています。
資産や権利義務は個別に手続きする必要がある
事業譲渡においては、譲渡される事業の資産や権利義務を個別に移転する必要があります。契約の移転同意をはじめ、登記簿の変更、権利義務の精査といった複雑な手続きが伴います。これらのプロセスは時間がかかり、法的な専門知識を必要とするため、事業譲渡の際には十分な準備と専門家のアドバイスが求められます。
売却後に負債が残るリスクがある
事業譲渡後に負債が残るリスクは、未解決の負債、保証の問題、税金の問題という三つの主要な要因に分けられます。譲渡されなかった事業に関連する負債が会社に残る可能性があり、これには未解決の訴訟や保証の継続が含まれます。
また、事業譲渡による譲渡益に対する税金が発生することがあるため、適切な税務計画が必要です。これらのリスクは、事業譲渡の際に慎重な検討と計画が求められる要因です。
まとめ
合同会社の事業譲渡は、適切な方法と手続きを選ぶことで多くのメリットを得られますが、デメリットや注意点も理解した上で専門家のアドバイスを求めることが重要です。
事業譲渡を検討する際は合同会社の特性を踏まえ、最適な選択を行うことが求められます。合同会社の事業譲渡に関する詳細な情報や具体的な手続きについては、専門家に相談することをおすすめします。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。