商社業界のM&A動向!事例や売却・買収するメリットについて徹底解説
「経営している商社の売却を検討している」
「商社をM&Aするメリットを知りたい」
「商社のM&Aの事例を知りたい」
商社のM&Aを検討している方へ、以下の内容を解説します。
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- 商社のM&Aの特徴者ポイント
- 商社のM&Aのメリット
- 商社のM&A事例
脱酸素や円安などを原因として商社の経営は岐路に立っていますが、M&Aによって活路を見出せる場合もあります。
この記事では、商社のM&Aを実施する際のメリットと事例を、商社業界が抱える問題点とともに詳しく解説していきます。
商社業界の特徴とポイント
商社とは商品を販売したい会社と商品を購入したい会社を仲介するのが主な仕事です。
具体的な業務内容は投資とトレーディングです。
商社が具体的にどのような仕事をして、その市場規模はどの程度なのか、まずは業界の規模や特徴について詳しく解説していきます。
商社とは
商社の主な事業内容は投資とトレーディングです。具体的に投資とトレーディングには以下の違いがあります。
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- 投資:成長が期待できそうな業界や企業へ投資して、投資先を成長させることで利益獲得を狙う
- トレーディング:製品や資源などを開発するメーカーと、買いたい企業を結びつけて利益を狙う
たとえば、ガソリン精製会社に対して海外から原油を買い付けて販売するといった、企業が直接買い付けるのが難しい商品を仕入れて、購入を希望する企業へ販売します。
投資やトレーディングによって利益獲得を目指すのが商社の業務内容です。
商社業界全体の特徴
商社業界の特徴は基本的に次の3点です。
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- 自社で製造や開発はおこなわない
- 取り扱う商品は多岐にわたる
- 総合商社と専門商社に分かれる
商社の主な事業内容は投資とトレーディングですので、自社では製造や開発をおこなうことはしません。
あらゆる商品を多岐に取り扱う総合商社と、特定の分野の商品のみ取り扱う専門商社に分かれています。
また、基本的には利益が出る分野に対してなんでも取引するので、総合商社だとさまざまな商品を取り扱っています。
商社の市場規模
2023年の主要商社8社の合計売上額は約75兆円です。
コロナ禍によって一時、売上は落ち込みましたが、コロナから明けたことで再度売上は拡大しています。
また、商社業界は三菱商事、伊藤忠商事、三井物産の売上高は以下のようになっており、3社合計で実に業界の売上の6割以上を占めています。
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- 三菱商事:21兆円
- 伊藤忠商事:13兆円
- 三井物産:14兆円
商社の業務は、以前はエネルギーや食品などを輸入する「バルクビジネス」が主流でした。しかし、最近は成長分野へ投資し、経営にも積極的に関与する「投資ビジネス」の方が拡大しています。
大手商社はさまざまな分野の企業を傘下にもつ、企業集合体といえる存在になっています。
メーカーと商社の違いとは?
メーカーは製品を製造しますが、商社は基本的に自社で製造することはありません。
自社でモノを作るかどうかという点が、メーカーと商社の最も大きな違いでしょう。
また、メーカーは自社で販売もおこなう場合が多いですが、商社が直接エンドユーザーへ販売することもほとんどありません。
しかし、最近では消費者が製造業を買収して経営に関与するケースも多いため、メーカーと商社の区分は曖昧になっています
商社業界のM&A動向
商社業界では新規顧客の獲得や規模拡大などを目的として、M&Aが活発におこなわれています。
商社業界のM&Aに見られる傾向はおもに以下の3つです。
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- 大手企業への傘下入りを目的としたM&A
- サプライチェーンにおいて川上または川下にいる企業に対するM&A
- 特定の分野や事業に注力するためのM&A
中小企業が大手の傘下に入るため「自社を買ってもらう」ケースや、同業他社と資本業務提携をするM&Aがおこなわれています。
また、サプライチェーンにおいて川上または川下にいる企業を買収して、1社で一気通貫のサプライチェーンを保有するM&Aも活発です。
特定の分野の強化を目的としたM&Aも活発におこなわれています。たとえば、エネルギー分野が弱い商社が、エネルギー分野に強い商社を売却して総合力を高めるケースなどがあります。
以前の商社は海外からエネルギーや食品を買い付けて、国内に販売するトレーディング事業が主な業務でした。
しかし、最近では、投資事業が主な業務になっているので、商社業界は以前よりもさらに活発にM&Aを実施しています。
商社のあり方が多様化・総合化する中で、M&Aはさまざまな目的で活発に実施されています。
商社のM&Aの3つのメリット
商社業界ではM&Aが活発におこなわれていますが、その理由は主に以下の3つのメリットがあります。
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- 事業の成長や規模拡大や海外展開が期待できる
- 顧客の獲得や開拓が容易にできる
- シナジー効果による成長が期待できる
商社においてM&Aを実施する3つのメリットについて詳しく解説していきます。
1.事業の成長や規模拡大や海外展開が期待できる
買収によって規模拡大や海外展開が期待できます。
とくに海外への販路拡大には商社買収が効果的です。
一から海外に販路を広げるには長い時間とお金が必要ですが、商社を買収することで、短期間かつ低コストで開拓できます。
また、商社に買収される側にとっても、買収によって商社のグループに加入できます。グループ内の多様な企業取引や提携できるので、M&Aによって販路拡大やシナジー効果が期待できます。
2.顧客の獲得や開拓が容易にできる
商社が抱えている多くの顧客や販路を、買収によって獲得できる点もメリットです。
商社は多岐にわたる商品や製品を取り扱い、豊富な人脈を保有しています。
買収によってこれらの経営資源を獲得すれば、顧客獲得や販路開拓が容易になり事業のさらなる成長が期待できるでしょう。
M&Aによって商社を買収することで、これまで自社が販売したことがないターゲットに対して販売できる点もメリットでしょう。
3.シナジー効果による成長が期待できる
商社は傘下に多くの企業を抱えています。
M&Aによって大手商社の傘下になれば、グループ内のさまざまな企業と取引や提携ができ、人材の交流も可能です。
自社単独であれば交流の機会がなかった分野の人材や技術と交流できるので、シナジー効果が生まれやすくなります。
「自社単独ではこれ以上の成長は限界」と感じた場合には、M&Aを実施することで想定以上に成長できる可能性があります。
商社のM&A事例
商社においてM&Aが実施された以下の3つの事例を解説していきます。
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- 包装商社と繊維・工業品商社
- 医療専門商社×自動車部品製造
- 梱包・包装資材商社×薬品商社
それぞれのM&Aの目的や、どのような効果が生まれたのか、解説していきます。
包装商社と繊維・工業品商社
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- 譲渡企業:包装用フィルムの販売をおこなう商社
- 譲受企業:繊維や工業製品を取り扱う商社
包装用フィルムの販売をおこなうGSIクレオスと、繊維や工業製品を取り扱う桜物産がM&Aをおこなった事例です。
桜物産は、化学品や繊維などを使用して模型用塗料やアパレルなどオリジナル製品の生産や販売をおこなっています。
GSIクレオスの株式を100%取得し完全子会社化することで、既存の包装資材の販売ルートで桜物産が製造した商品を販売できるようになりました。
その結果、譲受企業が製造した環境に配慮した食品向け・工業向けフィルムの販路が拡大し、競争力が向上しました。
販路拡大を目的とした商社のM&Aの成功事例だといえるでしょう。
医療専門商社×自動車部品製造
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- 譲渡企業:災害医療に特化した専門商社
- 譲受企業:自動車エンジン部品を製造する製造業
災害医療に特化した専門商社のノルメカエイシアと、自動車エンジン部品を製造する製造業の日本ピストンリングという一見まったく異なる分野の企業のM&Aが成功した事例です。
譲受企業である自動車部品製造会社は、新分野として医療機器の開発もおこなっていました。
そこで、医療分野への販売が強い会社を買収して、自社の医療機器の販売を強化しようという取り組みです。
M&Aによって医療専門商社であるノルメカエイシアを完全子会社化することで、医療機関への顧客基盤を獲得して医療分野へ事業を拡大し、事業ポートフォリオの転換を図っています。
梱包・包装資材商社×薬品商社
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- 譲渡企業:愛知県名古屋市を拠点とする梱包資材・包装資材・物流機器の専門商社
- 譲受企業:愛知県豊橋市を拠点とする化学工業薬品専門の商社、自社配送や設備の設置もおこなっている。
顧客エリアと自社配送分野を目指す神谷薬品が、後継者不在のため事業承継先を探している名弘商事を買収した事例です。
神谷薬品が100%の株式取得によって完全子会社化したことによって、名弘商事が保有する名古屋方面への販路と物流機器の取引ノウハウを獲得し、事業拡大に成功しています。
M&Aによって譲受企業が販路と新分野のノウハウを同時に獲得できた事例です。
商社業界が抱える3つの問題点
商社業界は以下の3つの問題点を抱えていることが指摘されています。
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- トレーディングの需要が減っている
- 脱炭素による資源価格の下落
- ポートフォリオの見直しに迫られている
M&Aを実施すれば、これらの問題を解決できる可能性があります。
商社業界が抱える3つの問題点を解説していきます。
1.トレーディングの需要が減っている
これまで商社業界の売上を支えてきたトレーディングの需要は、近年減少傾向です。
最近では取引のオンライン化によって、商社のような中間の業者を介さずにメーカーと顧客が直接やり取りするケースが多くなっています。
これまでのように「商社を介さなければ手に入らない」という製品が少なくなっており、今後もこの傾向は拡大していくでしょう。
そのため、今後もトレーディングの需要は減少し続けると考えられており、商社はトレーディングに代わる新たな収益源をいかに見つけられるのかが、業績の維持拡大に向けたポイントとなりそうです。
2.脱炭素による資源価格の下落
脱炭素の流れは国際的なトレンドです。
現在、国際情勢の不安定化などを原因として原油価格をはじめとした化石燃料エネルギーの価格は高騰し、商社の売上は上昇しています。
しかし、長期的なスパンで考えると、脱酸素の流れがアメリカや中国まで巻き込んだ国際的な動きになったとき、化石燃料の需要は減少していくでしょう。
これまで商社は化石燃料といった資源のトレーディングで利益を得てきましたが、エネルギーの需要そのものが減少していけば商社の売上も減少する可能性があります。
今後、商社は投資分野でも利益を確保する必要があるでしょう。
3.ポートフォリオの見直しに迫られている
トレーディングの需要、化石燃料エネルギーの需要が減少している中で、商社は事業ポートフォリオの見直しに迫られています。
以前はエネルギーや食品の輸入が事業ポートフォリオの多くを占めていましたが、需要が減少する中でトレーディング業務だけに頼るわけには行きません。
今後は、収益が見込める企業や分野へ投資をおこない、事業を育てる投資分野にポートフォリオの比重を傾けていく必要があるでしょう。
商社の事業ポートフォリオの比重がトレーディングから投資へと変化する中で、M&Aは収益確保のために重要な選択肢となるでしょう。
商社のM&Aは専門家へ相談を
数ある業種の中でも商社はM&Aを活発におこなっている業界の一つです。
これまで商社の売上を支えてきたのは、エネルギー資源や食品などを日本に輸入するトレーディング事業です。
しかし、脱炭素の流れの中で、化石燃料をはじめとした資源の需要は長期的に減少していくことが見込まれており、インターネットの普及によって商社を介して製品を輸入する需要も減少しています。
今後、商社は主力としてきたトレーディング事業から投資事業へと事業ポートフォリオを変えていく必要があります。
そのため、M&Aは商社にとって今後ますます重要になっていくでしょう。
ご紹介したように、一見するとまったく関係ないと考えられる分野の企業同士でM&Aが成功した事例はいくつもあります。
自社が考えている以上に、自社を評価してくれる会社が多く存在する可能性があるので、まずは専門家へ相談してみましょう。
ディスクリプション
商社業界のM&Aの特徴やメリット・デメリットについて解説します。商社は業界全体が岐路に立っているため、経営の方針転換が必要な業種です。商社のM&Aの特徴は注意点をしっかり理解しましょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。