ホワイトナイトとはどのような意味?実行すべきタイミングやデメリットを解説
「ホワイトナイトとはどういう意味なの?」「ホワイトナイトはどのタイミングで実行すればよいの?」というように、ホワイトナイトについて詳しく知りたい人も多いことでしょう。
ホワイトナイトとは敵対的買収を防ぐための手段であり、実行すべきタイミングがあります。
本記事ではホワイトナイトとはどのような手段なのか、いつ実行すればよいのかなどについて解説します。ホワイトナイトについて詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
目次
ホワイトナイトとは
ホワイトナイトとは、敵対的買収を防ぐための防衛策です。
具体的にいうと、敵対的買収を仕掛けられた際に友好的な会社に買収を依頼し、友好的な会社に合併してもらって敵対的買収を防ぐことです。
敵対的買収は敵対的TOBともいわれ、買収対象企業の取締役会の同意を取り付けずに買収を仕掛けることをいいます。
敵対的買収で企業を買収されると、経営陣が一新されるため、敵対する企業の方針で事業が進むおそれが出てきます。
一般的に社員の雇用に関しては守れるものの、経営方針の変化により、待遇や労働環境が変わってしまうケースもあるため、会社や社員を守るために敵対的買収を仕掛けられたときには対策を講じなければなりません。
敵対的買収を仕掛けられたときの防衛策の1つがホワイトナイトです。
なお、TOBについて詳しく知りたい人は、こちらの記事を参照ください。
内部リンク「TOB」
ホワイトナイトとその他の買収防衛策の違い
敵対的買収の防衛策はホワイトナイト以外にも、次の方法があります。
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- クラウンジュエル
- ポイズンピル
- ゴールデンパラシュート
- パックマンディフェンス
ホワイトナイト以外の防衛策も理解し、敵対的買収を防ぐよう準備しておきましょう。
クラウンジュエル
クラウンジュエルとは、収益性の高い事業や価値のある資産を売却し買収者の意欲を削ぐ方法です。
買収される会社を「王冠」と見立て、王冠から宝石を取って価値を下げることからクラウンジュエルと呼ばれます。
事業譲渡については、会社法上の株主総会の特別議決が必要であるものの、重要な財産の処分は取締役会で決定できます。ただし、クラウンジュエルを実行した判断について、取締役の善管注意義務違反を問われる危険性があることに注意しなければなりません。
ポイズンピル
ポイズンピルとは、ライツプランとも呼ばれる敵対的買収の防止策です。
事前に買収者が実行できないオプションを付与しておき、敵対的買収が仕掛けられた際に買収者以外の株主がオプションを発動し、買収コストを増大させて買収を諦めさせる方法です。
ポイズンピルはアメリカで行われている代表的な敵対的買収の防衛策ですが、日本の会社法では同様の手続きは取れません。ポイズンピルと似た方法である新株予約権を活用して対策を行います。
なお、新株予約権とは、特定の条件で新たに発行される株式を購入する権利です。条件を満たせば、会社が規定した金額で新株を受け取れます。
ゴールデンパラシュート
ゴールデンパラシュートとは、敵対的買収を仕掛けられた際に経営陣の退職金を巨額にする方法です。
経営金の退職金を巨額にしておくことで、買収企業の資金を流出させるのが狙いです。ただし、ゴールデンパラシュートは経営陣の保険という意味合いが強く、他の方法と併用することで効果が得られると考えておくとよいでしょう。
なお、アメリカではゴールデンパラシュートを実行すると、むしろ敵対的買収を促す可能性があると指摘されているため実行には気を付けなければなりません。
パックマンディフェンス
パックマンディフェンスとは、敵対的買収を仕掛けてきた会社に対して逆に自ら買収を仕掛ける方法です。
パックマンディフェンスを実行するには多くの資金を必要とするため、自社の資産を売却しなければ対応できないおそれもあります。しかし、自社の資産を売却して対応することで買収する魅力が低下し、敵対会社からの買収が止まる可能性もあります。
また、買収を仕掛けた敵対会社はパックマンディフェンスをされることで、買収作業で多くの資金を費やしてしまい、第三者から買収を仕掛けられるリスクを考慮しなければなりません。
パックマンディフェンスは、敵対会社にも自社にも大きなリスクを発生させる防止方法といえます。
ホワイトナイトを実行すべきタイミング
ホワイトナイトを実行すべきタイミングは、敵対的買収を仕掛けられた直後です。
敵対的買収を仕掛けられた後は、次の手順で進めていきます。
Step1.敵対会社が敵対的買収を仕掛けられる
Step2.ホワイトナイトを探し支援を依頼する
Step3.ホワイトナイトとして依頼を受けた会社が買収の準備を進める
Step4.敵対的買収が実行される
Step5.ホワイトナイトに敵対的買収よりも高額なTOBを実行してもらう
Step6.ホワイトナイトによるM&A実行
ホワイトナイトを実行するまでには、多くの手続きが必要です。手続きの中で最も大切なのは、ホワイトナイトとなる会社に対しての依頼です。ホワイトナイトになれるような財務のしっかりした会社と、信頼関係が築けているかが実行できるかどうかの鍵になります。
ホワイトナイト売り手のメリット・デメリット
ホワイトナイトには売り手・買い手ともにメリット・デメリットがあります。
まずは売り手がホワイトナイトを実行するメリット・デメリットについて解説します。
ホワイトナイト売り手のメリット
ホワイトナイトを売り手が実行するメリットは、次のとおりです。
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- 敵対的買収を防止できる
- 信頼できる会社に買収してもらうことで従業員の待遇が守られる可能性が高い
- 敵対的買収の予防策ではないため対策に必要な費用を計上しなくてもよい
ホワイトナイトを実行する最大のメリットは、敵対的買収を阻止できることです。信頼できる会社にM&Aを行ってもらうことで、社員の待遇や労働環境が守られる可能性が高まります。
また、ホワイトナイトを実行するのは協力会社であり、自社ではないためコストがかかりません。ホワイトナイトは敵対的買収の予防策ではなく、対策費用を毎年計上する必要がないのもメリットです。
ホワイトナイト売り手のデメリット
ホワイトナイトを売り手が実行するデメリットは、次のとおりです。
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- M&Aの実行で自社の経営権は他社に移ってしまう
- ホワイトナイトを実行した会社が経営方針を守ってくれるとは限らない
- ホワイトナイトを実行すると経営権を譲渡する意思が知れ渡ってしまう
- 敵対会社よりも資金が潤沢な会社が買収してくるおそれもある
ホワイトナイトを実行すると敵対会社、ホワイトナイトとなった会社のどちらかにM&Aされることには変わりなく、経営権は他の会社に移ってしまいます。
経営権が移ってしまうと、経営方針の変更が行われる可能性があり、協力会社だとしても社員に影響を与えてしまうおそれがあることを考慮しなければなりません。
また、ホワイトナイトを実行したことで、経営権を譲渡する意思が知れ渡ってしまいます。結果、敵対会社のTOBよりも、第三者に高額でTOBを実行されるリスクが発生してしまいます。
ホワイトナイト買い手のメリット・デメリット
ホワイトナイトは買い手にとってもメリット・デメリットがあります。
つづいては、買い手がホワイトナイトを実行するメリット・デメリットを解説します。
ホワイトナイト買い手のメリット
ホワイトナイトを買い手が実行するメリットは、次のとおりです。
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- 競争相手の拡大をホワイトナイトで阻止できる
- 買収した会社とのシナジー効果が得られる
ホワイトナイトを実行する場合、買収を実行する協力会社にもメリットがあります。敵対的買収を仕掛けた会社が競争相手にあたる会社だった場合、敵対的買収が成功すると強力な相手になってしまうおそれがあります。
ホワイトナイトを実行すれば競争相手の競争力拡大を防ぎつつ、買収した会社とのシナジー効果を活用して自社の事業を拡大することが可能です。
ホワイトナイト買い手のデメリット
ホワイトナイトを買い手が実行するデメリットは、次のとおりです。
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- 資金を早急に準備しなければならない
- M&Aに大きな手間とコストがかかる
- M&A実行したからといって業績が上がるとは限らない
ホワイトナイトを実行するのは敵対的買収を仕掛けられた後になるため、対抗するTOBを実施するのに資金などを早急に用意しなければなりません。ホワイトナイトに成功した場合、M&Aを進めていくことになり、大きな手間とコストがかかります。
M&Aを実行したとしても業績が必ず上がるとは限りません。ホワイトナイトを実行する会社には大きなリスクが伴うことを理解し、協力関係が強くないと手助けしてもらえないことを理解しておくべきでしょう。
ホワイトナイトとして適切な会社の条件
ホワイトナイトとして適切な会社の条件は、次のとおりです。
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- 財務状況がよい会社
- キャッシュが豊富な会社
- 信頼関係のある会社
ホワイトナイトの実行を依頼すべき会社はどこでもよいということはないため、どのような会社に依頼すべきなのか理解しておく必要があります。
財務状況がよい会社
財務状況がよい会社は、ホワイトナイトに適任です。
ホワイトナイトに対応する場合、協力会社の中には金融機関の融資を受けて実行します。
しかし、ホワイトナイトは急な依頼で実行するため、業績が悪化している状態の会社に依頼しても融資が受けられず、実行できないおそれがあるため注意しなければなりません。
そのため、ホワイトナイトを依頼する会社は、急な出来事に対応できるような財務状況がよい会社が適当といえます。
キャッシュが豊富な会社
キャッシュが豊富な会社は、ホワイトナイトに向いています。
ホワイトナイトは一般的に3ヶ月程度で完了するため、短期間に相当なキャッシュを使わなければなりません。敵対的買収よりも高い金額でTOBを成立させる必要があります。また、第三者割当増資や新株予約権を行うにも多くのキャッシュを消費します。
クラウンジュエルを実行する会社から事業や、子会社などを譲り受けるとしても多くのキャッシュが必要です。そのため、ホワイトナイトを実行する会社は、ほとんどのケースで大会社となります。
信頼関係のある会社
長年付き合いがあるなど信頼関係ができている会社は、ホワイトナイトに合っています。
ホワイトナイトに選択する会社が、M&A後に経営方針や従業の待遇を守ってくれなければ、敵対会社にM&Aされたのと同じことになってしまいます。そのため、経営方針などを守ってくれる会社に、ホワイトナイトを実行してもらわなければなりません。
ホワイトナイトの事例
ホワイトナイトの実行事例は、次のとおりです。
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- ソフトバンク・インベストメントがニッポン放送のホワイトナイトになった事例
- 読売新聞などの新聞社が東京機械のホワイトナイトになった事例
- イオンがオリジン東秀のホワイトナイトになった事例
ホワイトナイトを実施した企業はいくつか存在しており、事例の内容を理解することでどのような効果が得られるのか確認できます。
ソフトバンク・インベストメントがニッポン放送のホワイトナイトになった事例
平成17年ライブドアが、ニッポン放送の株式を株式取引時間外に取得しました。
ニッポン放送はフジテレビの筆頭株主であり、ライブドアはフジテレビへの発言権を得るために敵対的買収を仕掛けました。この敵対的買収に対してソフトバンク・インベストメントが、ニッポン放送の保有する13.88%分のフジテレビ株を5年間借り受けるという対策を講じます。
結果、ライブドアの敵対的買収は進まなくなり、ライブドアとフジテレビは和解、ソフトバンク・インベストメントは借り受けた株式をニッポン放送に返却して終結することとなりました。
ニッポン放送とソフトバンク・インベストメントには深いつながりがなかったのにもかかわらず、ホワイトナイトを買って出た珍しいケースです。
読売新聞などの新聞社が東京機械製作所のホワイトナイトになった事例
令和3年中国・香港系の投資会社アジアインベストメントファンドと親会社のアジア開発キャピタルが、東京機械製作所に対して敵対的買収を仕掛けました。
東京機械製作所は日本で2つしかない新聞輪転機メーカーです。敵対的買収で経営方針が変わると新聞業界に大きな損失が起きるとして、読売新聞を主とした新聞社各社がホワイトナイトとして名乗りを挙げます。
結果、読売新聞などの新聞各社が、アジア開発が保有する約40%の株式のうち32%を買取ることで合意します。株式売却の結果、特別損失16億円を計上することになりました。
イオンがオリジン東秀のホワイトナイトになった事例
平成17年ドン・キホーテはコンビニエンス事業への参画を狙い、オリジン東秀創業者の遺族から株式を買取ります。ドン・キホーテはオリジン東秀を傘下に収めて業務提携をしコンビニエンス事業を推進しようとします。しかし、意向の違いにより業務提携はうまく進まず、ドン・キホーテがオリジン東秀に対して敵対的買収を行いました。
敵対的買収に対しオリジン東秀は、イオンにホワイトナイトなるよう依頼します。
結果、イオンはオリジン東秀を526億円で買収し、ドン・キホーテが保有していたオリジン東秀の株式をイオンに売却しました。
ホワイトナイトとは敵対的買収を防ぐための手法
ホワイトナイトとは、敵対的買収を防ぐための手法です。
敵対的買収を仕掛けられ自衛できない場合、信頼できる友好的な会社にM&Aを依頼し、敵対会社の買収を防ぎます。
ただし、敵対会社からの買収を防げたとしても、M&Aされることには変わらないなどのデメリットがあります。
また、ホワイトナイトを実行できる会社は限られており、実行すべきタイミングがあることにも留意しておかなければなりません。
ホワイトナイトを成功させるのには知識や人脈、適切な判断など多くの要素が必要になることを覚えておきましょう。
ディスクリプション
ホワイトナイトとは敵対的買収の対策手段です。しかし、実行すべきタイミングやデメリットもあり、どのような対策方法なのか理解しておく必要があります。本記事ではホワイトナイトについて詳しく解説します。万が一のときのための対策を知りたい人は参考にしてください。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。