独占交渉権とは?M&Aにおける意味や優先交渉権との違い、合意書の条項まで徹底解説
独占交渉権とは買収側が売却側に対して一定期間独占的に交渉が進められる権利を意味します。
今回こちらの記事では、
・独占交渉権の概要
・独占交渉権と基本合意書の関係
・独占交渉権に合意するメリット
・独占交渉権に合意する注意点
など全般的にわかりやすく解説します。
M&Aにおける独占交渉権とは
M&Aにおける独占交渉権は1社のみに交渉の権利を与え、譲渡企業と交渉することです。
英語でExclusive Negotiating Rightsと呼ばれており、売却側企業に対して自社以外の企業とのM&Aを禁じさせる効果があります。
独占交渉権は買収側企業と売却側企業のどちらにとってもメリットが大きいものではありません。
買収側企業に利益の大きい仕組みになっているため、売却側としては慎重に考えて採用するかどうか考えることが重要です。
以下でM&Aにおける独占交渉権の概要について解説します。
独占交渉権と優先交渉権の違い
独占交渉権と優先交渉権の間には権利を付与する対象企業の数に違いが見られています。
優先交渉権はいくつかの買収側企業が他の企業よりも優先的に交渉できる権利です。
売却側企業は独占交渉権ではなく優先交渉権に留めることで、新しい交渉相手を探したり、他の候補者との交渉を継続したりすることが可能です。
独占交渉権は1社のみに与えられる権利ですが、優先交渉権は複数社に交渉権を与えられます。
また、独占交渉権は買収側企業1社のみが交渉できる権利で、買収側にメリットの大きい仕組みになっています。
しかし、優先交渉権は売却側企業が複数社の買収側企業と交渉できる権利で、売却側にメリットが大きい権利です。
どちらの視点でM&Aを実施するかで行使する権利を決めてください。
独占交渉権の期間
独占交渉権の期間は2カ月から3カ月ほどが多いです。
独占交渉権が効力を持つ間にM&Aの最終契約を締結しなければ、別の買収企業が介入した場合にM&Aが中止されやすいです。
しかし、長期間独占交渉権を設定しても、別の買収企業によりよい条件で企業・事業を譲渡する機会を奪われてしまう可能性が出てきます。
売却側企業にも配慮し、一般的に半年以内を目安に独占交渉権が設定されます。
ただ、M&Aの手続きと並行して独占交渉権を行使するための対応が必要です。
並行して準備することを考慮すると、半年以内を目安にやや長めに独占交渉権の期間を設定してみてください。
独占交渉権の法的拘束力
独占交渉権を付与する際には、法的拘束力を持たせることが一般的です。
売却側企業が買収側企業の交渉に素直に応じる状況を作る必要があります。
法的拘束力がない状態だと、売却側企業が他の企業の交渉に応じる可能性が高くなってしまいます。
具体的には、基本合意書において独占交渉権を設定するとともに、売却側企業の違反が確認された場合に、一定の違約金を支払わせる条項を設けるケースがあります。
独占交渉権には法的拘束力を与えることを忘れないでください。
ちなみに、中小M&Aガイドラインでも買収側企業の独占的交渉権などに対して法的拘束力を認めることと記載されています。
引用元:中小 M&A ガイドライン(第2版) -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-
独占交渉権と基本合意書の関係
基本合意書にて、独占交渉権を得るために、違反行為が見られた場合は違約金が発生するなどの法的拘束力を持たせることが一般的です。
そのため、独占交渉権と基本合意書の関係について押さえておく必要があります。
独占交渉権に法的拘束力を持たせるための手続きについて以下の項目を把握しておきましょう。
- 基本合意書とは
- 独占交渉権の付与
- 基本合意契約書の条項
以下でそれぞれの詳細について解説します。
基本合意書とは
基本合意書はM&Aを進める際の条件を確認するために締結する契約書です。
M&Aを進める際に、双方の経営者同士のトップ面談を進めて条件をすり合わせていきます。
トップ面談ですり合わせて決まった内容を基本合意書に記載します。
基本合意書にはM&Aのスキームや譲渡価額、デューデリジェンスの内容などの項目を記載することが多いです。
上記の項目と合わせて独占交渉権の内容について記載するかどうかを検討するようにしましょう。
独占交渉権の付与
独占交渉権についての事項は基本合意書に記載されます。
売却側企業にとって独占交渉権にはほとんどメリットがありません。
売却側企業としては、内部情報を調査しておらず、M&Aが確実に実施されるわけではない状況では他の企業との交渉の余地を残しておきたいと考えるのが一般的です。
しかし、他に買収相手とする企業を見つけられていない場合、取引を確実に進めるために独占交渉権を認めるケースが多いです。
買収側企業としては、対象の売却側企業が他の企業と交渉する可能性が残されている場合では独占交渉権を設定したほうがよいです。
基本合意契約書の条項
基本合意契約書に記載される項目は上記の通りです。
独占交渉権は基本合意契約書に上記の項目と合わせて記載されます。
独占交渉権を行使させない場合は、基本合意書に独占交渉権の内容を記載する必要はありません。
独占交渉権によるM&Aのプロセス
独占交渉権を採用するM&Aを実施する場合は、独占交渉中に以下のプロセスで手続きを進めてください。
- 1.デューデリジェンス
- 2.最終条件の調整
- 3.譲渡契約書の作成・捺印
以下でそれぞれの詳細について解説します。
1.デューデリジェンス
基本合意書を締結した後、買収側企業は譲り受ける事業のデューデリジェンスを実施します。
デューデリジェンスは「デューデリ」や「DD」で略されることが多く、日本語では「買収監査」を意味しています。
買収側企業が交渉相手の企業・事業等の実態を正確に把握し、リスクの有無を理解した上でM&Aを実施するために調査が必要です。
デューデリジェンス不足で、買収後にトラブルに発展してしまうケースも多々見られています。
費用はかかりますが、専門家に依頼して専門的な視点を頼りにデューデリジェンスを実施してください。
2.最終条件の調整
デューデリジェンスの内容を踏まえ、売却側企業・買収側企業で最終条件を調整します。
基本合意書に記載されている内容で調整を進めますが、監査結果次第では微調整が必要となるケースも出てきます。
基本合意書で記載した内容を基に、修正が必要な項目があれば1週間から2週間を目途として調整してください。
ちなみに、調整期間はM&Aの規模の大きさによって多少前後します。
小規模M&Aで1週間から2週間ほどが修正期間の目安となります。
ある程度M&Aの規模が大きくなることが見込まれる場合、多少長めに調整期間を設定しても問題ありません。
3.譲渡契約書の作成・捺印
最終条件を調整したら、譲渡契約書を作成して弁護士からのリーガルチェックを受けましょう。
リーガルチェックは契約書を法的な観点から見て問題がないかチェックすることです。
契約書の内容に法的な問題があると、M&Aが中止になったり、M&A実行後にトラブルに発展しやすいです。
もしもの場合に備え、弁護士からのチェックを受けてください。
リーガルチェックを受けて問題なければ、譲渡契約書を締結しM&Aを成立させます。
譲渡契約書の作成から契約締結までに1週間から2週間ほどの期間を要します。
それぞれのM&Aの状況に合わせて、M&Aプロセスを逆算して独占交渉期間を決めてください。
独占交渉権に合意するメリット
独占交渉権は買収側企業に大きなメリットのある仕組みとなっています。
独占交渉権における主なメリットとして主に以下の2つが挙げられます。
- 時間をかけてM&Aの交渉ができる
- 他社の横入りを回避できる
以下でそれぞれの詳細について解説します。
時間をかけてM&Aの交渉ができる
独占交渉権の効力が発揮されている間は、時間をかけてM&Aの交渉ができます。
独占交渉権で売却側企業の取引を自社だけに制限できると、他社からの介入を心配する必要はありません。
独占状態にあることから、独占交渉権が発揮されている間は時間をかけて交渉できます。
先ほども触れましたが、時間をかけてM&Aの交渉ができるとはいえ、あまり長い期間を設定しないように注意してください。
他社の横入りを回避できる
独占交渉権を得ておけば、別の譲受候補が現れて交渉が決裂してしまうリスクが抑えられます。
さまざまな費用をかけてM&Aの準備を進めていても、最後の最後で他の企業に譲受対象を横取りされては意味はありません。
法的拘束力を持たせておくと、売却側企業が強行手段に出ても損害賠償を請求でき、売却側企業の譲渡取引に制限がかけられます。
M&Aの成約を確実なものにするため、独占交渉権は買収側企業にとって大きな利益があります。
独占交渉権に合意する際の注意点
独占交渉権に合意する際の注意点を押さえ、慎重にM&Aの戦略を立ててください。
独占交渉権に合意する際の注意点として主に以下の3つが挙げられます。
- 交渉が破断する可能性はある
- 違反により訴訟に発展する場合がある
- デューデリジェンス費用は戻ってこない
以下でそれぞれの詳細について解説します。
交渉が破断する可能性はある
独占交渉権を設定した基本合意が売却側企業に受け入れられない場合、交渉が破断する可能性もあります。
売却側企業が他に譲渡先とする企業がいない状況に追い込まれている場合は、売却側企業としても独占交渉権に応じる可能性が高くなります。
しかし、他に候補とする企業がいる状況であれば、独占交渉権の要求が売却側企業には悪い印象として受け取られる可能性もあります。
状況を見極め、独占交渉権を持ちかけてよいか冷静に判断してください。
違反により訴訟に発展する場合がある
独占交渉期間中に売却側企業が他の買収側企業候補とM&A交渉を進めていることが判明した場合、損害賠償の請求に発展する場合があります。
独占交渉権に違反している企業は信頼できない企業と判断され、M&Aが中止となることが多いです。
デューデリジェンス費用は戻ってこない
M&A交渉が破談してしまうと、デューデリジェンス費用は戻ってきません。
M&Aについて専門家に相談した場合、サポートを受けたことに対して費用が発生します。
専門家にM&Aを相談した時点で相談料が発生し、デューデリジェンスなどのM&A支援に着手した時点で着手金が発生します。
M&Aが成立しなかった場合でも、専門家に対応してもらった範囲に応じて費用を支払う必要があります。
専門家にデューデリジェンスしてもらった時点でデューデリジェンス費用は返金されないと考えておいてください。
ただ、完全成功報酬制を採用しているM&Aの専門家も存在します。
完全成功報酬制はM&Aが成立するまでは一切の費用を支払う必要のない料金体系です。
M&Aについて相談する専門家を選ぶ際に、完全成功報酬制を採用する専門家への相談を検討してみてください。
M&Aでの独占交渉権に関する相談先
M&Aでの独占交渉権について、弁護士・税理士などの士業やM&Aコンサルタントなどの専門家に相談することをおすすめします。
専門家に相談することで、確かな知識・実績に基づく助言を受けて独占交渉権を取り入れたM&Aが実施可能です。
弁護士はM&Aでの独占交渉権の法的な問題がないかアドバイスしてもらえる専門家です。
税理士はM&Aの会計・税務について支援してもらえる専門家として知られています。
M&AコンサルタントはM&Aの戦略を支援してもらえる専門家で、独占交渉権を採用するかどうか客観的に判断してもらえます。
他にもさまざまな相談先があるため、それぞれの特徴を理解した上で相談先を決めてください。
まとめ
独占交渉権は買収側企業が確実に対象の売却側企業とM&Aを実施するために、売却側企業に対して、買収側企業以外の者との交渉を制限させる権利です。
買収側企業にとっては他社の介入を防止できるなどのメリットがあります。
しかし、売却側企業としては他の企業に会社・事業を譲渡できなくなるため、他に交渉先の候補があれば独占交渉権のデメリットが大きく、買収側から独占交渉権を強く求めらえた場合には、そのことが原因でM&Aが破談になる可能性もあります。
また、独占交渉中に並行してデューデリジェンスや最終条件交渉などを進める必要があります。
独占交渉権ありきのM&Aの条件をすり合わせてください。
独占交渉権を採用するか判断し、適切な条件で取引するためにも、専門家への相談は欠かせません。
専門家ごとで得意とする分野・強みが異なるため、目的に合った専門家に相談してM&Aの手続きを進めましょう。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。