工場売却の2つの方法とは?売却時の注意点も詳しく解説
「経営している工場の売却を検討している」
「工場を売却する方法を知りたい」
「工場売却の流れ知りたい」
工場の売却や事業承継を検討している方へ、以下の内容を解説します。
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- 工場売却のメリット・デメリット
- 工場を売却する2つの方法
- 工場を売却する流れ
工場は不動産として売却するのか、M&Aで売却するのかによって流れが変わり、得られるメリットも異なります。
目的に応じた最適な方法で工場を売却できるよう、この記事では方法ごとのメリットとデメリットや工場売却の流れを解説していきます。
工場売却のメリット・デメリット
まずは工場売却のメリットとデメリットを解説していきます。
工場の売却は資金繰りや事業承継などの面でメリットが多いですが、売却費用や税金面の注意点もあります。
工場売却のメリット
工場売却のメリットは以下の2点です。
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- まとまった資金を得られて借入金返済や資金繰りができる
- 不採算部門を売却してコア業務に集中できる
- 事業承継によって従業員の雇用や技術を守れる
不要になった工場や建物、事業の一部を売却すれば、借入金の返済やコア業務への投資などが可能になります。
また、銀行などの外部の利害関係者は、不要な不動産や設備を保有している企業に対して低く評価する傾向にあります。そのため売却して現金化することで外部からの評価向上も期待できるでしょう。
また、経営者が高齢化して後継者不在になっている町工場が多いことは、社会的な問題になっています。このような工場をM&Aで事業承継することで、技術やブランドや従業員の雇用を守れます。
工場売却のデメリットや注意点
工場売却には以下のデメリットもあるので注意してください。
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- コストがかかる可能性がある
- 売却益に対する税金がかかる
工場を売却して更地で売却する場合には解体費用がかかり、長年の使用によって土壌が汚染されていた場合には浄化費用も必要になることがあります。
また、古い工場を売却し利益が出た場合は、税金がかかる可能性もあります。
売却の際にかかるコストや税金についてもシミュレーションしたうえで、工場売却を検討してください。
工場売却には2つの方法がある
工場を売却する方法には以下の2つの方法があります。
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- 不動産として売却する
- M&Aで売却する
建物設備だけを売却するか、事業そのものを売却するか、また不動産の取得を目的としながらもあえてM&Aという形をとることもあります。
最適な方法で工場を売却するために、売却方法ごとの違いや特徴を理解しておくことが重要です。
それぞれの方法における詳細な売却法を解説していきます。
工場を不動産として売却する
工場を不動産として売却する方法はさらに以下の4つの方法に大別されます。
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- 建物と土地を一緒に売却する
- 建物を解体して土地だけで売却する
- 借地権と工場をあわせて売却する
- リースバックで売却後も継続利用
不動産として売却する方法は、工場の権利関係や売却後の用途などによって最適な方法は異なります。
不動産として工場を売却するための4つの方法を詳しく解説していきます。
1.建物と土地を一緒に売却する
建物と土地を一緒に売却する方法です。
工場としての居抜き物件で売却するので、工場内部の設備も一緒に売却するのが一般的です。
減価償却が終了した簿価のない建物まで売却できるので、高値で売却できる方法です。
しかし、同じような業種を経営している会社でなければ、工場を設備ごと購入してくれる可能性が低いので売却にはどうしても時間がかかります。
そのため、工場売却に強い不動産会社や、地域の企業のニーズを把握している地元金融機関などに相談する必要があります。
高い金額で工場を売却できる方法なので、売却までの時間を急いでいないのであれば、建物と土地を一緒に売却するとよいでしょう。
2.建物を解体して土地だけで売却する
建物を解体し土地だけで売却する方法であれば、比較的早く売却できる可能性があります。
売却した不動産ディベロッパーが建物の解体や土壌改良を行うケースと、自社で建物を解体して土壌改良を行う方法のいずれかに分かれます。
いずれの方法も解体費用や土壌入れ替え費用がかかるので、建物と土地を一緒に売却するよりも売却価格が低くなるのがデメリットです。
会社を廃業する場合や、既存の工場を壊して新たな場所へ移転する場合などに利用される方法です。
3.借地権と工場をあわせて売却する
借地上に工場が建設されている場合には、建物と借地権を一緒に売却します。
工場は簿価があるのであれば簿価が売却価格の基準となりますが、簿価がないのであれば当事者同士の話し合いになるのが一般的です。ただし、借地上に建っているため市場価格よりも安くなるでしょう。
借地権の算出方法は「土地の評価額×借地権割合」で算出します。
借地権割合は地域によって決められており、国税庁ホームページの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」 で簡単に調べられます。
4.リースバックで売却後も継続利用する
工場を売却後も使用する方法がリースバックです。リースバックとは不動産を売却し、売却後に賃料を支払って引き続き当該不動産を借りる方法です。
まとまった資金が必要だが工場を手放せない場合や、できる限り固定資産を売却して貸借対照表を整理したい場合に活用できます。
ただし、リースバックで支払う家賃は相場よりも高くなり、売却価格は通常の不動産売却よりも安くなるので注意してください。
M&Aで工場を売却する2つの方法
M&Aで工場を売却する際には以下の2つの方法に分かれます。
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- 不動産M&A
- 一般のM&A
それぞれの方法のメリットとデメリットを詳しくみていきましょう。
1.不動産M&Aで売却する
不動産M&Aとは不動産の取得・譲渡を目的として実施されるM&Aです。
不動産の売却を行うより、M&Aという形をとった方が節税効果が高いため「不動産の取得。譲渡を目的としてM&Aを実施する」という方法が採用されることがあります。
通常、不動産を売却した場合、買い手と売り手には以下のような税金が課税されます。
税金を支払う人 | 課税される税金 |
買い手 | 不動産取得税 登録免許税 |
売り手 | 売却益に対して法人税と事業税 建物の売却には消費税 |
しかし、M&Aで不動産を売却する方法であれば、売り手の株式譲渡所得に対して所得税が課税されるだけです。
買い手には税金が課税されず、株式譲渡所得に対して課税される所得税は20%と、不動産売却で課税される税金よりも税率は大きく下がります。
価値のある不動産を有している会社が、経営難や後継者不在に陥った場合に利用されるケースが多いです。
また、資金調達のために不動産のみを売却する場合も、当該不動産を含む事業だけを会社分割し、分割した会社を買収する方法も採用されることがあります。
M&A仲介業者と相談し、不動産売買よりもM&Aの方が金銭的なメリットが多い場合には利用しましょう。
ただし、不動産売買の仲介手数料の方がM&Aよりも安いので、不動産の評価額が高額な場合でないと不動産M&Aに金銭的なメリットはありません。
2.一般のM&Aで売却する
工場の取得を希望している会社の中には、工場が保有している人材やノウハウや取引先も必要としているケースも多々あります。
このような場合には、工場に関連する事業を丸々一般のM&Aで譲渡します。
事業承継などの場面でよく利用される方法です。
不動産を売却するだけでなく、従業員の雇用や長年培ったブランド力なども引き継ぐ点は大きな魅力です。
後継者不在の場合や事業の一部を売却して選択と集中を図りたい場合などは、一般のM&Aでの工場売却を検討しましょう。
工場を売却する流れと必要書類
工場を売却する流れを、不動産として売却する場合、M&Aで売却する場合についてそれぞれ解説していきます。
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- 不動産として売却する流れ
- M&Aで売却する流れ
- 工場売却に必要な書類
それぞれ解説するので参考にしてみてください。
不動産として売却する流れ
工場を不動産として売却する流れは以下のとおりです。
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- 不動産会社へ査定を依頼する
- 不動産会社と媒介契約を締結する
- 不動産会社による売却活用
- 購入希望者の内見
- 購入希望者と売買条件の交渉
- 不動産売買契約
- 代金の支払い・引き渡し
基本的に工場を売却する流れは通常の不動産売却と同じです。
不動産会社に買い手を見つけてもらうためには、不動産会社と媒介契約を締結しなければなりません。
媒介契約には以下の3つの種類があります。
複数社との契約 | レインズへの登録 | 売主への報告義務 | 自己発見取引 | |
一般媒介契約 | 可能 | 登録義務なし | 報告義務なし | 可能 |
専任媒介契約 | 不可 | 契約締結から5日以内に登録 | 2週間に1回以上 | 可能 |
専属専任媒介契約 | 不可 | 契約締結から5日以内に登録 | 1週間に1回以上 | 不可 |
信頼できる専門性の高い業者を見つけられるのであれば、専属もしくは専任媒介契約を締結するのがよいでしょう。
複数社に売却活動を任せたい場合や、どの業者が信頼できるかがわからないのであれば、一般媒介契約を締結するのが無難です。
また、不動産会社に売却を任せた場合、以下の金額を上限とした仲介手数料の支払いが必要です。
売買価格 | 仲介手数料 |
200万円以下 | 売買価格の5%+消費税 |
200万円超400万円以下 | 売買価格の4%+2万円+消費税 |
400万円超 | 売買価格の3%+6万円+消費税 |
不動産として売却する場合はM&Aの費用はかかりませんが、不動産会社へ支払う仲介手数料が発生します。
なお、工場の売却は不動産売却の中では特殊なので、工場売却のノウハウがある不動産会社へ相談しましょう。
M&A仲介会社や地元の金融機関も、工場の買収を希望する会社を紹介してくれる可能性があるので相談してください。
M&Aで売却する流れ
M&Aで工場を売却する流れは次のとおりです。
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- M&A仲介業者へ相談
- 売却戦略の策定
- M&A仲介業者による買い手探し
- 相手先の選定
- デューデリジェンス
- 相手先との交渉
- 契約書締結
- クロージング・PMI
基本的にM&Aで売却する場合の流れは通常のM&Aと同じです。
ただし、不動産M&Aを実施したい場合には、不動産の売却に強い業者でなければなりません。
スムーズに売却を進めるために、業者の実績を確認し不動産M&Aの実績がある業者へ相談するようにしてください。
工場売却に必要な書類
工場売却には以下のような書類が必要になります。
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- 登記識別情報通知書
- 不動産登記簿謄本
- 固定資産税の納税通知書
- 工場(指定作業場)廃止届出書の控え(廃業する場合)
- 建築確認済証
- 検査済証
- 公図
- 建物図面(工場の図面)
これらは基本的に不動産売却にかかる部分のみで必要になる書類です。
一般のM&Aや通常のM&Aで売却する場合には、上記の不動産売却で必要になる書類に加えて以下のような書類も必要になるので注意してください。
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- 財務諸表
- 納税証明書
- 商業登記簿謄本等
なお、M&A仲介業者へ依頼すれば、必要な書類の準備は仲介業者がサポートしてくれます。
工場売却は不動産会社かM&Aは専門家へ相談を
工場を売却したいのであれば、まずは自社がどのような形で売却したいのかを決める必要があります。
使っていない工場を資金化したい場合や、単に不動産として工場を売却したいのであれば不動産会社へ相談するのがよいでしょう。
売却後も工場を使用したいのであればリースバック業者がおすすめです。
また、事業承継などを目的として、工場で働く従業員も含めた事業全体として工場を売却したいのであれば、M&Aを実施する必要があります。
このように、工場の売却はどのような形で売却したいのかによって相談先が異なるので、まずは自社が希望する売却の形態を明確にすることが重要です。
また、M&Aで売却するのであれば、不動産M&Aと一般のM&Aのいずれかの方法を選択できます。
まずは専門家へ相談し、最適な方法で工場売却を進めていきましょう。
ディスクリプション
工場を売却する方法を解説します。工場の売却は不動産として売却する方法とM&Aによって売却する方法に分かれます。それぞれの違いを理解して自社にとって最適な方法で売却しましょう。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。