廃業にかかる費用・税金はどのくらい?合同会社や個人事業主の廃業も解説
本記事では、廃業にかかる費用や税金について解説します。東京商工リサーチの調査によると、2023年の「休廃業・解散」企業は前年度比0.3%増の4万9,788件と、2年連続で増加しています。売上減などのほか、人材不足や後継者不足などでやむなく廃業しているケースもあり、同様の理由で廃業を視野に入れている経営者もいることでしょう。
こちらの記事内では、株式会社だけではなく、合同会社や有限会社、個人事業主が廃業する際の費用についても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
出典:東京商工リサーチ
廃業とは?
廃業とは、会社や個人で行っていた事業を自主的にやめることです。意味が似ている言葉として解散や倒産、破産があり、混同しているケースも見られるため、ここでは「解散・倒産・破産と廃業との違い」のほか、廃業を考える代表的なタイミングについても詳しく解説します。
解散・倒産・破産との違い
前述したように、廃業と同じような意味を持つ言葉として、解散、倒産、破産があります。それぞれの具体的な意味は以下の通りです。
項目 | 内容 |
解散 | 会社が事業を停止して、清算を行うことです。会社の廃業の場合、廃業の流れの中に解散が含まれる形になります。 |
倒産 | 事業者の意思に関係なく、資金不足などで事業が継続できなくなった状態です。 |
破産 | 債務超過や支払不能に陥った会社が法律に従って処理する手続きのことです。破産手続きをすると、会社(債務者)の財産を清算し、債権者に分配することになります。 |
廃業は事業者が自主的に事業をやめることを意味しており、解散はその流れの中の1つです。一方の倒産と破産は、事業者の意思に関係なく事業活動ができなくなることですが、倒産している会社が全て破産しているとは限りません。
廃業を考えるタイミング
会社が廃業する理由はそれぞれ異なりますが、廃業を考えるのに適したタイミング、または廃業を考えてしまうタイミングというものがあります。代表的なのが以下の3つのタイミングです。
債務超過になったタイミング
債務超過とは、経営状況が悪化し、負債総額が資産総額を上回った状態です。債務超過を解消する見込みがない場合は、廃業を考えるのに適したタイミングといえます。
運転資金不足になったタイミング
赤字経営が続き運転資金が底をつくと、事業の継続が難しくなります。資金がなければ仕入れの費用や従業員の給料などが支払えなくなるからです。また、廃業するにも費用がかかるため、廃業が視野に入るタイミングでしょう。
経営者が高齢になったタイミング
特に中小企業では、経営者の健康状態に経営が左右されることがあります。高齢になったり、病気になったりしたことで、事業継続が難しい場合に廃業を考えるケースが多くあるのです。
廃業手続きの流れ
会社を廃業する場合、さまざまな手続きが必要です。主な流れは「解散・清算の準備」→「清算」→「申告・登記」で、以下が代表的なステップです。
廃業手続きの流れ | 概要 |
①営業終了日の決定 | 廃業するための準備が必要なため、営業終了日は数カ月先に設定することが一般的です。 |
②株主総会での決議 | 株主総会で解散について特別決議を取り、2/3以上の賛成(半数以上の株主が出席)で可決されます。 |
③解散登記 | 管轄の法務局で解散の登記を行います。解散決議を得てから2週間が期限です。 |
④清算人の登記 | 清算の事務作業を行う清算人について登記を行います。解散登記と組み合わせるのが一般的です。 |
⑤廃業届の提出 | 所管の税務署、都道府県税事務所、市町村役場に廃業・解散の届出を出します。従業員を解雇する場合は、労働局などへの届出も必要です。 |
⑥官報での解散公告 | 会社法に則って、官報において解散の公告を行います。公告掲載期間は最低2カ月です。 |
⑦財産の調査・清算 | 清算人が債権回収と債務弁済を行います。残った財産は株主に分配することになります。 |
⑧解散・清算の確定申告 | 解散日の翌日から2カ月以内に解散確定申告、残った資産が明らかになった日から1カ月以内に清算確定申告を行います。 |
⑨清算決算報告書の承認 | 清算決算報告書を作成して株主総会で了承を得ると、会社は消滅することになります。 |
⑩清算結了登記 | 法務局で清算結了登記を行えば、廃業手続きは完了します。株主総会での了承から2週間が期限です。 |
廃業は会社法や法人税法などに則った法律上の手続きとなるため、不備・不足がないように慎重に進めていかなければなりません。
廃業にかかる費用・税金はいくら?
株式会社を廃業する際には、さまざまな手続きにまつわる費用がかかるほか、税金も納める必要があります。具体的な費用・税金は以下の通りです。
廃業に必要な費用 | 概要 |
登録免許税の費用 | 廃業に関する登記の際に生じる税金です。 |
官報公告の掲載費用 | 債権申出に関して官報に公告する費用です。 |
士業への依頼費用 | 清算手続きに関わる専門家への報酬です。 |
在庫の処分費用 | 在庫がある場合に処分する費用です。 |
設備・機械の処分費用 | 使用していた設備や機械を処分する費用です。 |
不動産を原状復帰する費用 | 賃貸契約の場合に原状復帰する費用です。 |
登録免許税の費用
廃業が決まったら法務局で登記を行うことが決まっており、その際に発生するのが登録免許税です。登記とは、重要な権利や義務などを保護するために社会に向けて公示するための法制度で、登記申請をする際に申請書に収入印紙を貼る形で登録免許税を納めます。
登記には不動産登記、商業・法人登記、動産登記などがあり、廃業に関する登記は商業・法人登記です。廃業する際は、手続きの段階に応じて「解散」「清算人選任」「清算結了」の3回登記を行う必要があります。
解散の登記
会社を解散するために行う登記です。会社法では、登記簿の内容に変更が生じた際に登記を申請しなければならないと定められています。解散登記は株主総会で解散決議を行ってから2週間以内が期限で、登録免許税は30,000円です。
解散登記を行うことで、解散の手続きに入ったことを取引先などに知らせることができます。会社の解散と同時に取締役が退任するため、以降の手続きは清算人が行うのが一般的です。したがって、次に解説する清算人の登記を併せて行うのが通例で、法務局には2つが一体になった「株式会社解散及び清算人選任登記申請書」が用意されています。
なお、解散登記を行わないと、法人住民税などの納付義務が生じたり、登記義務違反として過料が課せられたりといったデメリットが生じる可能性があるため注意が必要です。
清算人選任の登記
清算人とは、解散後の会社を消滅させるための残務整理などを行う人を指します。具体的には、債権を回収したり、財産が残っている場合は換金および株主に分配する役割を果たします。清算人を決める手順は以下の通りです。
①定款で定めている場合は、その者が就任する
②株主総会で決議を行い、選任する
③①と②で清算人を決めない場合は解散前に取締役だった者が就任する
④①〜③を経ても清算人がいない場合は申し立てによって裁判所が選任する
選任された清算人についても登記を行う必要があります。解散登記と同様に、株主総会で解散決議を行ってから2週間以内に申請しなければいけません。この際にかかる登録免許税は9,000円です。なお、清算手続きに入った会社は清算会社と呼ばれるようになります。
清算結了の登記
清算結了とは、会社の財産を完全に清算し、会社を消滅させることを指します。その際に行うのが清算結了登記です。清算結了登記の登録免許税は2,000円で、会社が解散してから2カ月以内に申請する必要があります。
ただし、清算結了に関する全ての手続きを終えていないと登記は受理されません。清算結了に必要な手続きは以下の通りです。
- 解散及び清算人選任登記
- 財産目録・貸借対照表の作成と承認
- 債権者保護手続き
- 解散確定申告書の提出
- 残余財産の確定・分配
- 清算確定申告書の提出
- 株主総会における清算事務報告の了承
清算結了登記が受理された後は、管轄の税務署や都道府県税務所、市区町村役場などに清算結了の届出を行い、併せて「移動届出」「登記事項証明書」を提出して廃業に関する手続きが完了します。
官報公告の掲載費用
官報とは政府が発行する機関紙のことで、会社が解散した場合は会社法第499条第1項によって解散公告が義務付けられています。法人が廃業に関して官報公告を行う場合、9〜11行ほどが目安です。1行につき3,589円(税込)の費用がかかるため、約32,300円〜39,500円の掲載料が発生することになります。
官報公告の目的は、債権者に解散を通達することです。会社が消滅してしまうと、貸付金や売掛金などの債権がある会社や個人は債権を回収する機会が失われてしまいます。一方、債権があっても期限内に申し出がなかった場合は、清算手続きから除外することができます。したがって、官報公告を適切に行うことが重要です。
士業への依頼費用
廃業に関する手続きの中には個人でできることもありますが、専門的な知識が求められるため専門家のサポートが不可欠です。具体的には、登記が3回、税務申告が最低3回のほか、税務署への届出書類の作成、社会保険や労働保険関係の届出書類の作成といった業務もあります。そのため、司法書士や行政書士、税理士、公認会計士、社会労務管理士などに依頼するほうが円滑に進められるのです。
大きく分けると、登記関連は司法書士、税務申告や税務署への届出は公認会計士か税理士、都道府県や市役所などへの届出は行政書士、社会保険関連は社会労務管理士が主に担当することになります。ほかに、債権関連などの法的なトラブルがある場合は弁護士の協力も必要になるでしょう。
費用は各事務所が任意で設定できるため一概にはいえませんが、登記関連は10万円程度、公認会計士や税理士には数十万円、届出関連は2〜5万円程度が目安です。
在庫の処分費用
商品を生産して販売している会社が廃業する場合は、廃業時に在庫が残っている可能性があります。確定申告の際に在庫を抱えているほど税額が増えるため、在庫を処分しておくと節税につながります。そのために行うのが「売却」と「廃棄処分」です。
売却の場合、通常の価格では買い取ってもらえないのが通常で、価格を下げるケースがほとんどです。一方、廃棄処分する場合は、廃棄するものの大きさや量によって費用が異なります。
一見、売却したほうが現金を手にできるため有利なように思えますが、在庫商品の検品や発送などのコストがかかります。また、売却するまでに時間がかかる点もデメリットでしょう。そのため、処分する在庫の量が少ない場合には処分したほうがメリットが大きいケースもあり、どちらを選択するか慎重に検討することが重要です。
設備・機械の処分費用
廃業に伴い事務所や工場、倉庫などで使用していた設備や機械が不用になるため、処分する必要があります。買取をしてもらえるものもありますが、特殊な設備や機械は処分することになるのが一般的です。
家庭ゴミとは異なり、無料での収集はしてもらえないため、不用品回収業者などに依頼して回収してもらいましょう。産業廃棄物扱いになるものが多いと、費用は数十万円になるケースもあります。
また、注意したいのが顧客情報や従業員の個人情報などの機密データです。パソコンのほか、USBメモリやハードディスクなどに残っているデータを消去・廃棄せずにそのままにしておくと、データ流出のリスクが高まるため、適切なデータ廃棄が欠かせません。この作業を業者に依頼する場合も、もちろん費用が発生します。
不動産を原状回復する費用
賃貸物件を事務所や工場などとして使用していた場合、会社を廃業する際は賃貸借契約に基づいて原状回復する必要があります。原状回復とは、借りていた物件を借りる前の状態に戻すことです。賃貸住宅の場合は原状回復の範囲を定めたガイドラインがありますが、事務所などの場合はガイドラインが適用されないのが通例です。
そのため原状回復費用は自社が100%支払うのが原則で、長期間借りていた場合は大規模な工事が必要になることがあります。建物の築年数やエリアなどによって目安は異なりますが、一般的な事務所のケースでは1坪3万円~30万円が相場です。
個人事業主の廃業にかかる費用・税金
株式会社とは異なり、個人事業主の場合は株主総会などがないため、廃業に関する手続き、かかる費用・税金なども異なります。
個人事業主が廃業する際に提出する書類は「個人事業の開業・廃業等届出書」で、必要があれば「所得税の青色申告の取りやめ届出書」「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書」なども併せて所轄の税務署に提出します。また所轄の都道府県税事務所にも廃業届を提出する必要があります。様式や提出期限などは各都道府県で異なるため、公式ホームページで確認するようにしましょう。
廃業に関する上記の届出を提出する際に費用や税金が発生することはありません。ただし、司法書士などに書類を作成してもらう場合は、別途報酬を支払う必要があります。
このほか、個人事業主が廃業する際に発生する代表的な費用は、以下の通りです。
- 設備の処分費用
- 在庫の処分費用
- 従業員の退職金
- 廃業に伴う解約金や違約金
- 事務所や店舗の原状回復費用、など
自宅で事業を行っていたフリーランスなど、「従業員がいない」「在庫も設備もない」というケースでは廃業にかかる費用はほとんどありません。
有限会社と合同会社の廃業にかかる費用・税金
有限会社と合同会社は会社の形態が株式会社とは異なりますが、廃業に関する流れは基本的に同じです。代表的な流れとして、解散・清算人登記を行い、官報公告を掲載した後、清算が完了したら清算結了登記を行います。登記費用も同額です。
ただし、会社の規模が株式会社よりも小さいため、士業への報酬や在庫処分、設備・機械処分などの費用は少なく済むのが一般的です。
ちなみに、有限会社は2006年まで商法に規定されていた会社の形態の1つです。2006年以降の有限会社の設立は認められておらず、現在事業を行っている有限会社は2006年以前に設立された会社です。
一方の合同会社は、出資した人が会社の所有者(経営者)となる形態です。2006年に施行された会社法の改正によって導入された新しい形態で、株主が出資者である株式会社とは異なり、所有者(出資者)と経営者が同じという点が大きな特徴です。
廃業時には確定申告も必要
会社を廃業する場合、事業年度開始日から解散日までを解散事業年度として確定申告を行うことになります。ただし、黒字で廃業するケースと赤字で廃業するケースでは取り扱いが異なるため、詳しく解説します。
黒字で廃業する場合は、通常の事業年度と同様に確定申告を行います。個人事業主のスケジュールは通常通り翌年2月16日から3月15日ですが、法人の場合は解散から2カ月以内と決められています。清算結了登記に併せて確定申告をするのが一般的です。
一方、赤字廃業の場合は、利益が出ていないため確定申告は不要です。ただし、会計上では赤字となっていても所得がプラスになることもあり、この場合は確定申告を行う必要があります。なお「所得の証明になる」「国民健康保険料の軽減措置を受けられる」などの理由で、赤字でも確定申告をするケースもあります。
必要経費の特例とは?
廃業にはさまざまな費用がかかるため、個人事業主の場合、廃業後にかかった費用も必要経費として認める「事業を廃止した場合の必要経費の特例(所得税法第63条)」が設けられています。廃業届を提出した場合、廃業年月日以降は経費として認められないのが通常ですが、「そのまま事業を継続していたら支払い義務が生じていた」と見なされるのです。
個人事業主が廃業する際にかかる費用は前述しましたが、そのほか税理士や弁護士への依頼報酬などが発生する場合に、特例を用いることで経費とすることができます。廃業した年に経費計上ができない場合は、遡ってその前年の経費として計上することも可能です。
廃業にかかる費用を抑える方法
これまで見てきたように、会社を廃業するには費用がかかります。法的にかかる費用のほかに、在庫などを処分するために多額の費用が必要になるケースもあります。そこで、廃業にかかる費用を抑えるために
- M&Aを検討する
- 事業承継・引継ぎ補助金を利用する
という2つの方法について解説します。
M&Aを検討する
M&Aとは、合併や買収などによって事業を他社に引き継ぐことです。具体的な方法としては、吸収合併や株式譲渡、事業譲渡、新設合併などがあります。
売り手企業の場合、会社を買い手企業に譲渡することになるため、以下のようなメリットが考えられます。
- 会社が存続する
- 従業員の雇用が維持される
- 廃業よりも手続きが簡易
- 事業を売却した資金が得られる、など
廃業を回避することで従業員の雇用を維持できるほか、取引を継続できるため取引先にもメリットを感じてもらうことができます。このように、廃業を検討していた会社がM&Aによって買収される場合、従業員や取引先、経営者、買い手企業それぞれにメリットがあるといえます。
事業承継・引継ぎ補助金を利用する
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継を契機として経営革新を行う中小企業・小規模事業者に対する補助金制度です。廃業に際しても活用することができ、例えば、買い手企業がM&Aで事業を譲り受けた際に、事業の一部を廃業する場合などに活用できます。
一方、売り手企業の場合は、M&Aで事業を譲り渡した後に手元に残った事業を廃業するケースや、事業を売却できなかったために廃業するケース、再チャレンジするケースでも申請できます。
なお、交付申請には認定経営革新等支援機関の発行する確認書が必要で、「gBizIDプライム」アカウントも取得する必要があります。行政書士などの専門家に相談すると、より円滑に進められるでしょう。
出典:事業承継・引継ぎ補助金
まとめ
廃業する際は、登記などの手続きを円滑に進める必要があり、さまざまな局面で費用が発生することを紹介しました。具体的な費用としては、解散や清算人選任に関する登録免許税、官報公告掲載費用、専門家への報酬、在庫品や設備などの処分費用などがあります。廃業資金が手元にないと適切に廃業できないため、後継者がいないなどの理由で廃業が視野に入っている場合は、費用について正しい知識を得るようにしましょう。
本記事では、廃業に際してM&Aを活用したり、補助金を利用する方法についても紹介しました。手元に資金が残るなどのメリットも考えられるため、検討してみてください。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。